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すべての日本企業は真似するべき…V字回復を遂げるためにJリーグがやった改革の中身

プレジデントオンライン / 2022年6月10日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

これから日本企業が成長するためには何が必要なのか。デロイトトーマツグループ執行役の松江英夫さんは「私は『脱・自前』が必要だと考えている。そこで参考になるのがJリーグのV字回復だ」という――。

※本稿は、松江英夫『「脱・自前」の日本成長戦略』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

■日本企業が成長するために必要な「脱自前」

これからの日本社会に求められるのは“脱自前”です。“脱自前”という言葉には、変革を妨げるタコツボ化、更にその根源にある自前主義を見直すことで、これからの日本における「成長」の可能性を引き出そう、という意図を込めています。

“脱自前”を実現するにはどうすればよいか、そのための考え方のアプローチを見てゆきたいと思います。

“脱自前”は、他者との連携をオープンに推し進めることによって“自分の強み”を見極め、さらに伸ばしてゆくための新しい関係を構築することを目指しています。そのためには、自分の強みは何かを再発見することが必要です。

■自社の強みを見つける方法

自らの強みを見つけるというのは、言うは易く行うのは難しいテーマです。ここではそのヒントになる切り口を紹介してゆきます。

松江英夫『「脱・自前」の日本成長戦略』(新潮新書)
松江英夫『「脱・自前」の日本成長戦略』(新潮新書)

まず一番身近な企業活動を例にとってお話しします。

強みを見い出すうえでの基本的な考えは、自らの事業や仕事のあり方を、外部の視点から客観的かつ相対的に見直すことです。事業を取り巻く環境は日々刻々と変化しています。当たり前と思っていた今までのやり方が既に時代遅れになっていて、他で優れた方法が誕生していることも多々あります。

外部と比較して相対化することにより、自らが行ったほうが良い仕事、自分にしかできない領域、または、今は強みと言えないまでも将来に向けてより価値を高められる領域を見極めてゆくことが必要です。

■3つの視点から本業を見つける

具体的には、以下の「3つの視点」から仕事のあり方を見直してみることが有効です。それは、「①分解する」「②デジタルを活用する」「③外と組む」という視点です。

つまり、自らの業務や事業のあり方を要素分解して、デジタル技術の活用によって自動化もしくは代替できるか、外部のプレイヤーによって代替できるか、という観点で見直してみることです。

それによって、代替しきれないもの、或いは相対的に強みが持てそうなものを特定してゆくアプローチです。

■得られる2つのメリット

こうした“脱自前”による“本業の再定義”には大きな意味があります。

一つは、経営資源(リソース)のかけ方の選択と集中、資源の再配分の観点です。今まですべてを自前で賄っていたが故に、本来必要な領域以外に時間や労力が費やされていました。それを削減し、本来かけるべきコア領域にそのエネルギーを傾けることができることは大きなメリットです。

もう一つは、外部プレイヤーと新たな関係が出来ることです。外部の多様なプレイヤーと積極的に組むことにより、今まで触れることがなかった情報が入るようになり、新たな気づきが増えるのも大きなメリットと言えるでしょう。

こうしたコア領域への資源集中と、外部との接点拡大は、自前に閉じていた過去には想定し得なかった新たな境地を切り拓くことになるのです。

■IT関連は全てJリーグが一括管理する

自らの生業(なりわい)を再評価し、本業を再定義して、強みを最大限に発揮する。そうして価値を高めた事例に、Jリーグがあります。

Jリーグには全部で58のクラブがあります。当然、各クラブで多様な意見がある中で、前チェアマンである村井満氏が、就任当初に全会一致で決めたのが「裏側の“デジタルプラットフォーム”はJリーグ側が受け持つ。同時に、各クラブはサッカーに注力する」という方針でした。

