1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 政治

中国軍は最初に日本の米軍基地を爆撃する…米メディアが報じた「中国の台湾侵攻」の悲劇的なシナリオ

プレジデントオンライン / 2022年6月22日 9時15分

中国共産党創立100周年祝賀大会で重要演説を行った習近平国家主席=2021年7月1日、天安門城楼(新華社=中国通信) - 写真=中国通信/時事通信フォト

■米メディアが報じた「台湾有事」の悲劇的シナリオ

中国による台湾侵攻の懸念が高まるなか、悲観的なシナリオがアメリカで報じられている。中国が侵攻に踏み切った場合、日米およびその他のアメリカの同盟国が制止に動いたとしても、制止は不可能だという分析だ。さらに、中国は開戦直後、真っ先に在日米軍基地などを叩くとする予測も出ている。米CNNが、米シンクタンクおよび複数のアナリストによる見解をもとに報じた。

台湾侵攻の現実味は、直近でも改めて浮き彫りになっている。アメリカのバイデン大統領は5月23日の訪日中、台湾有事の際にはアメリカによる軍事介入を実行する意思があると明言した。米ワシントン・ポスト紙は、「(バイデン氏が)台湾へのあらゆる攻撃のおそれに対し、鋭い警告を発した」と報じている。

バイデン氏によるこうした警告は就任以来、今回で3度目となる。米中間の緊張の高まりを懸念するホワイトハウスは今回も含め、都度打ち消しの声明を発表してきた。CNNはこのような経緯を説明したうえで、「しかしながら、必然的にこの疑問が浮かぶ。すなわち、中国が台湾の奪取を試みた場合、アメリカとその同盟国たちは制止する能力をもつのだろうか?」と述べ、実際に侵攻が起きた際に阻止は可能なのかと問題提起している。

同記事はアナリストによる分析をもとに、次のように続けた。「そして、驚くべき答えがこちらだ。おそらく、(アメリカと同盟国による制止は)不可能である」

■米軍を苦しめる「距離の呪縛」

専門家らが懸念しているのは、現実的にアメリカが台湾へどれだけの武力を動員できるかという点だ。CNNは、「中国が保有する兵士・ミサイル・船舶の数は、台湾、あるいはアメリカや日本といった支援国となり得る国が(戦場に)持ち込むことができるこれらの数を上回る」と指摘する。

アメリカおよび同盟国の軍事力を単純に合計すれば、中国の武力に対抗することは難しくない。しかし、中国に近い台湾が戦場となったならば、いかに多くを現地に配備できるかという視点において、中国に一方的に分(ぶ)があると専門家らはみている。このため記事は、「仮に中国がこの島を手に入れようと決意を固めたならば、おそらくそれは可能だ」と論じている。

行進する中国兵
写真=iStock.com/MediaProduction
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MediaProduction

CNNは、ワシントンD.C.に拠点を置くシンクタンク「新アメリカ安全保障センター」が最近行った台湾有事の戦局シミュレーションを取り上げている。この机上分析は、アメリカ空軍が台湾有事の際の航空戦力として、主に約800キロ離れたフィリピンからの出撃に頼らざるを得ないとの前提に立ったものだ。このような見方をするのは、同シンクタンクにとどまらない。

米空軍本部で戦略・統合・要求担当副参謀長を務めるクリントン・ヒノテ中将はCNNに対し、米軍が「距離の呪縛」に直面することになるだろうと認めている。

■台湾海軍の元トップ「われわれに勝機はまったくない」

別の米有力シンクタンクである大西洋評議会も、同様の分析を示している。台湾での軍事衝突は中国にとっての「ホーム戦」、アメリカとその同盟国にとっては「アウェー戦」になるとの指摘だ。

「地理的な形成不利、および長距離の通信体制を埋め合わせるため、多大なリソースが必要となるだろう」と同機構は述べ、アメリカにとって厳しい戦いになるとの見方を示した。

米軍が距離の壁に阻まれれば、当事者国同士の兵力がものをいうことになる。AFP通信は米国防省のデータをもとに、中台間には圧倒的な兵力差が存在すると指摘している。

陸軍兵の数は台湾の9万人弱に対して中国が100万人以上、戦車は800両対6300両、戦闘機は400機対1600機と、4~11倍の開きがある状態だ。台湾海軍の元トップである李喜明元台湾海軍参謀総長はAFP通信に対し、「軍事的な直接対決となれば、われわれに勝機はまったくない」との厳しい認識を示した。

アジア太平洋外交に特化した米シンクタンク「プロジェクト2049研究所」のエリック・リー助手研究員は、米ナショナル・インタレスト誌への寄稿を通じ、台湾側の防衛設計を明かしている。

