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日本の電力不足にも影響大…身勝手に豪州産の石炭輸入を止めた中国が苦しむ「今夏の石炭不足」という想定外

プレジデントオンライン / 2022年6月27日 9時15分

中国の習近平国家主席(=2022年3月11日、中国・北京) - 写真=AFP/時事通信フォト

■世界中で“石炭の争奪戦”が激化している

6月に入り、中国では猛暑によって河南省などで電力の需要が急増し、電力の供給不安が高まっている。昨年9月、中国では石炭の不足などによって電力の供給が落ち込み、経済に大きな制約が生じた。習近平政権は脱炭素に対応するために削減した石炭生産を再開し、輸入も増やした。

それでも電力供給の不安解消は容易ではない。わが国でも液化天然ガスなどの価格上昇と円安の影響によって電力価格は上昇し、事態の厳しさは増している。

中国の電力供給不安の高まりは共産党政権の経済運営だけでなく、世界経済にとっても無視できないリスク要因だ。短期間で中国が電力の需給逼迫(ひっぱく)を解消することは難しい。中国は洋上風力発電のための大型風車を増産し再生可能エネルギー由来の電力供給を急ピッチで強化しているが、依然として電源構成の6割が石炭火力発電だ。

他方で、ウクライナ危機をきっかけとする資源価格の高騰やロシアからの天然ガス供給減少に対応するために、ドイツは石炭火力発電を拡大せざるを得なくなった。世界各国が石炭を争奪する展開はより鮮明となるだろう。中国と同様に、わが国でも電力供給不安が一段と高まる展開が懸念される。

■オーストラリア産石炭を打ち切り、他国でまかなうはずが…

中国で電力供給不安が高まる背景には石炭の不足がある。コロナ禍が発生する以前から共産党政権は大気汚染問題の解消や過剰供給能力の削減のために石炭生産を削減した。その中でコロナ禍が発生し、中国の石炭調達状況は大きく変化した。

特に、オーストラリアが新型コロナウイルスの発生源に関する調査を行う必要があると主張したことは大きかった。共産党政権は対抗措置として豪州産石炭の輸入を停止した。その時点で、インドネシアやロシア、モンゴルなどからの石炭調達を増やすことによって火力発電などに必要な石炭を確保できるとのもくろみが共産党政権にあっただろう。

しかし、2021年夏場あたりになると状況は一変した。デルタ株の感染再拡大によって世界各国でロックダウンや外出の制限が実施され、動線が寸断された。世界全体で物流がまひし、中国の石炭輸入はより大きな制約に直面した。共産党政権はエネルギー供給の減少に危機感を強め、炭鉱を再開するなどして石炭をかき集め始めた。

■石炭増産を指示するも、すでに冷房需要が急増

しかし、供給制約による資材の不足や洪水による炭鉱の被災など複合的な要因が重なり、中国国内での石炭増産はスムーズに進まず石炭火力発電が逼迫し始めた。その結果として昨年9月ごろから中国では電力不足が発生し、製造時に電力を大量に使うアルミニウムなど非鉄金属の減産や生産停止が相次ぎ、国際市況も押し上げられた。

その後も中国は石炭生産を増やした。2月24日にロシアがウクライナに侵攻し、欧米各国が対ロ制裁を強化した後、中国は割安なロシア産の石油や石炭を購入してエネルギー需要を満たそうとした。中国同様に、インドもロシアから石油や石炭を輸入している。

4月に開催された国務院の常務会議でも石炭の増産が指示された。共産党政権はエネルギー供給の危機感を一段と強めている。それでも気温の上昇によって冷房需要が急増し、一部地域で電力の需給が急速にタイト化した。習政権にとって必要な量の石炭を確保し国内の膨大な電力需要を満たすことは容易ではない。

■中国経済を読み解くのに「銅の先物価格」がなぜ大事か

電力供給不安の高まりによって、今後の中国経済の成長率の低下懸念は追加的に高まる。同じことは火力発電の割合が高いわが国にも当てはまる。目下、共産党政権はゼロコロナ政策によって傷ついた経済を下支えするために公共事業の積み増しや消費の喚起策を急がなければならない。電力供給不安の高まりはそれに水を差す。

