「ついにBMWを凌駕するか」マツダの新型SUV「CX-60」の技術、燃費、装備がすごすぎる
プレジデントオンライン / 2022年7月3日 11時15分
■マツダはBMWを超えられるか
私は4年前の2018年、『マツダがBMWを超える日』という本を書いた。
マツダは2010年から「魂動デザイン」を推進していて、欧州プレミアムブランドのようなデザインの一貫性・統一性を持たせ、内外装の品質レベルを大きく向上させようとしていた。いわば欧州プレミアムブランドのような戦略に、日本メーカーの中で唯一挑戦したわけだ。
高圧縮を実現し燃焼効率を上げたガソリンエンジン、逆に低圧縮で後処理なしに規制をクリアできるディーゼルエンジンなど、独自性の高い技術(総称してSKYACTIV)も次々導入された。そしてそれが成果としても表れ、各モデルの販売単価は大きく上昇し、それまでの大幅値引きによる販売から高付加価値モデルを中心とした販売になり、ブランドイメージも大きく変化していた。
この動きを見て、同じく運転の楽しさをブランド価値のコアに置くBMWと比肩するブランドに育っていく可能性があるのではないかと思い、このようなタイトルとしたのである。
■プレミアムブランド化の反面、走行性能に課題あり
2018年以降に発売されたモデルもそのデザインレベル、内外装の仕上げレベルはさらに向上し、少なくともショールームで見る限りはドイツプレミアムブランドの同車格モデルと比べても勝るとも劣らないレベルに達していた。
最近の最量販モデルは中型SUVのCX-5で、しかも高品質な内装を備え400万円クラスの最上級グレードであるエクスクルーシブモードが最も売れ筋となっていて、輸入車からの乗り換えも増えているらしい。高価なディーゼルモデルのロイヤルティー(マツダからマツダへの乗り換え)も8割を越えている。
マツダブランドのプレミアムブランド化は着実に進んでいるように見受けられる。しかし肝心の走りという意味では、最新モデルでもレベルアップは果たしていたもののまだBMWのレベルには達していない、というのが私の正直な印象だった。
■FRを選択したCX-60の挑戦
しかし今年、いよいよ走りのレベルでもBMWと同列で語り得るのではないかというモデルが登場する。現在の最高価格帯を担うCX-5/CX-8(CX-8は3列シートモデル)のさらに上級価格帯を狙う、CX-60である(3列シート版のCX-80も控えている)。
最近のマツダ車は、ロードスターを例外としてすべてFF(前輪駆動)を基本としてきたが、CX-60はFR(フロントエンジン、リア駆動)を採用したのである。メルセデスベンツとBMWは伝統的にFRを採用しており、現在でもミドルレンジ以上の車種はすべてFRである。トヨタもレクサスの最上位モデルはFRを採用している。
FRのベネフィットは操舵輪と駆動輪が別々のため操舵感に優れ、後輪を駆動するため前後の重量配分を均等にでき(FF車は駆動力を伝えるために前輪に大きな荷重をかけざるを得ない)、バランスの取れた操縦性と乗り心地を実現できる。
しかしFRはスペース効率的に不利で、コストもかかることからマスブランドで採用しているメーカーは限られる。マツダはより良い走り味を追求してあえてFRを採用したのだ。
■ロードスターと同形式のサスペンション
さらにサスペンションにはフロントにダブルウィッシュボーン、リアにマルチリンクという、高性能ではあるがコストのかかる形式を採用している。
特にフロントサスペンションにダブルウィッシュボーンを採用している車種は非常に少なく、BMWは5シリーズ以上、メルセデスベンツもCクラス以上で採用しているにすぎない。
マツダ的にはロードスターと同じ形式のサスペンションをCX-60に装備したことになる。SUVであることを考えれば過分にも思えるが、マツダの担当者によれば、それによりロードスターにも通じる軽快なハンドリングを実現したという。
シャーシだけでなく、エンジンもプレミアム感あふれるものが搭載されている。通常の4気筒ガソリンエンジン搭載車もラインアップされているが、注目は直列6気筒ディーゼルエンジンとPHEVモデルだ。
■ユニークな直列6気筒ディーゼルエンジン
日本仕様のPHEVモデルについてはまだ詳細が発表されていないので、直列6気筒ディーゼルモデルについて分析してみたい。直列6気筒は理論的に完璧なバランスの取れた理想的なエンジンなのだが、長さが長くなるためFF車には搭載しづらい。
ほとんどの車がFFになってしまった現在、乗用車用の直列6気筒エンジンを量産しているメーカーはBMW、メルセデスベンツ、ジャガーランドローバーのプレミアムブランド3社のみにとどまる。
この新しいマツダのエンジンは単に直列6気筒エンジンだというにとどまらないユニークな特徴がある。このエンジンは3300ccとかなり大きな排気量を持っている。通常、排気量が大きくなるとパワーは大きくなるが燃費は悪くなるというのが常識だ。
もちろん、CX-5に搭載されている2200ccのエンジンよりパワーは大きい。CX-5の190馬力に対して254馬力(マイルドハイブリッド仕様の場合。通常モデルは231馬力)となっている。しかし排気量が1.5倍になっているほどの出力向上ではない。
BMW X3の場合2000ccディーゼルは190馬力なのに対して3000ccディーゼルは286~340馬力となっているので、3300ccとしては控えめな出力である。
■大排気量を生かして低燃費を実現する「常識外れの試み」
いたずらにハイパワーを追わない姿勢は最近のマツダらしいが、これにはきちんと理由がある。マツダは大排気量を生かしてかえって低燃費を実現する、という常識外れのパラドックスに挑んでいるのである。
マツダは大排気量の余裕を生かして、リーンバーン領域を大きく拡大、出力あたりの燃料消費率を大きく下げることに成功したのだ。さらにディーゼルエンジンの欠点であるNOx排出量の大幅低下も実現している。
