会員権1億円以上の香港のゴルフ場と同格…太平洋クラブが「新しい形の名門」と呼ばれるワケ
プレジデントオンライン / 2022年7月25日 9時15分
■日本のゴルフ場の多さは世界有数
日本のゴルフ場の数は世界で3番目だ。以下はR&A(全英ゴルフ協会Royal and Ancient Golf Club of Saint Andrews)が発表した世界のゴルフ場数は次の通りとなっている。数字は2019年のものである。
1 アメリカ合衆国 1万4640
2 カナダ 2265
3 日本 2227
4 イングランド 1936
5 オーストラリア 1532
国土面積を考えれば日本のゴルフ場の数はかなり多いと言える。
2227コースのなかで、名門と呼ばれるコースはせいぜい50カ所といったところではないか。
そういった名門ゴルフクラブでプレーをするのは極上の気分だ。なんといってもコースは素晴らしいし、メンテナンスもよく、キャディサービスも最高だ。ただし、プレーをするには紹介者、もしくは同伴者が必要だ。服装にも気を遣う。Tシャツなど襟のないシャツはダメ。スカル(骸骨)模様の入ったウエアなどを着ることもできない。クラブハウスやコースではスマホを使ってはいけない。通話する場所は限られている。マナーの良い紳士淑女が集まるところが名門ゴルフクラブである。
■他社とは一風変わった太平洋クラブの特徴
入会するのだって簡単ではない。複数の紹介者が必要だし、資格審査がある。何よりも入会金は決して安くはない。80歳を超えていても、「入会したい」という人がいるのが、名門中の名門ゴルフクラブだ。
一方、再生した太平洋クラブは、新しい形の名門クラブといえる。
入会に際して資格審査はあるけれど、国籍条項はない。どこの国の人間でも太平洋クラブに入ることができる。ウエアに対しても比較的自由だ。ただし、スマホを使う時でも、服装でも、それなりのマナーを守ることは必要だ。
そして、わたしが太平洋クラブを新しい形の名門クラブだと思う理由のひとつに海外の名門ゴルフクラブと提携していることが挙げられる。コロナ禍が一服し、海外へ出かける人も増えていくだろう。ゴルフが好きな人にとっては旅先の名門ゴルフクラブでプレーすることもまた楽しみのひとつだ。
■海外に行った時も楽しめるゴルフ場があるといい
太平洋クラブに入会した会員は海外の名門ゴルフクラブで会員並みの料金でプレーできる。
海外クラブとの提携を考えたのは現社長の韓俊(ハン シュン)である。
「半世紀前に当時の太平洋クラブが会員を募集した時のパンフレットを見たら、『環太平洋に百のコースを作る』とありました。それもゴルフだけではなく、スキー場、ヨットクラブ、ホテルも作っていくという壮大な構想でした。むろん、その通りに私ができるとは思いませんでした。でも、会員のことを考えると、国内だけでなく海外にも利用できるところがあればいいと思ったのです。
会員にとって海外へ行った時、自分のクラブのように楽しめるゴルフ場があればいいんじゃないか……。それで世界を回って名門ゴルフクラブと提携することにしたのです」
海外の高級クラブとの提携に奔走したのは取締役の野中児郎(じろう)だ。野中は太平洋クラブに入る前、香港で金融ビジネスに従事していた。その時、野中はクリアウォーターベイという名門ゴルフクラブのメンバーだったのである。
■太平洋クラブのブックを支配人に見せると…
太平洋クラブを買収した後、韓俊は野中と一緒に香港出張をする機会があった。海外提携を考えていたこともあり、彼はクリアウォーターベイを訪れ、野中と一緒にコースを回った。すると、レストランで旧知のスコットランド人支配人と出くわしたのである。
韓俊が以前、シンガポールに出張した時、セントーサ島にある「セントーサ・ゴルフクラブ」でプレーをしたことがあった。その時に挨拶に出てきた気のいい男が香港のクリアウォーターベイに移っていたのだった。
韓俊と支配人は親しげに会話をした。支配人は大声で笑い、雰囲気は和やかになった。
韓俊は「あれを」と目で合図をした。野中がすかさず英文も入った太平洋クラブの写真集のようなファクトブックをその場で開いて見せた。支配人は「素敵なデザインですね」とファクトブックをほめて、ページを開き、コースの写真に見入った。
スコットランド人支配人の様子を見て、韓俊は「もし、できることならこの素晴らしいクラブ、クリアウォーターベイと太平洋クラブは提携したいのです」と投げかけた。支配人はウインクして「上司と相談します」と答えた。
■「会員権価格1.5億円以上」の超高級クラブと提携
こうして、海外クラブとの提携は香港のクリアウォーターベイからスタートしたのである。クリアウォーターベイは香港の中心部から30分で行くことができる。海岸線を利用したリンクスコースで、ゴルフ場以外にもヨットクラブ、テニスクラブ、屋内外プール、スカッシュ、ダイニングルームやバーなどがある。
クラブの会員は香港のセレブリティで、会員権の価格は1.5億円以上。ダイニングルームで食べる中華料理は香港市内の高級ホテルのそれよりもおいしいという人もいる。アジアのハイエンド富裕層が集まるソーシャルクラブがクリアウォーターベイだ。
そして、クリアウォーターベイとのレシプロカル契約が決まった後、太平洋クラブの海外におけるブランド価値が決定した。同等のクラブとみなされたから、フランス、イングランド、中国、シンガポールなどの高級ゴルフクラブと提携できることになったのである。
実務を担当した野中は言う。
「提携先はレシプロカル契約が15クラブ、アフィリエイト契約が11クラブです。レシプロカル契約とは単なる提携ではなく、お互いの会員が提携先のゴルフクラブで会員と同様に歓待を受ける価値あるパートナーシップなのです。最初に契約を交わした香港のクリアウォーターベイクラブは理事長、キャプテン、支配人が来日して当社の御殿場コースでプレーをしました。双方の幹部が出席した提携の締結式も六本木のグランドハイアットで行っています」
■「パリとボルドーのゴルフ場はいい」その理由
