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「安倍元首相の死は自業自得だ」と言う安倍批判派の人たちに伝えたい「安倍晋三・昭恵夫妻」の知られざる姿

プレジデントオンライン / 2022年7月12日 15時15分

2019年4月13日、東京都内の新宿御苑で開かれた「桜を見る会」での安倍晋三首相(左・当時)と昭恵夫人。この会には約1万8000人のゲストが招待された。 - 写真=EPA/時事通信フォト

安倍晋三元首相は生前、さまざまな批判にさらされた。本当はどんな人物だったのか。安倍晋三氏、安倍昭恵氏の取材を重ねてきたライターの梶原麻衣子さんは「安倍元総理は、夫婦関係や人付き合いについては極めてフラットで、むしろリベラルだった」という――。

■「晋ちゃん、晋ちゃん」と声をかけた

「行く先々で、初めてお会いした方々が『応援しています』『昭恵さん、頑張って』と声をかけてくださる。そのたびに、『夫は本当に多くの方に支えていただいていたんだな』と思うんです。私も、たくさんのご縁に感謝しながら日々を過ごしています」

こんな一言からも、安倍昭恵さんの夫・安倍晋三元総理に対する思いや姿勢が伝わってくる。声を掛けられているのは昭恵さん自身だが、それは「夫への応援」なのだ、ととらえているのだ。

それだけに、安倍元総理が銃撃されたと聞いた際、真っ先に思い浮かんだのは昭恵さんのことだった。しばらくして、搬送先の病院に向かう昭恵さんの気丈な姿がテレビに映った。昭恵さんが病院に到着して間もなく、安倍元総理の死亡が確認されたと報じられている。

医療関係者のコメントを見るに、家族が到着するのを待って、「蘇生処置を止める」ことを確認した、ということなのだろう。報道によれば、昭恵さんは安倍元総理に「晋ちゃん、晋ちゃん」と声をかけたというが、返事はないままだった。昭恵さんの心中はいかばかりだったか、想像を絶する。

■晋三さんとよく訪れた富士山の別荘

冒頭の昭恵さんの言葉は、雑誌『プレジデント』誌2021年1月1日号に掲載された〈日本再発見! 安倍昭恵さんと神々の旅 富士山信仰編〉と題する記事からの引用だ。筆者はこの取材に同行し、昭恵さんと早朝から夜までご一緒し、富士山周辺の聖地を巡礼した。

取材は2020年11月下旬に行われた。安倍総理が退陣を表明した2カ月後のことで、コロナ流行の波と波の間の、つかの間の収束期のことだった。「コロナの終息を祈る」という意味もあり、冨士講と言われる富士山信仰の拠点や、普段は立ち入りが禁じられている「人穴」という噴火でできた溶岩洞穴などを巡った。

「人穴」は、戦国乱世以来、多くの人たちがこの地で修業をし、祈りをささげてきた場所だ。昭恵さんも、足場の悪い洞穴の中を進み、神妙な面持ちで祈りをささげていたのが印象的だった。最後に取材の感想を聞くと、「心が祓われる、洗われる気持ちになりました。この感覚はうまく言葉にできません」と、晴れやかな表情で語っていた。

富士のある山梨県は都内の自宅、夫の選挙区である山口に続く「サードプレイス」だという。夫ともよく訪れた別荘があり、「総理夫人・政治家の妻」としての役割から、ほんのひと時、離れられる場所だったという。仕事の場でもいつも自然体でいる昭恵さんだが、それでもリフレッシュの場は必要だ。

■「不動心」と書かれた色紙

外遊や選挙でも、総理夫人の働きは欠かせない。7年8カ月も続いたそんな多忙な日々に一息ついたころの取材で、「少しはほっとしてますか? 安倍さんが総理でなくなると、昭恵さんの環境も、いろいろ変わるものなのですか」と尋ねたところ、昭恵さんはこう述べていた。

「自宅の前にはその後もポリボックス(警察官の詰め所)が置かれるんですが、主人のSPの数も減るし、私には警護がつかなくなるんですよ。自由になったので、私は自分で車を運転して出かけたりしています」

アクティブだなぁと驚いたのを覚えている。「危ないからやめろって、安倍さんから言われないんですか」と尋ねたが、「ウフフ」と笑う昭恵さんの反応から、「言われても乗って行っちゃうんだろうな」と感じたものだ。

取材地だった富士山の小御嶽神社に寄った際には、こんなこともあった。安倍元総理の手になる「不動心」と書かれた色紙を、小佐野正史宮司夫妻が「家に飾っていたのを持ってきました」と用意してくださっていたのだ。それを見た昭恵さんは「こんな立派な額に入れて大事にしていただいて、主人も喜びます。……色紙をもってみんなで写真を撮りましょう。夫にも送っておきますね」とその場で画像をメールで送信していた。

富士山
写真=iStock.com/kokoroyuki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokoroyuki

■「総理をやめてから、ようやくスマホにして、私に自慢してくる」

「主人は総理をやめてから、ようやくスマホになったんですよ。だから機能が珍しいみたいで、私に自慢してくる。『私はあなたよりもずっと前からスマホなんですけど』って(笑)」とも。ほほえましい、どこにでもいる夫婦のやり取りの一端が垣間見えた。

別のある時には、昭恵さんを囲む席に、安倍総理から電話があった。夜の9時ぐらいだっただろうか。「どこにいるの? 今日、これから大雨が降るらしいよ。遅くなると危ないよ」という趣旨の、ちょっと気の緩んだ、しかし早口の声が漏れ聞こえてきたこともある。

昭恵さんは「自分らしい生き方」を変えず、夫の安倍元総理も、そんな昭恵さんの姿勢を咎めることはなかった。むしろ、ちょっとうらやましく思っていたのかもしれない。昭恵さんが語る「夫の話」からは、そうした二人の関係が伝わってきた。

