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単なる「水不足」とはわけが違う…今年の「早すぎる梅雨明け」が日本経済に深刻な打撃を与える理由

プレジデントオンライン / 2022年7月11日 9時15分

6月としては観測史上初めて3日連続の猛暑日を記録した東京都心を行き交う人たち。関東甲信地方で統計開始以来、最も早い梅雨明けが発表された=2022年6月27日午後、東京・銀座 - 写真=時事通信フォト

■電力不足+水不足のWパンチが世界を襲う

最近、世界的に電力と水の不足が深刻になっている。わたしたちの日常生活や企業の生産活動に欠かせない、社会の基礎的なインフラというべき電力と水の不足は、見過ごすことのできない重要な問題だ。この背景には、世界的な異常気象などの自然要因に加えて、ウクライナ危機によるエネルギー資源の高騰など人為的な要素が重なっていることがある。

今後、短期間で電力と水の不足の問題を解消することは難しい。いずれも長期化することが懸念される。特に、電力面に関して、原油や天然ガスさらには石炭などの価格高騰などが深刻だ。ロシアのウクライナ侵攻によって、ロシアからのエネルギー資源の供給に重大な問題が発生している。世界各国がエネルギー資源を奪い合わざるを得ない状況になっている。

わが国などで原子力発電所の再稼働も容易ではない。また、気候変動による降雨の減少などによって、水力発電を従来通りのペースで安定して行うことも難しくなっている。電力不足と水不足が掛け合わさることによって、世界全体で供給のボトルネック(制約)は深刻化するだろう。半導体をはじめとする電子部品や自動車、食糧生産や物流など広範な経済活動に負の影響が懸念される。

■コロナ禍のテレワーク需要に猛暑が重なり…

世界各国で、電力の供給が需要に追いついていない。基本的に、世界経済の成長によって各国の電力需要は増える。GDP成長率が相対的に高い新興国では、経済成長が電力需要を押し上げる。直接投資の増加による生産活動の活発化、インフラ整備などがある。そうした需要の拡大に、供給サイドが追いついていない。当然、電力は不足がちになる。

コロナ禍の影響も大きい。感染の発生直後、世界各国でテレワークが増え家計の電力消費は増えた。その一方、感染再拡大が深刻な状況下では動線が寸断された。それによって企業部門の電力需要は抑えられた。その後、中国を除く世界各国はウィズコロナの時代に入り、人々の動線が修復されサービス業や生産活動が正常化している。テレワークを続ける人も多い。それによって電力需要は増える。

また、夏場の急激な気温上昇の影響も大きい。6月25日から9日連続で東京都は猛暑日を記録した。その結果、冷房のための電力需要が急増し、東京電力が“電力需給ひっ迫注意報”を出した。各国で電力需要が想定以上のペースで増加している。

■天然ガスに頼っていたところにウクライナ危機が勃発

それに対して、電力供給はかなり不安定だ。脱炭素に対応するために、石炭などを用いた火力発電が減少した。ドイツは脱原発も進め、洋上風力など再生可能エネルギー由来の電力供給を増やした。しかし、昨年、欧州では風況が変化し、洋上風力を用いた電力供給が減少した。供給減少を埋め合わせるために欧州各国は天然ガスを用いた火力発電を強化しようとした。

その状況下、ウクライナ危機が発生した。世界全体で天然ガスなどエネルギー資源の需給は逼迫(ひっぱく)している。脱炭素のために世界各国の主要な金融機関は石炭など化石燃料関連プロジェクト向けの融資を減らした。米国やオーストラリアでは石炭の不足や火力発電所の老朽化も重なり、電力不足懸念が高まっている。

中国ではゼロコロナ政策による物流停滞、オーストラリアとの関係悪化などによって石炭が減少し、電力供給体制が不安定だ。世界各国で電力の需給は急速にタイト化している。

■日本では「早すぎる梅雨明け」で水も大ピンチ

気候変動の深刻化によって水も不足している。6月27日に九州南部、東海、関東甲信地方が梅雨明けした。1951年の統計開始以来、関東甲信は最速、九州南部と東海は2番目の早さだ。降水量が少なかったこともあり、各地でダムの水位が低下している。それに加えて、愛知県豊田市ではインフラ老朽化によって、明治用水頭首工で大規模漏水が発生し経済活動に懸念が高まった。

