1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

「おい、君、こんな人材いったいどこで…」ビズリーチの30秒CMに詰まっている"営業の極意"を解説する

プレジデントオンライン / 2022年6月29日 15時15分

画像=転職サイト「ビズリーチ」より

これから「営業」という仕事はどうなるのか。ナレッジワークCEOの麻野耕司さんは「営業という仕事は単なる商品・サービスの『売り込み』ではない。お客に『今は買わない方がいい』と伝えられる人であれば、今後も営業として生き残ることができるだろう」という――。

※本稿は、麻野耕司『NEW SALES 新時代の営業に必要な7つの原則』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。

■「売り込み」を続ける営業は生き残れない

「営業」という仕事に、どんなイメージを抱いていますか。

私がSNSで「営業と聞いて思い浮かぶ人は誰ですか?」という投稿をすると、多くの人が著名なテレビ通販の創業者の名前を挙げました。

「ちょっと奥さま、見ていってください」
「この包丁は切れ味が鋭いんです」
「今からこの大根を切ってみますね」
「ほら! こんなにスパッと切れるんですよ」
「今ならこの商品がなんと9980円」
「とてもお買い得です」

「営業トーク」というと、一般的にはこんな「売り込み」を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。

「売る」ことが営業の重要な役割であることは間違いありません。しかし現在、幅広い業界で営業に求められる仕事は、もはや「売り込み」ではなくなっています。

本稿では、営業という仕事の役割が、「売り込み」からどのように変わっているのかを紹介します。

■「プロダクト営業」から「ソリューション営業」へ

かつて、営業という仕事の主な役割といえば、自社の商品・サービスの機能や性能に関する情報を顧客に提供することが中心でした。

例えば企業向けの教育研修プログラムを売り込むなら、どんな教材を使い、どんな講師が授業をするのかを説明することが、営業の仕事だったわけです。個人向けに生命保険を売り込むなら、保険料や保障内容を紹介することが主な仕事とされていました。

しかし今では、顧客は営業担当者が商品やサービスの情報を伝えることだけでは満足しなくなっています。

1980年代には、様々な調査で次のようなことが明らかになりました。大型の商談で成果を出している営業担当者の共通点は、「顧客の課題を引き出し、解決策を提示していること」である、と。

これ以降、営業という仕事では、単に顧客に対して商品やサービスの情報を伝えるだけの「プロダクト営業」ではなく、商品やサービスを用いた課題解決を顧客に提案する「ソリューション営業」が大切であると言われるようになりました。

■営業の天敵となった“インターネット”

商品・サービスの機能や性能といった情報を説明するだけの「プロダクト営業」に対して、「ソリューション営業」では顧客の考え方や置かれている状況などを知り、どのような商品・サービスを、どのように活用すべきなのかを顧客に提案する力が求められます。

顧客も単なる「プロダクト営業」よりも、有用性のある提案をする「ソリューション営業」を好むようになり、1980年代以降、営業の世界では徐々に「プロダクト営業」よりも「ソリューション営業」が主流になっていきました。

それを加速させたのがインターネットの普及です。

ネットを活用すれば、顧客はウェブ上で商品やサービスの情報を簡単に知ることができます。大半の商品・サービスの機能や性能については、いちいち営業担当者から説明を受けなくても、把握できるようになったのです。

インターネットの普及は、商品やサービスのコモディティ(汎用)化も引き起こしました。それぞれの会社が、ライバル会社の商品やサービスについてすぐに知ることができるようになったため、競合同士の模倣が容易になったのです。

営業が売るべき商品やサービスが、簡単にライバル会社にまねされるようになった。そんな競争環境の中で、これまでと同じように、ただただ商品・サービスの情報を伝えるだけの「プロダクト営業」では成果は上げられなくなってきました。

■「御社の課題は何ですか?」と尋ねる営業が一気に増えた

1980年代、営業の世界で起こった「ソリューション営業」の台頭。では現在の営業の世界では、「プロダクト営業」から進化した「ソリューション営業」がベストかというと、実はちょっと違います。

私は、この「ソリューション営業」でも形骸化が進んでいると痛感しています。

名刺交換
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

1987年に出版された営業活動の古典的名著『Making Major Sales』(邦訳『大型商談を成約に導く「SPIN」営業術』)。この本では「ソリューション営業」を実現するためのポイントを、営業から顧客への「質問」であると提唱しています。

商談の流れに沿って「状況質問(Situation)」「問題質問(Problem)」「示唆質問(Implication)」「解決質問(Need-Payoff)」という4つの質問を組み合わせることによって、「ソリューション営業」を推進するというメソッドがSPIN営業術です。

