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いつも肉まんを買う女性客に「今日は肉まんはよろしいですか?」…男性コンビニ店員の発言は失礼なのか

プレジデントオンライン / 2022年6月24日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TAGSTOCK1

例えば、いつも行く店の店員に「いつもありがとうございます」「いつもおしゃれですね」などと言うのはアリなのか。電通のコピーライター・勝浦雅彦さんは「そんなことを言ったら、相手にあやしまれると考える人もいます。でも、他者とつながるために大切なのは“相手の反応を期待しないこと”。誰かに話しかけたり、コンタクトを取ることは、やらなきゃ確実にゼロなことを、勇気を持ってイチを生み出そうとしている行為なのです」という――。

※本稿は、勝浦雅彦『つながるための言葉 「伝わらない」は当たり前』(光文社)の一部を再編集したものです。

■「はじめに言葉ありき」の勘違い

「はじめに言葉ありき」

よく目にする聖書の言葉ですよね。世の森羅万象はすべて言葉によって規定できる、と。これ、言葉関係の本ではよく出てくる話です。でも、これはどうやら誤訳のようです。聖書に書かれたギリシャ語を直訳すると、「すべての始原、根源的真理・原理はキリストの言葉である」となるそうです。日本では宗教性を無視した拡大解釈が広まっているわけですが、みんなこの言葉が好きですよね。

なぜだと思いますか?

それは「言葉ですべてが理解できると安心するから」ではないでしょうか。何度も繰り返しますが、人間とはそもそも相互不理解が前提にある生き物であり、だからこそ数多の「言葉によって他人を理解し、コミュニケーションをするための本」が溢れているのです。

本書もその一つですが、簡単なテクニックでそれを叶えるものではありません。そんな技術は欺瞞(ぎまん)です。何より大切なのは自分を知ること、つながりたいと思うこと、そしてそのためにあなたが一歩を踏み出し、変わることです。

ここでは、他者とつながるための言葉の基本動作を学んでいきます。普段、何気なく使っている言葉や、曖昧なまま使い続けている言葉の意味を掘り下げていき、言葉の足腰を確かなものにしていくことが狙いです。

■どうしようもなくみんなシャイなのだ

覚えておきましょう。人間はとにかく、シャイ(内向き)な生き物です。どれだけ「私は人間が大好きだ、会った人とすぐ友達になれる」と思い込んでいる人でも、初対面の場は緊張が生まれますし、その人が友達だと思っていても、相手はそう思っていないこともしばしば。

ある先輩は「一度会ったら友達で、二度会ったら親友で、三度会ったらお葬式に呼べる」と言っていました。そのこと自体、素敵な考え方ともいえますが、「え? 私あの人とそんなに親しくないですよ」と自分のいないところで語られた時の恥ずかしさは悶絶ものです。「ほとんどの人間がシャイである」という前提に立てば、初対面でうまく話せなかったり、人間関係がなかなかうまくいかなくても落ち込まなくて済むようになります。それだけ人と人の関係構築には時間がかかります。その前提のもと、つながるための言葉によってゆっくり距離感を掴みながら関係をつくっていけばいいのです。焦ってはいけません。

■相手の反応を期待しない

例えば、いつも行くお店の店員さんに「いつもありがとうございます」と言うだけで「あ、この人は自分のことを認識してくれているのだな」と相手に感じさせることができ、距離がぐっと近づきます(サービスしてくれるかもしれませんね)。

あるいは、定型的な挨拶に終始していた相手に「こんにちは、いつもおしゃれですね」とひとこと付け加えれば、「あ、この人は自分のことを見てくれているのだな」と気づいてもらえます。

こういった話をすると必ず「相手にあやしまれないか」「無視されたらどうしよう」などといった意見が出ます。はい、はっきり言います。人によっては怪しまれるし、無視されるでしょう。大切なのは「相手の反応を期待しないこと」です。だって、相手は自分ではないのですから。思い通りの反応なんてかえってくるわけがありません。

学生時代にコンビニでバイトしていました。季節は冬のこと。必ず夜に来店して肉まんを買う若いOLさんがいました。ある日、来店した彼女が肉まんを買わなかったのです。思わず「いらっしゃいませ、今日は肉まんはよろしいですか?」と私は尋ねました。彼女は何かバツの悪そうな顔をして会釈して去っていきました。

肉まん
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

その後、OLさんは店に来ても肉まんを買うことはありませんでした。おそらく、私は距離感を間違えたのです。女性にとって、「毎日肉まんを買って帰宅する」という行為は誰にも触れられたくないものだったのでしょう。

勝浦雅彦『つながるための言葉 「伝わらない」は当たり前』(光文社)
勝浦雅彦『つながるための言葉 「伝わらない」は当たり前』(光文社)

私たちは時にとても傷つきやすい生き物です。距離感を間違えたひとことが相手に届かずに、夜も眠れないくらい気にしてしまうこともあります。

でも、考えてみてください。あなたが誰かに話しかけたり、コンタクトを取ることは、やらなきゃ確実にゼロなことを、勇気を持ってイチを生み出そうとしている行為なのです。

まず、そんな風に行動した自分を褒めてあげてください。そしてあなたが本当につながりたい気持ちを持って、コピペではない言葉で相手にコンタクトしていれば、百人中百人に無視をされたり、訝しがられることはきっとありません。さらにある一定の割合でそれはいい関係を築く端緒になってくれるはずです。

■ほろ酔い顔の女性客「今日はちょっと気分がいいんです」

先ほどの、肉まんOLさん(呼び方失礼)の話には後日談があります。

肉まんを買わなくなり、毎日やってくるその人に話しかけることもなく時が過ぎたクリスマスの頃、いつもより遅く終電間際にレジにやってきたその女性は、お酒が入っているのか頬が赤らんでいました。そして、いそいそと商品をレジ袋に詰めている私に「今日はちょっと気分がいいんです」とつぶやいたのです。驚いた私は返答に迷いましたが、一瞬間をおいて「メリークリスマス」と言いました。女性は「アハ」と笑いながら去っていきました。その女性を店で見かけたのはそれが最後でした(BGM「いつかのメリークリスマス」)。

さあ勇気を出して、しかし気持ちを楽に、始まりの言葉を投げかけていきましょう。

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勝浦 雅彦(かつうら・まさひこ)
電通 コピーライター・クリエーティブディレクター
法政大在学中に、シンボル校舎「ボアソナード・タワー」の命名者になり、学長表彰を受ける。新入社員時代に役員に直訴して、営業からクリエーティブに転局。まったく芽が出ず部署をクビになるが、東京を飛び出し不屈の精神でコピーを書き続ける。ある時「なぜ、人はつながりたいのか」に気づき、運命が好転。約10年間の非正規雇用期間を「言葉」で乗り越え電通入社。15年以上、大学や教育講座の講師を務 め、広告の枠からはみ出したコミュニケーション技術の講義を行い多くの同志とふれあい、TV、雑誌、新聞等にも出演。クリエイター・オブ・ザ・イヤーメダリスト、ADFEST FILM最高賞、Cannes Lionsなど国内外の受賞多数。TCC会員。宣伝会議講師。法政大学特別講師。「つくる人の会(仮)」主催。初著書『 「伝わらない」は当たり前 つながるための言葉』(光文社新書)発売中。

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(電通 コピーライター・クリエーティブディレクター 勝浦 雅彦)

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