特にマイルドバイブリッドモデルでは、効率の低下する低負荷領域は電気モーターに任せることで全域での高効率化を図り、燃費に不利な4WDモデルであるにもかかわらずWLTCモードで21.1km/lという素晴らしい値を実現している。マイルドハイブリッド非搭載でも18.5km/lという数字だ(4WDモデルの場合。2WDは19.8km/l)。
これがどれほどすごいかというと、ボディサイズの近いBMW X3 20d(2000cc)の14.5km/l、M40d(3000cc)の13.8km/lと比較すれば一目瞭然だ。メルセデスベンツGLC 220d(2000cc)も15.1km/lである。
■1500ccエンジンのマツダ2並みの燃費か
さらにすごいのは、身内のCX-5 XD(2200cc、4WD)の16.6km/lさえ大きくしのぐのだ。CX-5どころか、1800ccのCX-30 XDの18.7km/lやマツダのSUVで一番小さいCX-3 XDの19.0km/lさえ上回っているのである(どちらも4WDの数字)。
1500ccエンジンを搭載するマツダ2の2輪駆動モデルの21.6km/lに近い水準なのだ。
ディーゼルエンジン以外に目を向けると、ハリアーハイブリッドのE-Fourモデル(2500ccガソリンエンジン+ハイブリッド)の21.6km/lにも迫る値で、しかもハリアーよりパワフルだ(ハリアーのシステム最高出力は222馬力)。
軽油はガソリンよりも安いため、ハリアーハイブリッドより経済的かもしれない。
■自社開発・自社製造のトランスミッション
エンジンだけではない。トランスミッションもなんと自社開発・自社製造という新しい8速オートマチックトランスミッションを搭載している(CX-5は6速)。これがまた通常の8速オートマチックトランスミッションとは異なるユニークな特徴を持っている。
通常オートマチックトランスミッションはトルクコンバーターという流体を使った機構を用いるが、CX-60にはこのトルクコンバーターがなく、電子制御の湿式多板クラッチを用いている。
ツインクラッチ式のトランスミッションでは採用例が多いが、通常のオートマチックトランスミッションでこの方式を採用しているのは、私の知る限りメルセデスベンツAMGの高性能モデルだけである。
この方式は駆動のダイレクト感が増し、キレのある加速を楽しめるが、発進時や変速時の快適性はやや犠牲になる。それを緻密な制御によって快適性も担保しているという。
■これは「コスパ最高」か
最後に、驚くべきは価格だ。この3300cc、6気筒ディーゼルエンジンを搭載したモデルは323万9500円から買えるのである。CX-5のディーゼルモデルは299万7500円からだから、24万2000円しか差がない。CX-5の販売に影響が出るのではと心配になるくらいだ。
もちろん、マイルドハイブリッド仕様は装備や内装が大きくアップグレードされることもあり約500万~550万円となっており、CX-5の最上位モデルとの差は100万円以上と大きくはなるのだが。
一方で上位モデルの内装の質感は非常に高く、BMWやメルセデスベンツから乗り換えても全く不満は感じられないレベルにある。BMW X3の6気筒ディーゼルモデルは931万円もするし、4気筒モデルでも741万円だ。
メルセデスベンツGLCには6気筒ディーゼルモデルはなく、4気筒で768万円だ。装備もCX-60のほうが圧倒的に充実しており、CX-60の6気筒ディーゼルモデルのお買い得感はすさまじいものがある。
■FR採用で次のステージに進む可能性…
価格だけでなく維持費の安さ(定期点検や部品交換にかかるコストは日本車のほうがかなり安い)や利便性(点検にかかる時間は日本車のほうが圧倒的に短い)も考えると、このCX-60はドイツプレミアムブランドからの乗り換えもかなり多くなるのではと思われる。とにかく質的に今までのマツダ車のレベルを大きく超えた1台なのだから。
マツダがプレミアムブランドに向かって大きな一歩となりそうなこのモデル、発売は今年9月である。今から試乗できる日が待ち遠しくてならない。
今後、このFRプラットフォームを採用したモデルが次々と登場するだろう。願わくは、日本では少々手に余る大型車だけでなく、純粋にドラビングプレジャーを満喫できるマツダ3クラスのコンパクトモデルもFR化してほしいところだ。
もしコンパクトモデルにもFRを採用するようになったら、本当にマツダはBMWと並ぶ、もしくは超えるドライビングプレジャーを持つブランドに成長するかもしれない。
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マーケティング/ブランディングコンサルタント
1960年、東京・新橋生まれ。1984年慶應義塾大学経済学部卒業、同年電通入社。戦略プランナーとして30年以上にわたってトヨタ、レクサス、ソニー、BMW、MINIのマーケティング戦略やコミュニケーション戦略などに深く関わる。1988~89年、スイスのIMI(現IMD)のMBAコースに留学。フロンテッジ(ソニーと電通の合弁会社)出向を経て2017年独立。プライベートでは生粋の自動車マニアであり、保有した車は30台以上で、ドイツ車とフランス車が大半を占める。40代から子供の頃から憧れだったポルシェオーナーになり、911カレラ3.2からボクスターGTSまで保有した。しかしながら最近は、マツダのパワーに頼らずに運転の楽しさを追求する車作りに共感し、マツダオーナーに転じる。現在は最新のマツダ・ロードスターと旧型BMW 118dを愛用中。著書には『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)がある。日本自動車ジャーナリスト協会会員。
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(マーケティング/ブランディングコンサルタント 山崎 明)
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