「若者の恋愛離れ、セックス離れ」はウソである…「20代の4割がデート経験なし」の本当の意味
プレジデントオンライン / 2022年6月25日 11時15分
■「最近の男はだらしがない」と言いたいだけの中年男性
先ごろ大きな話題となった「20代の若者のデート経験なし4割」という内閣府「令和4年版男女共同参画白書」を基にしたニュース。テレビでは、いつものように、中年男性たちの街頭インタビューで、「最近の男はだらしがないね」などとお決まりのフレーズが流れていましたが、本当にそうでしょうか。
実際に「最近の若者だけがデートや恋愛をしなくなったわけではない」ということは統計上明らかで、繰り返し私が言ってきたように「いつの時代も恋愛しているのはせいぜい3割程度」という「恋愛強者3割の法則」があります。
今回の内閣府の調査でも、20代男性の「配偶者・恋人のいない割合が65.8%にもなった」と大騒ぎしているのですが、そもそも20代男性の未婚率は86%であり、未婚者全体を100とすれば恋人のいない未婚男性割合は約76%となります。つまり、恋人のいる恋愛強者率は24%ということで、きっちり3割内の範疇に収まります。
■今も昔も恋人がいる率は3割しかいない
かつて、<独身が増え続ける原因を「若者の恋愛離れ」にしたがるメディアの大ウソ>という記事でもご紹介したように、1982年以降の出生動向基本調査による長期推移を見ると、婚約者・恋人がいる率(18~34歳)はおおむね男性20%台、女性30%台で推移しており、若者の「恋人がいる率」は3割前後で変わりません。そもそも、40年間で彼女や彼氏のいる率というのは大体3割程度なものです。念のためグラフを再掲します。
そもそもこのデート率のニュースの元になった内閣府の白書の当該ページ(P51 特-38図 これまでの恋人の人数・デートした人数)のグラフを見ると、確かに20代独身男性のデート経験なしは4割なのですが、あわせて20代既婚男性のデート経験なし率も1割あると書いてあります。これはどういうことでしょう? これら調査対象の既婚者は、一度もデートしたことなく結婚した人が1割もいるということでしょうか。
■事実に反する偏見と思い込みで語っていないか
もちろん、これは回答者が質問の意図を理解していない場合や、そもそもいい加減な回答をする人(どの質問に対しても最初の回答項目だけを選択するなど)も一定数存在するので、そうしたデータがあがってくることは調査ではよくあることです。
しかし、分析や公表するにあたっては、それらを精査調整するのが当然だと思うわけですが、そうした統計の取り扱いの雑さが見えてしまうと、独身者の結果ですら何かしらの誤差や恣意(しい)性を含んでいるのではないかと勘繰りたくなってしまいます。
それはともかく、大人たちはとかく自分たちの若い時のことはすっかり忘れて「若者の恋愛離れ」「若者のセックス離れ」などと騒ぎ立てます。お決まりの「イマドキの若いモンは……」と結びつけて納得したがるのは、古代のエジプト文明時代の壁画にも書いてあったように繰り返されるお話です。
しかし、冷静にデータを見れば、「若者の○○離れ」と言われるものの大抵は、事実に反する偏見と誤解による思い込みであることが分かります。
若者の草食化としてよく引き合いに出される「若者のセックス離れ」についても同様です。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の出生動向基本調査に基づき、1987年からの未婚男女の性体験無し率(年齢別)の推移をグラフにしてみました。
■「25歳まで性体験なし」男性はずっと童貞のまま?
