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実は日本一の食品スーパー…「世田谷のオオゼキ」が豊富な品揃えと高い利益率を両立できているワケ

プレジデントオンライン / 2022年6月28日 15時15分

オオゼキ上野毛店(世田谷区上野毛)(写真=Suikotei/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

食品スーパー「オオゼキ」が好調だ。東京、神奈川、千葉に41店舗を展開し、売上高は約1000億円。プロにも支持される豊富な品揃えがウリで、一坪当たりの売上高は日本一ともいわれている。なぜそうした個性ある食品スーパーとなったのか。経営コンサルタントの岩崎剛幸さんがリポートする――。

■ダンチュウ誌の企画で「プロの支持率No.1」に

東京、神奈川、千葉に41店舗を展開する食品スーパーのオオゼキは、その品揃えの確かさから飲食のプロからも支持されていることで有名です。たとえば雑誌「dancyu」(2021年9月号)アンケートでは「プロの支持率No.1」に輝きました。

私も以前は毎週のように利用していました。しかし、売り場のワクワク感が減ったように感じ、一時期、足が遠のいていました。先日、ひさしぶりに売り場に出掛けてびっくり。以前のようなオオゼキの姿を取り戻していました。いや、むしろパワーアップしているようにさえ思えました。

オオゼキはなぜ復活できたのか。輝きを取り戻したオオゼキの何がすごいのか。分析していきます。

■売上の伸び率はそれほど高くない

オオゼキは業績を確実に伸ばして、2021年度(20年3月~21年2月)の売り上げははじめて1千億円を超え、1025億円でした。

1025億円という数字だけ見るとオオゼキは売り上げ拡大に熱心な、イケイケドンドン型のスーパーかと思うかもしれません。しかしそうではありません。

業界優良企業と比較してみましょう。オーケー、ロピア、ヤオコーという食品スーパー業界で成長率の高い企業と比較すると売上高も伸び率もオオゼキは見劣りします。たとえばロピアは2018年度と比較して、直近2022年度の売上高は約2倍に伸びています。

優良小売り売上高推移比較表

オオゼキの「復活」を探るには、もう少し長いスパンでの業績推移をみる必要があります。

オオゼキ年度別損益(2016~2022)

■業界内屈指の経常利益率の良さ

オオゼキの15年度から21年度までの業績は確かにいいのですが、売り上げは着実に増加という感じで、急速に拡大はしていません。粗利率は1%ほど上がっていますが販管費も同様に上がっています。結果的に22年度は経常利益率が6%台に落ちていて数字上は伸びていないように見えます。

オオゼキ決算数値より筆者作成
出所=オオゼキ決算数値より筆者作成

しかし、これを同業他社と比べると、伸びていないように見える数字も、他社をしのぐ高いレベルであることが分かります。

粗利率が高いことで高い営業利益率を維持するオオゼキ

売り上げは業界大手に見劣りしますが、粗利は数ポイント高く、営業利益率も業界トップのオーケーと並ぶ高さです。

実はオオゼキは、堅実な経営を続けてきている隠れた高収益企業なのです。むやみやたらに出店せず、効率が悪ければ好立地からの退店も辞さない。

派手な成長をせずに、着実に高い利益を稼ぐスーパー。その狙いはどこにあるのでしょうか。

■オオゼキ創業者が大切にしていた3つのこと

私が創業者の故・佐藤達雄氏に初めてお会いしたのは99年頃です。当時、私は「顧客満足度経営」というテーマで講演をすることが多く、そのモデル企業の一つとしてオオゼキの顧客第一の経営姿勢を知り、お話を伺いに本社に伺ったのです。

その際にオオゼキの強みについて次の3つのポイントを教えてくれました。

1.お客さまの声を集め続ける
2.一人一人に任せる
3.自分で考えるクセをつけさせる

オオゼキでは「お客さまの声に敏感になる」ようにすべての従業員が教育されています。売り場のあらゆる場面で、一人一人のお客さまの声を集めているのです。

つり銭間違いでわざわざお客さまの家に訪問してお釣りを返金したり、お客さまが他のスーパーで買ったものを返品してきても快く応じるといったことも、当時は当たり前のように行っていると聞き私は驚きました。

