「理屈はいいから、早くやって」職場のやる気をみるみる失わせるダメなリーダーの"3つの口癖"
プレジデントオンライン / 2022年6月28日 10時15分
※本稿は、松岡保昌『こうして社員は、やる気を失っていく』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
■やる気に水を差す「いつものとおりやっといて」
パターン1:「いつも、こうしているから」 ~惰性型上司~
当初は全国の支社から参加できるためオンラインでの開催を考えていたが、対面を希望する声も少なからずあったことから、せっかくなのでオンラインとリアルのハイブリッドや、単なる表彰だけでなく、講師を招いてのセミナーやクイズ形式で全員が楽しめるような企画など、少し工夫できないかと考えた。
上司に、さりげなくそう伝えてみたが、「いらない、いらない。いつも、こうしていて、とくに不満も出ていないからさ。いつものとおりやっておいて。そのほうが失敗することもないし、大変じゃないでしょ」と一蹴されてしまった。
部下にしてみれば、そのような「誰でもいい仕事」を自分がやらされているのかと残念な気持ちになります。また、誰もが「仕事は大変ではなくラクなほうがいい」と思っているわけではありません。このような指示は、せっかく価値ある仕事をしようというメンバーのやる気に水を差す結果になってしまうのです。
■「ルールで決まっているから」という一点張り
パターン2:「それは禁止。ルールだから」 ~問答無用型上司~
上司に相談したところ、「あ、ダメだな。それは禁止されているから、受けられないな。今までのやり方で対応できるように説得して」と言われてしまった。
それでは顧客の要望に応えられそうもないので、なんとかならないか食い下がったものの、「ルールだから」の一点張り。
ルールはもちろん大事です。しかし、なぜそのルールが必要なのか、どういう観点でそのルールが大切なのか、本質がしっかり伝わらないと部下は納得がいきません。
■部下の向上心をそぐ「言われたとおりにやって」
パターン3:「理屈はいいから、早くやって」 ~思考停止型上司~
そこで上司に、「ここはどうしてこうしているんですか? もっとこんなやり方も考えられるのではないですか?」などいくつかの疑問をぶつける。
しかし、上司は「あ、それね。僕が8年前に外部のコンサルの人と一緒につくったものなの。ちゃんと効果も出ているから問題ないよ。君はそのとおりにやってくれれば大丈夫だから。理屈はいいから、早くやって」と取りつく島もない。
これでは、中途入社者が自身の経験を活かし、より良い仕事をしたいと思う気持ちをそぐことになってしまいます。また、上司の「自分の言うとおりにやっていればいい」といったおごりも感じられ、部下を尊重していない姿勢が伝わってしまいます。
■同じ作業でも社会的価値を知ればやりがいを感じられる
「仕事の目的」とは、その仕事の最終的なゴールです。今やっている仕事が1つのバトンだとすれば、そのバトンは、誰にわたり、どのような経路で、最終的に世の中とどのようにつながっているのかを実感できるということです。つまり、「社会的価値」の理解です。
わけもわからず畑に水を撒いている人よりも、自分が撒いた水で美味しい野菜が育ち、その野菜がレストランに運ばれ、一流のシェフの手にかかり美味しい料理になる。その料理が、食卓を彩り、それを食べる人たちが喜んでくれて幸せになる。
このことを知っている人のほうが、たとえ同じ作業であったとしても、「やりがい」を感じるはずです。仕事のとらえ方ひとつで、仕事の価値は大きく変わり、仕事への取り組み姿勢まで変わるのです。
多くの企業が理念や、ミッション、ビジョンなどを重視するのも、そのような価値観の共有が重要だからです。社外へのメッセージだけではなく、社内に向けて「会社の社会的意味」「ここで働く意義」「大切にする価値観」などをしっかりと伝えることが、従業員の仕事への「やりがい」につながるのです。
■部下に仕事の背景や意義を伝えることこそが上司の仕事
「部下がやる気を失う上司の言葉」3つのパターンは、いずれも「その仕事をなぜやるのか、どうしてそういう手段を取るのか」などの仕事の本質を考えたり伝えたりすることをいっさい行っていないケースです。
仕事のとらえ方でやりがいが変わる有名なたとえ話に「3人のレンガ職人」の話があります。
「何をしているのか?」と問われたのに対し、レンガ職人の1人は「見てのとおり、レンガを積んでいる。キツくて大変な仕事だ」と不平をこぼした。1人は「大きな壁をつくっている。これで家族を養えるのでありがたい」と答えた。もう1人は「歴史に残る大聖堂をつくっている。多くの人のためになる素晴らしい仕事だ」と目を輝かせたというものです。
「レンガを積む」という同じ行為も、その意味や意義、目的を理解するとまったく異なるものになるというものです。
3人目の認識のように、上司がすべきは部下に仕事の背景や意味・意義、めざすべき価値観などをしっかり伝え、共有することです。本質を理解すると、部下は指示されるまでもなく率先して最適な行動をとるようになり、創意工夫が生まれます。
たとえば、「クレド」を大切にすることで有名な外資系高級ホテルでは、各自の状況判断で、時には宿泊客の忘れ物を空港までタクシーで届けるというエピソードもよく知られています。そのような対応を可能にしているのは、自分の裁量で使える金額の基準があると同時に、自分たちのサービスに対する価値観や判断基準が強烈に共有されているからです。
■常に原点に立ち返ることで会社は進化していく
価値観の共有に欠かせないのが、「ゼロベースシンキング(本質追求)」です。現状ある価値観や判断基準を伝えるだけでなく、同時にそれまでの常識を疑い、あらゆることを「ゼロベース」で考えることで会社は進化します。
そのためには、とくに他部署から異動してきたり、中途入社や新入社員などの、これまでの常識を知らない人の、新しい視点は大切にすべきものです。「どうしてですか?」「これはなぜ必要ですか?」などの素朴な疑問は、あらためて本質を問うきっかけになります。
常に原点に立ち返り、「ゼロベースシンキング」を習慣化することで、共有すべき価値観や判断基準を風化させることなく、進化させることができるのです。
また、価値観や判断基準を理解するだけでなく、「ゼロベースシンキング」が習慣化すると、自分の日常の仕事についても見直したり、その仕事の意義や価値についても考えるようになります。
自分の仕事が誰からバトンを受け取り、誰に渡っていくのかなど、仕事の影響の範囲やその大きさを理解することにもつながります。つまり、仕事の全体像を理解して仕事をするようになるのです。
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経営コンサルタント
1963年生まれ。同志社大学経済学部卒業後、リクルートに入社。2000年にファーストリテイリングにて、執行役員人事総務部長として当時の急成長を人事戦略面から支える。現在は、経営、人事、マーケティングのコンサルティング企業であるモチベーションジャパンを創業し、同社代表取締役社長。著書に『人間心理を徹底的に考え抜いた「強い会社」に変わる仕組み』(日本実業出版社)がある。
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(経営コンサルタント 松岡 保昌)
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