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3時間も話す公式チャンネルはランク外…ひろゆきの発言が「切り抜き動画」でしか注目されないワケ

プレジデントオンライン / 2022年6月24日 18時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/golubovy

YouTubeやSNSで「切り抜き動画」が人気を集めている。成蹊大学客員教授の高橋曉子さんは「時間効率を求める若者たちにとって、動画コンテンツは切り抜き動画や倍速で視聴するのが当たり前の時代になっている」という――。

■切り抜き動画トップ20の半数を占める「ひろゆき」

「50分のドラマは5分、1時間半の映画も10分で見る。あらすじさえ分かればいいから」。このような若者が増えている。「動画を短時間で効率よく見たい」というのは、多くの若者たちに共通する感覚だ。

若者たちは、ドラマや映画、YouTube動画をフルサイズではない状態で視聴している。その一つが「切り抜き動画」だ。切り抜き動画とは、公開されているYouTubeの動画を再編集して投稿した動画のこと。YouTube動画の中で要点のみを効率よく見られるため、人気となっている。

特に人気が高いのは、ひろゆきの切り抜き動画だ。2021年切り抜き動画チャンネルのランキングトップ20(BitStar調査)のうち、半分はひろゆき関連となっている。公式チャンネルの「ひろゆき, hiroyuki」は主に1~3時間の動画をライブ配信しているが、切り抜き動画ではテロップをつけるなどして5~20分程度で紹介している。

中でも1位の「ひろゆきの部屋【ひろゆき, hiroyuki】切り抜き」(2021年1月開設)はチャンネル総再生ランキングでも10位に入っており、ランク外の公式チャンネルよりも多く見られている。

2022年6月現在の総再生回数は8億5000万回。BitStarのランキングによると、2021年1~12月の総再生回数は5億5000万回だったので、この半年で総再生回数は3億回以上増えている。すごい勢いだ。一方、2016年に開設した公式チャンネルの総再生回数は1億4000万回である。

■有名YouTuberやVTuberが切り抜きを許可するワケ

切り抜き動画は、元となる動画の投稿者に許可を得て、編集して作成する。収益は多くの場合、元の動画の作成者と投稿者で分けられる。切り抜き動画が増えれば増えるほど元の動画の再生数も増え、チャンネル登録者数も増えていく相乗効果が期待できるのだ。

一定のルールを設けた上で、切り抜き動画を許可するチャンネルも増えている。ひろゆきの他、ヒカルやホリエモン、中田敦彦や西野亮廣など、著名チャンネルが並ぶ。VTuberの切り抜き動画も人気ジャンルだ。ガジェット通信クリエイターネットワークなど、切り抜き動画を許可しているチャンネルの申請に関連するサポートを行っているところもある。

なお、権利者の許諾を得ないで作成した切り抜き動画は著作権法違反に当たる可能性があり、権利者の申請によって削除されることもあるので注意が必要だ。

ひろゆきの切り抜き動画を作りたいと考えた場合、「ひろゆきデータベース」で動画を検索し、自由に作成できる。収益の分配に関しては収益化できるようになってから連絡すればよく、ひろゆき本人と切り抜き動画作成者との収益配分率は50:50。つまり自由に切り抜き動画を作成できる環境が整っており、その効果でさらに人気が高まっているというわけだ。

■YouTubeショートやTikTokでさらに拡大

このように、切り抜き動画が流行している理由は、収益につなげやすいことが大きい。作成者にとっては編集するだけで収益が得られ、元の動画投稿者にとってもチャンネルの宣伝になり収益も手に入るので、お互いにメリットが大きいのだ。切り抜き動画は関連動画としてレコメンドされるため既に人気ジャンルとなっており、ある程度の再生数が期待できることも始めやすい理由だ。

なお、そもそも切り抜き動画が成立するのはYouTubeだけだ。「Content ID」という著作物を検出する仕組みが実装されており、著作権者が収益を得られる仕組みがある。これはYouTubeにアップロードされた動画のみが対象で、他のプラットフォーム上に投稿された動画の切り抜きは著作権侵害に当たるリスクがある。

また、YouTubeショートやTikTokなど、YouTubeの切り抜き動画を見られる環境が整っていることも大きいだろう。YouTubeショートは60秒までの短い動画が投稿できる機能だ。不特定多数のユーザーにリーチするため、投稿することでチャンネルや動画を知ってもらいやすくなる効果がある。

最大10分の動画を投稿できるTikTokでも、切り抜き動画は人気のジャンルだ。「#切り抜き動画」は5億9000万回、「#切り抜き」は4億回再生されており、ここで切り抜き動画を見るユーザーも多い。

切り抜き動画はメリットばかりのようだが、悪意を持って恣意(しい)的に編集されたり、本来の意図と異なる不適切なテロップがつけられたりして、ブランドを毀損(きそん)されるリスクもある。見る側もそういったリスクを理解し、誤情報にだまされないよう注意が必要だ。

■20代男性の5割以上が「倍速視聴」経験あり

若者が効率よく動画コンテンツを見たい時に利用するもう一つの方法が、再生速度を1.5倍や2倍にする「倍速視聴」だ。

クロス・マーケティングの「動画の倍速視聴に関する調査」(2021年3月)によると、動画の倍速視聴について「経験あり」という回答は全体では3割に。特に20代は他の年代に比べて倍速視聴経験者の割合が高く、特に20代男性は54.5%と、半数以上が動画コンテンツを倍速で視聴したことがあった。若者において、倍速視聴はもう当たり前なのだ。

スマホで動画を視聴する女性
写真=iStock.com/oatawa
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oatawa

倍速視聴したいコンテンツは、「ドラマ」「ニュース・報道」「バラエティー」「映画」「YouTuberの企画動画」など幅広い。地上波のリアルタイム放送だけではこうした需要に応えられないため、テレビ各局はネットでの番組配信サービスにも力を入れている。

動画コンテンツを倍速で視聴することに対する意識は、20代女性では「自分の好きな速度で見られるので、自由度が上がると思う(38.2%)」がトップだった。一方、60代男性では「テンポが速すぎて内容がよく理解できないと思う(36.4%)」「倍速だと動画の世界観が損なわれると思う(20.9%)」が多く、ネガティブな回答が多くみられた。

「動画は見るのに時間がかかりすぎる。間とか要らないので、とりあえずあらすじだけ教えてほしい」と、ある大学生は言う。彼の基本の再生スピードは1.5倍だ。「慣れているし、別に速いと思わない。むしろ元のスピードで見るほうがイライラして苦痛」。

見ているうちに、他のことをしたくなって気が散ってしまうことが多いそうだ。「この時間があればあと何ができるか」といつも考えてしまうという。倍速視聴だけでなく、「10秒飛ばし」を使って気になるところのみ見ていくというやり方もとっているそうだ。

■違法な「ファスト映画」の被害額は950億円超

効率よく動画コンテンツを見るために人気となった方法の中には違法のものもある。「ファスト映画」をご存じだろうか。切り抜き動画と同様、映画を10分程度の長さに編集してあらすじがわかるようにした動画だ。映画の映像や静止画を使用し、字幕やナレーションを付けて作成されている。

切り抜き動画との大きな違いは、無断で公開しており、著作権侵害と営業妨害をしている点だ。ファスト映画はコロナ禍の巣ごもり需要で増えており、『シン・ゴジラ』『進撃の巨人』『スパイダーマン』など、多くの作品が被害に遭っている。投稿される場は、やはりYouTubeだ。

著作権を持つ映画会社などの団体であるコンテンツ海外流通促進機構(CODA)が調査したところ、2021年時点で少なくとも55のアカウントから2100本余りの動画が投稿されており、本編が見られなくなることによる被害は950億円以上という。

■被害者の大手映画会社は損害賠償訴訟に踏み切った

感想や論評のために一部を引用的に使用するなら問題ないが、ファスト映画は無断で映像や静止画を使用し、ほとんどのストーリーを明らかにして作成されているため、著作権法違反に当たる。

2021年6月には、男女3人がファスト映画をYouTubeに公開したとして全国で初めて摘発され、著作権法違反で有罪が確定。動画は無料で閲覧でき、1000万回以上再生されて約700万円の広告収入を得ていた。

これに対し、大手映画会社など13社が総額5億円の損害賠償を求める訴えを起こしている。映画会社側は再生数1回あたりの損害額を200円と判断し、合計で20億円相当の被害があったとしており、5億円はその一部にあたる。

なお弁護団によると、200円という損害額は1週間のオンラインストリーミングで権利者が受け取る金額を基に算出したものだ。YouTubeの映画レンタルサービスの利用料は400円前後であり、30%のプラットフォーム手数料を引き、映画全編が公開されているわけではないための金額という。

■どうでもいい動画は片手間で、本当に好きな動画はじっくりと

「(切り抜き動画や倍速視聴で見るのは)あらすじだけ押さえればいい動画。好きとか見たいとかじゃなくて、話題についていければいいから」と先ほどの大学生は話す。彼は、そのような動画をスマホの小さな画面で片手間に見る。「全部倍速なわけじゃない。好きな声優のYouTubeはPCとか大きな画面でゆっくり楽しんで見る」。

無料のYouTubeやTVer、TikTok、定額制のAmazonプライム、Netflix、Huluなど、現代は動画コンテンツにあふれている時代だ。若者たちは忙しく、いつも時間に追われている。時間はコストであり、時間に関しても効率の良さ、つまりタイムパフォーマンスの良さを重視する傾向にあるのだ。

スマホに表示されたストリーミングアプリのアイコン各種
写真=iStock.com/egadolfo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/egadolfo

無料であらすじのわかる「切り抜き動画」や「ファスト映画」は、お金的にも時間的にも最高のパフォーマンスというわけだ。

ただし、若者はすべて「切り抜き動画」や「倍速視聴」で見るわけではなく、前述のように好きなものはゆっくり楽しんでいる。「切り抜き動画」で気に入った動画は元の動画を見るし、「ファスト映画」で気になった動画をレンタルして全編を見たこともあるという。

その大学生は「(ファスト映画は)別に全編見られるわけじゃないし、違法じゃないですよね?」と疑いもしない様子だったが、実際は著作権法違反であるのは前述のとおりだ。切り抜き動画を見すぎて、ファスト映画にも違和感を持たなくなっているのであれば問題だ。積極的な啓発活動や学校でのリテラシー教育が求められるだろう。

これほど動画を短時間で消費する方法があふれている今、等倍かつフルサイズで見てほしいというのは、ある意味、作り手側の都合にすぎないのかもしれない。フルサイズを見てほしいなら、見たくさせるような動画を作る必要があるのではないか。

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高橋 暁子(たかはし・あきこ)
成蹊大学客員教授
ITジャーナリスト。書籍、雑誌、webメディアなどの記事の執筆、講演などを手掛ける。SNSや情報リテラシー、ICT教育などに詳しい。著書に『ソーシャルメディア中毒』『できるゼロからはじめるLINE超入門』ほか多数。「あさイチ」「クローズアップ現代+」などテレビ出演多数。元小学校教員。

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(成蹊大学客員教授 高橋 暁子)

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