「会社の信用を下げるような真似をしやがって!」女性管理職第1号が受けた部下からの逆パワハラの実態
プレジデントオンライン / 2022年7月10日 8時15分
■ねたましさを抱えながら、一挙手一投足をチェックする人
日本の企業においては女性管理職の比率はまだまだ低く、女性の昇進は社内的にも注目が集まりやすいという現状があります。そうした中で、管理職になったはいいものの、部下への対応に苦慮するなど、仕事がしづらくなったと感じる女性も少なくないようです。
「せっかく抜擢されたのだから」という気負いが空回りして、自分流の仕事術を強要したり、部下の特性を無視した一律のマネジメントをしてしまうと、部下からの反発を招きかねません。これは男女関係なく、管理職がやってはいけないNGマネジメントの典型ではありますが、特に女性の場合は「これだから女性は!」「女性管理職を増やすために下駄をはかされていた結果だ」などと心ない中傷にまで発展することもままあります。
残念ながら、管理職は男性のもの、という誤った認識を持っている人も一定数存在します。「女性にポストを奪われた」というねたましさを抱えながら、一挙手一投足をチェックしている人もいる、ということは心に留めておく必要があるでしょう。時代錯誤な思い込みとはいえ、そうした価値観を持つ彼らからも評価を受けるという事実は無視できません。
管理職に登用された女性は、特に部内のメンバーとの関係性が確かなものになるまでは、より丁寧で配慮のあるマネジメントを心がけるのが上策と言えるでしょう。
■管理職に求められる4つのサポートとは
部下に対するサポートには、情報型サポート、情緒的サポート、道具的サポート、評価的サポートの4種があります。
情報型とは、仕事の進め方のアドバイスや問題解決のためのコンサルテーションなどのサポート。情緒型は、部下の気持ちに寄り添った精神的なサポート。道具的というのは、実際に手を動かして資料作成をフォローしたり、作業効率をよくするITツールを導入したりするようなサポート法。そして、評価的というのは、部下の仕事ぶりを認め、モチベーションを上げるような声かけなどを指します。
4つのサポートをバランスよく行うのが理想ですが、人によって得手不得手があるのも当然です。特に男性の場合は、「情報型」を得意とする人が多い傾向にあります。男性管理職が圧倒的に多い日本では、部下の側にも「優秀なマネジャーは情報型サポートに強い」という認識があるかもしれません。
一方で、女性管理職に対しては「女性ならでは」が求められる傾向があります。つまり、当人の特性とは関係なしに、情緒的サポート、評価的サポートを期待される、ということです。
「女性なら共感力に長けていて、話を聞くのがうまいはず」
「仕事以外のことについてもいろいろ相談に乗ってもらえそう」
「うまく行かないときにも温かく見守って、きめ細かいフォローをしてくれるはず」
こうしたイメージは性別によってステレオタイプに当てはめようとするもので、一種のアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)と言えるでしょう。
■男性部下が突然の激昂
私のところに寄せられる職場のトラブルのなかには、根底に女性蔑視がある、と感じるものもあります。
ある企業で、女性管理職第1号となったAさんの例をご紹介しましょう。Aさんが部長に就任してまもなくのことです。部下の男性Bさんに急ぎで確認したいことがあって携帯電話を鳴らしますが、何度かけてもつながりません。そこで、Aさんは部内のホワイトボードを見て、彼が行き先として書いていた得意先に電話をしてみました。ところが、得意先の担当者は「今日はBさんとのお約束はありませんが……」と困惑気味。不審に思ったAさんは、帰社したBさんに「急ぎの確認で、お得意様のほうにも電話をしたところ、今日はアポがないと言われたんだけど、どういうこと?」と確認しました。
すると、Bさんは事情を説明するどころか、突然の激昂。「てめえ、ふざけんじゃねえぞ! そんな電話なんかして、お客さんにどんなイメージを与えると思ってるんだ! 会社の信用を下げるような真似をしやがって!」とすごい剣幕でがなりたてたのです。
