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軽より安く手に入る軽BEV「日産サクラ」10種の電気自動車に試乗したクルマのプロが感じた本当の強み

プレジデントオンライン / 2022年6月20日 12時15分

トヨタが5月に発売した「bZ4X」では、兄弟車であるSUBARU「ソルテラ」との300kmに及ぶ比較試乗を公道で行い、違いを探った。71.4kWhでWLTC値512km、車両重量は2010kg(試乗車の数値) - 筆者撮影

2022年、日本では数多くの電気自動車(BEV)が販売を開始している。交通コメンテーターの西村直人さんは、これまで乗用車、軽自動車、小型トラックと合わせて10種の電気自動車に試乗してきた。実際の乗り心地や使いやすさはどうなのか。西村さんが解説する――。

■2022年はBEVの本格的な普及年になった

トヨタ「bZ4X」とSUBARU「ソルテラ」、アウディ「RS e-tron GT」、BMW「iX xDrive50」、フィアット「500e OPEN/チンクエチェントイー オープン」、日産「アリアB6」、ヒョンデ「IONIQ 5/アイオニック5 Lounge AWD」。アウディ「RS e-tron GT」を除けば、すべて2022年に日本で販売を開始したBEVだ。

これに加えて、三菱ふそうの小型トラック「eCanter」の改良版、そして各社が実証実験を行っている「電動キックスケーター/キックボード」にも公道で試乗した。これらはいずれもBEV(電気自動車)だ。

テスラ「モデルS」にも久しぶりに乗った。また、5月に販売開始となった日産「サクラ」はテストコースで試乗を済ませつつ、兄弟車である三菱「ekクロス EV」は7月早々に公道で試乗する。

昨今の電気自動車は、ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)、さらには燃料電池車(FCEV)とのわかりやすい区別を目的に、BEV(バッテリー式EV)と表すことが多い。

そのBEV。2022年は本格的な普及年になったわけだが、じつはコロナ禍により部品の供給、とりわけ電動車では高性能で高価な半導体が数多く使われることから販売開始が大幅に遅れた。

加えてBEVは中国市場へと積極的に導入される傾向があることから、冒頭紹介した各車はいずれも当初の計画から少なくとも半年以上、後ろ倒しになって日本での販売を開始している。

日産が5月に発売した「アリア」は、シングルモーターの前輪駆動モデルに公道で試乗。追ってツインモーターの4輪駆動モデルが登場する。66.0kWhでWLTC値470km、車両重量は1920kg(試乗車の数値)
筆者撮影
日産が5月に発売した「アリア」は、シングルモーターの前輪駆動モデルに公道で試乗。追ってツインモーターの4輪駆動モデルが登場する。66.0kWhでWLTC値470km、車両重量は1920kg(試乗車の数値) - 筆者撮影

■「背中を蹴飛ばされたように加速」したiXとRS e-tron GT

そうしたなか試乗した率直な結論を最初に述べると、各社の各車とも走行性能に関して不足や不満を感じることが本当に少なかった。乗り物としての完成度はじつに高かったからだ。

アクセルペダルを踏み込めば電力消費が多くなる当たり前の事実から、筆者の場合、BEVの試乗は丁寧な運転操作になる傾向があるが、むしろ微速での加減速や定速走行など、一般的な乗り方での評価軸に徹することができることから収穫は大きい。

iXとRS e-tron GTでは、もって生まれた欧州ブランドの上質さと、強烈な加速力という極端な二面性を体感した。

高速道路のETCゲートを20km/hで通過し、周囲の安全を確認してからアクセルペダルを深く踏み込むと、それこそ背中を蹴飛ばされたように2300~2500kg台の車体が飛び出していく。

BEVの駆動力は電動モーターが生み出す。電動モーターの強みのひとつは、通電直後から力強い回転力を生み出せることで、このメリットは広く知れ渡ってきた。ただ、素のままの電動モーター性能では力が強すぎる。

そこで各社では磁束密度の高い磁石を用いた電動モーターに加えて、DC/AC変換を行うインバーターの制御技術を高めて、アクセルペダル操作に対しドライバーが意図した通りの加速力を生み出す。