個々のクラブが自前でITに投資をすると、クラブの財政にとって大きな負担ですし、実際には重複する部分も多く発生します。そこでJリーグがEC(電子商取引)やデータ記録、ファンエンゲージメントなどのシステムを受け持つ代わりに、クラブは「本業」であるサッカーを競い合う、という戦略にしたのです。

Jリーグ公式サイト(J.LEAGUE.jp)より
画像=Jリーグ公式サイト(J.LEAGUE.jp)より

それからは、北海道から九州・沖縄まで、気候風土はもちろん、地域住民との距離感が全く異なる中で、それぞれのクラブは自分たちの目指すサッカーを言語化し「おらが町のサッカー」を磨くことを徹底しました。

Jリーグのデジタル改革のスタートは、“本業の再定義”でもあったのです。

■地域の課題をクラブチームが解決する

さらにJリーグは、プロスポーツの持つ役割を再定義し、「プレーする」「観る」「支える」という3つのモジュールに分解しました。そして外部のさまざまなプレイヤーと組むことで、社会的な意義を広げる活動を展開しました。

そのひとつが、Jリーグの地域課題解決の活動「シャレン!」です。「シャレン!」は、積極的な社会連携により、地域の課題解決に貢献する取り組みで、世界にも類がない活動です。

3つのモジュールの中の「支える」に当たります。例えば、福島ユナイテッドでは、クラブ内に農業部を作り、地元農家と一緒になって、選手が生育から収穫までを行っています。さらに「ふくしマルシェ」として、ホーム、アウェーに限らず、全国の試合会場に出店し、今では公式オンラインショップも開設するなど、農業支援にとどまらない、新たなビジネスとして期待されています。

横浜F・マリノスは、新型コロナウイルスの影響で客足が遠のく飲食店と住民を結ぶことを目的に、ファンやサポーターなどから情報を収集し、ネット上に、「ホームタウンテイクアウトマップ」を作成して貢献しています。

ガイナーレ鳥取は、現役選手やスタッフが子どもたちと一緒に公園遊びを実施し、外で仲間と楽しく過ごすことの大切さを伝えています。

地域が抱える課題を、各クラブが多くの人々をつなぐ“ハブ”となり解決しているのです。

このようにJリーグは、自らの役割を「分解して」モジュール化し、「デジタルの活用」、さらには、「外と組む」という3つの視点を通した“脱自前”を実践することで、社会的な存在意義をより高めたのです。

■スポンサーが投資する大義名分を作った

Jリーグは、“本業”を再定義することによって、今までの固定観念では実現できなかった企業や地域社会との連携をも生み出しました。

従来、企業とプロスポーツとの関わりは、スポンサーという形で選手を支援し、その代わりに自社や自社製品の広告宣伝をしてもらうというメリットを得るものでした。その一方で、株主から見た場合に、投資効果が見えにくいという課題も抱えていました。

企業がより積極的にスポーツに関わるには、単なる広告スポンサーを超えた、社会課題解決のパートナーとしての“大義”が不可欠でした。

本来スポーツには、感動によって人の心を動かせるという“強み”があります。Jリーグには“心の豊かさ”をもたらすことで地域社会に貢献する大義がありました。企業や地域自治体は、こうした“大義”を共有することによって「内向きなタコツボ」を脱して、Jリーグをハブに新たな関係を作り出すことができたのです。

スポーツが持つ“本来の強み”をいかした企業や地域社会との連携は、「他者との連携を推し進めることで、自らの“強み”を見極め、さらに伸ばす」という“脱自前”のあり方を教えてくれる取り組みなのです。

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松江 英夫(まつえ・ひでお)
デロイトトーマツグループ執行役
1971(昭和46)年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。中央大学ビジネススクール、事業構想大学院大学客員教授。経済同友会幹事、政府の研究会委員、テレビの報道番組コメンテーターなど、産学官メディアで豊富な経験を持つ。

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(デロイトトーマツグループ執行役 松江 英夫)

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