それによると台湾側は、まずは中国人民解放軍が「壊滅的なミサイル攻撃」を実施し、追って「水陸両面での総力的な侵攻」に出るシナリオを想定している模様だ。台湾側が応戦に使えるミサイルは数日で払底し、中国軍に有利な進軍を許すおそれがある、と氏は指摘している。

■防衛に有利な台湾の地形

ただし、本格的な侵攻となれば、中国側も相当な犠牲の覚悟を強いられる。武力衝突では一般に、攻撃側が防衛側を落とすためには3倍の能力が必要だとされる。中国側としても余裕の制圧とはならず、相当な犠牲を強いられることになるだろう。このため大西洋評議会は、中国が直ちに武力行使に及ぶことはないと分析している。

これに加え、島国・台湾の急峻(きゅうしゅん)な地形が天然の要塞(ようさい)として機能し、中国軍を大いに疲弊させるだろう。

AFPによると、米シンクタンク研究員のイアン・イーストン氏は台湾沿岸部の地形について、「防衛側にとって夢のよう」な形状だと語っている。台湾には上陸に適した海岸がわずか14カ所しかなく、さらにこうしたポイントの多くが山や崖に囲まれ、あるいは防衛に適した都市インフラに近接しているためだ。

台湾の首都台北市の風景
写真=iStock.com/Jui-Chi Chan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jui-Chi Chan

さらにAFPは、米防衛大学のネイバル・ウォー・カレッジによる分析として、大規模な侵攻に適する期間は毎年5~7月と10月の2回しかないと報じている。海峡は最も狭いポイントでも幅130キロほどあり、その特性は半ば外洋にも近い。年2回のモンスーンの時期を含め、季節による荒天の影響を大きく受ける。

また、コンパクトな国土をもつ台湾だが、その地形は湿地帯に山林、そして都市部の人口密集地とさまざまだ。中国軍がこれらの地域で抜かりなく戦闘を展開するためには、複数の地形に対応できるだけの大量の兵器を中国本土から輸送し、さらにそれらを使いこなせる訓練された兵士を輸送することが不可欠だ。弾薬と食糧の供給も問題となるだろう。

戦略国際問題研究所のボニー・リン上級フェローはAFPの取材に対し、「上陸だけが問題ではないのです」「配備され進軍するとなれば、部隊をどうやって維持するのでしょうか。兵站(へいたん)はどうするのでしょうか」と問題を提起し、台湾攻略の難しさを強調した。

■ノルマンディー上陸作戦並みの被害予想も

大西洋評議会はこうした事情を念頭に、「単純にいって中国は、上陸による全面的な台湾侵攻を近い未来に決行できるだけの軍事能力と規模をもたない」と分析している。ただし、射程2000キロ以上におよぶDF-21準中距離弾道ミサイルなどを仮に中国が投入したならば、増援到着までの2日間ほど、台湾は厳しい戦いを強いられるだろうとも指摘している。

いずれにせよ、ひとたび台湾攻撃が発生したならば、両軍への多大な犠牲は避けられそうにない。CNNは「多数のアナリストら」による理解として、台湾侵攻は歴史上悪名高いノルマンディー上陸作戦を超え、「非常に危険かつ入り組んだ」武力衝突になるとの見方を伝えている。

第2次大戦中にアメリカ軍など連合国がドイツ占領下のフランス・ノルマンディー海岸への上陸を目指したノルマンディー上陸作戦は、3カ月という長期にわたり展開し、両軍計約50万人の死者・不明者を出した。仮に台湾への上陸作戦が決行されたならば、台湾のみならず中国側の犠牲者も相当な規模に上る公算だ。

■米軍が現実視する「中国軍による基地攻撃」のリスク

台湾と中国間で高まる緊張は、日本人にとってもひとごとではない。新アメリカ安全保障センターは、最近実施したシミュレーションにおいて、戦闘のごく初期段階において中国側が、在日米軍基地に直接攻撃を仕掛けると見込んでいる。CNNは、「この模擬戦争は、中国軍がグアムや日本などにある近場の米軍基地を叩くことから作戦を開始する展開をシミュレートした」としている。

アメリカ海兵隊の戦闘機
写真=iStock.com/viper-zero
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/viper-zero

在日米軍基地への先制攻撃により、中国は米軍の出撃を遅らせ、台湾攻撃を進める時間を稼ぐことが可能となる。米空軍本部のヒノテ中将はCNNに対し、中国軍が米軍基地に不意打ちを喰(く)らわせるおそれは十分にあるとの認識を示した。中国が保有する各種弾道ミサイルは、少なくとも純粋な射程という観点では、近隣の米軍基地を攻撃する能力を有する。