BEVではこの制御技術を応用して、車載のスイッチ操作で加速力を変化させる「ドライブモード」なるものが一般的に搭載される。先に「背中を蹴飛ばされたように加速」と評したiXやRS e-tron GTは、もっとも加速力が強くなる、いわゆる「スポーツモード」での体感だ。

ガソリンやディーゼルなど内燃機関モデルでもこうしたモード変更機構はあるが、電動モーターは人の瞬きの1000倍以上の速さで駆動トルク制御が行えるため、BEVではよりきめ細やかなモード変更が行える。

BMWの「iX xDrive50」は111.5kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、WLTC値で650km走る。試乗車の車両重量は2560kg
筆者撮影
BMWの「iX xDrive50」は111.5kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、WLTC値で650km走る。試乗車の車両重量は2560kg - 筆者撮影
アウディの「RS e-tron GT」は93.4kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載しWLTC値で534km走る。前後ツインモーターで後輪モーターは2速ギヤが備わる。試乗車の車両重量は2340kg
筆者撮影
アウディの「RS e-tron GT」は93.4kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載しWLTC値で534km走る。前後ツインモーターで後輪モーターは2速ギヤが備わる。試乗車の車両重量は2340kg - 筆者撮影

■「とても乗りやすい車両であることを実感」した4車

bZ4X、ソルテラ、アリア、IONIQ 5の4車では、奇をてらうことのない、とても乗りやすい車両であることを実感した。

BEVであることを強調し、それを一番のセールスポイントにするのではなく、各社が目指した次世代の車造りを技術で攻めて、使い勝手で愚直に表現。とりわけbZ4Xでは、トヨタを代表する世界的な大衆車「カローラ」を、BEVとして改めて世に問うたのだと筆者には感じられた。

トヨタのbZ4XとSUBARUのソルテラは兄弟車だ。外観の相違にはじまり、走行性能では前後サスペンションのダンパー減衰力が異なる。bZ4Xと比較してソルテラは高めの減衰力に変更して、車体がより即座に反応する設定とした。

一方、電動モーター駆動の性能では両車に違いはない。ドライブモードをノーマルにしておけば、ある程度ラフなアクセルペダル操作であっても制御で吸収し、ドライバーの意図を理解したかのように滑らかに加速する。多くのユーザーが使いやすい、運転しやすいと実感するはずだ。なお、試乗は両車とも前後ツインモーターの4輪駆動モデルを選んだ。アクセルペダルを戻した際に回生ブレーキを生み出す、いわゆるワンペダル操作も両車は備える。bZ4Xは「Regeneration Boost」、ソルテラは「S PEDAL DRIVE」と個別のネーミングを採用するが機能は同じだ。

SUBARU「ソルテラ」を20kWの急速(中速)充電器でチャージ。時間あたりの充電量は直前の運転操作に左右されるが、15分間でSOC換算にして5%分の充電ができた
筆者撮影
SUBARU「ソルテラ」を20kWの急速(中速)充電器でチャージ。時間あたりの充電量は直前の運転操作に左右されるが、15分間でSOC換算にして5%分の充電ができた - 筆者撮影

■アリアの「e-Pedal Step」に組み込まれた新たなロジック

日産のワンペダル操作である「e-Pedal」(アクセルペダルの踏力を緩めると減速度が発生)と考え方は同じだが、bZ4Xやソルテラではちょっと独特な仕組みを用いた。たとえば加速中にスイッチをオンにすると、その瞬間から同じ加速力を保つためには、より深くアクセルペダルを踏み込む必要がある。走行中、エコモードに切り替えたような感覚だ。

「ペダルを戻した際の回生ブレーキ力をコントロールしやすくするため制御に組み込みました」とは、トヨタのbZ4X開発担当者の弁。

一方、アリアの「e-Pedal Step」(e-Pedalとは異なり停車時にブレーキを踏む必要あり)には新たな制御ロジックが組み込まれた。たとえばリーフのe-Pedalや、日産のシリーズハイブリッド方式「e-POWER」の「e-POWER Drive」ではスイッチをオンにしてアクセルペダルの踏力を緩めると、すぐに緩め具合に応じた回生ブレーキが働き減速度が生み出せた。