『「SPIN」営業術』の発売以来、多くの営業担当者は、「御社の課題は何ですか?」といった質問を顧客に投げ掛けるようになりました。そして、質問から引き出した顧客の課題に、自社の商品やサービスを紐ひも付けて紹介するようになっていったのです。

しかし私は、『「SPIN」営業術』で紹介されているような質問を通して顧客の課題を引き出す「ソリューション営業」が、機能不全を起こしている場面を、あちこちで目撃してきました。

■形骸化してしまった「ソリューション営業」

そもそも、どの会社の営業担当者も「御社の課題は何ですか?」と顧客に聞くので、同じように問い掛けるだけでは、ライバルとの差別化につながりません。

それも「御社の課題は何ですか?」という質問が有効なのは、顧客が自社の課題を明確に把握できている場合に限ります。課題が明確ではなく、顧客も把握できていないような課題の場合、いくら問い掛けても答えは出てきません。

潜在的な課題を引き出すには、顧客の課題を営業担当者が示唆するような「示唆質問」や、課題の解決方法を提示するような「解決質問」が有効です。しかし、顧客が気付いていない課題を営業担当者が示唆するというのは非常に難易度の高いことです。

私自身、自社の営業担当者と一緒に商談に同行したり、顧客の営業担当者に取材をしたりしてきましたが、営業担当者が商談で顧客に合わせて的確に示唆質問や解決質問を投げ掛けられているケースはほとんどありませんでした。

顧客に対して、単に情報を提供するのではなく、顧客の情報を収集し、課題を見抜き、その解決方法を提案する「ソリューション営業」は年々、重要になっています。しかしそんな「ソリューション営業」にも限界はあります。

これからの時代は、「ソリューション営業」からさらに一段踏み込んだ、新しい営業が必要になってくるのです。

繁華街を歩く人々
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

■イマドキの「仕事ができる営業」はどうしているのか

そもそも顧客はなぜ、商品・サービスを買うのでしょうか?

それは、「願望の実現」のためにほかなりません。願望の実現とは、言い換えれば「こんな状態になりたい」「こんな問題を解決したい」といった願いを叶(かな)えるということです。

例えば、あなたは書店でこの本を手に取ってくれたわけですが、それは何かしらの願望を実現するためだったのではないでしょうか。

「営業について学びたい」
「営業で成果を出したい」
「営業チームの成果を伸ばしたい」
「自社の営業活動を改革したい」

こういった願望があったからこそ、お金を出して、この本を買ってくださったのでしょう。

人が商品やサービスを買うまでの意思決定を分解すると、次のようなステップになります。

①理想 自社や自分の理想の状態を思い浮かべる
②課題 理想と現状の差を認識する
③価値 課題を解決するために、商品・サービスによって実現しなければならない効果を認識する
④方法 その価値を生み出すため、最適な方法として「買う」ことを選択する

■モノではなく、ストーリー(物語)で売り込む

マーケティングの世界には「ドリルと穴」という考え方があります。

顧客はドリルそのもの(方法)を買いたいのではなく、ドリルを使って開けた穴(価値)を買いたいのだ、という考え方です。それも、顧客は突然、壁に穴を開けたくなるわけではありません。

「こんな家を造りたいと思い浮かべる」(理想)
「壁にラックを立てたいが、ラックをはめる穴がないと気付く」(課題)
「壁に穴を開ける道具が必要だと気付く」(価値)
「穴を開けるためにドリルを買いたいと思う」(方法)

この流れに合致した際、初めてドリルを買うのです。

【図表1】顧客が商品・サービスを買うまでの流れ
出典=『NEW SALES 新時代の営業に必要な7つの原則』

これからの時代に求められる営業とは、「このドリルはこんなに性能がいいんですよ」と売り込む「プロダクト営業」ではなく、「どんなことにお困りですか?」と聞く「ソリューション営業」でもありません。

顧客と共に理想の家を描き、そこに必要な穴を見つけ、最適なドリルを提示するような営業です。「理想→課題→価値→方法」のストーリー(物語)を顧客と一緒に組み立てられる営業を、「ストーリー営業」と呼びます。

■古い営業を「ストーリー営業」に変える4ステップ

「プロダクト営業」や「ソリューション営業」。これらを、「ストーリー営業」へ進化させる具体的な方法を紹介していきます。

STEP①「価値」を明確にして「プロダクト営業」を進化させる

「プロダクト営業」を進化させるなら、商品・サービスの機能や性能だけでなく、それらを通じて顧客が得られる「価値」が何なのかを伝えなくてはいけません。

例えば、食品メーカーで新商品を発表した場合、その食材や成分だけでなく、「食べ応えがあるがダイエットにも効果的」といった「価値」を伝える必要があります。生命保険会社なら、保険料や保障内容だけでなく、「家族が安心して暮らせる」といった「価値」を伝えなくてはなりません。IT企業がITシステムを提案するなら、その機能や性能ばかりではなく、「社内の業務が効率化される」といった「価値」を提示する必要があります。

