あなたの口は臭すぎる…そう言われてしまう人は「舌のポジション」を間違えている
プレジデントオンライン / 2022年6月24日 9時15分
※本稿は、長谷川嘉哉『認知症専門医が教える! 脳の老化を止めたければ 歯を守りなさい!』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■歯みがきで出血するのは、歯肉がもろくなったサイン
大人が歯を失う原因の第1位は、むし歯ではなく、歯周病です。
歯を失えば、脳に送られる脳血流が減り、刺激が減って、認知症を引き起こす原因になります。つまり、脳の老化が加速するのです。
それを避けるためには、まずは歯みがきで口の中を清潔にして、歯周病菌を徹底的に減らす必要があります。
歯周病は、歯周病菌の感染によって引き起こされる、口の中の炎症性疾患です。
歯みがきが不十分で、「歯」と「歯肉(歯茎)」の境目の清掃が行き届かない状態でいると、そこに食べカスや歯周病菌を始めとする細菌のかたまりが溜まって、歯肉のふちが炎症を起こして、赤くなったり腫れたり出血したりします。
「歯」と「歯肉」の境目には、通常1~2mm程度の深さの溝があるのですが、歯肉のふちの炎症がひどくなると、この溝がどんどん深くなり、4mm以上の深さになると「歯周ポケット」と呼ばれるようになります。
歯周ポケットが深くなればなるほど、そこに食べカスや細菌のかたまりが溜まりやすくなります。その結果、歯肉の炎症がひどくなります。歯をみがいただけで出血するのは、炎症が悪化して歯肉がもろくなっているからなのです。
やがては歯を支える土台の歯槽骨が溶けて、歯がグラグラと動くようになります。放っておくと、最終的には抜歯をしなければいけなくなるのです。
このように、歯のケアを正しく行わないと、歯周ポケットが深くなり、炎症がどんどんひどくなっていきます。
炎症を引き起こすのが、細菌のかたまりである「プラーク(歯垢)」です。
■プラーク中の細菌数は、肛門よりも多い
プラークは、食事後に口の中に残る食べカスではありません。
口の中で増殖した歯周病菌やむし歯菌などの微生物のかたまりです。
もし今、まわりに誰もいなければ、自分の歯の根元を、爪でこすってみてください。
白っぽいネバネバしたものが取れませんか? これは食べカスではなくプラークです。
もともと、口の中には、100億の細菌がいると言われています。この数は、肛門にいる細菌の数より多いそうで、歯のケアが不十分で口の衛生状態が悪い人の場合は1兆を超えるそうです。
ちなみに、わずか1mgのプラークの中に、多い人ではなんと数兆もの細菌が潜んでいます。これは肛門にいる細菌の数どころではありません。かなり恐ろしい数字ではないでしょうか。
■食後8時間でできるプラークは、24時間で歯石になる
歯周病菌やむし歯菌などの細菌は、口の中の食べカスをエサにして増殖します。食後4~8時間程度でネバネバとした粘液を出すプラークとなりますが、そのまま放置するとさらにすごい勢いで増殖し、約24時間後には石灰化して「歯石」となります。
プラークは日本語では「歯垢(歯の垢)」と言いますが、この「垢」から水気が抜けて、硬い「石」になるわけです。
ネバネバしたプラークは歯みがきで落とすことができますが、硬い歯石は歯みがきではとることができません。
また、歯石の表面は、歯の表面よりザラザラしてひっかかりがあるため、歯よりもずっとプラークが溜まりやすくなります。つまり、歯石が溜まると、より歯周病になりやすくなるのです。
■歯周病が起こす口の中の「ボヤ」が、全身に飛び火する
プラークが溜まって歯周病が進行すると、歯肉が赤く腫れてきます。本来、健康な歯肉というのはピンク色をしているのですが、歯周病患者の歯肉はいつも真っ赤です。
これは、歯肉に軽度の炎症――つまり「ボヤ」――が常にあるということです。
ボヤを消さずに放置したら、どうなるでしょう? 当然、さまざまなところに飛び火しますよね。
人間の体内でも、同じことが言えます。口の中のボヤが脳に飛び火すれば認知症に、心臓に飛び火すれば心筋梗塞を引き起こします。
ですから、歯周病予防のために、歯石になる前に、プラークを落とす歯みがきをする必要があるのです。
■歯周病患者の口臭は、法規制レベル
初期段階では自覚症状に乏しい歯周病ですが、ある程度進行すると、いくつかの特徴が現れるようになります。そのひとつが「口臭」です。
歯周病を発症している人は、その口から、腐敗臭がします。これは「メチルメルカプタン」という原因物質が放つニオイです。
