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ついに「池上彰離れ」まで起きている…テレビ局内部でも不評な"選挙特番"に価値はあるのか

プレジデントオンライン / 2022年7月8日 19時15分

国連が「国際ガールズ・デー」に制定した11日、都内で開催されたイベント「羽ばたけ!世界の女の子」のトークショーに参加したジャーナリストの池上彰さん(東京都渋谷区の国連大学) - 写真=時事通信フォト

7月10日の参議院選挙では、投開票に合わせてテレビ局が選挙特番を放送する。見どころはあるのか。コラムニストの木村隆志さんは「放送する内容も時間帯も横並びで、以前は話題を呼んだ池上彰氏の手法もすっかり定着してしまっている。こうした現状を打破できる番組を作らなければ、視聴者のテレビ離れも投票率の低下も進んでしまうだろう」という――。

■今回の参院選選挙特番の見どころ

コロナ禍とロシアによるウクライナ侵攻がいまだ収まらず、さらに記録的な猛暑が続くなど日々の生活に不安を抱える中、7月10日に参議院議員選挙の投開票を迎える。

今回も各局が看板報道番組をベースにした選挙特番を放送。出口調査による議席予測、当落の速報、注目選挙区や候補者のドキュメント、キャスターやタレントによるインタビューなどの内容が「横並び」と揶揄されがちだが、各特番のコンセプトはグラデーションのように色分けされ、いくつか新たな取り組みも見られる。

昨年10月31日に投開票が行われた衆議院選挙特番での発言が批判を招いた爆笑問題・太田光の再登板をはじめ、元祖「無双」池上彰の新たな仕掛け、「チャラい」キャラクターの芸人・EXIT参戦など話題には事欠かないが、それぞれどんな見どころや変化があるのか。さらに、選挙特番の意義についてもふれていきたい。

■速さ以外はオーソドックスなNHK

テレビ欄の順番で見ていくと、まずNHK総合は『衆議院開票速報2021』(19時55分~翌5時)を放送する。昨秋の衆院選特番から放送時間帯は変わっていない。

NHKの選挙特番と言えば、速報性にこだわり、「民放には絶対に負けない」という使命感を感じさせられる。先日、前田晃伸会長が「別に当確が1分遅くなろうが視聴者にとって大した問題じゃない」などと発言したことが報じられたばかりだが、報道局の意地にかけても速さはキープしていくだろう。ただ、「速さ以外はオーソドックスで特筆すべきところはない」という点も変わらない。

ふだん『NHKニュース おはよう日本』『ニュースLIVE!ゆう5時』『ニュース7』『ニュースウォッチ9』などを見ている高齢層中心の視聴者層に支えられ、今回も視聴率トップは間違いないだろう。

■日テレが候補者に独自で行ったアンケート

次に日本テレビは『zero選挙2022』(19時58分~23時55分、24時15分~26時)を放送するが、こちらも昨秋の衆院選特番と同じ時間帯。有働由美子と櫻井翔のダブルメインキャスターに、「パートナー」というポジションで落合陽一が絡む形で進んでいく。

その他の出演者には、開票速報を担う『news every.』の藤井貴彦と中島芽生を中心に、岩本乃蒼、佐藤梨那、伊藤遼、後呂有紗と、自局の報道系アナウンサーをフル活用。かつては桐谷美玲、又吉直樹、小山慶一郎らタレントを積極起用した時期もあったが、現在は視聴者目線に寄り添うようなスタンスが随所に見られる。

実際ホームページには、「公約ではみえない本音がわかる」という狙いの広範囲にわたる候補者アンケートを公開しているほか、自分に近い候補者がひと目でわかる“考え方診断”をアップ。選挙特番の放送前から視聴者に寄り添う姿勢を見せており、民放トップの視聴率が有力視されている。

■NHK色が強まったテレ朝

テレビ朝日は『選挙STATION2022』(19時58分~24時25分)を放送し、昨秋の衆院選特番から35分の縮小。出演者は大越健介の周囲を大下容子、小木逸平、板倉朋希、渡辺瑠海の自局アナウンサー、さらに政治部長の藤川みな代と自局のスタッフでガッチリ固める。