対してアリアのe-Pedal Stepでは、アクセルペダルの踏力を一気に緩めると、少し間をとってから減速度が立ち上がる。これは意図的な設計で、じんわり踏力を弱めていくと、それに同調するかのように回生ブレーキによる減速が始まる。

「e-Pedal Stepでは急激なペダル操作に対して車体の前後ピッチングを抑制するために、少し間をとる制御を組み込みました」(アリアの開発担当者)。たしかに従来のe-Pedalやe-POWER Driveとは異なる部分だが、滑らかなペダル操作をちょっと心掛けるたけでスッと馴染めた。

■IONIQ 5の「充電時間を車内で過ごす提案」

IONIQ 5では、充電時間を車内で過ごす提案が良いと感じた。「前席リラクゼーションコンフォートシート」とネーミングされたそれは、運転席と助手席ともに格納されたオットマン(足のせ台)が張り出し、背もたれが大きく倒れ、同時に座面上端がせり上がる。

ゼログラビティ(重力ゼロ状態)にも似た感覚が体感できるため、30分程度の急速充電時間を車内で快適に過ごせる。スイッチ操作ひとつでシートは電動でモードを変える(グレード別装備)ので利便性も高い。また、両席間にあるコンソールは前後に140mm動くため、車内どの席からも小さなテーブルとしても使えた。デジタルチックな外観に対し、内装は色合い、素材の組み合わせなど柔和な印象で、そのギャップにも好印象を抱いた。

IONIQ 5も十分な走行性能をもつ。回生ブレーキの減速度はステアリングのパドル操作や、ACCなど先進安全技術の主センサーであるミリ波レーダーの制御信号とも組み合わせながら、多岐にわたって変更できるため交通環境に合わせたワンペダル操作が行えた。

ヒョンデの「IONIQ 5/アイオニック5 Lounge AWD」は72.6kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、WLTC値で577km走る。試乗車の車両重量は2100kg
筆者撮影
ヒョンデの「IONIQ 5/アイオニック5 Lounge AWD」は72.6kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、WLTC値で577km走る。試乗車の車両重量は2100kg - 筆者撮影

500e OPENは唯一無二の価値がある。内外装とも歴史あるチンクエチェントの面持ちでアイコニックな造形ながら、専用ボディのBEVであり、先進安全技術もレベル2の運転支援技術を備える。まさに時空を超えたかのような存在だ。ソフトトップルーフを開ければ爽快なBEVを堪能できる。

■軽自動車BEVは「安価に手に入る」のが優位点

サクラにはスマートな割り切りを感じた。

軽自動車のBEVとしては、2009年の三菱「i-MiEV」に続く車両だ。バッテリー容量は少なめ(20kWh)で「AER」(All Electric Range/充電一回あたりの走行距離)も180km(WLTC値)だが、普通充電だけでなく急速充電にも対応する。

ACCと車線中央維持機能の組み合わせである「プロパイロット」も装備できるが高額オプションとなるため、サクラはガチなシティコミューターとしての性格が強い。

いずれにしろ国の補助金やエコカー減税、自治体の助成金の合計で、東京都に居住する場合は101万5600円の優遇が受けられるから、装備から考えればガソリンエンジンの軽自動車よりも安価に手に入る。ここも車両価格が安価な軽自動車BEVならではの優位点だ。

ベース車両は日産と三菱のジョイントベンチャーであるNMKVの手による軽自動車だ。日産「デイズ」→サクラ、三菱「ekクロス」→ekクロス EVといった具合だが、デイズ&ekクロス(ekワゴン)の設計段階から、サクラ/ekクロス EVの開発が組み込まれていた。

