米軍の結論「中国が台湾に軍事侵攻すれば成功する」…そんな絶望的状況で日本が台湾のためにやるべきこと
プレジデントオンライン / 2022年6月26日 12時15分
■中国による台湾侵攻はもう止められない
【エル】ウクライナ戦争が起きたことによって台湾侵攻が早まるのか遅くなるのかはわかりませんが、中国が戦術を見直していることは間違いありません。
なぜウクライナにおけるロシアの作戦がうまくいってないのか。あるいは世界各国の反応はどうか、どのような制裁措置にでたのかでないのか。そして台湾と一番関係する周辺国がウクライナの情勢に対してどう動くか、日本がどう対処しているのか。非常に細かく分析していると思います。
ただし、全体の流れとしては、中国の台湾侵攻は止められないでしょう。政治的・外交的にタイムラインがありますが、中国の立場に立つなら、宇宙戦が優位なうちに、日米台が一体になる前に侵攻したいはずです。
ウクライナの事情が完全に台湾に当てはまらないのは、繰り返しますが台湾が「国」ではないからです。加えてNATOのような組織がアジアにはない。
【石平】そこです、クワッドも軍事同盟ではないですから。
■中国への輸入依存度が高い日本、アメリカ、ドイツ
【エル】だいたい中国はアジア版NATOをつくることを許しません。中国がクワッドを批判していたのはそういう理由からです。
私は、中国は経済制裁に強いと見ています。これには少なくとも2つ理由があります。
1つはアメリカの経済界や政界がものすごく中国に進出していることです。
日本政府の内閣府が公表した「世界経済の潮流 2021年」には日本とアメリカ、ドイツ3カ国の対中依存度の異常な高さを示すデータが載っており、参考になります。2019年におけるアメリカの各国輸入額に占める中国の割合は18.1%と2割近くもあり、しかも10年前の18.5%とほとんど変わっていません。また、輸入依存度が5割以上を占める「集中的供給材」は、590品目、全体のシェアは11.9%と非常に高いです。
中国との貿易戦争を仕掛けているアメリカでさえこの数字ですから、依存度の高い日本は当然それ以上です。輸入品目全体では23.3%、集中的供給材にいたっては1133品目(シェア23%)と、アメリカの倍近くもある。
ちなみにドイツは、全体で8.5%、集中的供給材では250品目(シェア5%)と比較的少ないのですが、ドイツは対中国貿易では輸出がメインだということを考慮したとしても、この数字です。
■物流を握っている中国への制裁はリスクが高い
【石平】確かに中国税関総署が今年の1月に発表した貿易統計によると、2021年の中国の対米貿易総額は7556億ドル(約86兆円)と過去最大になり、輸出入ともに前年より3割増えて、むしろ相互依存が強まっています。
【エル】中国進出企業などが加入する「中国米国商会」が3月8日に発表した、中国ビジネス環境調査レポートによると、中国での今後の事業展開について、2022年に中国における「投資を拡大する」と回答した企業は66%にも上ります。この期に及んでです。
半面、「生産・調達の中国からの移転を検討または開始している」企業は14%(前年は15%)にすぎず、「今後の中国市場の成長見通しについて楽観視している」との回答は64%もあります。
さらに国際貿易に欠かせない物流のデータを見ても中国が他を圧倒しています。
たとえば、2020年のコンテナ貨物量上位10港のうち、1位上海、3位寧波、4位深圳などと7港が中国で、世界シェアの24.8%を占めています。アメリカは7.1%、日本は3.5%と比較にならない(「CONTAINERISATION INTERNATIONALYEARBOOK」より)。
つまり中国を制裁すると自分たちに制裁しているような状況になってしまいます。確かに中国共産党の幹部のなかに嫌がる人がいたとしても、それが習近平主席の国家戦略を変えるほどの影響を持つかは不明です。
■岸田政権では中国への抑止力が弱い
【エル】したがって、われわれ西側社会は、起きたあとを考えるのではなく、起きる前に中国に台湾侵攻をしないよう促す必要があります。つまり抑止力を示さなければなりません。
抑止力は装備品だけではなく、体制そのものなのです。いかに日本が同盟国や準同盟国、あるいは友好関係にある国々と連携できるかがカギを握ります。こうしたことへの種まきは、有事になって始めるものではなく、平時から積み重ねていかなければならないことです。
しかし今の岸田政権ではそれが弱い。
1つは林(リン)外相を選んだこと(笑)。林芳正(はやしよしまさ)外相が外相就任とともに辞任した「日中友好議員連盟」の会長職は親子2代にわたって務めていたことは周知の事実です。
父親の義郎氏は1969年から2003年まで衆議院議員を務め、大蔵大臣の時期(1992~1993)に、中国へのODAは飛躍的に増大していました。ODAは外務省経由で配分されますが、それを承認するのは大蔵省(現在の財務省)です。時あたかも、天安門事件直後で中国が世界中からバッシングを受けていた最中のことです。
■林外相が会長を務めた「日中友好議員連盟」の闇
また、義郎氏は、中国の日本における政治戦争を故意または無意識に助長する組織の一つと指摘されていた「日中友好会館」の会長でもありました。
「日中友好議員連盟」の怪しさを示すものとして、同連盟の関係の資料が公開されていないことです。ホームページもなく、国会議員仲間の問い合わせにさえ「資料は参加メンバーに限る」と断るほどクローズされています。
