「定期預金を崩すのが嫌で自動車ローンを組む」どう考えても合理的ではない決断をしてしまう根本原因
プレジデントオンライン / 2022年6月29日 8時15分
■実はお金に色は付いている
よく「お金に色は付いていない」と言われます。ところが日常生活における私たちの行動を見ていると、どうもお金に色が付いているとしか思えないような場面に行き当たります。
例えばこんな場合を考えてみて下さい。田舎の母親が苦労して働いて自分に仕送りしてくれた10万円のお金があるとします。一方、たまたま宝くじを買って当たった10万円があったとします。さてあなたはどちらを先に使うでしょう? 恐らくほとんどの人はたまたま宝くじで当たったお金を先に使うでしょう。
でもこれは考えてみると不思議な行動です。なぜならどちらも同じ価値を持っているにもかかわらず、二つのお金には価値に差があるかのように思えるからです。「お金に色は付いていない」と言われるものの、実はお金には明らかに色が付いているのです。この心理が行動経済学で言う「メンタル・アカウンティング」と言われているものです。
メンタル・アカウンティングというのは直訳すれば「心の会計」ですが、人は無意識の内に自分の心の中に異なる会計勘定や財布をいくつも持っているといわれています。本来、お金というのはトータルで管理すべきなのですが、メンタル・アカウンティングにとらわれてしまうと、それぞれの会計勘定で別々の判断をすることによって、みごとに不合理な行動をとってしまうのです。
■定期預金を崩すのが嫌で自動車ローンを組む人
例えば自分の車を購入する時を考えてみましょう。仮に200万円の自動車を買おうと思ったとき、手元や普通預金口座にそれだけの現金があれば、それを使うでしょう。でももし定期預金に入っているお金しかなかったらどうしますか? その定期預金を解約して買うか、あるいは定期預金は崩さずに自動車ローンを組むでしょうか。
どちらが合理的なのかははっきりしています。自動車ローンの金利はだいたい1~3%ぐらいです。これに対して銀行の定期預金は比較的金利の高いネット銀行でも1年物で0.02%程度、メガバンクであれば0.002%が普通です。もし200万円の自動車ローンを組んだ場合、仮に金利が2%だとしたら初年度は4万円の利息を払わなければなりません。一方、定期預金を解約することで得られなくなる利息は0.02%だとしても400円です。つまり定期預金を解約せずに自動車ローンを組むというのは400円を失うのが惜しくて4万円を払うことですから、どう考えてもこれは合理的な行動とは言えません。
ところが、定期預金を解約するのが嫌で自動車ローンを利用する人は結構多いようです。これがメンタル・アカウンティングなのです。
■定期預金は自分のお金、ローンは外から入ってくるお金という錯覚
定期預金は「自分のお金」という勘定であるため、それを崩すことに抵抗感があるのに対して、自動車ローンはどこからか入ってくるお金という感覚になってしまうからです。もちろんそれは返さないといけないことはわかっていますが、その場合でも月々の返済は数万円ですから、それほど大きな金額という印象にはなりません。自分のお金である定期預金を一度になくす方が心理的抵抗感は大きいのでしょう。でも自分のお金をトータルで考えれば、そんな高い金利を払って買うよりもわずかな金利を放棄する方がはるかに得なはずです。
同じようにメンタル・アカウンティングの影響を受けがちなのが、民間の保険会社が提供する医療保険です。多くの人が勘違いしていますが、民間の医療保険は治療費をまかなうためのものではありません。治療費がまかなわれるのは、公的な医療保険、例えば会社の健保組合で加入している健康保険などから支払われるのです。
では民間の医療保険は何のためにあるかというと、治療や入院等に伴う費用のうち、公的医療保険でカバーされないもの、具体的に言うと入院中の食事代や個室に移る場合の差額ベッド料、そして病院に通うためのタクシー代といったもので、これらは公的医療保険では支払われませんから、それをまかなうために“お金が支給される”のが民間の医療保険なのです。
■通院のための費用は貯蓄から出してもいい
でもよく考えてみると、それらの費用は貯金から充てることもできます。貯金ゼロの人ならともかく、ある程度の蓄えがあるならそこから出せば良いはずです。ところがこれも先ほどの自動車ローンと同様で自分の貯金から出すと、自分のお金が減ってしまうという感覚になってしまうのです。その証拠に「貯金はおろす」と表現しますが、「保険はおりる」と言われますね。これならどこからかお金が降ってくるみたいなイメージです。でも実際は自分が払い込んだ保険料の中から支払われているのです。
であるなら、医療保険の保険料を払う代わりにそのお金を貯金していても良いはずです。貯金の良いところは貯めておきさえすれば、使い道は後から自由に決められることだからです。自動車ローンを利用するにしても民間の医療保険に加入するにしてもトータルで考えてどうするのが自分にとって一番得かを考えることが必要です。

他にも冒頭の例でお話したように、自分で一生懸命働いて稼いだお金は使うことに慎重なのに、ギャンブルや臨時収入で入ってきたお金はパッと使ってしまうという傾向があるのでメンタル・アカウンティングに陥らないように注意することが必要です。
■メンタル・アカウンティングから逃れる方法
では、どうすればこうしたメンタルアカウンティングから逃れることができるのかを考えてみましょう。
まずは収入と支出に分けた場合、収入は「これはどこから入ってきたお金」といった具合に区別せず、トータルで一つの財布に入れてしまうことです。どこからお金が入ったのかを区別してしまうと使いやすいお金と使いづらいお金に分かれてしまいます。でも本当に大事なのは使いやすいか使いにくいかではなく、それを使うことが必要かどうかを判断することです。したがって入ってくるお金はいったんトータルな金額でまとめてしまってフラットに判断できるようにすることが大事です。
ところが支出の場合はその逆です。メンタル・アカウンティングというのは自分でも知らないうちに仕訳してお金を使ってしまうわけですから、それを防ぐには、自分の心が勝手に会計勘定を作ってしまう前に自分で「勘定」を作ることです。
例えば、FPの人がよく言いますが、たとえば食費など、支出の項目毎の予算を決めておき、その枠は決してオーバーしないようにする半面、枠内であれば気にせずに使っても良い、といったルールを作っておくことです。これによって少なくとも意図せざる形で野放図な出費を抑えることには一定の効果があると思います。
さらに言えば、支出に関しては代替手段がないかということを見極めることが大事だと思います。自動車ローンの例にしても医療保険の例にしても、そのほかの手段を使った場合にどうなるのか? を冷静に考えてみることが必要でしょう。「これしかない」のではなく「他に方法はないか」を考えることも「知らない間にメンタル・アカウンティングに陥ってしまう」ことを防げるのではないでしょうか。
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経済コラムニスト
大手証券会社に定年まで勤務した後、2012年に独立し、オフィス・リベルタスを設立し、代表に。資産運用やライフプランニング、行動経済学などに関する講演・研修・執筆活動などを行っている。近著に『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)など。
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(経済コラムニスト 大江 英樹)
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