「主婦なんて中卒でもなれる」女性同士のマウンティングがエスカレートする心理学的理由
プレジデントオンライン / 2022年7月12日 11時15分
■「今日もしっかりメイクしてるね」はほめ言葉なのか
「ほめられているみたいだけど、そうじゃない気がする」「そんなことは言ってないのに、なんとなくバカにされたり、下にみられた気がする」……。そんなふうに感じてコミュニケーションがうまくいかず、モヤモヤすることはありませんか? このような、女性同士の関係性の中で、自分の方が立場が上であることを言葉や態度で示す行為は、「マウンティング」と呼ばれます。
私が書いたマウンティングについての研究論文が、先日Twitter上で注目を集め、多くの人々が関心を持つ話題であることが明らかになりました。今回は、マウンティング研究の背景や、その結果明らかとなった女性同士のマウンティングの特徴、さらに今後の研究の展望についてご紹介します。
私は、お茶の水女子大学大学院で心理学を専攻しており、カウンセリングや心理検査を行いながら、日々研究をしています。人々の心の動きと行動に関心を持ち、研究を進める中で、何げない女性同士のコミュニケーションで、モヤモヤする場面に興味を引かれました。
例えば、私はメークをすることが好きなのですが、ある女性に「今日もしっかりメイクをしているね!」と言われたことがあります。その時私は「ほめられているのかな……それともメイクが濃いとか、派手とか、ちょっとネガティブなこと言いたいのかな……?」と勘ぐってしまいました。
相手がどのような意図でこの発言をしたのかは分からないのですが、発言を受けた私は、なんとなくモヤモヤとした気持ちになったのを覚えています。このモヤモヤを友人たちに話すと、「分かる分かる! それはモヤモヤする!」と共感してくれる人もいれば、「それは、ふつうに『メイクしてるね』ってことを言いたいだけじゃない? 考えすぎだよ」と否定され傷つくこともあり、「なんで分かってくれる人と分かってくれない人がいるのだろう」と、モヤモヤはいっそう深まっていきました。
■「このモヤモヤはマウンティングだ」という気付き
この小さなモヤモヤの正体を考えていた時に、漫画家の瀧波ユカリさんとエッセイストの犬山紙子さんが2014年に書かれた『女は笑顔で殴りあう:マウンティング女子の実態』(筑摩書房)という本に出会い、「このモヤモヤは、マウンティングをされたように感じたからではないか」と気がつきました。
元々、マウンティングとは、サルなどの哺乳類が、自分の優位を示すためにほかのサルの背に乗る動作を指してきました。しかし、2021年に出版された『三省堂国語辞典』の最新版である第八版ではこれに、「自分の優位を示すこと」という意味が追加され、2010年代に広まった用法と説明されています。心理学の分野では、幼児期や組織間での対立に関する研究はなされてきましたが、比較的新しい現象であるマウンティングについて直接的に扱った研究はあまりみられませんでした。そこで、自分自身にとって身近な、女性同士のあいだでみられるマウンティングについて研究を行おうと考えました。
■「ファーストクラス」「バチェラー・ジャパン」などを調査
マウンティングは比較的新しい現象であるため、まずは実態の把握を行い、いくつかのカテゴリーに分類しようと考えました。そこで先行研究を参考に、マウンティングを4つの条件で定義しました。
<第1条件>
日常的に関係性が構築されている、あるいはこれから関係が続くことが予想される女性同士で生じる
<第2条件>
一人(Aさん)が「自分の方が立場が上である・優れている」ともう一人(Bさん)に暗示的に誇示する
<第3条件>
BさんがAさんの言動を受けて、自分の方が立場が下であると感じ、不快な気持ちになる
<第4条件>
Aさんは加害意識がない、あるいは加害意識がなさそうにみえる
調査対象は、NDLサーチ(国立国会図書館や全国の公共・大学・専門図書館等が提供する資料を検索できるサービス)での調査、ゼミでの検討などを通して、前述の『女は笑顔で殴りあう:マウンティング女子の実態』などの書籍や、「ファースト・クラス」(フジテレビ)、「『大奥』シリーズ」(フジテレビ)などのテレビドラマ、「バチェラー・ジャパン」(Amazon Prime Video)などのリアリティーショーとしました。これらの中から、マウンティングの定義に挙げた4条件に該当するマウンティングのエピソードを収集し分類したところ、女性同士のマウンティングは、3つのカテゴリーに分けられました。
■マウンティングの3分類
1つは「伝統的な女性としての地位・能力を誇示する」というもので、家事や育児など家庭の役割に関連しています。例えば、飲み会でおしゃれをする女性たちに「今日は気合入ってますね」と別のおしゃれをしていない女性が言うといったものです。