これを見ると、どうやら男女とも2005年に若者の性体験率がピークを迎え、その後、各年代揃(そろ)って減少しているように見えます。「若者のセックス離れ」と言いたい人たちは、この2005年を始点とした推移だけを切り取って「ほら、こんなにも減っている」と主張するわけですが、もっと俯瞰してみれば、違う景色が見えてきます。それ以前の90年代、80年代までさかのぼれば、むしろ2005年の数字のほうが異常値であって、現在は通常の状態に戻りつつあると解釈するのが妥当ではないかと思います。
むしろ着目すべきは、25歳以上の男性の童貞率の推移です。1987年から2015年まで童貞率はほぼ20~30%の割合で一定で変わっていないことです。これは、つまり、25歳まで童貞だった男性は、その後もそのまま童貞であり続ける可能性が高いということです。これは、「恋愛強者3割の法則」と対照的に、いつの時代も「恋愛最弱者3割の法則」とでも言えるでしょう。
■バブル期→2005年にかけ「処女率が半減」の謎
一方、女性を見ると、1987年、バブル真っ最中での20~24歳女性の64%以上が処女だったのに対して、2005年には処女率36%とほぼ半減に近い状態になった変化が際立っています。
80年代後半から2005年までの間に、一体何があったのでしょう。1980年代中ごろ、バブルの好景気という日本全体を覆い尽くした熱気を反映したように、平成の恋愛至上主義と呼ばれる時代が到来しました。
クリスマスイブはカップルがデートするという文化は実はその頃に誕生したものです。高級レストランで食事を、半年前からシティホテルを予約し、男性は高価なプレゼントを贈るものというデートフォーマットを完成させたのは、雑誌『an・an』(アン・アン)だと言われています。90年代のテレビドラマは、「東京ラブストーリー」「101回目のプロポーズ」「ロングバケーション」等、恋愛系ドラマが次々と大ヒットしました。
もうひとつ若者の恋愛に必須なツールがこの頃一般化しました。携帯電話です。特に親元に住む学生など若い男女にとって、親の目を気にすることなく、相手と長電話できる携帯電話は若者の行動を大きく活発化させました。
■40年前と変わらないのになぜ婚姻数は減っているのか
同時に、当時は元祖SNSともいわれるケータイサイト「前略プロフィール(通称「前略プロフ」)」が流行し、出会い系や援助交際のツールとしても使われる等、2000~2005年当時は、逆に「若者の性の乱れ」が問題視されていたことも事実です。2005年頃、若者の恋愛やセックスが増えても、婚姻は増えなかったというのはなんという皮肉でしょう。
さて、ここでひとつ疑問が生まれます。40年前の若者の恋愛率も性体験率も今と変わらないのだとしたら、昨今の未婚化や婚姻減少はどういうことなのだろうか、と。
確かに、1980年代までは、日本は男女とも生涯未婚率5%未満のほぼ全員が結婚する皆婚社会でした。しかし、この皆婚社会を実現したのは、若者本人たちの意志や価値観ではなく、社会的な結婚お膳立てシステムといわれる「お見合い」によるところが大きかったからです。
出生動向基本調査における、初婚の夫婦の結婚のきっかけ推移をみると、戦前は約7割の結婚がお見合いによって成立していました。その後、徐々にお見合い結婚比率は衰退し、1965年あたりで恋愛結婚と並びます。注目していただきたいのは、1980年代後半に、お見合い結婚比率は25%まで落ち込む部分です。
■「恋愛しない、できない」人たちが可視化されただけ
仮に、いつの時代も25歳以上の未婚男の童貞率が25~30%で推移していたとしましょう。1980年代までは、このお見合いによって、いわゆる恋愛最弱者3割の未婚男性たちは救済されていたと解釈できます。もちろん、お見合い結婚の男性がすべて童貞だったとまでは言いませんが、お見合いによって初めて付き合うという体験をし、性体験をし、結婚したという男性がいなかったわけでもないと考えます。
その後、お見合い比率は5%台まで激減します。直近の25~34歳の未婚男の童貞率は29%ですが、彼らがアラフィフとなる20年後には、男の生涯未婚率は約30%になると推計されています。数字のつじつまは合っています。
自由恋愛を謳歌できるのは、しょせん3割の恋愛強者男女に限られます。中間層の4割はともかく、恋愛最弱者の3割は、今後も「恋愛は自己責任」という重い扉の前で途方に暮れてしまうことでしょう。未婚化や非婚化は、若者の恋愛離れでもなんでもなく、救済制度としての社会的マッチングシステムの消滅により可視化された恋愛最弱者3割の姿なのだと思います。
便宜上、強者と比較するために恋愛最弱者という表現にしていますが、この中には「恋愛したいのにできない層」と「そもそも恋愛自体に興味関心がない層」が混在します。前者には何かしら救いの手が求められますが、後者にとっては「非恋愛の自由」を謳歌しているのかもしれないという視点も必要かもしれません。
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コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会―「独身大国・日本」の衝撃』(PHP新書)、『結婚しない男たち―増え続ける未婚男性「ソロ男」のリアル』(ディスカヴァー携書)など。韓国、台湾などでも翻訳本が出版されている。新著に荒川和久・中野信子『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。
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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)
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