日本で初めて「天然水」を商品として売り出した…サントリーの「水」が日本で一番売れているワケ
プレジデントオンライン / 2022年6月17日 12時15分
■4年連続で首位の「サントリー天然水」
今年は5月に早くも各所で35度超えの猛暑日を記録した。気温が高くなると、外出時に清涼飲料水(乳製品類とアルコール以外の飲料)を携帯する人が増える。その清涼飲料水で最も売れているブランドは何か、ご存じだろうか。
答えは「サントリー天然水」(サントリー食品インターナショナル、2020年に商品名を統一)だ。飲料総研の調査では、2018年から4年連続で首位となっている。
なぜ、このブランドが人気なのだろう。メーカーの活動を紹介しながら、消費者の「飲料水」に対する意識も考えてみた。
■2021年は「1億2000万ケース」超に
「清涼飲料水市場全体では2021年は前年比約101%でした。コロナ禍で落ち込んだ数字が回復基調になっています。当社は業界全体を上回り同103%で、天然水ブランドに限っていえば、今年1~4月は前年比107%でした。外出増など人流の回復も数字を後押ししています」
ブランドマネージャーの平岡雅文さん(サントリー食品インターナショナル SBFジャパン ブランド開発事業部課長)はそう話す。
ブランドが支持される理由については、「メーカー視点では、大きく2つあると考えています。1つは、お客さまの『飲料水への意識』に合わせて細かく向き合ってきたこと。もう1つは、『水源にこそ価値がある』という企業姿勢を訴求してきたこと。これをご評価いただいているのではないでしょうか」と解説する。
■安定供給のため4つの水源を確保
ブランドの主軸商品は社内で“本体”と呼ばれる「サントリー天然水」(ミネラルウォーター)だ。消費者からは「クセがなくて飲みやすい」という声も多い。
近年は商品ラインナップも増え、炭酸水のほか、オレンジ、ぶどう、洋なしなどのフレーバーも展開する。
「多くの清涼飲料水は“小から大”に動きます。お客さまが500mlで好きな商品を買い、自宅で飲むために大容量を買う。でも本体のミネラルウォーターは逆で“大から小”。自宅で飲み慣れた大容量ブランドを500mlで買う傾向にあります」
「サントリー天然水」の採水地は国内4カ所に分かれており、これにはリスクヘッジ(危険回避)としての安定供給もある。商品ラベルの下に「南アルプス」「北アルプス」「奥大山」「阿蘇」と記されるが、これは各工場が立地する水源をさす。
いずれも自然の水を直接採水した後、濾過(ろか)・加熱を行い、無菌環境でボトルに充填(じゅうてん)する。2021年5月に第4の水源として「北アルプス信濃の森工場」が稼働している。工場の敷地内には体験型施設も備えた。
■気分転換に選ばれるスパークリング
近年のブランド拡大に貢献したのが「サントリー天然水スパークリング」(炭酸水)シリーズだ。強炭酸水を打ち出した「THE STRONG 天然水スパークリング」や「スパークリング レモン」が人気で、派生商品「スパークリング はじける濃いレモン」「スパークリングCRAFT じゅわっと梅ソーダ」などもある。
例えば、梅雨時に在宅デスクワークをしながら好まれる味は何だろう。
「お好みによりますが、スパークリングレモンが人気ですね。心地よい刺激感で気持ちをリフレッシュしたいのでしょう。コロナ禍で『週2回程度となった出勤日は疲れる』という声も聞きます。そうした出勤日に携帯される飲料として、『サントリー天然水 きりっと果実 オレンジ&マンゴー』や『サントリー天然水 特製レモンスカッシュ』が選ばれたりもするようです」
逆に、本体は習慣で選ばれやすいという。図表1で紹介したように、強い飲料水ブランドはロングセラー商品が多い。「好みの定番化、定番回帰の傾向は強まっています。情報量が多くなった結果、逆に消費者が選択することに面倒を感じているのかもしれません」。
■「自然水」ではなく「天然水」
サントリーが同ブランドを発売したのは31年前の1991年だ。
「発売時は『サントリー 南アルプスの天然水』という商品名でした。テレビCMでも山や清流という自然を映し、南アルプス天然水をリズミカルに連呼してきました」
