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「地銀は甘やかされている」計2340億円もの公的資金の返済がどうも怪しい12行の末路

プレジデントオンライン / 2022年6月30日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

昨年末、SBIグループの連結子会社となった新生銀行には過去に3494億円もの公的資金が投入されている。その返済の行方が注目されているが、それは公的資金計2340億円を受けている他の地銀12行も同じだ。金融アナリストの高橋克英さんは「規模も業績も冴えない地銀が多く、返済どころか3度目の資金投入申請をしたところも。返済余力がなく塩漬けにされる可能性もある。地銀は甘やかされている」と指摘する――。

■「SBI新生銀行」の公的資金返済の行方

新生銀行は2021年12月に成立したTOB(株式公開買い付け)で、SBIグループが株式の約48%を握る連結子会社となった。2023年1月には「SBI新生銀行」に社名を変更する予定だ。

新生銀行は、SBIグループとのシナジー効果などにより、連結純利益を2025年3月期に700億円と、2022年3月期比約3.5倍に拡大させるという。

収益拡大を急ぐのは、3年間で公的資金返済の道筋を示すためでもある。新生銀行における公的資金要返済額3494億円を前提とした場合、必要となる株価は7448円とされ、2022年6月28日時点の株価2073円からみても、はるかに高い水準にある。2022年6月には、三井住友FGと包括的資本業務提携を打ち出すなど、デジタル時代の金融業界を牽引する北尾吉孝SBIHD社長でも、斜陽産業となった既存銀行の業績を3.5倍にするのならともかく、株価を3.5倍以上にするのは、至難の業だ。

このため、新生銀行を非上場化して、市場価格ではない「事業価値」を基にした株価算定により、公的資金を返済する方式も有力な選択肢とされている。

とはいえ、現在の株価では返済出来ない公的資金を、非上場化した後に、時価に関係なく返す手法には違和感もある。また、その場合でも、「事業価値」の核となる新たなビジネスモデルの確立と巨額の返済原資が必要であることに変わりはない。

公的資金返済には、秘策も奇策もなく、「ウルトラCが出てきて急に返せるようにはならない」(新生銀行の川島克哉社長)(日本経済新聞2022年3月31日)新生銀社長、公的資金返済「ウルトラCない」:日本経済新聞(nikkei.com)のだ。

■地銀12行も公的資金2340億円を抱える

新生銀行の3494億円にも及ぶ公的資金返済方法に注目が集まるなか、実は、地方銀行においても公的資金返済を迫られている。

預金保険機構によると、金融機能強化法に基づく資本参加実績一覧(公的資金投入額)は以下のようになっている(2022年3月末時点)。

南日本銀行(鹿児島)150億円
みちのく銀行(青森)200億円
三十三銀行(三重)300億円
東和銀行(群馬)150億円
高知銀行(高知)150億円
北都銀行(秋田)50億円
宮崎太陽銀行(宮崎)130億円
仙台銀行(宮城)300億円
筑波銀行(茨城)350億円
東北銀行(岩手)100億円
きらやか銀行(山形)300億円
豊和銀行(大分)160億円

日本全国に散らばる計12行に総額2340億円もの公的資金が注入されているのだ。

ちなみに、「地銀連合構想」を掲げるSBIが資本・業務提携を結ぶ地銀9行のうち、公的資金注入行は、東和銀行、筑波銀行、きらやか銀行、仙台銀行の4行で、注入された公的資金の合計は1100億円に及ぶ。

SBIにとって、連結子会社となった新生銀行とは違い、これら地銀4行は、資本業務提携先のため、SBIが一義的に責任を負うものではないものの、これら地銀の1100億円もの公的資金の存在は、「地銀連合構想」の足かせになってくる可能性はあろう。

モダンな銀行
写真=iStock.com/stocknshares
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/stocknshares

■2024年に迫る返済期限

こうした公的資金は、転換型優先株の形で注入されており、一斉転換日を迎える前に返済しないと、普通株に転換され、国が大株主に躍り出て事実上国有化されることになる。地銀の経営陣にとっては最も避けたい事態であり、実は国側にとっても大株主として関与することは責任重大であり回避したい事態なのだ。

このようななか、事実上の返済期限が迫ってきており、2年後の2024年3月末の南日本銀行を皮切りに、同年9月末には、みちのく銀行、三十三銀行、きらやか銀行の一部、同年12月末には東和銀行、高知銀行と多くの地方銀行が、順次返済期限を迎えることになっている。

このため、公的資金返済を見据え、各行はそれぞれ策を講じている。例えば、

2021年5月:合併により三十三銀行が誕生
同年7月:南日本銀行が第三者割当増資を実施(85億円)
2022年4月:青森銀行とみちのく銀行が経営統合し持ち株会社を設立
同年3月:宮崎太陽銀行が第三者割当増資を実施(60億円)

■規模も業績も冴えない地銀12行

公的資金注入12地銀は、東京など三大都市圏などから離れた過疎地域を基盤とする地域の二番手三番手の小規模地銀が多い。メガバンクは無論、地銀のなかでも、大企業や地元の有力企業との取引も少ない。一方で地元の中小・零細企業との取引は、地域のトップ地銀や信用金庫に押さえられていたりする。