米軍はこのリスクを、現実のものと受け止めているようだ。グアムのアンダーセン空軍基地が破壊されるという非常事態に備え、代替基地の建設に動き出した。米ワー・ゾーン誌は6月15日、中国が同空軍基地を「壊滅」させた場合に備え、米軍が大規模なバックアップ施設の建設に着手したと報じている。

建設先はグアム本島から北東に約170キロ離れたテニアン島の国際空港の敷地内だ。同誌によると計画は10年前から存在したが、今年5月になって建設が本格化した。

グアム防衛論は、ここ数カ月で盛んに議論されるようになった。米防衛・安全保障専門誌の『ディフェンス・ワン』は5月、「グアムはミサイル防衛の強化を必要としている……早急に」との記事を掲載した。記事は、米軍がグアムに重要な潜水艦施設および大規模な空軍基地を有することを念頭に、「グアムが中国にとって魅力的なターゲットであることは容易に理解できる」と論じている。

日本の米軍基地をグアムと完全に同列に論じることはできないが、少なくとも米軍は有事のシナリオとして、台湾へ到達可能な周辺地域の基地を中国が破壊する危険性を視野に入れているようだ。

■中国共産党紙の編集長は自信「アメリカと台湾を完全に圧倒」

中台間の緊張は高まるばかりだ。米ワシントンD.C.に本部を構える中東報道研究機関は、中国共産党傘下のグローバル・タイムズの胡(こ)錫進(しゃくしん)編集長が5月23日、自身のブログにおいて非常に攻撃的な記事を掲載したと報じている。

問題の記事において胡氏は、「台湾の軍事的支援に固執するならばアメリカは、PLA(中国人民解放軍)との直接衝突という紛れもないリスクに直面することになる」と警告を発した。

胡氏はさらに、「さて、今日の人民解放軍はどうだろうか? わが海軍と空軍の総火力は台湾海峡において、アメリカと台湾の海軍・空軍の火力の合計を完全に圧倒することができる」と述べ、中国側の兵力に大きな自信を示している。

このほか中国側は、冒頭に挙げた訪日中のバイデン氏の発言にも激しく反発している。中国のグローバル・タイムズ紙は6月12日、魏(ぎ)鳳和(ほうわ)国務委員兼国防相が、これまで中国が米国に示したなかでも「最も強い警告」を発したと報じた。

魏氏はシンガポールで行った演説を通じ、「中国は間違いなく統一を実現する」と強調し、中国から台湾を分割しようとする者があれば中国軍は最後まで戦うとも発言している。

■ウクライナ侵攻初期と重なる構図 泥沼化に懸念

大国が小国への侵攻に出る構図は、ロシアによるウクライナ侵攻の泥沼を想起させる。ここ数週間の動きではロシアの優勢が目立つものの、ウクライナ側も当初、ぬかるみの多い領土という地の利を得て善戦した。また、ロシア軍内部に貧弱な兵站ルートなど問題が山積したことで、結果として想定外の長期戦に至っている。

この構図は、中国対台湾にも重なる可能性がある。仮に台湾への武力行使に踏み切った場合、島国・台湾固有の地形に中国軍が足をすくわれる可能性は十分にある。ロシアとは異なり、侵略先との間には台湾海峡が横たわることから、補給にもいっそうの苦闘が予想される。国土を堅守したい台湾側は士気の維持の面でも有利であり、兵士数で上回る中国軍といえど、容易に攻略できるとは限らない。

一方で台湾としても、他国による支援という観点では、ウクライナよりも厳しい事態に直面しかねない。多数の北大西洋条約機構(NATO)加盟国と地続きとなっているウクライナは、隣接諸国からの輸送ルートを確保しやすい状況にある。

反面、海に囲まれ中国ミサイルの射程内に浮かぶ台湾においては、NATOの支援が一定の障壁に阻まれるおそれは否定できない。米軍が「距離の呪縛」に苦しみ、中国側も台湾海峡の攻略に手を焼くとなれば、結果的にロシア・ウクライナ間同様の長期戦へのもつれ込みは必至だ。

中国としても、多大な被害を予期しているとみえる。シンガポールでの演説において中国の魏国防相は、「平和的統一は中国人民の最大の願いである」と述べ、必ずしも武力解決にこだわる姿勢がないと言い添えた。「一つの中国」の固持は既定路線とみられるが、硬軟含めどのような策を繰り出すのか、今後の動向が注目される。

----------

青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

----------

(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください