「プーチンはすでに死んでいる可能性がある」イギリス諜報機関の大胆な分析が報じられる本当の意味
プレジデントオンライン / 2022年6月12日 11時15分
■「プーチンは影武者を使っている」死亡説を報じる欧米メディア
病状悪化が囁(ささや)かれるロシアのプーチン大統領について、すでにボディ・ダブル(影武者)を使っているとの大胆な分析が出始めた。英デイリー・スター紙は、イギリスの諜報(ちょうほう)機関「MI6」の複数の役職者の証言として、プーチンは影武者を使っており、すでに死亡している可能性すら否定できないという分析を報じた。
側近らにとっては、指導者の死亡後も影武者を立てることで、権力を維持できるメリットがある。同情報筋は、5月9日に行われた戦勝記念日の軍事パレードなどで影武者が投入され、そのほかメディアで流されているプーチンの音声も事前録音の可能性があるとしている。
プーチンの側近らは、指導者の死を極めて恐れているようだ。諜報筋はデイリー・スター紙に対し、「プーチンは、彼に完全に忠実な高官らからなる少数の集団の長となっている。(取り巻き連中にとっての)真の恐怖は、彼の死がひとたび公表されれば、クレムリンでクーデターが生じ、あるいは将官らがウクライナからの撤退を望む可能性があるということだ」と語った。
このため諜報筋は、「彼が死んだ際、その死は数週間から数カ月にわたり秘密とされるだろう」と予測している。極端な可能性としては、「すでに死んでいる可能性もある」との認識も示した。「把握は不可能だが、プーチンは過去に体調を崩した際、替え玉を雇っていたとされる。クレムリンが現在同様の動きをしている可能性がある」としている。
■クレムリン内部に揺さぶりをかける情報戦
すでに死亡したとの説は、かなり大胆な分析とも捉えられるだろう。このように不敵な仮説を英諜報筋が口にするねらいとして、諜報戦の一端を担っている可能性がありそうだ。
イギリスの政治文化誌『ニュー・ステイツマン』は6月2日、病状を指摘する一連の報道について、「はっきりさせておくと、プーチンが重病を患っているという検証可能な証拠はない」と切り捨てている。失脚のシナリオは希望的観測にすぎないとの指摘だ。
ただし同誌は、「今日までで最も信憑性のある報告」として、ロシア独立系報道サイトの『プロークト』がリークした旅行関連書類に一定の信憑性を認めている。4月1日の報道によると、黒海付近に構える自邸への帰宅の際、腫瘍外科医1名と耳鼻科医2名が同行したことがわかっている。甲状腺がんを患っているとの分析と符合するものだと同誌は捉えている。
このリーク以外の「諜報筋による情報」に関しては、100%信頼のおけるものではない。しかしながら、プーチン重篤の報道が積み重なることで、諜報戦上の重大な意義を生じてゆくはずだ。同誌は、「疑念が長引き彼が過去の男とみなされ始めたならば、大統領の健康に関するこうした絶え間ない考察は、彼にとって危険な存在となるだろう」と指摘する。
記事は続ける。「誰も公の場で口火を切りたがらないが、プーチンが病に伏せていることがひとたび明白になったならば、彼の盟友も宿敵も……そして新たな地位を喜ぶ両陣営の人々も、本腰を入れて彼のすげ替え工作に着手するだろう」。MI6は死亡説の流布を通じ、クレムリン内部に揺さぶりをかけているとも捉えられる。
■英諜報機関の元トップ「プーチンは来年までに失脚する」
すでに死亡したとの指摘は非常に大胆だが、より堅実な分析としては、手術期間中に今後影武者が代役を果たす可能性が濃厚だ。プーチンはがんを含む複数の重篤な病を患っているとみられており、近い時期にがん関連の手術を受ける可能性が高い。
米ニューヨーク・ポスト紙は、反プーチンのテレグラム・チャンネル『ジェネラル SVR』による情報として、近く予定されている手術でプーチンは最大10日間ほど公務を離れることになると報じている。手術の事実を隠蔽(いんぺい)するため、手術中および術後の静養期間に影武者が公務にあたる計画であり、「ボディ・ダブルらがスタンバイ体制に入った」と同紙は報じている。
