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「夜中に何度も目覚める人は危険」突然死のリスクを跳ね上げる病「SAS」とは何か

プレジデントオンライン / 2022年7月14日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rawpixel

日本人はいびきをかきやすいと言われている。産業医の池井佑丞さんは「いびきは、高血圧などの生活習慣病と関わりがあるとされる『睡眠時無呼吸症候群(SAS)』の代表的な症状。ぜひ専門の医療機関を受診してほしい」という――。

■「うるさい」だけでは済まされない“いびき”

今年は梅雨時から暑く、寝苦しい日々が続いているという方も多いのではないでしょうか。夏は暑さにより寝つきが悪いことやしっかりと眠れないことで睡眠不足になり、日中に眠気を感じるといったお悩みが増えます。

睡眠に問題が生じる原因は暑さ以外にもさまざまありますが、自覚がしにくいものでは“いびき”が挙げられます。日本人は骨格の特徴からいびきをかきやすいとも言われており、ある調査では自身のいびきに悩みを持つ人の割合は4割を超えました。(フランスベッド株式会社「2022年 いびきに関する実態調査」2022年)

一方でいびきは生理現象であることから、単に騒音の問題として捉えられ軽視されがちという側面もあります。自覚しにくいことと相まって、結果的に放置されてしまうケースも多くなります。ですが、近年の研究ではいびきが睡眠不足の原因となることに加え、生活習慣病などの疾患とも深く関係していることがわかってきています。今回はいびきが代表的な症状である「睡眠時無呼吸症候群」を取り上げたいと思います。

睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome [SAS])は、寝ている間に呼吸が止まる病気です。事故を起こしたドライバーにSASの症状があった等、たびたび報道されたこともあり、その名前は広く知られるようになりました。

■睡眠中に呼吸が止まっている

病気の定義としては、10秒以上の呼吸停止を無呼吸とし、無呼吸が一晩に30回以上、または1時間あたりで5回以上あれば睡眠時無呼吸とされます。

前述のとおり、睡眠中にいびきを伴うことがほとんどです。いびきがしばらく止まり、大きな音とともに再度いびきをかき始める症状に家族などが気づくケースが多いです。そのほかには睡眠中にむせたり、何度も目が覚めたりすることもあります。睡眠中の無呼吸の影響で、起きている間には慢性的な眠気や倦怠(けんたい)感が生じますし、集中力が続かなったり、抑うつ状態に陥ってしまったりして、日常生活や仕事に影響が出る場合もあります。

運転中の眠気の経験割合を調査したところ、SAS患者の場合はそうでない方と比較して約4倍、居眠り運転の経験割合では約5倍との結果が出ています。(井上雄一「居眠り運転と睡眠時無呼吸症候群」臨床精神医学 27 137-147,1998年)交通事故発生率については、SAS患者は一般ドライバーよりも2.5倍交通事故を起こす確率が高いという報告があります(※1)

(※1)FINDLEY LJ et al: Automobile accidents involving patients with obstructive sleep apnea. American Review of Respiratory Disease 138 337-340, 1988

運転を例に挙げましたが、運転しない方にもリスクはあります。睡眠不足は注意力や判断力を低下させ、パフォーマンスを落とします。それによりヒューマンエラーの危険を高めることがわかっています。車の運転に限らず、思わぬ事故や重大なミスを犯したり機械操作を誤ったりして、労災や社会的影響の大きな事故につながる可能性が高まることも併せてお伝えしておきます。

■高血圧のリスクを高めてしまう

ここからは、SASと病気のリスクについてご説明します。以前より、生活習慣病の患者はSASを併発していることが多いのは知られていましたが、近年の研究で、SASをはじめとした睡眠障害が生活習慣病と相関関係にあることがわかってきました。

まず、SASが高血圧のリスクを高めることについて。ある研究では、中等症以上のSAS患者は一般の方よりも高血圧のリスクが2.89倍高いことを示しています(※2)

(※2)Peppard, T Young, M Palta, J Skatrud Prospective study of the association between sleep-disordered breathing and hypertension. The New England Journal of Medicine. 2000 May 11;342(19):1378-84.

高血圧は生活習慣病の代表的なリスク要因で、心疾患や脳血管疾患など、日本人の死因の上位となる疾患とも深く関わっています。健康な方の血圧は、日中高く、夜間の睡眠中は低いのが一般的ですが、SAS患者は、日中の覚醒時のみならず睡眠中にも血圧が高い傾向があります。

無呼吸を伴う場合、睡眠中の血圧は、無呼吸から呼吸が再開するタイミングで急上昇し、再度低下することが確認されています。SAS患者は、本来血圧が最も低くなるはずの睡眠中に、血圧の激しい変動を短いスパンで何度も繰り返すため、高血圧が維持されてしまうのです。高血圧で、降圧剤を服用しても血圧が思ったように下がらない場合や、寝起きの血圧が高い場合には、SASを併発している可能性が考えられます。

■脳卒中の発症リスクは2.89倍

諸疾患との関係について、SASがリスク要因であることを示すデータをご紹介します。重症のSAS症例1708件を分析したところ、高血圧(50.4%)、脂質異常症(61.1%)、糖尿病(18.9%)、メタボリックシンドローム(34.6%)と、高い割合で循環器系疾患を合併していることがわかりました。また心血管疾患を見ても、冠動脈疾患(14.4%)、脳血管疾患(9.4%)、大動脈疾患(2.4%)、末梢動脈疾患(2.2%)という合併率を示しており、これら疾患の発症にSASが深く関わっていることが示唆されています。(椎名一紀「閉塞性睡眠時無呼吸症候群と心血管障害」 日本心臓病学会誌 Vol. 7 No. 1 2012)その他、SASがある人はSASがない人に比べ、脳卒中の発症リスクは2.89倍、夜間心臓突然死は2.57倍に跳ね上がることが報告されています(※3)(※4)