お客さまの声を集めるには、組織のトップ自らがお客さまの声を拾う努力をすることが必要です。今の現場で何を求めているのかをトップが真摯に追いかけるから声が集まるのです。

創業者の佐藤達雄氏は、当時、次のようにおっしゃっていました。

「失敗を怖がらせて社員が冒険しなくなるほうが怖い。何かの商品が一つだめになるよりも人間をだめにすることのほうが怖い。だから、うち(の会社)はなんにも分からない新人にも仕事をどんどん任せるんだよ」
「個店主義というのは仕事をやりたい人を採用して、やりたいことをやらせることにその真髄がある。だから仕事を任せるんだ」
「お客さまを大切にする」という企業理念をどこまで徹底できるかが生命線だ。お客さまにとって何が必要か、何をすればいいのか。何を仕入れるべきか。お客さまが欲しいと言ったものは必ず仕入れて品ぞろえしていく。だから無駄もあるが、それが地域のお客さまにとっての信頼につながるのだと思う」

■合理化を進めた結果、魅力的な店ではなくなってしまった

この思想が一時期、消えかけていた時があったと私は感じていました。2007年に創業者の佐藤達雄氏が亡くなり、09年にMBOを実施。オオゼキは上場を廃止しました。

この非公開化によって企業経営がある意味、閉ざされたように私には映りました。その後、経営と執行の分離をはかるトップ人事などがあり、ある意味、創業者の作ってきた経営というより、合理的な経営スタイルへと舵をきったように思えました。私が感じていた「売り場のワクワク感がなくなった」のはこの頃です。やはり、企業経営は現場に直結するのだなと思っていました。

しかし、その後、佐藤達雄氏の長女である石原坂寿美江・会長兼社長が陣頭指揮を執り、オオゼキは輝きを取り戻しました。石原坂社長は現在も定期的に売り場に顔を出し、現場の声を拾っています。その姿は、佐藤達雄氏の姿とダブります。

結果的に最近のオオゼキは、昔見た、あの「市場感覚そのまま」のオオゼキを売り場で再現しています。

先日、オオゼキ創業の地、そしてオオゼキの全店の中で売り上げが常にトップクラスの世田谷・松原店に行ってきました。

松原店はオオゼキにとって特別な店です。佐藤達雄氏が昭和30年代前半にオオゼキの祖業である乾物屋を開業した地だからです。その後、生鮮品を付加して食品スーパーへと業態転換し、大繁盛店になりました。18年4月に改装のため閉店し、19年4月にリニューアルオープン。再び繁盛店への道を駆け上がっています。

オオゼキ
19年にリニューアルオープンした松原店 筆者撮影

■品ぞろえは店舗によって大きく異なる

オオゼキは経営の原点に立ち返って、再度、オオゼキならではの独自の経営を構築し始めていることを松原店の売り場作りから実感しました。そこには2つの創業原点の徹底がありました。

①オオゼキの個店主義

オオゼキは徹底した個店主義をとっています。仕入れは各店舗の担当者に一任されています。

市場での買い付けも店舗ごとに行っているのが特徴です。セントラルバイイングをしている企業と比べて人手もかかるし、品ぞろえは店によってマチマチです。品ぞろえが違うとコントロールがしにくい。

しかし、お客さまにとっては「私の欲しい物をそろえてくれる店」になります。オオゼキのこだわりはここにあります。松原店は300坪というオオゼキでは比較的大きな売り場面積でもあるため、その広い売り場を活用したおもしろい取り組みをしています。

それが市場型の売り場です。青果や鮮魚売り場で見られる売り方です。市場のように陳列された売り場に市場直送の魚や野菜が所狭しと並びます。

一方で、人気寿司チェーン「寿司の美登里」のテイクアウトコーナーやプロの料理人が唸るイタリア食材(オリーブオイル、パスタなど)の導入、またワインの品ぞろえは600SKUなど、松原店の立地する世田谷区に住む富裕層や飲食店のシェフも満足できる商品構成になっています。

このように、立地にあわせて独自の品ぞろえをしていくオオゼキの姿勢がお客さまに評価されているのです。

■店員のほとんどが正社員のワケ

②地域密着主義を支える人材の充実

松原店ではベーカリーを自社運営しています。それは「スーパーの枠を超えたレベルの商品を提供したい」という思いからです。そこでベーカリーとお弁当などの総菜は直営売り場として、さまざまな新しいヒット商品を生み出しています。