プーチンに関しては引退を促す動きが水面下で起きており、手術が成功したとしても政治生命は長くなさそうだ。元MI6長官のリチャード・ディアラヴ卿など複数の情報筋が、プーチンは来年までに失脚するとの観測を明かしている。
ニューヨーク・ポスト紙など複数のメディアが報じたところによると、ディアラヴ卿はポッドキャスト番組『One Decision』のなかで、プーチンが治療のため2023年までにサナトリウムに送られるとの予測を明かした。これは政界から遠ざけるための手段として機能し、独裁政権に幕を下ろすための「出口戦略の一環」の役割を果たすのではないかと氏は予測している。
■欧米メディアが次々と報じる「プーチン健康不安説」
現在69歳のプーチンは、その容貌(ようぼう)の急激な変化により、体調悪化が指摘されてきた。顔にむくみがみられる点について、ステロイド剤を使用している影響か、あるいはがん治療を受けているためだと考えられている。
デイリー・スター紙は5月、政界に近いオリガルヒ(新興財閥)の証言として、プーチンが「非常に重い血液のがんを患っている」と明かし、ウクライナ侵攻以前には手術も受けていたと報じた。さらに英デイリー・メール紙も、クレムリン情報筋がテレグラム上で明かした情報として、プーチンは5月中旬にがんの手術を受け、成功したと報じている。
しかし、術後も体調が安定しないようだ。MI6の元ロシア担当であるクリストファー・スティール氏は、ミラー紙に対し、「彼には常時、医師らのチームが付き添っている」と語った。連続して会議に参加することは難しい状態となっており、常に手当てのための休憩を挟んでいるという。
■「余命2~3年」の病状…英ミラーが報じたプーチンの病状
加えて、プーチンは視力を失いつつあり、その余命は最大でも3年ほどだとの情報も聞かれるようになった。匿名のロシア連邦保安庁(FSB)職員はミラー紙に対し、プーチンが深刻ながんを患っていることを認めた。医師から余命宣告を受けたとも語り、「2~3年を超えて生き続けることはない」と述べている。
また、がんまたはその治療の影響により、プーチンの視力がひどく悪化しているとも明かした。メディア出演の際には非常に大きな文字で書かれたカンニングペーパーをカメラの向こうに用意する必要があるのだという。屈強なイメージを保つため、眼鏡をかけることは嫌っている模様だ。
また、病状の進行にいら立つプーチンは、周囲にあたることも多くなった。FSB職員はミラー紙に対し、次のように証言している。「以前なら下位の者たちに冷静な態度をみせていたが、いまでは制御不能な怒りを噴出させている。好き放題に激怒し、ほとんど誰も信頼しないようになった」
すでにプーチンに近い諜報部門のリーダーたちは後継者選びに興味を示しており、話し合いの主導権を握ろうと水面化の攻防が始まっている模様だ。
■がんセンターが緊急受け入れ体制、という報道も
ロシアを代表するがん研究所のひとつに、首都モスクワのブロヒン・センターがある。総計1200床を有し、がん専門病院としてはロシア最大の規模を誇る医療センターだ。このブロヒン・センターが、プーチンの緊急手術に向け非常体制をとっているとの情報が流れた。
英ミラー紙は、プーチンが膵臓(すいぞう)がんを患っており、「モスクワの病院(ブロヒン・センター)がスタンバイしている」との観測を報じている。プーチンは同センターを受診し、さらにクレムリン内部の医療関係者の診察を受け、双方からがんの診断を受けたという。
元ソ連のジャーナリストであり、現在はイスラエルで活動するマーク・コトリャースキ氏は、「ブロヒン・センターの建物のひとつで、緊急体制が敷かれた」と語った。手術棟が封鎖され、そのほかの患者たちが追い出されており、非常に高度なセキュリティー体制となっているという。ただし、現地で撮影された動画からは特段の警備体制は確認できておらず、現在は当該の体制が敷かれていない可能性もあるようだ。