「一方、アフィリエイトの契約はハワイなどリゾートのゴルフ場が多い。こちらはメンバーシップのコースではないので、太平洋クラブの会員は優待価格でプレーができるというものです。また、アフィリエイトの契約クラブであって、エージェント経由より、当社から予約を入れたほうが確実ですし、スムーズです」
韓俊は26の海外提携クラブのすべてを訪れている。どのクラブも一流なのだが、なかでも印象に残っているのがパリとボルドーのゴルフクラブだ。
「パリ近郊のル・ゴルフナショナルは2018年ライダーカップの会場、2024年のパリ・オリンピックのゴルフ会場です。面白いことにフランス人は、自分がゴルフを楽しんでいることをあまり言いません。本当の富裕層だけがゴルフを楽しんでいるのでしょう。
数は少ないけれど、ゴルフ場のレベルは非常に高い。日本人のゴルフ好きの方でも、パリに行くと料理、美術館、音楽を楽しむ方がほとんどです。でも、せっかく太平洋クラブの会員になったのでしたら、一度、このパリ近郊のル・ゴルフナショナルはおすすめです。フランスの富裕層の生活が分かります。クラブハウスは豪華ではなくとても質素です」
■海外提携が太平洋クラブのブランドを磨いている
「ボルドーにはアフィリエイトのクラブが2カ所あります。ゴルフ・メドック・リゾート、サンテミリオン・ゴルフクラブ。いずれもワインの産地ですから、ワイン好きの方は喜ぶでしょう。ワインのシャトー巡りもできますし。ゴルフ場はどちらもタフです。リゾート気分で行くと大変な目に遭います。私もむろん、大変な目に遭いました。ワインを飲んで、気分転換しましたけれど。
タイのアマタスプリングは太平洋クラブの会員の方たちがもっとも多く訪れてプレーをしているクラブです。オーストラリアのザ・ナショナルも最高です……」
俊にひとつずつ聞いていくと、日ごろはしゃべらない彼が饒舌になる。
海外の名門クラブとの提携は太平洋クラブのブランドを構築するうえで、強みになっている。海外に行って体を動かしたい人にとって、提携クラブがあれば「私たちのクラブ(Our Club)」としてゴルフを楽しむことができる。日本のゴルフ場のなかで、本格的に海外のゴルフクラブとの提携を進めているのは太平洋クラブだけだ。
■トーナメントの開催、リゾートを改修…
マルハンが太平洋クラブを買収してから変化した事実をまとめると、次のようになる。
2014年(買収して1年目)
・太平洋クラブのシンボルマークを新しくして、グループコースの冠名称を「太平洋クラブ」に統一。
・太平洋クラブ会員が利用できるコースに佐野ヒルクレスト、大洗シャーウッドのふたつが追加された。
2015年
・プロショップ「Select The Club」を御殿場と御殿場WESTにオープン
・日本最古のメジャートーナメント「第83回日本プロゴルフ選手権大会」を江南コースで開催
・軽井沢リゾート、開場40周年。同リゾートのクラブハウスとホテルダイニングを全面リニューアル
・御殿場WEST、軽井沢リゾート、白河リゾートにある宿泊施設を「Villa The Club」という名称でスタート。
2016年
・成田コースのクラブハウスを一部リニューアル
・日本で唯一の全米女子プロゴルフ協会公式戦「TOTOジャパンクラシック」を美野里コースで開催する。
・男子プロツアー「2016三井住友VISA太平洋マスターズ」を5年ぶりに主催する。三井住友VISAカード、TBSテレビと3社の共催。優勝は松山英樹。23アンダーでトーナメントレコードを更新
■プレー、食事、宿泊までおもてなしできるように
2018年
・御殿場コースを全面改修(設計:リース・ジョーンズ、監修:松山英樹)
2019年
・八千代ゴルフクラブの経営権を取得
2020年
・太平洋クラブ会員「利用可能コース」に八千代コースを追加
・“TAIHEIYO CLUB GINZA”(東京・銀座)を9月にオープン
2021年
・金乃台カントリークラブの経営権を取得。ただ、共通会員制ではなく独立運営のクラブとなる。
・レストラン運営の上場企業「ひらまつ」の第三者割当による普通株式を取得し、資本業務提携をする。
現在、太平洋クラブの会員がプレーできるコースは18だ。そして、改修された金乃台カントリークラブも会員は割引価格で利用することができる。
俊は「あと、2つはコースを増やして20にします」と言っている。さらに、金乃台カントリークラブのように、独立運営クラブも増やすかもしれない。そうすると、会員にとっては選択の幅が広がる。
そして、提携したひらまつはレストランだけでなく、仙石原、熱海、軽井沢、伊勢志摩、京都、沖縄の6カ所に高級リゾートホテルを所有、運営している。御殿場もしくは御殿場ウエストでプレーをして、仙石原のひらまつに泊まるといった楽しみ方もできるわけだ。これまた会員にとっては楽しみ方の幅が広がる。韓俊はむろん、そこまで考えている。
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ノンフィクション作家
1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)、『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『京味物語』『ビートルズを呼んだ男』『トヨタ物語』(千住博解説、新潮文庫)など著書多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。旅の雑誌『ノジュール』(JTBパブリッシング)にて「ゴッホを巡る旅」を連載中。7月13日に『名門再生 太平洋クラブ物語』(プレジデント社)を発売予定。
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(ノンフィクション作家 野地 秩嘉)
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