産業別にみると、最も大きな支障が懸念される一つが半導体だ。半導体の生産プロセスでは、“超純水”と呼ばれる極端に純度の高い大量の水を消費する。世界最大のファウンドリである台湾積体電路製造(TSMC)は、1日に最大20万トンの水を消費するといわれる。昨年、台湾では旱魃(かんばつ)によって水不足が深刻化し、需要が増加する最先端のチップ生産を続けるためにTSMCは給水車を手配して水の確保に奔走した。それによってTSMCの生産ラインが停滞に追い込まれる事態は避けられた。

■水位が安定しなければ貨物船にも打撃

世界的な異常気象によって、各国で旱魃などが深刻化している。給水車が一度に運搬できる水の量は最大で20トン程度とみられる。台湾には聯華電子(UMC)や力晶半導体(パワーチップ)などの半導体メーカーが集積している。世界の半導体供給地である台湾で、水が不足し半導体供給が停滞するリスクは高まっている。

熊本県でTSMCは経済産業省の支援を取りつけ、ソニーグループやデンソーと合弁で半導体工場を建設する。その背景のひとつには、同県の豊富な水資源があるだろう。

水不足などは物流にも影響する。米国では異常気象でミシシッピ川の水位が大きく変化する恐れが高まっているという。ミシシッピ川は米国が輸出する穀物の49%が通る。水位が安定しないと、はしけ船(貨物を載せる大型の平底船、動力を持たずタグボートなどに曳航される)の稼働率が下がる。

出港する貨物船
写真=iStock.com/HeliRy
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/HeliRy

気候変動の深刻化による水不足は、世界のサプライチェーンの脆弱(ぜいじゃく)性を高める。上下水道など社会インフラが発展途上にある新興国において、水不足が人々の健康に大きな脅威であることはいうまでもない。

■互いに共鳴するようにして負の影響を与える

昨年夏場以降、水不足によってノルウェーでは水力発電に必要な貯水量が減少した。ノルウェーは主に水力で発電を行う。余った電力は欧州各国に輸出してきた。水不足が深刻な状況が続けば、ノルウェーからの電力輸出は減少するだろう。それは、欧州経済にとって大きなマイナスだ。

また、欧州各国はエネルギー資源のロシア依存脱却を急がなければならない。電力の需要を満たすために、苦肉の策としてドイツは石炭を用いた火力発電を再稼働せざるを得なくなった。さらに、6月下旬にドイツでは天然ガス不足の“非常警報”が発出された。電力供給の切迫感は増している。

電力不足と水不足は、互いに共鳴するようにして経済に負の影響を与える。米中対立、コロナ禍の発生、ウクライナ危機などによる、世界経済の供給制約は一段と深刻化することが懸念される。銅鉱山などでは、破砕のために大量の水が必要だ。旱魃の深刻化と電力不足が重なり、破砕用水の確保がより難しくなる恐れは増す。

■輸入頼みの日本への打撃は避けられない

水資源をめぐる国と国の対立も先鋭化している。中国共産党政権は、南部を流れるブラマプトラ川の上流などでダムや水力発電所を建設しようとしている。それに対してインドが反発している。世界全体で電力と水の供給はかなり不安定に推移するだろう。各国企業が半導体や自動車、食糧などの生産を短期間に増やし、需要を満たすことは難しい状況が続く。エネルギー資源や穀物などを輸入に頼る国は、より強い逆風に直面するだろう。

そうした制約で企業業績は悪化し、景気の減速懸念が高まることが考えられる。米国などでは、FRB(連邦準備制度理事会)の追加利上げによって企業の資金調達コストは増える。資源価格の高騰などによるコストプッシュ圧力も強まり、生き残りのために雇用削減に追い込まれる企業は増えるだろう。電力料金がさらに上昇すれば、よりコストの低い国に生産拠点を移さざるを得なくなる企業が増える。

電力消費の多いアルミの精錬などを続けることが難しくなり、産業構造が大きく変わる国も出てくるはずだ。電力と水の不足が、世界経済に与える負のインパクトは大きい。内需が弱く交易条件が悪化するわが国において、企業業績が急速に悪化する懸念が高まっている。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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