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日本車は「EV市場」でも世界一をとれる…バイク業界が先行する「交換式バッテリー」という有望シナリオ

プレジデントオンライン / 2022年7月6日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Дмитрий Ларичев

電気自動車(EV)の市場で日本企業は出遅れたといわれる。これから日本車はどうなるのか。モビリティ・コンサルタントの西口恒一郎さんは「現在のEVシフトは『3つの壁』を棚上げしているので、まだ限定的だ。今後、本格普及するタイミングで、『交換式バッテリー』を押さえれば、日本車はまた世界一をとれるだろう」という――。

■EV販売台数でホンダは27位、トヨタは29位

世界で電気自動車(EV)の普及が加速している。日本経済新聞は4月12日、一面トップで「2021年に世界の電気自動車(EV)の新車販売台数が約460万台と20年の2.2倍に増え、初めてハイブリッド車(HV)を上回った」と報じた。

こうした流れにおいて、トヨタや日産、ホンダなどの国内プレーヤーの存在感は決して大きいものではない。むしろ、出遅れた、ともいえる状況だ。

日本経済新聞の集計によると、2021年のメーカー別EV販売台数の1位は米テスラ。そして2位の上海汽車集団をはじめ、上位20社・グループ中12社が中国勢となった。日本勢は日産・ルノー・三菱のグループの5位が最高で、ホンダは27位、トヨタは29位に位置する。

EV市場を牽引するヨーロッパや中国の自動車メーカーは、脱炭素化の流れの中でいち早くEVへ舵を切り、政府からの大規模な投資を受けてEV普及のためのルール作りを進めてきた。販売台数でも存在感を放っている。

一方の日本は、市場に出回っているEVの比率はまだまだ低い。今後、EVが自動車業界の主戦場に移り変わるのであれば、改めて国内プレーヤーはEVの展開戦略を考え、いま一度、自動車ビジネスをリードするポジションを奪い返す必要がある。

出遅れた日本の自動車メーカーは挽回することができるのか。筆者は可能であると考えている。重要なカギを握るのはバッテリー(蓄電池)だ。今年から二輪電動バイクで始まる「交換式バッテリービジネス」がEV領域で非常に参考となる。本稿ではEV普及と日本の自動車メーカーの今後の可能性について考察したい。

■なぜ日本の自動車メーカーは出遅れたのか

ヨーロッパや中国などの「EV先進国」と日本を比較すると、決定的に異なるのは行政側からのEVシフトへの投資である。例えば、ヨーロッパでは既に国からの補助政策によってガソリン車を購入するよりも、EVの方が安くなっている状況である。

【図表】フォルクスワーゲン e-ゴルフに対する各国の補助金
出典=ICCT“ECONOMIC RECOVERY PACKAGES IN RESPONSE TO COVID-19: ANOTHER PUSH FOR ELECTRIC VEHICLES IN EUROPE?”

また、補助政策によってEV購入のハードルを下げるだけではなく、国によってはEV専用の高速レーンや駐車場の設置などさまざまなメリットを作り上げ、EV市場の拡大に注力しており、この動きは中国でも同様である。

これらの動きの背景にあるのは、対日本車、特にハイブリッド車への競争戦略と考える。日本のハイブリッド車の品質は非常に高く、他国の追随を許さない状況となっており、だからこそカーボンニュートラルという錦の御旗の下にゲームチェンジを仕掛けているのが現在のEV先進国の状況ではないだろうか。

その一方で日本では、ハイブリッド車に強い各自動車メーカーとベース電源の多くを火力発動に頼っている電力構成の中で、行政側のドラスティックな改革が進んでいないのが、EVシフトの遅れをもたらしていると考える。

■EVが普及するための絶対条件

しかしながら、本当にEVが自動車市場のマジョリティーになり得る日が来るのだろうか。EVシフトが加速している状況ではあるが、2020年のEUと英国の新車販売台数におけるEVの割合は約5.6%。中国は4.4%、アメリカは1.8%ほど。日本は0.6%にとどまっている。

筆者はEVにはいまだに議論が不十分な未解決の問題が散見され、その解決無くして、EVが自動車のメインになることはないと考える。EVシフトがさらに進むには、越えなければならない「3つの壁」がある。それは、①航続距離、②充電時間、③電池の劣化、である。

1つ目の壁は「航続距離」。EV用の蓄電池は日進月歩で技術革新が進んでいるものの、現状ではEVの実質エネルギー搭載量はガソリン車の3分の1程度にとどまっている。特に冬場の走行は電力を大幅に使用してしまうため、表面上の航続距離よりも実質の航続距離が短くなる。

2つ目の壁は「充電時間」。経済産業省のまとめによると、急速充電でも航続距離80kmで約15分、160kmで約30分を要する。ガソリン車の場合、ガソリンスタンドでの給油が2~3分で済むことを考えると、この時間差は大きい。

深夜の時間帯に自宅で充電すれば、普通充電で問題ない。だが、現在の航続距離では外出先で急速充電が必要となるケースも出てくるだろう。EV普及には急速充電のインフラ(充電ステーション等)を整える必要があるが大きな投資が必要となる。

日本政府は2030年までに公共用急速充電器を3万基に増やす目標を掲げている(現在は8000弱にとどまる)。本体だけで100万円超となるため、設置費用を含めた導入コストは大きく、設置した事業者が投資額を回収するまでに時間を要する難点がある。

■電池の劣化、下取りで不利になる…

3つ目の壁は「電池の劣化」。自動車を乗り換える場合、現在の車を下取りに出し、購入費の一部を補塡(ほてん)するのが一般的だ。しかし、電池の劣化のリスクがあるEVは、下取価格が安くなる傾向がある。

EVの日産・リーフと、ハイブリット車のトヨタ・プリウスを比較してみよう。下取りに出す時の価格(残価)はEVのほうが低い。2019年式の残価率はリーフが45.8~53.6%、プリウスは66.7~70%。2018年式はリーフが39.7%、プリウスはが7.4~60.1%に低下する。

このようにEV普及には解決すべき問題はまだまだ残っており、日本だけでなくEV先進国であるヨーロッパや中国も例外なく当てはまっている。EV先進国の多くは、こうしたEVが抱える未解決の問題をある種、棚上げしてもゲームチェンジを仕掛けてきているのである。

電気自動車のバッテリー残量を知らせるディスプレー
写真=iStock.com/baloon111
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/baloon111

だからこそ、この未解決の問題をクリアしていく事が本質的なEVシフトの実現、かつ、世界にもう一度、日本車の存在感を示すことにつながるのではないか。そのヒントになるのが、「交換式バッテリー」という新しいモデルである。

■「交換式バッテリー」という解決策

通常のEVは、車載の中に蓄電池が搭載されており、充電器よりプラグを差し込んで充電する。取り外しは専門業者でなければ不可能である。

一方、交換式バッテリーであれば、街中に設置されているバッテリーステーションで使用して容量の減ったバッテリーと、ステーションで用意されている満充電のバッテリーを交換できる。

この仕組みにより、利用者はいつでも満充電されたバッテリーを待ち時間ゼロで使用でき、航続距離を気にする必要が無くなる。またEV車体と蓄電池を切り離すことで、下取価格の低下を抑制することにも寄与できる。

その一方、EVの交換式バッテリーには課題もある。

一番は「コスト」である。

一般的な乗用車のEVに搭載される蓄電池重量は200kg~300kgにもなり、当然、ユーザーが自分で交換することはできない。そのため、全自動のバッテリーステーションの設置が必要になるが、設備投資のコストが大きい。

また、そもそも市場に投下する車両本体よりもバッテリーの数が多くなければ交換式が成り立たないので、結果として蓄電池の製造コストも高くなる。投資コストを回収するためには、各メーカーが製造するEV用蓄電池を共通規格とし、市場ボリュームを大きくすることが重要だが現在の競争環境の中では難しい状況である。

国外を見れば先行事例が全く無いわけではない。中国のEVメーカー「NIO」が交換式バッテリーサービスを中国本土で展開している。しかし、単一企業が国からの支援無しに事業採算が取れるかどうかは不明である。

■世界に先駆けて、日本の二輪業界で始まった変化

現状のEV領域では交換式バッテリーには課題が多く、実現難易度は相当に高い。しかし、ポジティブなニュースもある。この交換式バッテリーのビジネスモデルが「二輪電動バイク」の領域で進みつつある。しかも、日本で。

2022年3月末、国内の二輪メーカー大手4社(ホンダ、スズキ、ヤマハ発動機、カワサキモータース)と石油元売り大手のENEOSが新会社「Gachaco(ガチャコ)」を設立した。

同社は、電動バイク向けの交換式バッテリーシェアリングサービスなどを手掛ける。外出先で充電が切れてしまった場合でも充電済みのバッテリーと交換できる拠点を、東京や大都市圏などにあるエネオスのガソリンスタンド内につくる計画だ。

二輪であれば、搭載する蓄電池の重量を抑えることができ、ユーザー自身が手動で取り外すことが可能だ。バッテリーステーションの設備投資のコストも小さくて済む。そして一番のポイントは、本来はライバル同士である国内二輪メーカー4社が手を組み、交換式バッテリーの規格を共通化する点だ。

