「あの"コロコロ"は、実は100種類もある」他社製品より高めなのにシェア50%のワケ
プレジデントオンライン / 2022年6月23日 12時15分
■誕生のきっかけは「ゴキ逮捕!」の在庫の山
ニトムズは、日東電工の消費財事業を担う子会社として1975年に設立された。粘着技術をコアに、一般消費者の豊かな暮らしに貢献するべく、いろいろな粘着製品を販売してきた。
しかし、「コロコロ」が誕生するまでの8年間はヒット製品に恵まれなかったという。
和田さんは当時の状況についてこう振り返る。
「開発担当がさまざまなアイデアを形にしては失敗することの繰り返しでした。企画段階でボツになることもあれば、試作品としてテスト販売するも、お客様の支持を得られずに撤退することもありました」
こうしたなか、あるきっかけが思いも寄らぬアイデアにつながっていく。
それが、粘着技術を応用した「ゴキ逮捕!」(1978年発売)の在庫だった。「ゴキ逮捕!」は強い粘着力を生かし、ハエ叩きのようにゴキブリを捕獲する製品だったが、販売が全く振るわなかったという。
在庫だけがたまっていき、いつしか倉庫には「ゴキ逮捕!」の山が無情にも積み上がる状態になってしまったそうだ。
そんなある日、在庫を整理していた女性社員が、粘着テープの粘着面を表にした状態で衣類についたほこりを取っていた。この様子を開発担当者が見かけ、「粘着テープでゴミを取る掃除用具を出せば売れるのでは」と直感的にひらめいたという。
これを機に「コロコロ」の製品開発が始まったのだ。
■開発には5年の歳月を費やした
だが、同社では粘着テープからゴミを取る製品を今まで作ったことがなかった。和田さんは、開発で苦労した点を次のように説明する。
「製品化するまでの課題として、まず粘着剤の加減を調整するのが難しかったことが挙げられます。強くするとクリーナーが転がらず、カーペットにもくっついてしまう。反対に弱くすると、今度はゴミが取れなくなってしまう。粘着剤の配合と厚みを絶妙なバランスにするのに苦労しました。
また、カーペットには凸凹面があります。普通にクリーナーを転がしても表面だけのゴミしか取れず、カーペットの奥に入り込んだほこりや髪の毛までは取れないのです。こうした課題を乗り越えるため、試行錯誤を繰り返し、実用性のある製品に仕上げるまでに5年の歳月を費やしました」
ニトムズにとっては、今まで世に出したことのない画期的な製品アイデアだった。そのため、大量生産できる製品設計や生産技術の構築にかなりの時間をつぎ込んだという。
特に、粘着テープののりを平面上ではなくすじ状に塗る「すじ塗り加工」技術を確立させるまでには多くの試作品を作って試行錯誤を重ねた。
こうした多くの苦労を乗り越え、1983年に満を持して発売にこぎつけたのである。
■当初の製品名は「コロコロ」ではなかった
実は、発売当初の製品名は「コロコロ」でなく、「粘着カーペットクリーナー」だった。
「発売した当初は、世の中にない画期的な製品だったため、社員が販売店に立って実演販売をしたりテレビCMを打ったりすることで、地道に販促活動をしていました。独創的な製品だからこそ、品質の良さや利便性をきちんとお客様へ伝わるように意識していたのです。
その甲斐あって、認知度も広まり、お客様に支持されるようになると「あのコロコロ転がす製品がほしい」というお声を頂戴することが多くなっていきました。オノマトペを用いた呼び名は、まさに『名は体を表す』かのように製品名にぴったりだと思い、1985年に商標を出願し、『コロコロ』の名で販売するようになったのです」
「コロコロ」は今までになかった粘着テープを用いた清掃用品として市場を確立し、一躍ヒット製品として知られるようになった。
■他社製品より高くても「業界シェア50%」をキープ
しかし、競合他社も類似品で市場へ参入し、100円均一ショップや量販店で販売するようになったことで競争が激化していく。
ニトムズの「コロコロ」はどのような差別化を図り、マーケティングを展開しているのだろうか。
「差別化要因は主に2つあると思っています。1つ目は高品質で使い勝手に優れていること。『コロコロ』は他社の製品に比べて価格が高めなわけですが、いまでも業界シェアは50%を占めています。価格は高くてもゴミがよく取れ、利便性に秀でているというベネフィットがあるからこそ、リピートして購入いただけていると考えています。
2つ目はのりの選択や塗工方法などの技術革新を続け、利用シーンや用途の拡大に努めてきたこと。時代の変遷とともに、お客様の声に耳を傾けながら、生活のトレンドやニーズに合わせ、ラインアップを拡充させてきたのが、差別化ポイントになっています」
住環境やライフスタイルの変化に応じて、フローリング用の製品やフローリング、カーペット兼用タイプのものを発売したり、スマートフォンの皮脂除去用の製品を開発したりと、用途別のラインアップを強化していったという。
また、床清掃用や衣類用など清掃範囲に合わせたサイズを展開し、ユーザーの使いやすさにもこだわったそうだ。
このような創意工夫を繰り返し、現在では100種類ほどのラインアップにまで広がっている。
■「部屋を清潔に保ちたい」ニーズが高まった
コロナ禍では清潔志向が高まり、消費者のニーズも多様化している。社会の大きな転換期の最中、市場を取り巻く環境はどのように変わったのか。
「コロコロ」は一般消費者向けの製品と業務用の製品を販売しているが、一時期は「商業施設やエンターテイメント施設向けに販売しているワイドサイズの業務用『コロコロ』の売上がかなり落ち込んだ」と和田さんは語る。
「今は復調傾向にありますが、緊急事態宣言が発令された当初はオフィスや飲食店、商業施設などへの人出がなくなり、厳しい状況に置かれていました。ただ、コロナ禍で在宅勤務やリモートワークが増え、部屋を清潔に保ちたいというニーズが顕在化し、『コロコロ』の需要も高まりました。リアル店舗以外のECサイトでも売り上げが増え、店舗で置けないような商品もECサイトで売れるようになったのです」
ECでは、インテリアとして飾っても映える商品が軒並み売れているそうだ。今後は海外展開も拡大し、さらなる成長に向けて取り組んでいくという。
「海外市場は韓国、中国、北米を中心に展開していますが、日本のように掃除道具として認知されていないので、『コロコロ』をどう広めていくかが鍵となっています。まずは、ペットを飼っているユーザーをターゲットに、販促活動を行っている状況です。また、これまで培ってきた粘着技術をさらに追求し、単にホコリやゴミを除去するだけでなく、花粉やダニの死骸なども取ることによって、お客様の生活環境をより良くしていけるような商品開発をしていければと思っています」
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フリーライター
1986年生まれ。ビジネス、ライフスタイル、エンタメ、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている。
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(フリーライター 古田島 大介)
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