「大越健介の直球勝負」という直撃コーナーこそあるが、かつて久米宏や古舘伊知郎がメインを務めていたころのようなアクの強さはなく、富川悠太から大越健介に代わったことや、もともと速報にこだわる点なども含め、NHKに近づいた印象もある。

ただ今回は『世界は変わった どうするニッポン?~Survival JAPAN 2022~』をサブタイトルに掲げ、「18日間のサバイバル」「生き残りを賭けた喜怒哀楽の人間ドラマ」にこだわった放送にするという。“生き残り”や“天国と地獄”などのドラマ性を多分に含むドキュメンタリーとして引きつけたいようだ。

■ネットとの相性は良さそうなTBS

TBS系は『選挙の日2022』(19時57分~25時)を放送。昨秋はサブタイトルに『太田光と問う!私たちのミライ』を掲げていたが、今回は「私たちの明日」に変わり太田の名前はなく、放送時間も40分間縮小される。やはり多少なりとも昨秋の騒動が影響しているのだろう。

しかし、メインのスペシャルキャスター・太田光はあえて変えず、周囲を『Nスタ』の井上貴博とホラン千秋、『ゴゴスマ ~GOGO!Smile!』の石井亮次、『news23』の小川彩佳が固める。ちなみにTBSの社員は井上のみであり、最も外部に頼った人員配置となった。

太田の再登板は、批判こそ多かったものの話題を集めたことも確かであり、「今回は何を言うのか」という興味本位での視聴も期待されている。太田自身、「参院選特番の『台風の目』にしたいです。前回いろいろありましたが、私の“芯”は変わらないし、今回も何が起こるかわからない感じにしたい」と語っているように、前回以上の発言があっても驚きはない。

TBS放送センターに東京
写真=iStock.com/winhorse
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

ただ、TBSの報道番組で視聴者の評判がいいのは、ソフトな語り口の石井亮次と、局アナらしからぬ率直な発言が目立つ井上貴博の2人。特番のテーマは「変わる」だが、自局の報道番組より『サンデー・ジャポン』の太田光を選んだこと、ゲストに経済学者・米イエール大助教授の成田悠輔や乃木坂46の山崎怜奈らが名を連ねること、メタバースを使って政治家との議論を行い視聴者も体感できることなど、ネットとの相性はよさそうだ。

■異例の投票日前に特番を行うテレ東

テレビ東京系は『池上彰の参院選ライブ』(19時50分~23時42分)で、放送時間は昨秋とほぼ同じ。今回も池上彰と政党幹部や候補者との緊張感あふれるやりとりが注目を集めるだろう。

予告映像では、「今回も池上が政治の裏側に迫る」「日本政治のカラクリを解き明かします」と打ち出しているが、番組の強みは池上だけではない。大江麻理子、官邸キャップの篠原裕明、『Newsモーニングサテライト』の豊島晋作も重要な役割を担う。

実はこのところ「政治家がうまく答えると一方的に中継を切って、自分の都合がいいコメントを入れる」などのアンチ池上も少なくない。それでも民放他局に負けない視聴率を叩き出しているのは、大江、篠原、豊島とテレビ東京の報道番組への信頼性が高いからだろう。

また、昨秋もアイドルなどの芸能人を多数招いていたが、今回も宮崎美子、勝俣州和、鈴木福が出演。「家族で楽しめる選挙特番」として“永田町クイズ”なども予定されている。

さらに前日9日に『Are you ready? 池上彰の参院選直前SP』(13時28分~14時23分)も放送。特定の政党や候補者が有利・不利になるような発言ができないため、「池上無双」こそ期待できないが、意欲的な取り組みの1つだろう。

■前回よりトーンダウン必至のフジ

フジテレビ系は『Live選挙サンデー』(19時58分~25時55分)で、昨秋と放送時間は同じ。大きな変化としては、宮根誠司の相棒が加藤綾子から宮司愛海に変わったことが挙げられる。これは今秋に『Live News イット!』のメインキャスターが加藤から宮司に変更することの前倒し起用だろう。

一方で他の主な出演者は、開票速報キャスターの榎並大二郎と三田友梨佳、ゲスト・解説の古市憲寿、井上咲楽、反町理は変わらず、昨秋からは橋下徹が政治部長の松山俊行に変わっただけ。この変更は特定政党への批判的な発言が物議を醸したことが影響しているのか。しかし、他局とは異なり、わざわざ「他大物ゲスト」と公表しているだけに、それなりのサプライズ出演がありそうだ。