口の中から、生臭いような、魚や野菜が腐ったようなニオイがしていたら、歯周病を発症している可能性があります。
このメチルメルカプタンは、卵の腐ったようなにおいとされる硫化水素よりも、さらに臭気が強烈で、環境省が定めている「大気汚染防止法」「悪臭防止法」でも規制されているほどです。
■「おじいちゃん、お口くさい」の8割は歯周病
強すぎる口臭は、人間関係にまで影響を及ぼすことがあります。
かつて「おじいちゃん、お口くさい!」という入れ歯洗浄剤のテレビCMがあったのを覚えていますか? あのCMでは、口臭の原因は入れ歯の汚れであると設定されていました。
実際のところ、「口臭」には、食べたものだったり、ホルモンの変化だったり、内臓疾患だったりとさまざまな原因があります。ですが、原因の8割は歯周病によるものだというデータもあります。
高齢者の口臭というのは、入れ歯のせいでも加齢臭でもなく、歯周病に原因がある可能性は非常に高いと思います。
私のクリニックの84歳の男性患者、Eさんのお孫さんは、以前はEさんと一緒に車に乗るのを嫌がっていました。車内にこもるEさんのニオイがとても不快だったそうです。
加齢臭だと思ってあきらめていたそうですが、Eさんが月1回、歯科衛生士さんによるケアを受けるようになると、このニオイはすっかりなくなりました。加齢臭だと思っていたものも、実は口臭だったのです。今ではお孫さんが、Eさんとの同乗を嫌がることはなくなりました。
■医療現場で気づいた「口臭=寝たきりのニオイ」という事実
ちなみに、私のクリニックでは、開業当初から、訪問診療も行っています。
その際は、業務提携している歯科衛生士さんにも必ず入ってもらってきました。
ところで、寝たきりの認知症患者さんがいるお宅には、決まって独特のニオイがあるのをご存じですか?
ご家族の方が頑張って、患者さんの排泄物を始末して部屋を清潔にしても、患者さんの体を洗っても、なぜかこのニオイだけは消えません。
けれど、歯科衛生士さんが患者さんの口腔ケアを行うと、このニオイがたちどころに消えました。
つまり、寝たきりの患者さん特有のニオイとは、「口臭」だったのです。
実はこの、「口臭=寝たきりのニオイ」という気づきが、私が「歯」と「脳」の関連性を意識するようになったきっかけでした。
前述したとおり、「口臭」の原因の8割は歯周病によるものと言われています。
その後、色々な医療データを調べていくうちに、「口臭=寝たきりのニオイ」という訪問診療の現場で得た感触が、本当に正しかったことがわかりました。
■舌ポジションが間違っていると、口腔内細菌が増えやすくなる
歯周病を予防するには、歯のケアをしっかりすることです。その前に、まずは皆さんに確認していただきたいことがあります。
あなたの「舌先」は今、口の中のどこに触れていますか?
上あごのあたりでしょうか?
あるいは、前歯の裏に当たっている?
それとも、舌先はどこにも触れず、口腔内の中ほどにある状態でしょうか?
実は、「舌の置き場所」には、正しい位置があります。
この置き場所が間違っているだけで、歯周病菌やむし歯菌が増えやすくなるのです。その結果、脳の老化が加速する可能性があります。
■正しい舌ポジションとは
舌先は、図表2のように、上あごの「スポット」と呼ばれる少しへこんだ場所にすっぽりとおさまっているのが、本来の正しい位置です。前歯にギリギリくっつかない、歯の付け根(歯茎)あたりになります。
このとき舌全体は、吸盤のようにぴったりと上あごにくっついています。何もしていないときや、何かを飲み込むときには、このポジションに舌がくるのが、本来の正しい状態なのです。大切なポイントは、舌先だけでなく、舌全体が上にくっついていることです。
乳児は母親のお乳を飲むために、舌で乳首を上あごに押し当てしごいて飲みます。
この舌の位置が、人間の正しい舌ポジションです。このとき私たちは、口から栄養をとること、同時に、鼻で呼吸をすることを覚えるのです。
しかしながら、成人でこれができている人は50%程度だと言われていて、多くの人は舌先が前歯の裏側に当たっている状態です。
このように、舌の位置が本来の位置より下がっている人は、舌の横に波型の歯の跡がついていることが多いようです。
舌の位置がさらに下がっていると、舌先は口腔内のどこにも触れなくなります。
■「口呼吸」が口腔内細菌を大増殖させる
ところで、なぜ舌の位置が正しい位置にないと、口腔内の細菌が増えるのでしょう?
