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日本生まれの日本育ちで、いまや市場シェア4割…日本で一番売れている炭酸水「ウィルキンソン」の秘密

プレジデントオンライン / 2022年6月24日 12時15分

ペットボトルで発売されたアサヒ飲料の炭酸水「ウィルキンソン タンサン」(2011年6月17日、東京・墨田区の同本社) - 写真=時事通信フォト

炭酸水市場が急拡大している。市場規模はこの5年で2倍近くになった。そんな成長市場で一番売れているブランドが「ウィルキンソン」(アサヒ飲料)だ。輸入ブランドのように思われがちだが、実は「日本生まれ、日本育ち」のブランドだ。なぜ人気ブランドに育ったのか。経済ジャーナリストの高井尚之さんがリポートする――。

■清涼飲料で最も市場が拡大している「炭酸水」

早くも梅雨明けした沖縄地方を除き、「梅雨入り」となった。「今年の夏は暑くなる」という長期予報だが、しばらくはパッとしない天気も多そうだ。

一方で大都市の気温は総じて高く、2021年6月の東京を例にとると、最高気温が25度を超えた日は30日中24日あった。気温が上がれば清涼飲料の需要も高まり、各飲料メーカーにとっては、最需要期の盛夏に向けて注力する時期でもある。

そこで今回は清涼飲料の中で「炭酸水」に焦点を当てたい。近年で最も市場規模が拡大した飲料だからだ。同市場を牽引してきたのが4割強のシェアを持つ「ウィルキンソン」(アサヒ飲料)。1904年の発売以来、118年の歴史を刻むブランドだ。

なぜ、同ブランドの人気は高く、炭酸水への支持は続くのだろうか。メーカーの活動を紹介しながら、それを手にする消費者心理も考えたい。

■この5年で市場規模は539億円→957億円に

「ウィルキンソンは2021年、14年連続で過去最高数量を達成。業界でメガブランドと位置づけられる3000万箱を突破し、『3108万箱』(前年比105%)となりました。好調の要因は、消費者の健康志向や気分転換がより高まったことです。炭酸水はヘルシーでありながら、飲んだ瞬間、のどにダイレクトな刺激がある飲料として、ご評価いただいています」

ウィルキンソンのブランドを担当する、アサヒ飲料の服部真也さん(マーケティング本部マーケティング一部 無糖炭酸・果汁グループ プロデューサー)はこのように説明する。

アサヒ飲料の服部真也さん(マーケティング本部マーケティング一部 無糖炭酸・果汁グループ プロデューサー)
撮影=アサヒ飲料
アサヒ飲料の服部真也さん(マーケティング本部マーケティング一部 無糖炭酸・果汁グループ プロデューサー) - 撮影=アサヒ飲料

近年、競合他社も新商品を投入した結果、店頭の棚が広がった。スーパーの棚で炭酸水の扱いが増えているのを実感した人も多いはずだ。

実は2019年にも「ウィルキンソン」の躍進ぶりを取り上げたことがある。炭酸水の市場規模をその頃と比べると……。

「2021年度には約950億円となっています。この5年で約2倍に拡大しました」

以前から消費者の健康志向は高かった。全国清涼飲料連合会によると、2018年の「無糖飲料製品」の構成比は約49%。その後、炭酸水の市場は急拡大している。

「ウィルキンソン タンサン」「ウィルキンソン タンサン レモン」の「栄養成分表示」(100ml当たり)は、エネルギー、たんぱく質、脂質、糖質、炭水化物、食塩相当量がいずれも「0」となっている。

■定番以外に限定商品を出すワケ

主力商品は、「ウィルキンソン タンサン」(赤ラベル)と「ウィルキンソン タンサン レモン」(青ラベル)だ。これ以外に、さまざまな派生商品を展開するが、赤ラベルの売れ行きが全体の約6割、青ラベルが同2割を占めるという。

「ウィルキンソン タンサン」(赤ラベル)と「ウィルキンソン タンサン レモン」(青ラベル)
「ウィルキンソン タンサン」(赤ラベル)と「ウィルキンソン タンサン レモン」(青ラベル)(写真提供=アサヒ飲料)

「グレープフルーツ味も人気で、定番品以外に4月26日、『ウィルキンソン タンサン クラッシュグレープフルーツ』という商品も発売しました。ウィルキンソンならではの強炭酸に、凍結粉砕果実エキスと果実のフレーバーを組み合わせた商品です。このクラッシュシリーズで、さらにユーザー拡大を図ります」

2021年も、さまざまなフレーバーを限定発売した。たとえば「ウィルキンソン タンサン ウメ」(4月)、「同ピーチ」(7月)、「マスカット」(9月)「ライム」(12月)などだ。反響はどうだったのか。

「特にピーチやマスカットは女性層に人気を呼びました。買われた方の約3割が本体(定番品)を購入されており、Z世代(一般的に1990年代半ば以降に生まれた世代)の反応がよかったのも特徴的でした」(同)

他社の取材で「限定品に興味を持っていただき、定番品に振り向いてもらうのがねらい」というマーケティング戦略を聞いたことがある。ウィルキンソンでもそれがうまくいったようだ。

■コロナ禍の家飲み需要が追い風に

2020年春からのコロナ禍で外出自粛が長引き、さまざまな業界が大打撃を受けたのはご存じのとおり。飲食業もそうだったが、ウィルキンソンには追い風になった。

「外に飲みに行けないので自宅で飲む。ハイボールなどの割り材としての需要が高まったのです。自分でお酒と一緒に割って飲むほか、残った炭酸水を『直飲み』される方もおられます」