当初は「世間の水より、南アルプスの天然水」という、同社らしいひねりで訴求したが、やがて「山の神様がくれた水」と自然への畏敬の念を打ち出した。日本を代表する俳優・大滝秀治さんの演技やナレーション、歴代の“南アルプス少女”を覚えている人もいるだろう。
「サントリー天然水」を発売する前は「山崎の名水」(1983年)や「サントリー南アルプスの水」(1989年)という商品を発売していた。
同社グループの看板事業であるウイスキーやビールも名水あってこそ成り立つ。もともと水源への意識は高かったが、天然水を発売して以来、年々社内の意識も高まっていった。
ちなみに「天然水」という言葉もサントリーが一般的にしたという。ナチュラルミネラルウォーターを直訳すると「自然水」だが、それを天然という言葉に置き換え、訴求した。
■平成元年から約38倍に拡大した水市場
飲料水市場は、この30年で急拡大した。主な理由は消費者の健康志向と備蓄意識だ。
業界団体の日本ミネラルウォーター協会の調査結果から、平成元年(1989年)→平成19年(2007年)→令和3年(2021年)の生産量を比較すると、下のようになっている。
「11万7279キロリットル」(1989年)
(国内生産10万1000キロリットル+輸入1万6279キロリットル)
→「250万5067キロリットル」(2007年)
(国内生産192万4258キロリットル+輸入58万809キロリットル)
→「444万1949キロリットル」(2021年)
(国内生産415万4338キロリットル+輸入28万7611キロリットル)
※日本ミネラルウォーター協会調べ/輸入資料は財務省関税局 日本貿易統計
平成元年に比べて、生産量は約38倍も拡大したのだ。
興味深いのは2007年に構成比で23.2%を占めていた輸入飲料水が、2021年には同6.5%に落ち込んだこと。かつて人気だった海外ブランド「ボルヴィック」は2020年末で国内販売を終えた。安心・安全の視点からも国内産の水への支持が高いようだ。
実は、大災害が起きると飲料水の数字は伸びる。生産量が300万キロリットルを超えたのは2011年からだ。
「この年に東日本大震災が発生し、備蓄意識が高まったのです。水は常備すべきライフラインと認知され、買って大半を保管する消費者が増えました。2020年からのコロナ禍もそうですが、社会不安になると大容量の飲料水が売れる傾向にあります」
■「サントリー天然水」が持つ重い責任
ところで5月16日、「サントリー、飲料165品を10月1日から価格改定」というニュースが各メディアで報道された。大容量・小容量ともに、おおむね現行価格から20円の値上げとなる。値上げが相次ぐご時世だが、ブランドとしてどう思うのか。
「消費者の方にはご負担をおかけしますが、価格に見合った価値を訴求したいと考えています。サントリー天然水は、世の中になくてはならない存在になりたい。そのためには味はもちろん、安心・安全や容器の使い勝手、環境の取り組みなど多方面で取り組んでいきます。
例えば自社グループでは『水循環を知る、大切に使う』に加えて、地下水の水源を守る活動にも力を入れ、2003年から『サントリー天然水の森』活動も行っています。現在は15都府県に約1万2000ヘクタールの森を保全。自社グループ国内工場でくみ上げる地下水量の2倍以上の涵養(かんよう)(地表の水を地下に浸透させる)という目標も達成しました」
ひとくちに「地下水」というが、山に降った雨が20年以上かけて地下にしみ込むという。
飲料水がここまで拡大すると、企業の社会的責任も増す。グループ企業理念に「水と生きる」を掲げる会社にとって、「サントリー天然水」が果たす役割は大きく、重い。
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経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)
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