企業が提供する商品やサービスの紹介資料でも、機能や性能に加えて、その「価値」についても言及する必要があります。営業担当者は、こうした情報をしっかりとインプットして、「プロダクト営業」を、その「価値」まで伝える「ストーリー営業」へと進化させていきましょう。

■営業で成果を残す人が、売った後に必ずすること

もし自社の商品・サービスの資料に「価値」が記載されていないなら、営業担当者が自分でその「価値」をしっかりと言語化する必要があります。

「価値」とは言い換えれば、「顧客から選ばれる理由」ということ。既に売ったことのある商品やサービスなら、顧客が他社の商品・サービスではなく、自社の商品・サービスを選んでくれた理由を振り返ることで「価値」が明確になります。

営業で成果を残す人は、売った後に、顧客に「なぜ買ってくれたのか」を確認しています。そうすることで、自社の商品・サービスの機能や性能の先にある「価値」が適切に把握できるからです。

「価値」は何なのか。その答えは、顧客の心の中にしかありません。その商品やサービスを初めて売るのなら、ほかの営業担当者にヒアリングをして、どういった点が顧客から喜ばれているのかを知っておくといいでしょう。分かりやすい言葉で「商品・サービスが顧客から選ばれる理由」(つまり「価値」)を語れるようになりましょう。

オフィスで電話を受ける、自信に満ちたスーツ姿のアジア人ビジネスマン
写真=iStock.com/kyonntra
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kyonntra

■「御社の課題は何ですか?」と尋ねたら負け

STEP②「課題」を整理して「ソリューション営業」を進化させる

「ソリューション営業」を進化させるには、「プロダクト営業」の場合のように、単に会社が用意している商品紹介資料を深く読み込むだけでは不十分です。顧客が抱える「課題」と、商品・サービスの「価値」を紐付ける必要があるからです。

例えば食品メーカーで、「食べ応えがあるがダイエットにも効果的」という「価値」のある新商品を大手小売店に提案する場合は、次のような形で顧客の「課題」と商品の「価値」を紐付ける必要があります。

「御社の顧客ターゲットである主婦層が求めている健康志向でダイエットにも効果のある食品が、売り場にあまり並んでいません」

このように「課題」を明確にした上で、だからこそ「食べ応えがあるが、ダイエットにも効果的」である新商品を並べることに意味があると伝えるのです。

生命保険会社で「家族が安心して暮らせる」という「価値」を訴求するなら、「保険をかけていないことで家族が悲惨な目に遭ってしまう懸念がある」という「課題」を伝えた上で、「安心して暮らせる」という商品の「価値」を伝える必要があります。

IT企業がITシステムの「社内の業務を効率化できる」という「価値」を提示するなら、「ある業務でこのくらいのムダがある」という現状の「課題」を把握してもらい、その上で、「課題」を解決する方法として自社のシステムを伝えていくといいでしょう。

■営業で成果を残す人は、上手に課題の引き出す

顧客が抱える「課題」と、自社で提供する商品・サービスの「価値」を分かりやすくつなげること。これまでの「ソリューション営業」では、これが重要でした。「ソリューション営業」を進化させるには、まずは営業担当者が事前にヒアリングシートを用意し、質問を重ねながら、顧客の「課題」を引き出していく必要があります。

それも単に「御社の課題は何ですか?」と抽象的な質問をするのではなく、「御社の経費精算の業務効率で課題はありますか?」などと具体的な「課題」を聞き、徐々に抽象的な「課題」へ広げていく方が、顧客は答えやすくなります。

顧客の「課題」を引き出し、整理した後は、その中でどの「課題」を解決すべきなのかを顧客と合意していきましょう。

課題整理シートを用意し、「具体的にどんな課題があるのか?」などを記入して顧客に提示するといいでしょう。「ソリューション営業」では、提案書を作成して顧客に提示することも多いです。

この提案書の冒頭に課題整理シートを加え、この説明をしてから商品・サービスの紹介へと移っていく。そうすれば、顧客の「課題」と商品・サービスの「価値」がつながり、顧客もより理解しやすくなります。