それは、舌ポジションが本来の位置からずれると、口がぽかんと開いた状態になり、「口呼吸」になってしまうからです。
口呼吸を続けていると、口の中が乾燥しやすくなります。乾燥すると、食べカスが歯にこびりついて落ちにくくなり、それをエサにして口腔内細菌がたちまち増殖します。
口呼吸をする人の口臭が強くなるのはこのためです。こうして増えた口腔内細菌が歯周病などを引き起こし、私たちの脳の老化を加速します。
私たち人間は本来、「鼻」で呼吸をする生き物です。
ヒトは乳児のときに、「口」から栄養を摂取すること、そして「鼻」で呼吸をすることを学びます。「口」は栄養を摂取する器官、「鼻」は呼吸をする器官なのです。
呼吸をするための器官である「鼻」には、外気から体を守るための機能が備わっています。例えば、鼻毛や鼻粘膜に生えた線毛などにより、ホコリ、細菌、ウイルス、カビなどをブロックする「空気清浄器機能」。
空気を湿らせて免疫機能を高める「加湿器機能」(鼻の「空気清浄器機能」をすり抜けて外から侵入してきたウイルス等の多くは湿気を嫌います)。さらに、外から入ってきた空気を暖める「エアコン機能」。暖かい空気を肺に送ることで肺の免疫力を高めます。
私たちが1日に吸う空気の量は1万リットル以上。呼吸回数は2万回以上になります。これだけの空気を外から体に取り込んでも健康でいるためには、こうした「鼻」の防御機能が不可欠なのです。
一方、栄養を摂取する器官である「口」には、こうした機能がほとんど備わっていません。そのため、「口呼吸」をすると、無濾過のホコリ、細菌、ウイルス、カビなどをそのまま体内に取り込むことになります。
それと同時に、口内の乾燥が起こり、結果、口腔内細菌が大増殖するのです。
■前頭葉に負荷をかけ、認知症リスクを高める「口呼吸」
さらに近年、「呼吸」と「脳」の関係について、興味深いことが指摘されるようになりました。
2013年に発表された歯科医師である佐野真弘氏などの共同研究の結果から、習慣的に口呼吸をしている人は、鼻呼吸の人に比べて、脳の前頭葉の活動が休まらず慢性的な疲労状態に陥りやすくなることが明らかになったのです。
口呼吸を続けると、前頭葉に負荷がかかって、睡眠障害や注意力の低下が起こり、最終的には、学習能力や仕事の効率を低下させると考えられています。口呼吸が前頭葉の機能低下を引き起こすのです。
口呼吸による前頭葉の機能低下は、認知症につながります。通常、認知症における脳の機能低下は前頭葉から始まって、側頭葉機能の低下を招きます。
現在、日本の認知症患者は462万人いるとされていますが、その前段階の「前頭葉機能低下(早期認知症)」と診断されている方はさらに400万人いると推定されています。つまり、口呼吸を続けていると、認知症予備軍になる可能性が高いのです。
口呼吸が慢性化すると、歯周病菌が増えて認知症リスクが高まりますが、それだけでなく、前頭葉機能の低下を介して脳の老化が加速することもあります。
■舌ポジションを正せば「鼻呼吸」になり、口腔内細菌が増えない
では、「口呼吸」をやめ、「鼻呼吸」に戻すには、どうすればよいのでしょう?
ずれている舌の位置を、本来の位置に戻す。
たったこれだけでいいのです。
舌先が正しい位置に収まると、自然と鼻呼吸になります。口呼吸になっている人は、舌ポジションを正してみてください。自然と唇が閉じ、鼻で呼吸をしていることがわかるはずです。
日ごろから意識して、舌の位置に気を付けるだけで、舌ポジションは本来の位置に収まるよう、自然と改善されていきます。
とはいえ、正しい舌ポジションが習慣になるまでは、気づけば鼻呼吸に戻っている……ということも多いでしょう。
この場合、例えば、パソコンやトイレの壁などの目につきやすい場所にシールを貼っておきます。そのシールを見たとき、自分の舌ポジションを意識するようにするのです。
私は、クリニックの外来のパソコンにシールを貼っていて、シールが目に入ると、意識して正しい舌の位置をキープするようにしています。
1日に何度か舌ポジションを意識する。それをしばらく続けるだけで、舌ポジションは正しい位置に戻り、口腔内細菌の異常な増殖に歯止めをかけることができます。
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脳神経内科医、認知症の専門医
1966年、名古屋市生まれ。名古屋市立大学医学部卒業。医学博士、日本神経学会専門医、日本内科学会専門医、日本老年医学会専門医。祖父が認知症であった経験から2000年に、認知症専門外来および在宅医療のためのクリニックを岐阜県土岐市に開業。認知症専門医として毎月1000人の認知症患者を診察している。する、日本有数の脳神経内科、認知症の専門医。祖父が認知症であった経験から2000年に、認知症専門外来および在宅医療のためのクリニックを岐阜県土岐市に開業。これまでに、20万人以上の認知症患者を診てきて、いち早く認知症と歯と口腔環境の関連性に気づく。現在、訪問診療の際には、積極的に歯科医・歯科衛生士による口腔ケアを導入している。さらに自らのクリニックにも歯科衛生士を常勤させるなどし、認知症の改善、予防を行い、成果を挙げている。「医科歯科連携」の第一人者として、各界から注目を集めるている医師である。
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(脳神経内科医、認知症の専門医 長谷川 嘉哉)
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