もともとウィルキンソンは業務用で、ウイスキーやカクテルなど酒の割材として利用され、ホテルのラウンジやバーなどで需要があった。師匠や先輩から道具や材料を含めて伝統を受け継ぐ、バーテンダーの世界では人気ブランドだったが、ペットボトル飲料として一般向けに発売されて以来、需要が一気に拡大した。

コアなファンに支持されるのが「ウィルキンソン ジンジャエール」だ。他の商品のような透明容器ではなく深緑の容器でパッケージには瓶のイラストの上に「プロのバーテンダーにも愛用されてきた味わいそのまま。」の文字がある。愛飲者からは「おいしいけど刺激が強烈で、むせるほど」(30代の会社員女性)という声も聞いた。

■ビールの代わりに炭酸水という選択肢

今ではさまざまなフレーバーで展開するウィルキンソン。消費者はどんなシーンでどの味を手に取るのだろうか。

「好みによって異なるでしょうが、食事の時によく買われているのが『ウィルキンソン タンサン エクストラ』です。こちらは機能性表示食品で、パッケージに『脂肪や糖の吸収を抑える』を記し、難消化性デキストリンの働きが食物繊維として含まれています」

特に肉系など、こってりした料理との相性がよいようだ。ウィルキンソンを愛飲する理由のひとつに「口の中がさっぱりする」という浄化作用もある。一方で、特に日本の消費者は脂肪分を摂り過ぎた思いを、野菜類や飲料など、何かで調整しようとする傾向が強い。

「赤ラベルの本体は、デスクワークや仕事終わり、スポーツジムに行くときなどにご利用されています。レモンやグレープフルーツなどの柑橘系は、気分を紛らわせる時に飲まれるケースが多いですね」

健康志向で、ビール系からシフトする人も増えたそうだが、興味深い話を聞いた。

「ある男性消費者の方から、『今までビールが好きだと思っていたが、そうではなく“のどごしの刺激”が好きだった』というコメントがありました」

スーパーの陳列棚
筆者撮影
ドラッグストアの陳列棚に並ぶ炭酸水 - 筆者撮影

■実は約120年前に誕生した国産ブランド

ブランドの成り立ちも紹介しておきたい。

「ウィルキンソン」が発売されたのは、1904(明治37)年(当時の商品名は「ウヰルキンソンタンサン」)だが、歴史はその15年前、1889年にさかのぼる。日本に定住していて、国内での商売を考えていた英国人実業家のジョン・クリフォード・ウィルキンソン氏が、狩猟の途中、兵庫県宝塚市の山中で天然の炭酸鉱泉を発見した。

この湧水をロンドンの分析機関に依頼して調査した結果、「良質な鉱泉」という評価を得て、翌年に個人事業として鉱泉の瓶詰生産を行い、天然炭酸鉱泉水を発売した。そして1904年、湧出量の不足を理由に有馬郡塩瀬村(現在の兵庫県西宮市塩瀬町)生瀬へ工場を移転。会社組織にして「ウヰルキンソンタンサン」として発売した。

戦後の1951年に朝日麦酒(現アサヒビール)が同ブランドの販売契約を締結し、ウヰルキンソン社が製造、朝日麦酒が販売となり、1983年から、アサヒビールが商標権を取得して製造販売を始める。ロゴが「ウィルキンソン」に変更されたのは1989年からだ。

前述したように長く業務用商品だったが、2011年4月からペットボトル商品の全国展開を始めると人気に火がつき、今では3000万箱を超えるメガブランドとなった。

■ブランドの価値を高めるためにやっていること

最近、さまざまな商品の価格改定が相次ぐ。「アサヒ飲料10月から値上げへ」と各メディアが報じたのは5月25日のこと。10月1日出荷分から、ウィルキンソンを含む清涼飲料の希望小売価格を約4~16%引き上げる。ブランドとしてどう思うのだろうか。

「まず、ご負担をおかけするのは申し訳なく思います。消費者の好みは多様化していて、『安いほうがよい』という方も、『ウィルキンソンだから少し高くても買う』という方もおられます。とはいえ消費財ですから、価格にシビアなのは理解できます。ブランドとしては、ファンの方との絆を深めて、炭酸水の持つ商品価値をより一層訴求したいと考えています」

【図表1】ウィルキンソンブランド 販売数量推移
アサヒ飲料提供データにより作成

ウィルキンソンは「男性約6割、女性約4割」「コアターゲットは30代と40代の男女で20代も多い」という特徴があり、若者から高齢者まで顧客層の幅を広げてきた。

最近は強炭酸ブームだが、「ウィルキンソンはお客さまが飲む際の炭酸の強さを重視し、生産工場でもガス圧、濾過を重ねた水、水の硬度管理などを徹底的に行っています。日本の炭酸水市場をゼロから開拓してきたウィルキンソンが健康的で刺激的な炭酸水を提供することで、お客さまがカラダもココロもポジティブな毎日を過ごせる、そんなブランドを目指していきたい」と強調する。

各商品の容器ラベルには「磨き抜かれた水と強めの炭酸、100年を超える伝統の強刺激」と明記される。水への安全・安心と強刺激こそがブランドの価値だろう。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)

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