コンサルタントがクライアントに説明中
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

■課題解決の提案だけでは不十分

STEP③「理想」や「課題」を提案して「ストーリー営業」を実現する

「ソリューション営業」を進化させるだけでは、顧客に的確な提案をすることが難しいこともあります。なぜなら、顧客自身が自社や自分の「課題」の把握ができていなかったり、「理想」を思い描けていないことも多いからです。

その場合、営業担当者から、顧客の「理想」や「課題」を提案する必要があります。顧客が気付いていない潜在的なニーズを営業担当者が見つけ出して、伝えるわけです。

顧客が気付いていない「理想」や「課題」を見つけ出して、それと自社の商品・サービスが提供する「価値」を関連させて伝えること。これが、新しい時代の「ストーリー営業」です。

「ストーリー営業」で最初にすべきことは、顧客が抱くであろう「理想」や「課題」を、商談の冒頭で営業担当者が伝えられるようにしておくことです。商品紹介の資料があるなら、その冒頭に「顧客が目指すべき状態(理想)」と「顧客が抱えがちな問題(課題)」を記載しておくといいでしょう。

「理想→課題→価値→方法」という仮説を事前につくり、それを顧客に投げ掛けて、顧客と一緒に物語を紡ぎ上げていくのが、「ストーリー営業」です。

例えば教育研修の営業なら、「教育研修の投資対効果が最大化している状態」を「理想」として定めます。その上で、「研修で学んだことが現場で活かされていない状態」を「課題」に据え、「参加者に研修の内容が深く落とし込まれ、現場で実践できる」ことを「価値」として提示します。

そのために必要なのが「双方向の議論の場を提供する教育研修プログラム」という方法だと提案することが「ストーリー営業」です。

■「ビズリーチ」のテレビCMには営業の極意が詰まっている

商品やサービスの説明から始まる「プロダクト営業」や、「課題」を顧客に質問する「ソリューション営業」に慣れ親しんだ人ほど、営業担当者が顧客に「理想」や「課題」を提案することから始まる「ストーリー営業」に戸惑うかもしれません。

そこで発想を転換するために有効なのが、自社の商品・サービスのテレビCMの絵コンテを、試しに営業担当者が自分で描いてみる、という方法です。

急成長した転職サービス「ビズリーチ」のテレビCMを思い浮かべてみましょう。

【社長】どうせまぁ、大した候補はいないんだろう(課題)
【社長】これはすごい経歴だ。即戦力じゃないか。こっちはライバル会社。これも、これも、これも……。いったいどうしたんだ(理想)
【社長】おい、君、いったいどうしたんだ?

【部下】ビズリーチ!

【ナレーション】中途採用でも優秀な人材に出会えます(価値)
【ナレーション】即戦力採用ならビズリーチ(方法)

たった30秒のテレビCMですが、「課題」→「理想」→「価値」→「方法」というストーリーを見事に顧客に思い描かせることができる内容になっています。

【図表2】「ストーリー営業」に役立つテレビCM絵コンテ(ビズリーチの場合)
出典=『NEW SALES 新時代の営業に必要な7つの原則』

■売れる商品CMに描かれる「理想→課題→価値→方法」

ストーリー営業が有効なのは、BtoB(企業間)の営業の現場だけではありません。BtoC(消費者向け)でも、商品・サービスが高額ならストーリーをうまく活用した訴求が有効です。

安い商品・サービスの場合、顧客は情報さえあれば判断できますが、高額になれば、それだけで買うか否かを決めることはできません。その商品・サービスによって実現される「理想」や解決できる「課題」までセットで提案して、顧客のモチベーションを高めていく必要があります。

BtoC(消費者向け)では、急成長したパーソナルジム「ライザップ」のテレビCMでも、「理想」と「課題」を提起させる流れになっています。こちらはトレーニングする前の姿(課題)を見せた後で、トレーニングした後の姿(理想)を見せ、「結果にコミットする」という「価値」を提示しています。

売れている商品・サービスは、30秒で顧客に買いたいと思わせることができるくらい、「理想」「課題」「価値」「方法」を明確にし、顧客に提示しています。

あなたは、自分の営業する商品・サービスの「理想→課題→価値→方法」を明確に伝えられるでしょうか。

もしぼんやりとした言葉でしか表現できないようなら、一度、30秒のテレビCMの絵コンテを自分で描いてみるといいでしょう。

■「仕事ができる営業」と「できない営業」の決定的な違い

STEP④「顧客事例」で「ストーリー営業」を進化させる

STEP③では、「理想」や「課題」を一般化し、多くの顧客に当てはまるような「ストーリー営業」について紹介しました。この方法を実践するだけでも、旧来型の営業スタイルからは大きく進化することができます。