概して優良な貸出先を持たず、資産規模も小さいこうした地銀は、不況や金融危機など外部環境の悪化をより受けやすいなか、常に新しい取引先や運用先を開拓せざるを得ず、結果的にリスクの高い事業や取引先に貸し出しを行ったり、外国証券などへの投資に傾斜することで、不良債権化したり含み損が拡大し業績が悪化するケースを繰り返してきた。

実際、コロナ対応の政府保証付き融資の増加や、貸倒引当金の減少などで多くの地銀が増益となるなか、米国金利の上昇などにより有価証券の含み損が発生するなど、公的資金注入12地銀の業績は冴えない。

裏地付きの銀行看板
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

■きらやか銀行が3度目の公的資金申請

こうしたなか、2022年5月に、じもとホールディングスが、傘下のきらやか銀行への金融機能強化法に基づく公的資金申請の検討を表明し、同年6月の株主総会にて議案が可決された。

きらやか銀行は、SBIとの資本業務提携により収益力の強化を目指したが、有価証券の含み損が121億円に拡大するなど業績が悪化していた。

きらやか銀行が公的資金を申請するのは、リーマン・ショック後の2009年、東日本大震災後の2012年、そしてコロナ禍下の2022年となんと3度目になる。しかも、現在ある300億円の公的資金残高のうち、200億円の返済期限が2024年9月に迫っているのだ。

驚くべきことに、3回目の申請予定の公的資金は、コロナ禍での地元取引先支援のために設けられた「コロナ特例」により、通常は15年以内という返済期限を実質的になくすだけでなく、効率性の目標や経営責任なども求められないという。

これは、実質的に返済期限付き公的資金から半永久公的資金への借り換え資金の提供とも捉えられよう。経営体制やビジネスモデルが維持され、リストラも問われないならばと、きらやか銀行と同じように事実上、期限までに返済が難しい他の公的資金注入行が、「コロナ特例」による公的資金申請に殺到することもこの先起こり得よう。

■地銀だけが優遇されるモヤモヤ感

もちろん、公的資金による資本増強により、地銀の経営が安定し、コロナ禍で疲弊する地元企業向けの貸出余力が増え、企業業績の向上により、地元の雇用と納税が増え、地域経済が好転すれば、納税者である国民の理解も得られるだろう。

しかしながら、実態は、コロナ対応や地域経済の支援という「錦の御旗」のもと、公的資金が半永久的に塩漬けとなり、上場する民間企業である銀行という特定業種のみを守り、温存するために使われているのであれば、大問題だろう。

「俺たちは銀行だから、守られて当然」。地銀内部にそんな不遜な考えがあるのではないかと他の業種で働く大多数の人々や一般市民が怒ってもおかしくない。

度重なる銀行への公的資金の注入が、本当に地元企業や地域経済に資するものなのか、少なくとも、店舗や人員のリストラ、配当の停止や削減、経営責任の明確化、そして返済スケジュールなどは、制度的に求められていない場合でも、上場する株式会社として、公表・実行すべきではないだろうか。

銀行のサイン
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

■末路は、合従連衡か、銀行免許返上か

地銀再編や地銀衰退が叫ばれて久しい。人口減少が進む一方、ネット銀行やスマホ銀行など異業種の進出も続き、先行きは厳しい。

こうした環境下、例えば、資産規模で1兆円以下、時価総額100億円以下、コア業務純益が10億円以下といった地銀がこの先も、同じ経営主体、同じビジネスモデル、同じ商品ラインナップで生き残れる可能性は低くなってきている。その上、公的資金を抱えていればなおさらだ。

単独での生き残りは事実上困難であり、現在の苦境を打破するには、店舗や人員のリストラを実施した上で、規模の経済を得るための合従連衡となるはずだ。

2022年10月には、愛知銀行と中京銀行が経営統合に伴い持ち株会社を設立するなど、生き残りをかけた地銀再編も進んでいる。現在、行き先が未定の地銀も、大手地銀やSBIグループ入りといった選択が迫られることになろう。

場合によっては、公的資金が必要になるほど厳格な自己資本比率規制など、銀行に課せられたさまざまな厳しい規制から逃れるため、銀行免許を返上してノンバンクとなるケースも考えられよう。同じように可能性があるのは、M&Aや事業承継仲介の会社になる、地域商社や人材紹介会社として生き残る、といった動きだ。いずれの場合も、リストラが大前提にはなる。

■最も大切な信用力が失われる

借りたお金は期限までに返すことは、現代社会の仕組みにおける基本中の基本の一つだ。常日頃、個人から中小企業や大企業に至るまで厳格に取り立てに回っている銀行自身が、公的資金返済という形で、その振る舞いを問われているのだ。

足元のコロナ禍や物価高で、多くの個人、企業、自治体も四苦八苦し、家計や業務や財政をやりくりするなか、業績が悪くなると公的資金が何度も申請できる地銀は甘やかされているのではないだろうか。地元住民や企業などの離反により、地銀にとって最も大切な信用力が失われる事態となる前に、自ら律し、行動する必要がある。

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高橋 克英(たかはし・かつひで)
マリブジャパン 代表
三菱銀行、シティグループ証券、シティバンク等にてクレジット・アナリスト、富裕層向け資産運用アドバイザー等で活躍。世界60カ国以上を訪問。バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、ハワイ、ニセコ、京都、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。1993年慶應義塾大学経済学部卒。2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。日本金融学会員。著書に『銀行ゼロ時代』、『地銀消滅』、『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』など。

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(マリブジャパン 代表 高橋 克英)

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