よって、たとえば車体の土台であるプラットフォームは20kWhのリチウムイオンバッテリー+補機類の150kgの重量物を車体下部に搭載することが前提だったのだ。

日産の「サクラ」は20.0kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、WLTC値で180km走る。試乗車した「X」グレードの車両重量は1070kg
筆者撮影
日産の「サクラ」は20.0kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、WLTC値で180km走る。試乗車した「X」グレードの車両重量は1070kg - 筆者撮影

■BEVこそ無駄を排除した車体設計が可能だ

ベースモデルから変更された箇所もあり、BEV化による低重心化に併せて、車体のロールセンターは若干上げてロール剛性(車体の横揺れ耐性)を確保。リヤサスペンションにはガソリン車の4WDモデルが用いるトルクアーム式3リンクに専用チューニングを施して組み込んだ。

テストコースでは大人3名で速度リミッターが働く140km/hで走らせたが、日産のスポーツカー「GT-R」の走行性能担当者も開発に携わっているだけに確かなものだった。

BEVは、とかくAERや搭載バッテリー容量に対してユーザーから鋭い眼差しを向けられ、この値が短い/小さいと評価が高まりにくい。

しかし、BEVこそユーザーの走行シーンや目的に応じた車体設計により、無駄が排除され、最大限の温室効果ガス削減効果やLCA換算でのCO2排出量の低減が実現できる。サクラ/ekクロスEVなど軽自動車BEVはここに商機があり、またユーザーも慧眼だから販売は好調だという。

大容量バッテリーを搭載するBEVの場合、車両重量はその分、重くなる。bZ4Xやソルテラのリチウムイオンバッテリー(71.4kWh)は補機類含めて450kg前後だ。アリア(B6のリチウムイオンバッテリーは66kWh)にしても同じレベル。一転、サクラでは20kWhで150kgとベースとなったデイズから160kgの重量増加にとどまる。

■サブスク方式、リース方式…新たな買い方が一般化

BEVでは新たな買い方も一般化した。bZ4Xを個人で契約する場合はサブスク方式の「KINTO」、法人ではリース方式。ソルテラでは一般的な売り切り方式。

サブスクリプション(サブスク)とはフルサービスリースのことで、自動車保険、税金、メンテナンス代などクルマの利用にかかる費用を月額に含んだ定額サービス方式のこと。500eもサブスク方式。IONIQ 5はオンラインでの購入方式。テスラと同じような仕組みが用意されている。

フィアットの「500eOPEN/チンクエチェントイーオープン」は42.0kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、WLTC値で335km走る。試乗車の車両重量は1360kg
筆者撮影
フィアットの「500eOPEN/チンクエチェントイーオープン」は42.0kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、WLTC値で335km走る。試乗車の車両重量は1360kg - 筆者撮影

2022年後半戦もBEVのバリエーションが増えていく。高額な車両価格や実質的なAER、そして立体駐車場を駐車環境にするユーザーにとっては、車体サイズや車両重量、充電環境など、愛車にするにはハードルは未だに高い。

しかし、まずはこうしてBEVの選択肢が増えたことに目を向け素直に喜びたい。そしてBEVを含む電動化社会について、課題の洗い出しと、克服に向けた具体的なアイデア出しを携え政府に働きかける。この循環が理想だ。

同時に、内燃機関モデルであってもスズキ「アルト」を筆頭にLCA換算でCO2排出量の少ないエコロジカルな乗り物も存在する。目標はあくまでも温室効果ガス削減。BEVだけでなく内燃機関モデルであっても、果たせる役割はある。具体的な解決策により相互理解が進むジェンダー平等と同様に、目的に応じた電動化と、究極を目指した内燃機関の両立など、多様性ある車社会を望みたい。

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西村 直人(にしむら・なおと)
交通コメンテーター
1972年1月東京生まれ。専門分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつために「WRカー」や「F1」、二輪界のF1と言われる「MotoGPマシン」でのサーキット走行をこなしつつ、四&二輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行い、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。著書には『2020年、人工知能は車を運転するのか』(インプレス刊)などがある。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)理事、2020-2021日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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(交通コメンテーター 西村 直人)

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