串カツや手巻き寿司、ひじきの煮物など10点ほど惣菜を購入しましたが、どれもおいしくて安いと感じました。比較のため百貨店の総菜売り場で同様の商品を購入したのですが、値段が半分で、味はオオゼキのほうが上という物も多く、オオゼキの商品開発力の高さを知りました。この数年で、オオゼキは独自の商品開発にかなり力を入れているようです。

このような付加価値を生み出す商品開発を実現するために、オオゼキでは1店舗あたり50~60名の従業員を配置しています。しかも、正社員比率70%という高さ(通常は30~40%程度)です。

その従業員が売り場内をかけずりまわり、暇さえあれば品出し、補充を繰り返し、品切れができるだけ発生しないように売り場をメンテナンスしています。また、館内放送で本日の売り出し品を丁寧に解説したり、週末の特売(私の視察時は「貝祭り」)を案内したりするなどして、お客に訴えていました。

■顧客主義を貫いた結果、坪効率は業界1位に

地域密着の店として、お客さまのために何ができるのか。

オオゼキはお客さまが欲しいと言う商品があれば、トマト1個からでも仕入れることで有名ですが、それは、地域のお客さまのためにできることをすべてやりたいと本気で考えているからです。

商品の回転率がどうなのかとか、消化率がどうかということは後回し。

まずはお客さまが欲しいという物を、きちんと品ぞろえする。それが最大のサービスであると考えているのです。

しかしこうした地域密着経営の結果、オオゼキの坪効率は業界でもNo.1だと言われています。

食品スーパーの年坪効率(年間1坪当りの売上高)は500万円以上であれば高いと言われますが、オオゼキは1300万円を超える坪効率(平均売り場面積は筆者推測値)です。地域のお客さまのためにと品ぞろえして販売した商品が高い売り上げを作り上げています。

さらにオオゼキには独自のキャッシュバックポイントカード(月に1回たまったポイントを現金に換えられる)があります。また、デリバリーアプリの「menu」と組み、22年3月からは店内2300アイテムのデリバリーを始めています。現在は大森北店、武蔵小山店、目黒不動前店、府中店の4店舗ですが、今後増えていくことでしょう。

■オオゼキが生み出した好循環

このように、お客さまのことを第一に考え、地域のお客さまのために商売をし、ムダではないかと思えるほど人手をかけて商売をしているにもかかわらず、商品の廃棄ロス率は1.5%以下(通常は3%前後)です。

ここにオオゼキの強さの秘訣がうかがえます。

本部主導ではなく、地域ごと、店舗ごとに需要を予測する

→各部門担当者が自分で仕入れをする個店主義を貫く
→地域に愛されるお店作りを各部門担当者の裁量でできるようになる
→自分で考えて工夫して売り場を作るようになる
→お客さまから「ありがとう」と言われて商品が売れていく
→仕入れたものが確実に売れるので廃棄が減り、店の利益率が上がる
→高い営業利益へとつながる
→その利益を社員教育・人材投資・商品開発・顧客への還元にまわすことができる。

これがオオゼキの善循環の仕組みです。

オオゼキでは「喜客の精神」と表現しているそうです。人(お客さま)を大事にし、人(従業員)を大切にしているから、オオゼキは高効率の企業となっているのです。

まさに、これからの企業経営の方向は、脱成長時代の経営を進めるオオゼキのような会社経営ではないかと私は感じています。オオゼキの人を大切にする経営に、その本質があります。

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岩崎 剛幸(いわざき・たけゆき)
経営コンサルタント
1969年、静岡市生まれ。船井総合研究所にて28年間、上席コンサルタントとして従事したのち、ムガマエ株式会社を創業。流通小売・サービス業界のコンサルティングを得意とする。「面白い会社をつくる」をコンセプトに各業界でNo.1の成長率を誇る新業態店や専門店を数多く輩出させている。街歩きと店舗視察による消費トレンド分析と予測に定評があり、最近ではテレビ、ラジオ、新聞、雑誌でのコメンテーターとしての出演も数多い。

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(経営コンサルタント 岩崎 剛幸)

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