氏はさらに、「この病気は進行性が強く、手術でもそう長くは延命できないだろう」「情報筋は、もって3~4カ月だとしている」との分析を示している。今年10月に70歳を迎えるプーチンが、度重なる手術にどこまで耐えられるかは不透明だ。
■打ち消しに走るロシア外相、ウクライナ側も数年は存命と分析
重病報道が相次ぐプーチンだが、クレムリンは打ち消しに躍起だ。英インディペンデント紙によるとロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、フランスのTV局のインタビューに応じ、「まともな人間」であればプーチンが病気などとは考えないだろう、と激しい口調で一連の報道を非難した。
病状に最大の関心を寄せているであろうウクライナ側も、すぐに政権が崩壊するとの見方には慎重姿勢を示す。デイリー・メール紙によると、キーウの諜報部隊を取りまとめるカイリオ・ブダノフ少将はウクライナ・プラウダ紙によるインタビューに応じ、プーチンが「がんを含む複数の深刻な病」を患っているとの認識を明かした。
ただし、「プーチンが明日死ぬと願っても無駄だ」とも述べ、「あと数年の命がある。好むと好まざるにかかわらず、これは事実だ」としている。一方、プーチンは躁うつ状態にあるとの分析は正しいとしている。プーチンは後継者たちが自身の死を望んでいることに気づき始めており、ごく少数の側近たちを除き距離をおいているとの近況も明かした。
■「プーチン支配の終焉が近いことを誰もが感じている」
米ニューズウィーク誌は6月2日、米諜報機関による情報をもとに、プーチンは4月に進行性がんの治療を受けていたと報じた。アメリカの複数の諜報機関がロシア情勢を継続的に評価しており、5月末にまとめられた4回目の総括評価報告書のなかで、がん治療を受けていたことが明言されたという。
この報告書は機密扱いだが、閲覧が許された諜報機関幹部は同誌に対し、「プーチンの支配力は強固だが、もはや絶対的ではない」と語った。この幹部職員は、「クレムリン内部の(支配力をめぐる)攻防は、プーチンの支配下ではこれまで起き得なかったほどに活発化しており、終焉が近いことを誰もが感じている」と指摘している。
アメリカ政府は報道を否定した。記事掲載後、アメリカ国家安全保障会議(NSC)は同誌に対し、「諜報コミュニティーによるそのような評価が存在する、あるいは大統領に報告された、という報道は誤りである」との声明を送付した。
ただし、5月にがんの手術を受けたとの報道が出ていることを考慮すれば、4月時点でがんの治療を試みていたとの分析には一定の信憑性がありそうだ。
■ウクライナ、NATO、病気を敵に回したプーチン
プーチンは闘病を続けており、政権の終焉は近いとの欧米メディアの報道が絶えない。その健康状態は秘密のベールに隠されているが、各種会談でも手先の震えと顔のむくみを隠しきれなくなっている直近の状況を鑑みるに、複数の重病に冒されているとの分析に間違いはないだろう。
映像など公開された情報から極秘情報を読み解く技法は「クレムリノロジー」と呼ばれ、米ソ冷戦期から発達してきた。古典的な分析技法だが、今日でも北朝鮮情勢の読み解きに活用されるなど、立派な諜報手法のひとつだ。このような分析による各種報告は、積み重なることで一定の信憑性を帯びる。
英MI6も含め各所から病状の進行が漏れ聞こえるようになったいま、健康状態に問題はないとのロシア外相発言はむなしく響くばかりだ。外相自身も含め、政権内部は身の振り方を探り始めている時期だろう。
ウクライナとNATOを敵に回したプーチンは、同時に自らの病魔とも対峙(たいじ)している。次期ロシア大統領が独裁政権を構築しないという保証は現段階でどこにもないが、ことの推移が和平につながることを願うばかりだ。
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フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)
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