【図表】バイクと共通規格のバッテリー
出典=Gachaco(ガチャコ)オフィシャルページ

電動バイクの普及には、長時間充電の面倒さや、外出先での充電切れへの懸念が課題として挙げられていたが、この問題をバッテリーの循環利用の仕組みで解決を目指している。バッテリーの共通規格化により、電動バイク市場を広げる準備を整えたことは大きい。

■バッテリーの「共通規格化」が国産EVを変える

新会社は電動バイクだけでなく、商業施設や住宅などのバッテリー分野でも共通規格化を進め、バッテリーの循環利用の促進を狙う。これは国産EVの未来を考えるうえで非常に重要な示唆を与えてくれていると、私は考えている。

なぜなら、このような二輪での交換式バッテリーのモデルを四輪(EV)に転用することができれば、まだまだ国内プレーヤーにも勝機はあるはずだからだ。

これまで述べたように、全てのEVには共通する「3つの壁」がある。交換式バッテリーは、その問題点をブレイクスルーさせるビジネスモデルだと言える。二輪ではあるが、日本からこうした動きが起きることは評価できる。

先に述べたように、現在、EV市場を牽引する多くのヨーロッパや中国の自動車メーカーも、普及にあたっての3つの壁を乗り越えられず、問題を棚上げしている。走行距離をなんとか伸ばそうと、蓄電池の開発競争にいそしんでいる。だが結局のところ、どれだけEVを市場に投下したとても真にユーザーメリットが無ければ長期的に顧客を維持することはできない。

もしこの問題を解決できるモデルを日本メーカーが提供できるようになれば、EV市場の構図を塗り替えることが可能なのではないだろうか。交換式バッテリーの仕組みは、EV競争のゲームチェンジャーになる可能性がある。自動車分野でも生まれれば、日本勢がテスラや中国の新興メーカーを追い越す道筋も見えてくるだろう。

■日本の国産EVは必ず復活できる

ここでは2つの進化の方向性について考えたい。

1つ目の方向性は、対象車種を絞り込んだ上でのバッテリーの共通規格化。車種タイプとしては乗用車であれば多品種になるので、商用車のセグメントが望ましい。特に、商用車は高い稼働率が求められるので、充電式よりも交換式バッテリーの方が親和性は高い。

そして、2つ目の方向性は小型化。トヨタのコムスのように超小型EVであれば使用するバッテリーの重量を抑えることが可能であり、交換式を採用することは可能なのではないか。

この2つの方向性のいずれか、あるいは組み合わせによって、四輪(EV)の領域でも交換式バッテリーのモデルは広がる可能性は高い。そして、当然ながら国内だけではなく、グローバル全体でEVシフトの波が来ている以上、この市場は世界に広がっていく。

自動車産業を軸に経済成長を続けてきた日本だが、今日のグローバル競争において最も重要なルール作りは欧米に先に越されている。現在、カーボンニュートラルというルールチェンジによって市場は大きく変わりつつあり、今の構造を塗り替えていくのであれば日本はメイド・イン・ジャパンの新たなルール・規格を作り、市場に投入すべきではないか。

日本はもともと自動車製造、蓄電池製造ともに世界をリードできる技術レベルである。特に性能を落とさずに小型化、軽量化する技術は今も高い水準であり、それは交換式バッテリービジネスにおけるポイントとなる。

今後、EV市場で日本がポジションを奪い返すために足りないピースはEV普及に向けたビジネスモデルであり、現在、二輪バイクで進んでいる交換式バッテリーのモデルを四輪(EV)に転用することによって、改めて国内プレーヤーの存在感を世界に示すことは可能なはず。

EV市場において、テスラや中国の新興メーカー、あるいはヨーロッパ勢の存在感が増す中、改めて国内プレーヤーが世界をリードしていく1つの鍵として交換式バッテリーのビジネスモデルがあるのではないだろうか。今後の日本勢の飛躍を期待したい。

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西口 恒一郎(にしぐち・こういちろう)
モビリティ・コンサルタント
2015年、リブ・コンサルティングへ入社。モビリティインダストリーグループのディレクターとして、自動車メーカー、公共交通事業者、自治体を対象に、中期経営計画の策定、新規事業開発、M&A/PMIなどのテーマを担当。現在は、MaaS事業開発、地域モビリティサービスの展開など持続可能なモビリティ社会の実現に向け活動中。2020年より、三重県伊勢湾熊野灘広域連携スーパーシティ推進協議会のメンバーとして、交通空白地の移動題解決に向けたモビリティサービス開発を担当。

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(モビリティ・コンサルタント 西口 恒一郎)

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