(※3)Fredrik Valham, Thomas Mooe, Terje Rabben, Hans Stenlund, Urban Wiklund, Karl A Franklin Increased risk of stroke in patients with coronary artery disease and sleep apnea: a 10-year follow-up Circulation 2008 Aug 26;118(9):955-60
(※4)Apoor S Gami 1, Daniel E Howard, Eric J Olson, Virend K Somers Day-night pattern of sudden death in obstructive sleep apnea The New England Journal of Medicine. 2005 Mar 24;352(12):1206-14.

こうした循環器系の疾患や心血管疾患と、睡眠時に呼吸が停止することとは、一見関係がないように思えますが、SASはさまざまな疾患を合併したり、原因となったりすることが明らかにされつつあるのです。SASの疑いがありながらも、「いびきの他に特段症状がないから」といって放置されている方がいらっしゃれば、医療機関に相談することをおすすめします。

■睡眠時に目が覚める、強い眠気は注意

SASや、SASの主な症状であるいびきについては、自覚症状がほぼないため自認が難しいことは冒頭で申し上げました。しかし、無呼吸が気づかないうちに体にさまざまな影響を与えていることは、説明してきたとおりです。そこで、自覚がない方にもSASを疑っていただきたいケースをいくつかご紹介します。

<睡眠時>
・睡眠中に何度も目覚める
・息苦しさで目が覚める
・夜間頻尿
・寝汗をかく

頻回の無呼吸は睡眠の質を落とすため中途覚醒しやすくなり、中途覚醒には尿意を伴うことが多いのも特徴です。息苦しさで目が覚めたり、大量の寝汗をかいていたりすることもあります。また、起床時に熟睡感がなく、頭痛や口腔内の乾燥を感じるケースもSASの患者には多く見られます。

<日中(覚醒時)>
・強い眠気
・倦怠感やだるさ
・疲労感が抜けない
・集中力が続かない
・抑うつ状態

強い眠気や倦怠感はSASの代表的な症状です。居眠りを指摘されたり、細かなミスをしてしまったりなどの自覚がある方は要注意です。睡眠不足により抑うつ状態に陥る場合もあります。一方で、日中の眠気がない方もいらっしゃいます。無呼吸が必ずしも日中の眠気を伴うものではない点にも、注意が必要です。

不眠に悩む男性、時計は深夜1時56分を指している
写真=iStock.com/yanyong
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yanyong

■肥満、飲酒や喫煙者

<SAS患者に多い特徴>
・肥満
・顎が小さい
・飲酒、喫煙習慣がある
・口呼吸
・男性

無呼吸の原因は、ほとんどの場合、空気の通り道である気道が物理的に塞がってしまうことによるものです。睡眠時の仰向けの状態では、重力で舌が沈み込むことに加え、顎や喉周りの筋肉が緩むために気道が閉塞しやすくなります。蓄積した脂肪が気道を狭くするので、SAS患者には肥満の方が多いです。ただ、肥満ではなくても、顎の小さい日本人は舌根が落ち込みやすいそうです。日本人が骨格的に無呼吸になりやすいと言われるのはこのためです。

そのほか、気道を閉塞させる原因として、加齢により筋力が低下すること、飲酒により筋肉が弛緩すること、喫煙により気道粘膜が炎症を起こすことなどが挙げられます。口呼吸は鼻呼吸に比べ咽頭が狭くなるので、無呼吸のリスクが高まります。男女比では男性が多いのは事実ですが、女性でも発症する可能性はあるので、気になる症状があればSASを疑うことは必要です。

■本人に自覚がない場合は家族が勧めて

<周りの家族などから見て>
・苦しそうないびき
・激しいいびき
・いびきがしばらく止まり、大きな音とともに再開する

全てのいびきが危険というわけではありませんが、ご家族に上記のようないびきが習慣的に続く方がいる場合には、専門の医療機関への相談を勧めていただくのがよいでしょう。

ただ、本人に自覚がない場合には、受診につなげることが難しい場合もあります。SASなのにいびきなどの自覚症状がなく、寝つきが良いために自身が睡眠中に無呼吸になっているとは思いもよらなかったという方もいらっしゃいます。このようなケースでは、ご家族が粘り強く受診を勧奨することが肝心となります。

最近ではスマホアプリなどで、いびきを自動的に録音したり、SASの疑いをチェックできたりするものも登場しています。アプリを利用して自身の状況を客観的に捉えてもらうことも有効だと思います。

SASは、睡眠外来やSAS外来、循環器科、耳鼻咽喉科、内科、呼吸器内科などで検査が可能ですが、事前にホームページなどでSASの診療が可能であることを確認しておくとよいでしょう。治療をする場合には定期的な通院が必要になりますので、お近くの医療機関をお選びいただくことをおすすめします。

睡眠時無呼吸症候群は自覚しづらい病気である一方、無呼吸状態の体への負担は多大です。放置すると、数年後には重大な疾患を招く恐れがある怖い病気であることを認識し、疑いのある場合には早期の受診をしていただければと思います。

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池井 佑丞(いけい・ゆうすけ)
産業医
プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。

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(産業医 池井 佑丞)

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