■男性上司には逆ギレしていなかったかもしれない
それ以来、彼はいつもAさんに対してけんか腰で接するようになりました。体格のいいBさんが大声を出すと、それだけで部内には緊張感が走ります。Aさんの恐怖はいかばかりだったかと想像すると、いたたまれない気持ちになります。
もしこれが男性上司だったら、Bさんはこんなふうに逆ギレすることはなかったかもしれません。むしろ「デタラメなスケジュールを書いて、一体何をやっていたんだ!」とピシャリとやられて小さくなったことでしょう。Aさんが事情を聞こうとやわらかく質問したのをいいことに逆ギレしたBには、やはり女性を力で屈服させようとする偏見があったといわざるを得ません。また同時に、部下の行動を野放しにした上層部にも問題がある、ということも言えるでしょう。
■女性管理職の的確な業務指示を「冷たい」と受け取る部下
「女性管理職は情緒的、評価的サポートが得意」というアンコンシャスバイアスが強い部下の場合、女性には情報的サポートを期待していないということもあります。それどころか、女性管理職が情報的サポートに重きを置いて適切な業務指示やアドバイスをしても、「実務的ではあるが冷たい」といった不満を持たれてしまうことも。
かといって、情緒的なサポートに偏りすぎれば、今度は「コミュニケーションはしやすいけれど、業務遂行能力が低い」とレッテルを貼られてしまうケースもあります。
「じゃあ、どうしたらいいの?」と頭を抱えてしまう女性も多いでしょう。また、こうした状況が薄々想像できるからこそ、管理職の打診があっても固辞している、という声も聞かれます。
■女性管理職がチェックしたい2つのポイント
私は、これから管理職に昇進する女性、またマネジメント職になってから苦労している女性には、2つのことをお伝えしています。
1つは、「職場にはいろいろなアンコンシャスバイアスを持っている人がいる」ということ。なかでも、性別によるイメージ、バイアスには多くの人に共通するものがあって、女性は特に情緒的・評価的サポートを期待される傾向にある、ということは頭に入れておきたいポイントです。
2つめは、サポートが偏っていないかをチェックすること。情報的サポートばかりでも、情緒的サポート偏重でも、不満を持たれる可能性が高まります。情報的サポートが得意ならば、意識的に情緒的な働きかけも行う。その逆も然りで、要は「コンサルティング」と「カウンセリング」の二刀流を心がける、というのがポイントです。この2つをバランスよく取り入れることは、そのままよりよいマネジメントにつながります。さらには、アンコンシャスバイアスを持つ部下からも、「期待と違う」といった不満を持たれにくくなり、円滑なチーム運営ができるでしょう。
女性管理職に対して、男性以上に要求されることが多いのは理不尽と感じられるかもしれません。ただ、アンコンシャスバイアスを理解し、対策することは、女性が自分自身の心を守って職務を遂行するためにも大切。女性管理職が圧倒的に少ない現状を変えていくためにも、アンコンシャスバイアスに負けない賢い立ち回りで実績を積み上げていってほしいと願います。
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日本メンタルヘルス講師認定協会 代表理事
1961年生まれ。大学卒業後、外資系コンピューターメーカーなどを経て、98年に野村総合研究所に入社。主席研究員としてメンタルヘルスの研究調査、研修開発に携わり、日本のメンタルヘルス研修の草分けとして活躍。2015年より日本メンタルヘルス講師認定協会の代表理事に就任。20年かけて開発した2日間の「ヒューマンスキルを強化するマネジメント研修」は大企業を中心に絶大な支持を得ている。著書に『心が折れる職場』『上司が壊す職場』(以上、日経プレミアシリーズ)など多数。
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(日本メンタルヘルス講師認定協会 代表理事 見波 利幸 構成=浦上藍子)
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