やはり目玉は「宮根と政治家たちの本音トーク」であり、昨秋は宮根と橋下がバチバチのケンカムードを漂わせていたが、今回はトーンダウン必至。独特な視点で忖度せずに語る古市と、政治家と選挙マニアの井上らがどう差別化していくのか。

■「池上無双」を民放各局が踏襲するワケ

そして最後にもう1つ紹介しておきたいのが、ABEMAの『ABEMA Prime 参院選特番2022』。大枠の放送内容は民放各局と変わらないだけに、注目は「EXITがどんなMCをするのか」の一点に尽きるだろう。

同特番はメインビジュアルに「史上最もチャラい参院選特番」と掲げているほか、兼近大樹が「知らない人の立ち位置でやる」と宣言。『ABEMA Prime』のMC経験があるため、知識はそれなりに豊富なはずだが、あえて道化に徹するという。

そんな道化のスタンスで臨めることが彼らの強みであり、政治家たちにとっては意外に鋭い質問やツッコミとなるかもしれない。兼近は「爆笑問題の太田さんを超える炎上をしたいなと思います」とも語っていたが、礼儀正しい人柄だけにその可能性は低そうだ。

■いっそ「無双」を目指さないほうが良い

こうして見ていくとわかるように民放各局の特番は、そのほとんどが「MCと政治家の一騎打ち」というムードが濃く、それを視聴率やネット上の反響につなげようという狙いがうかがえる。

そのため、有働由美子、大越健介、太田光、池上彰、宮根誠司は、「自分の発言や姿勢が結果に直結する」というプレッシャーを背負っている。これは「池上無双」がフィーチャーされて以降、濃くなった傾向だけに、むしろ「無双」を目指さないほうが相対的に評価を受けるのではないか。

また、民放各局の視聴率が大差なく、NHKが圧勝に終わるのも、その内容が横並びに近いからだろう。放映権などの問題がない選挙には、スポーツにおけるジャパンコンソーシアムのような仕組みがなく、各局が特番を横並び放送する形を続けてきた。

そもそも日々の報道番組から横並びであり、なかでも国政選挙は“報道局の見せ場”である以上、選挙特番がそうなるのは当然とも言えるが、現在の視聴者はそんな各局の事情を許してくれない。

ではなぜテレビ局は選挙特番を放送するのか。その理由は放送法第4条の「政治的に公平であること」、「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにする」という規定によるところが大きい。国民の共有財産である電波を使用した事業を行っている以上、その根底には「国政選挙は迅速かつ公平に報じなければいけない」という社会的責任があるのだ。

国会議事堂
写真=iStock.com/istock-tonko
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/istock-tonko

■局員は横並び放送に否定的

日ごろから「テレビは同じような番組ばかり」というイメージを持たれ、ネットコンテンツへのシフトを助長する理由になっているだけに、選挙特番のような機会はネガティブな印象を加速させるリスクがは高い。

投票率が上がれば選挙特番への注目度も増し、特に若年層の意識が高まれば横並びでも問題ないのだが、現状ではその兆しが見えず、イメージの払拭はできないだろう。

出口調査や投開票日の票読みなどに多くの人材を動員し、多額の費用を要するほか、視聴率も通常の日曜を下回りがちなだけに、報道局以外のテレビマンたちには横並び放送に否定的な人が少なくない。特に近年は「あれほどお金がかかるのなら、急いで当落を出す必要はない」という声をテレビ業界内で聞くようになっている。

ネット上の声を見ても昨秋は、「『当選確実』ではなく『当選確定』になってからの報道でも視聴者は困らない」「次の日に落ち着いて見せてくれればいい」「各局で当日の夜と、翌日の朝に分けてくれればいいのに」などの声が目立っていた。

今回の選挙特番は、このような不満の声を覆せるほど内容の濃いものを見せられるのか。横並び放送を肯定するような差別化ができるのか。これらができれば選挙特番の意義は深まり、次回以降の投票率アップに貢献し、できなければ選挙特番はスルーされ、投票率ダウンの遠因にもなりかねない。

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木村 隆志(きむら・たかし)
コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者
テレビ、エンタメ、時事、人間関係を専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、2万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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(コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者 木村 隆志)

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