2つ目は、「人間としての地位・能力を誇示する」というもので、仕事や学歴など社会の中での役割に関連しています。例えば、子どものお迎えを親に頼んでいる子持ちの女性社員に対し、別の子持ち女性社員が「やっぱり実家近いの超得だよね~」と自分が実家を頼らず子育てをして苦労していることを暗にアピールする、といったもの。また、主婦の女性に対して「主婦なんて中卒でもなれる」と言う、などが該当します。
3つ目は「女性としての性的魅力を誇示する」というもので、美しさやファッションセンスなど性的な魅力に関連しています。例えば、男性によく声をかけられるという女性が「軽く見られてるのかな~」と、別のあまり男性から声をかけられない女性に言うといったものです。
■“三すくみ”のため繰り返されてしまう
これら3つのカテゴリーは、ある部分では相手に勝てるものの、ある部分では負けるという、三すくみの状態にあると考えられます。例えば、自分が相手の女性よりも仕事で高い評価を得ていない場合「人間としての地位・能力を誇示する」という部分では負けてしまいますが、自分は結婚しているが相手が独身の場合、「伝統的な女性としての地位・能力を誇示する」という部分では勝てることになります。そのため、どちらが上か下かを決定することが難しく、女性たちのあいだではマウンティングが繰り返されてしまうのではないかと考えました。
こうした三すくみの状態は、それぞれのカテゴリーが連動しない状態にあるために発生している可能性があります。
例えば、家庭的な専業主婦であると同時に、バリバリと仕事をこなすことはできないし、1人でも生きていけるほど稼ぎながら、女性としての性的魅力をアピールして男性の稼ぎを頼って生きていくことはできません。
一方で、男性の場合は、こうした矛盾はあまりみられないと考えます。例えば、仕事でいい結果を出しながら、健康的な肉体を手にし、家庭を持つというように、全てのカテゴリーで優れた状態になることは可能です。そのため、男性のあいだでみられるマウンティングはシンプルなものになり、すぐに勝負がつくか、あるいはマウンティングそのものが起こりにくいのではないでしょうか。こうしたことから、男性同士よりも女性同士におけるマウンティングは多くなるのではないかと考えています。
■マウンティングによる「傷つき」を軽減するために
女性同士のマウンティングは、3つのカテゴリーに分けられ、三すくみの状態にあることから、マウンティングが繰り返されてしまう可能性が考えられました。
ここで先ほど挙げた、マウンティングの定義をもう一度みてみると、マウンティングは被害者の受け取り方によって左右されることが分かります。そのため、同じエピソードでも、マウンティングだと感じる女性もいれば、マウンティングではないと感じる女性もいると考えられます。そこで今後は、女性たちにさまざまなマウンティングのエピソードを見せ、それらについてどの程度不快に思うか調査することを予定しています。
この調査を通して、多くの女性がマウンティングであると感じるものと、少数の女性がマウンティングであると感じるものを明らかにしようと考えています。これにより、マウンティングに敏感な女性の特徴を明らかにすることができるのではないかと期待しています。
マウンティングの受け取り方はさらに、マウンティングによる「傷つき」にも影響を与えると考えられます。マウンティングによって不快な気持ちになったとしても、マウンティングの受け取り方が異なる周りの女性からは共感を得られず、ダメージが癒やされず、不快な気持ちをひとりで我慢しなければならないかもしれません。こうした、マウンティングによるダメージは、一つひとつは小さくとも、日常生活の中で繰り返され積み重なることで、心身の健康を損ねる可能性が高くなると考えられます。
これらを踏まえて今後は、マウンティングを受けた女性の傷つきを軽減できるような研究を行うことも予定しています。マウンティングによるダメージに適切に対処し、自分を癒やしてあげられることができれば、より健やかに日々の生活を送ることができるのではないかと期待しています。
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心理学研究者
1996年生まれ。2018年3月奈良女子大学文学部人間科学科心理学コース卒業。2020年3月お茶の水女子大学人間文化創成科学研究科人間発達科学専攻発達臨床心理学コース博士前期課程卒業、修士号(人文科学)取得。2020年4月お茶の水女子大学人間文化創成科学研究科人間発達科学専攻発達臨床心理学講座博士後期課程入学、現在在籍中。大学の相談センターや都内心療内科でカウンセリングを行いながら、女性のあいだでマウンティングが発生するメカニズムや、その解消法について研究を行っている。
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(心理学研究者 森 裕子)
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