本当に友好と二国間関係促進を望むのであれば、組織の歴史、会員名簿、財政などの情報を透明化することに躊躇はないのは論を俟(ま)ちません。特に日本側の経費は税金で賄われているのだからなおさらです。
■中国の脅迫的行動に岸田政権は「注視する」のみ
【エル】またその象徴的事例として、岸田政権が誕生した2021年10月4日に台湾の防空識別圏(ADIZ)を56機というかつてないほどの中国軍用機が侵入したというのに、翌5日の松野官房長官のコメントがひどかった。
「わが国としては、台湾をめぐる問題が、当事者間の直接の対話により、平和的に解決されることを期待するというのが、従来からの一貫した立場だ。政府として、引き続き、関連動向を注視していきたい」
ADIZを一方的に侵攻したのは中国であり台湾ではありません。かつてない規模の軍用機だというのに従来どおりの対応をし、あげく注視するだけと言うのです(笑)。
正しい対抗措置はこうです。
まず中国を名指しで批判する。
次に日米と米台で連携して日本にある米軍機、戦闘機、空中空輸機、そして偵察機を一時的に台湾に展開する。
3つ目に、南シナ海で行っていた多国間による軍事演習に台湾軍を招待する。
ものすごく反発するでしょうが、中国が台湾を脅迫したらどうするかという対抗措置をはっきりと示す必要があります。
対抗措置が嫌であれば威嚇などするなと。それが岸田政権ではまったくできてないので、弱いと思いました。
【石平】逆にいえば、中国も台湾に手を出すのは岸田政権の間のほうがいいというメッセージを送ったことになる、外相が林(リン)のうちに(笑)。
■米軍は中国がどう台湾に侵攻するかを調査済み
【石平】最後に最も気になる質問をします。もし、中国が本気で台湾を取りに行く場合、中国はどのような戦術をとりますか?
【エル】すでに米軍が調べていて、実際にどうなるかがわかっているので、それは言えません(笑)。
【石平】そうか! いやわかりました、その言葉を聴けただけで十分です! では答えられたらでいいですが、中国は失敗するか成功するか? 経済制裁とは別の話で軍事行動としてどうか?
【エル】成功すると思う。
【石平】ああ、それはちょっとショックだな。
【エル】なぜなら台湾が国家として承認されていないからです。
【石平】やはりこの問題に戻ってくる。
■台湾を孤独にしないために、日米台で連携を
【エル】繰り返しますが、中国のアメリカ社会への政治戦、経済戦の浸食があまりに進んでいるのです。そして問題なのは台湾と日米、ヨーロッパとの連携がとれていないことです。要するに台湾を孤独にしてはいけないのです。そのための第一歩が台湾を国家として承認することですが、現状はそうではありません。もちろん、国家でなくても軍事連携はとれますが、それすら進んでいません。
【石平】いや逆によくわかりました。台湾を守りたいのならば戦争が起きてからではなく、その前に日本とアメリカを代表する国際社会が肝心な問題をクリアしなければならないということですね。そして日米台で安全保障条約を結び、三国連携で台湾の侵略は絶対に許さないという意志を示す。そこまでやらなければ、中国に台湾侵攻を諦めさせることはできない。
ウクライナ人の必死の抵抗で中国の台湾侵攻が少しでも遅れる可能性があるのなら、日本はこれを僥倖として、まずは憲法改正をしなければならないでしょう。平和は平和憲法があるから守れるわけではないのですから。
【エル】軍事力もさることながら、世界が尊敬し、真似をしたくなるような「民主主義」を守るという理念・理想がなければ、この厳しい戦いに勝利することはできないのです。
【石平】ありがとうございます、身が引き締まるような対談でした。
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評論家
1962年中国四川省成都市生まれ。80年北京大学哲学部入学。84年同大学を卒業後、四川大学講師を経て、88年に来日。95年神戸大学大学院文化学研究科博士課程を修了し、民間研究機関に勤務。2002年『なぜ中国人は日本人を憎むのか』(PHP研究所)の刊行以来、日中・中国問題を中心とした評論活動に入る。07年に日本国籍に帰化。14年『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞を受賞。近著に、『なぜ日本だけが中国の呪縛から逃れられたのか』(PHP新書)、『習近平敗北前夜』『私たちは中国が一番幸せな国だと思っていた』(ビジネス社)などがある。
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1968年、米ニュージャージー州生まれ。90年に米国バージニア州リンチバーグ大学国際関係学部卒業後、文部省JETプログラムで来日。99年に神戸大学法学研究科博士課程後期課程修了。政治学博士。大阪大学大学院国際公共政策研究科准教授、在沖米海兵隊政務外交部次長などを歴任。日本戦略フォーラム上席研究員。エルドリッヂ研究所代表。著書に『沖縄問題の起源』『尖閣問題の起源』(ともに名古屋大学出版会)など多数。
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(評論家 石 平、政治学者 ロバート・D・エルドリッヂ)
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