例えば、中国第3位の人口規模を誇る河南省では当局が節電を呼びかけはじめた。節電は飲食や宿泊などゼロコロナ政策に直撃された企業の事業運営に逆風だ。非鉄金属や電子部品、デジタル家電などの生産回復にも時間がかかるだろう。それによって公共事業の実施も遅れるだろう。

その懸念から、6月に入ってロンドン金属取引所(LME)などで取引されている銅の先物価格は下落した。リーマンショック後、共産党政権は高速鉄道の延伸などインフラ投資の積み増しをメインに景気の持ち直しを目指した。電線などに使用される銅の需要は押し上げられた。そのため、銅の先物価格は中国経済の先行きを示唆する指標として注目度が高い。銅先物価格の下落は、電力供給不安などによって中国経済の減速がより鮮明化するという不安上昇の裏返しだ。

■上海の封鎖が解かれても状況は厳しい

他方で、中国の企業は世界的な資源価格の高騰や人民元安を背景とするコストプッシュ圧力にも直面している。特に、経営体力が限られる中小企業を取り巻く環境はかなり厳しい。ゼロコロナ政策による需要減少、不動産バブル崩壊による経済全体での債務リスク上昇に電力供給不安が重なることによって、事業運営の困難さは追加的に増す。

生き残りをかけて、これまで以上に雇用を削減しなければならなくなる事業者は増えるだろう。中国の雇用・所得環境は追加的に悪化し、個人消費を中心に内需は減少する恐れが高まっている。6月から上海のロックダウンが解除され徐々に経済が動きはじめた中での電力供給不安の台頭は、中国経済にとって軽視できない負の要因だ。

上海の美しい夕暮れ
写真=iStock.com/silkwayrain
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/silkwayrain

■半導体製造に欠かせない黄リンもピンチ

中国の電力供給不安は、世界的な供給網に制約が発生する懸念がある。その一つとして、世界的な半導体不足に与える影響だ。昨年9月、電力不足を解消するために共産党政権はリン工場に生産を減らすよう命じた。リン鉱石は電炉で融解されて黄リンが製造される。黄リンを用いて半導体製造のエッチング工程で表面処理に用いられる高純度のリン酸などが生産される。リンは肥料の原料にもなる。

中国は世界のリン鉱石生産の53%を占める(2017年)が、その多くを国内で消費する。昨年、減産を指示された中国の化学メーカーはわが国が調達先としてきたベトナム産の黄リンを買いに回った。その結果、世界全体で黄リンの需給が急速に引き締まり価格が急騰したのである。4月以降の中国の黄リン価格の推移を確認すると、同月後半あたりから価格は上昇しはじめた。ゼロコロナ政策による物流停滞などの懸念が主な要因だろう。

■世界のインフレ懸念はさらに高まる恐れ

6月に入り上海のロックダウンが解除されたことなどによって価格は幾分か下落したが、4月後半の水準を上回っている。電力供給が不安定な状況が続くことによってリン工場の操業度が低下して供給が減少し、世界的に黄リンの需給が逼迫して半導体生産に支障が出る展開は否定できない。このように中国の電力供給の不安定化は基礎資材の需給を急速に引き締め、世界の供給のボトルネックを一段と深刻化させる要因だ。

夏を迎えて気温は上昇し、冷房のための電力需要が各国で増える。中国は電力需要を満たすために石炭増産を急ぎ、ロシアやASEAN地域などからの石炭輸入も増やさなければならないだろう。他方で、ドイツなどの欧州各国はロシアからの天然ガスの供給減少に直面している。再生可能エネルギーや原子力によって電力需要を満たすことは難しく、石炭火力発電の増加は不可避だ。

わが国でも夏場の電力需要を満たすために休止中の火力発電所が再稼働される。世界各国による石炭争奪戦は激化し、価格が押し上げられるだろう。世界の資源価格には上昇圧力がかかり、インフレ懸念が追加的に上昇しやすい。中国の電力不足は共産党政権の経済運営だけでなく、世界経済の足を引っ張る問題だ。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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