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海外アマゾンでは続々と販売停止に…SNS広告で大量販売される「ロゴ入りTシャツ」の落とし穴

プレジデントオンライン / 2022年6月8日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tevarak

■ネットで買えるデザインTシャツが過激派の資金源に

ネット通販のおかげで、ファッションの選択肢は格段に広がった。オンラインには大手アパレル店にはないような個性的なシャツやパーカーなどが揃っており、自分だけのデザインで差をつけたい人々の強い味方になっている。

しかし、そのすべてが「安全」とは言い切れない。通販詐欺の話ではなく、デザインの話だ。調査報道NPOの「ベリングキャット」は5月24日、ネットに溢れるファッションアイテムの一部に、ファシストやネオナチ組織などのシンボルが堂々とプリントされていると報じた。これらグッズの販売益は、過激派組織の資金源にもなっている。

私たち日本に住む身としては、必ずしも欧米の文化に詳しいわけではない。デザイン重視で買ってみたシャツの一部に、ネオナチのシンボルが刻まれていたという事態は避けたいものだ。

ネットには過激派組織による通販サイトへと巧みに誘導する広告が存在しており、私たちとしては自衛を心がけざるを得ない。例えば円に十字を重ねただけのシンプルな図案も、白人至上主義の立派なシンボルとして認知されている。

■暗号のように散りばめられた過激派シンボル

問題の円に十字のシンボルをよくみると、線の随所に切れ込みが入っていることがわかる。勘のいい人ならば、左右がそれぞれ「E」「B」の英字を図案化したものだと気づくかもしれない。これはナチス関連グッズを販売している団体「European Brotherhood」のロゴマークだ。

また、円に十字の紋様自体も、ケルト十字と呼ばれるひとつのシンボルだ。伝統的にアイルランドなどケルト地域での十字架であったが、白人至上主義者たちが運動の象徴として用いるようになった。

英『ローリング・ストーン』誌はこのほか、北欧神ソーがもつとされるハンマー、生命の木として知られるユグドラシル、ルーン文字のアルジズ(ᛉ)など、北欧神話に関連した図案が「白人至上主義者たちのあいだで人気がある公認のヘイトシンボルとなっている」と述べている。

■18はヒトラー、13と52は…数字に込められた暗喩

団体はヨーロッパのナショナリスト組織を名乗り、オンラインサイトなどを通じてナチス関連グッズの販売を手がけている。あからさまに過激思想を象徴するグッズが販売されていれば買い手としても警戒心が湧くが、実際には白人至上主義思想に通じるメッセージが暗号のように密かに仄めかされている。

Tシャツにはまた座標の印字が確認できるが、これはドイツ・ビューレンに位置するヴェヴェルスブルク城を指し示している。この城はネオナチのあいだで神聖視されている特別な城だ。ネオナチのシンボルとして、12個のカギ十字を組み合わせた「黒い太陽」が知られている。これは、ヴェヴェルスブルク城の北塔、ナチス親衛隊幹部の部屋に描かれた床の紋様に由来するものだ。

黒い太陽やカギ十字など比較的よく知られたシンボルであれば、政治的主張が込められてることに気づくことも容易だ。しかし、ときには単なる数字が思想を象徴することもある。米ユダヤ系NGOの「名誉毀損(きそん)防止同盟」が、代表的なヘイトシンボルの検索サイトを公開している。目を通しておくと、あらぬ誤解を避けるのに役立ちそうだ。

写真=「名誉毀損防止同盟」オフィシャルページより
写真=「名誉毀損防止同盟」オフィシャルページより

例として、「18」の数字がヒトラー支持を意味することがある。アルファベット順の1番目と8番目がそれぞれ「A」「H」であり、ヒトラーのイニシャルに通じるためだ。ほか、13と52の組み合わせは、アフリカ系アメリカ人へのヘイトを暗に意味することがある。白人至上主義者らは、米人口の13%を占めるにすぎないアフリカ系の人々が、全米で発生している殺人事件の犯人の52%を占めると主張している。

当然、これらは悪意ない場面では単なる数字にすぎないため、過度に避ける必要はない。しかし、意味ありげな紋様とともに描かれた商品があれば、何か特別な思想が込められていないか確認しても損はないだろう。

■「白人は勝つべくして生まれた」と主張するTシャツ

問題のTシャツに話を戻すと、「BORN TO WIN/WHITE RACE」とも刻まれている。サイドカー付きバイクのイラストが添えられていることからバイクレースとも勘違いしそうなところだが、ここでの「RACE」は人種の意味だ。白人は勝つべくして生まれた、との主張となる。

これとは別に、同団体はTelegramを通じ、「WLM」の文字入りTシャツも販売している。3文字の略称は世に溢れているため見落としてしまいがちだが、これは黒人差別の撤廃運動「BLM(Black Lives Matter)」に対し、白人至上主義を主張する「White Lives Matter」の意味合いがある。

面倒なことに、これらシャツのデザイン性自体には特段不自然なところがない。いかにも怪しげな雰囲気を醸し出していれば購入を自然とためらうものだが、一見して若者向けのアパレルショップでよく扱っていそうなデザインをしている。込められた真の意味合いに気づかなければ、どこにでもある英字プリント入りのTシャツとして購入してしまってもおかしくないだろう。

スマホの画面を見ている女性
写真=iStock.com/LightFieldStudios
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LightFieldStudios