しかし、さらに成果を高めたいなら、最終的には顧客に合わせて最適化されたストーリーを提示するのがベストでしょう。

とはいえ、一社一社、一人ひとりの顧客に合わせて仮説を考えるのはとても難易度が高いです。営業の世界では以前から、商談前に、顧客のホームページやリリース情報をもとに、「理想」や「課題」の仮説を立てることが推奨されてきました。しかし実際に、顧客に合わせて「理想」や「課題」をゼロから設計できる営業担当者は非常に稀(まれ)です。

では、どのようにして一社一社、一人ひとりに合った仮説を提案すればいいのでしょうか。

ここで私が勧めたいのが「顧客事例」の活用です。

どのような商品・サービスでも、顧客の「理想→課題→価値→方法」というストーリーは、いくつかのパターンに集約されます。であれば、顧客が置かれている状況に近い事例を紹介することで、顧客自身にストーリーを喚起してもらうといいでしょう。

■一流の営業は顧客に合った過去事例を活かす

これまで私は、様々な企業の営業変革プロジェクトに携わってきました。その中で、ハイパフォーマー(高い成果を出している営業担当者)とローパフォーマー(十分な成果を出せていない営業担当者)の違いを調査・分析して分かったことがあります。両者の違いを生み出す要因は多くの場合、「顧客事例の活用」にあるということです。

ハイパフォーマーは、顧客に合った過去の事例をうまく活用できていますが、ローパフォーマーはそれをうまく活用できていなかったのです。紹介する事例を、顧客の共感を呼び起こす内容にすることも重要なポイントです。

がっちりと握手を交わすビジネスパーソン
写真=iStock.com/franckreporter
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/franckreporter

そのためには、「理想」や「課題」について、顧客がそのシーンを頭の中に思い浮かべやすいよう、臨場感を持って営業担当者が語ることが大切です。具体的な数字や過去の顧客のコメントなどがあると、さらにいいでしょう。

まずは過去の取り組みを事例として伝えられるように準備しておくこと。加えて、顧客との商談前には、ほかの営業担当者に似た事例がないかを聞いておくことも重要です。

■生き残りの分岐点…「売らない営業」になれるか

本章では、営業という仕事の役割を単なる商品・サービスの「売り込み」ではなく、「顧客の理想の実現」であると定義しました。

あなたが、顧客の理想の実現を手助けするような営業ができているかを判別する一つのポイントがあります。それは、顧客に対して次の一言が言えるかどうかです。

「御社は、この商品・サービスを今は買わない方がいいと思います」

顧客と一緒に「理想」を描き、「課題」を見つけて、「理想」と「課題」のギャップを埋めるための方法を考えていく。これを実践していれば、時には自社の商品・サービスが顧客の理想実現や課題解決にそぐわないケースも出てきます。そんな時、「買わない方がいい」と伝えることができるかどうか。

麻野耕司『NEW SALES 新時代の営業に必要な7つの原則』(ダイヤモンド社)
麻野耕司『NEW SALES 新時代の営業に必要な7つの原則』(ダイヤモンド社)

顧客の「理想→課題→価値→方法」という一連の物語に寄り添うことが「ストーリー営業」です。「ストーリー営業」を極めるなら、物語がマッチしない場合には営業担当者が自ら、それを伝えるべきでしょう。

本当の意味で、「ストーリー営業」を実践できるようになれば、あなたが顧客から断られることはなくなります。なぜなら、顧客にとって必要ではない商品・サービスの場合には、断られる前に、営業担当者が売り込みを見送るからです。

ドクターは患者に、服用する必要のない薬は処方しません。同じように、優れた営業担当者は、顧客にとって必要のない商品・サービスを売り込んだりはしません。

「ストーリー営業」を極めるなら、定期的にこう自分に問いかけてみましょう。
「これまで自分から、顧客に導入の見送りを提案した案件はいくつあっただろうか」

----------

麻野 耕司(あさの・こうじ)
ナレッジワークCEO
1979年兵庫県生まれ。2003年慶應義塾大学法学部卒業。同年、株式会社リンクアンドモチベーション入社。2010年、中小ベンチャー企業向けコンサルティング部門の執行役員に最年少(当時)で着任。2016年、「モチベーションクラウド」を立ち上げる。2018年同社取締役に就任。2020年、ナレッジワークを創業。著書に『THE TEAM 5つの法則』(幻冬舎)、『すべての組織は変えられる 好調な企業はなぜ「ヒト」に投資するのか』(PHP新書)などがある。

----------

(ナレッジワークCEO 麻野 耕司)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください