これがわからないと日本語は読み解けない…中学受験塾が小学生に教える「人の気持ち」6パターン
プレジデントオンライン / 2022年7月3日 13時15分
■人の感情がわからないと国語の成績は上がらない
文法知識がしっかり身に付いていて、文章中に書かれた事実関係も正確に把握できるのに、なぜか国語の成績が悪いという子たちがいます。
この場合に足りないと思われるのは「背景知識」。
これには、時代背景や文章が題材にしているテーマについての知識も含まれますが、大きなポイントとなるのが「人の感情」です。事実関係の読み取りはできているのにテストの特に物語文で点数が取れないというのは、「人の感情」が理解できていないパターンがとても多いのです。
入試でよく出る文章は、大きく「論説文(ここでは説明文も含む)」「物語文」の2つに分けられ、特に物語文では、登場人物の心情を問う問題がよく出題されます。
ですが、人生経験の少ない子どもたちが、他人の心情を推し量るのには限界があります。自分が経験したことのない状況であればなおさらです。
■感情を「知識」として教える
そこで、私が行っているのが、「人の気持ち」の前提となる「物語の型」についても背景知識として教えること。
受験で出題される物語文のパターンを分析して6つに分け、それぞれオリジナルの名前を付けて子どもたちに解説しています。そして、それを理解して確実に記憶するよう指導しています。
② ビンボースペシャル……いわゆる「マイナス面」がある人の情況と気持ち
③ 愛の物語……子どもへの愛情
④ 二元論スペシャル……理性と感情に関する情況と気持ち
⑤ お金スペシャル……売り上げと経費など経済的な知識
⑥ ラブラブスペシャル……恋愛感情
■親の愛情を子どもは理解できていない
たとえば「③愛の物語」。
子に対する親の愛というものを、子どもたちが本当に理解するのはまだ難しいため、ひとまず知識として教えるしかありません。そこで、私は、次のように説明しています。
「親の愛は、どんなことがあっても(無条件)・なんとしても(無限定)に子どもを守りたいという気持ち」
もし自分の子どもがたとえば殺人のような凶悪な罪を犯したとしても、子どもの味方でいるというほどの強い感情です。
もちろん、中にはそうでない親もいるかもしれませんが、中学受験問題では典型的な親の愛について出題されることがほとんど。
子どもたちは、物語文の前書きや登場人物を読んだ段階で「あ、これは親の愛に関する物語かもしれない」と見当を付け、本文そのものに加え前もって学んだ親の心情についての知識も踏まえて問題を解いていくことになります。
■「マイナス面」を持つ人にしてはいけないことは何か
また、10年ほど前には「①成長の物語」がとても多かったのですが、近年では「②ビンボースペシャル」に関する物語の出題が増加する傾向にあります。
これは、見方を変えれば「自分とは違う立場の人」の心情の理解力を試す問題が増えたことでもあります。この理解力は実生活でも極めて重要ですよね。
入試で出題されるいわゆる「マイナス面」を持った人とは、たとえば貧しい家庭に育った人物をはじめ、障がいを持った人、離婚家庭の子ども、戦争の状況下に生きる人などです。
ここでは、わかりやすいように、まずは、「お金持ちの登場人物」「貧乏な登場人物」という2つの軸で説明しましょう。
「お金持ち」が「貧乏」に対して抱く感情には、「見下す」といったマイナスのものから、「かわいそう」「少しうしろめたい」「同情」など相手にプラス面も見いだしているものまでさまざまです。
いっぽう、「貧乏」が「お金持ち」に抱く感情はまずは「ねたむ」「しっとする」「ひがむ」などのマイナス感情が目につきます。
しかし、「貧乏」が抱く感情のほうはそれだけではなく、「強者に頼る」「反発する」「プライドが傷つく」「引け目を感じる」など、より複雑になることが多いのです。この辺りが、物語文を読み解くカギとなることも多くあります。
この情況において基本となる考え方のルールは、「マイナスの部分を持っている人に、マイナスを実感させることをしてはいけない」というものです。
これは、入試で本当にたくさん出題されます。単純化した例を挙げれば、「脚が不自由な子を助けたらその子に怒られた、それはなぜか」というような問題です。
これは、前述のルールを知らなければ、解くのはなかなか難しいでしょう。
実際にも、私が以前に目の不自由な方が車道に出てしまっているのを助けた際に、「車道に出ていますよ」と伝え歩道まで誘導してあげたら、その方が「ありがとう」も言わず不快そうにしていたことがあります。
私は、「ビンボースペシャル」のルールどおり、良かれと思ってやったことでも相手に「マイナスを実感させてしまい、相手が不快に思うこともあり得るということを理解していたので私にとっては「想定内の出来事」でしたが、そうでなければ嫌な気持ちになったりトラブルになったりする可能性もあったでしょう。
■算数が得意な子に苦手が多い「恋愛感情」
もうひとつこんどは「⑥ラブラブスペシャル」を例にとってみましょう。
小学生くらいであれば、恋愛に疎い子もまだまだたくさんいます。とくに算数が得意な子は男女問わず、恋愛感情がわからないケースがなぜか多いのです。たとえば、桜蔭中学校に合格したある女の子は、「(ある人と)一緒に子どもを育てたい」と言う主人公は、その相手を好きだ、ということがわかっていないので驚いたことがあります。当然、比喩的な心理描写を読み解くことはさらに苦手です。
たとえば、物語文のなかで、主人公の「ある女の子」に対する次のような記述があるとします。
・その子がキラキラして見える。
・その子がすきとおって見える。
こういった表現を読んでも、恋愛感情だということがピンとこない子も多いのです。
そこで、私の教室では、恋愛感情とはどういうものか、人を好きになったときに自分がどんな行動をしてしまうか、相手がどのように自分の眼にうつるのかをくわしく説明し、理解して確実に記憶するよう指導しています。
男女の恋愛とは、相手に好意を持ち、何かを分かち合いたいと願ったり、憧れの感情を抱いたり、心がときめいたりすることです。それが三角関係になると、そこに嫉妬ややきもちなどの感情が入っていきます。自分が相手にされなかったり、振られたり、失恋したりすれば、自分に足りないマイナスの部分を考えることになり、前述の「ビンボースペシャル」へつながることもあります。
■知識として教わったこともやがて身になる
本当に、これらのことを知識として教えなければいけないのかと感じる親御さんもいるかもしれませんが、実際、こういった立場の違う他人の感情を学べないまま大人になってしまうケースは多いと思われます。いわゆる「デリカシーに欠ける」タイプの人は、他人の感情を理解しにくい人だといえるでしょう。
さらには、相手の立場や気持ちがわからないということは人権意識の欠如や男女差別にもつながり、パワハラやセクハラ、マタハラなどのトラブルを起こしかねません。
最初は技術として人の感情を学んでも、それらはいつか身になります。知識として教わったことが、子どもたちのこれからの経験のなかで実感され、心に響くこともあるでしょうし、実感は伴わなくても「そう感じる人もいるんだな」と理解することで、相手を尊重することができるようになるのではないでしょうか。
■読解力がないとトラブル続きの人生になる
文章や言葉から相手の真意を読み取るという読解の力は、受験的な勉強のみならず実生活にも直結する大切なスキルです。
ジャーナリストの江川紹子さんは、「大事なのは『読む力』だ!〜4万人の読解力テストで判明した問題を新井紀子・国立情報学研究所教授に聞く」という記事で、「ツイッターでトンチンカンな反応をする人は、“AI読み”で誤読しているのではないか」と指摘しています。
ここでの「AI読み」とは、文章のなかのいくつかの単語を拾い、それを自分で勝手につなぎ合わせて「理解」するということ。トンチンカンな反応をする人たちは、江川さんのツイートのいくつかの単語を拾って、それを勝手につなぎ合わせて「江川さんの主張」をつくり上げ、それに対して反論しているらしい、ということです。
受験生に国語を教えている私も、日々同じようなことを感じています。長文の問題文を読んだり、設問を解いたりする際、子どもたちも「AI読み」的なことをしている場合があるからです。目についた単語をかってに組み合わせて、かってに「理解」し、問題を解いている子が非常に多いのです。この読み飛ばしの癖を正し、精読する力をつけてあげることも、未来ある子どもたちに対しての私の使命だと思っています。
文章を、背景知識も含め正しく読み取る力を育てれば、誤読や勘違いでトラブルになることも防げます。
また、AI(人工知能)が最も苦手とする分野である背景知識も含めた「読解力」を生かせば、AIに取って代わられない人間にしかできない分野で活躍することができます。
ぜひ、子どもたちはもちろん、大人のみなさんもお子さんと共に学び、読解力を武器に人生を切りひらいていきましょう!
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β(ベータ)国語教室 代表
早稲田大学法学部卒。四谷大塚講師を経て、1994年文京区千駄木に日本初の中学受験国語塾β(ベータ)国語教室を開設。以来、千駄木、本駒込、南青山、白金高輪、お茶の水の5教室を展開し、約700人の受験生を、独自のノウハウに基づく一対一の指導で合格に導いている。著書に『全教科対応! 読める・わかる・解ける 超読解力』『全試験対応! わかる・書ける・受かる 超思考力』(ともにかんき出版)がある。
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(β(ベータ)国語教室 代表 善方 威)
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