■SNS広告に潜む「ヘイト商品」の入り口

さらにたちの悪いことに、大手プラットフォームに広告が出ているからといって、安心できる商品だとは限らないようだ。べリングキャットは、インスタグラム上に掲載されている広告から、ファシズム関連商品の購入へと誘導する例を確認している。

インスタグラムなど大手ソーシャル・メディアは、独自の広告審査を行っている。このため、フィード上に表示される広告自体には、直接的に過激派シンボルマークを盛り込んだものはあまりみられない。

しかし、過激派ストアの運営側も巧妙だ。ソーシャル・メディア上には過激派と無関係な商品の広告を出稿し、ストアへ誘導する手口を多用している。興味をもったユーザーが広告をクリックすると、遷移した先の販売サイト内にネオナチのロゴ入り商品が並んでおり、それとは知らずに買わされるという寸法だ。

べリングキャットは例としてウクライナの販売店である「Schutzenbrand」を挙げ、この手法を用いてインスタグラム上で1800フォロワーを獲得していると述べている。

ほか、暗号化メッセージアプリ「Telegram」のチャンネルへ誘導する例もあるようだ。ロシアの販売店「Ruswear」は、類似の手法でインスタグラムからTelegramへの動線を設け、ナチスの象徴であるカギ十字が織り込まれたセーターやTシャツなど衣料品を堂々と販売している。

■海外のアマゾンなどは販売停止、インスタやテレグラムに流れ込む…

こうした過激派グッズは、過去には英国などの一部の国のAmazonでも販売されていた。英BBCは、関連商品が表示されるしくみをとくに問題視している。偶然にヘイト支持商品の販売ページに行き着いたユーザーは、おすすめ商品の表示を通じ、さらに多くの極端な思想のグッズを閲覧するよう誘導される。

BBCの指摘を受け、Amazon、Google、Wishなどネット通販大手は、2020年7月までに対策を完了させた。各社はBBCに対し、人種差別的商品の販売は規約で禁止されていると説明し、これら商品をサイト上から削除した。

このように大手ECプラットフォームが軒並み対策に乗り出したのを受け、過激派組織らは主な展開をインスタグラムなどソーシャル・メディアに移している。

こうしたプラットフォームでは商品そのものを販売せず、広告審査を通過するだけで自サイトへの誘導広告を出稿できるため、ECサイトよりも過激商品の購入に誘導しやすい実態があるようだ。

■ナチスを想起させる…日本の地図記号も議論の的になったケースも

海外のヘイトシンボルは、私たちとも無縁ではない。オリンピック開催前には、地図記号をめぐる混乱があった。日本では寺院を示す地図記号に、インドで吉祥を意味する万字(卍)のシンボルが使われている。

だが、海外から訪れた人々はナチスの想起を禁じ得ないのではないかとして、訪日客向けには三重塔を図案化したマークを使用する案があった。

寺の廊下を歩く僧侶
写真=iStock.com/DavorLovincic
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DavorLovincic

英ガーディアン紙は当時、民間から挙がった批判の声を取り上げている。あるユーザーはTwitter上で、ユニオンジャックをテロリストたちが掲げたからといって、イギリスがユニオンジャックを廃止するだろうか、と疑問を投げかけた。

結局のところ、日本国内のパブリックコメントでも「寺院の地図記号として卍記号を尊重すべき」など反発が相次ぎ、国土地理院は採用を見送っている。

BBCは、各国の固有の文化がナチスのカギ十字のために制約を受けているのではないかと問題提起している。日本の地図記号騒動にも触れ、変更案は「批判を浴びた」と紹介している。

記事は「文化の一部となっているこうした要素が背後関係とは別の状況で使われたとき、その歴史と遺産は汚されてしまったように思われる」と述べ、国際的な認識と現地固有の歴史ある文化との両立の難しさを指摘している。

ケルト十字やルーン文字などのシンボルも、元々は現地の歴史のなかで育まれてきた無害なシンボルであった。一律に忌避することも文化的摩擦の原因となりかねず、使用される文脈に応じた真意の判断が必要とされる。このようなところにも、シンボル問題の難しさがありそうだ。

■知らぬ間に「ヘイト商品」を買っている恐れがある

日本に住む私たちとしては、シャツに書かれた英文の内容まではさほど気にかけないことが多いのではないだろうか。カラーやデザインなどから得られる大まかな印象で服を買う機会は多く、個別の紋様とワードの意味まで毎回調べるわけではないだろう。

ましてや、日本であまりみないシンボルが実は過激派の象徴だったなどとは、知識がなければ気づきようもない。購入した本人に非があるというわけではないが、とはいえこのような商品がネットに出回っている以上、とくに見知らぬ店舗の商品の購入には用心するのが賢明といえそうだ。

当該の商品を購入すると、そのつもりはなくとも、極端な思想をもった組織に資金をサポートすることとなってしまう。また、コロナ収束後に海外へ赴いた際、入国審査で無用なトラブルを招いたり、現地治安当局と厄介事を生じたりといったことにもなりかねない。

あまり知名度のないブランドの服を買い、かつ見慣れないロゴやスローガンなどが入っているという場合には、念のため注意を払うに越したことはない。なにか特殊な意味を帯びていないか、ネット検索などで確認してみるのもひとつの防衛策になりそうだ。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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