■「家庭内野党」を評価する報道から、森友学園問題への追及へ

7年8カ月にもわたる長期政権。しかも2017年からは昭恵さん自身が報道対象になる場面が増大した。森友学園問題だ。朝日新聞などは、実に社説で40回にもわたって「昭恵」さんの名前に言及した。

当初、昭恵さんがファーストレディでありながら、夫とは違う脱原発政策を主張した際には「家庭内野党」などと持ち上げていたのが朝日新聞系の『AERA』などだった。その頃はむしろ保守系の安倍支持者側が昭恵さんの姿勢を批判していたほどだった。

それでも、安倍元総理が妻である昭恵さんに「家庭内野党、なんてみっともない。俺のメンツをつぶす気か」とか、「俺の政権をどうしてくれるんだ」などと食って掛かったことは、どうもなさそうである。

むしろ、国会で昭恵さんの名前を出されたことに怒る安倍元総理の姿が印象的だった。2017年、森友学園問題に関して、学園側が昭恵さんを名誉校長に据えていたことに対する質問が飛んだ。それに対し安倍総理が「もし私や妻が関与していたら、間違いなく総理も議員もやめる」と答えたあの件だ。

国会議事堂
写真=iStock.com/Mari05
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mari05

これには批判的な声もあった。もちろん、政治家として、国会答弁に関する評価は問われてしかるべきだと思うが、人間的な感情の発露、妻を思う姿勢が表れたものとして評価する一般の声があるのも確かだった。

■夫婦関係や人付き合いは極めてフラットでリベラル

政治思想的、特に家族政策などについては強固な保守と言われる安倍元総理だが、夫婦関係や人付き合いについては極めてフラットで、むしろリベラルだったようだ。

例えば「家庭内野党」を評価する声が多かったころ、昭恵さんは明確に安倍元総理と政治主張が違う人たちと積極的に会っていた。LGBTの当事者や、脱原発の活動家などに自分が会うことで「私が話すことで、夫を理解してもらえるかもしれないし、夫にも普段とは違う意見を伝えられるから」だと述べている。

これまた保守派の安倍支持者のなかには、こんな昭恵さんの振る舞いに眉を顰める向きもあった。だが、イデオロギーがちがちのスタンスから人や意見を色分けし、ほめるかけなすかしかできない人たちより、よほど本当の意味での「政治」のあるべき姿に近い姿勢だったのではないかと今、改めて思う。

あまり安倍元総理が自らのオピニオンとしては口にしない、SDGsに関しても、昭恵さんはその種の事業に携わっている若い人材と、安倍元総理を引き合わせたこともあるという。「昭恵が言うなら」とその席に来たのであろう安倍元総理の姿を想像すると、夫婦でありながら、信頼する同志でもあったのかもしれないと感じる。政治家だから、というだけでは済まないほどの困難を乗り越えてきた二人なのだ。

ビジネスパーソン同士が握手
写真=iStock.com/alvarez
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/alvarez

■ツイッター上で飛び交う罵詈雑言

ツイッター上では、もとよりあった政治的対立に加え、衝撃的な最期となったことで安倍批判派と支持派それぞれの強い感情、下手すれば罵倒が飛び交っている。そうした事態を目の当たりにしてのことだろう、安倍政権批判の急先鋒で知られる作家の室井佑月氏は、事件後にこうツイートしている。

〈うちの旦那が殺されて、「よかった」って言われるの? 隣にいた私も「しょうがないじゃん」って言われるの? 応援してくれる支援者の方々が被害にあったら、私らはどうしたらいいの? 自分の考えの方向と、今回の事件は違う。今回のことはあってはならなかった酷い事件だ、で一致したい〉

室井氏自身、現衆議院議員で元新潟県知事の米山隆一氏と結婚した「政治家の妻」でもある。死に際しても、「自業自得である」と言わんばかりの反安倍派に対する疑問を呈した形だ。筆者自身も室井氏とは政治思想は全く逆だが、このコメントには同意する。

また、「最愛の人を失った」という点では、森友学園問題の余波から発生した財務省決裁文書改竄問題の影響で自ら命を絶った、赤木俊夫さんのことも思い浮かぶ。赤木さんの妻の雅子さんは、事件の全容解明のために今も裁判や発信を続けている。

この件を引き合いに、「赤木さんの死は軽視して、安倍の死だけ重んじるのはおかしい」とする批判派がいるのも事実だ。だが、すでに『週刊文春』で報じられているように、昭恵さんは「線香を上げに行きたいが、今はできない」と雅子さんにLINEを送っている。少なくとも、人間としてその死を悼み、夫を失った妻の雅子さんに対する深い同情の思いを伝えている。

■最愛の家族を亡くした人の内心を慮ること

「安倍だけを悼むな」という安倍批判派もおかしいのだが、自戒を込めて言えば安倍政権の正当性やメディア批判を優先し、赤木さんの死を重く受け止めなかった安倍支持派も多かったのは確かだ。イデオロギーや政治思想が、「最愛の家族を亡くした人の内心を慮る」という最低限の人間性をも失わせるのであれば、これほど怖いことはないだろう。

訃報を受けて、諸外国から次々に安倍元総理の死を悼み、生前の功績をたたえるコメントが殺到しているが、こうした政治家としての評価や手腕と、人間的な姿のギャップが、安倍元総理を応援する側にとっても、批判する側にとっても過剰にならずにはいられない、何か心をかき乱すものがあったのだろうと推察する。

安倍元総理の功罪の検討や、政治手腕に対する批評などはもちろん冷徹に行わなければならない。その中で、昭恵さんに対する批判的言及が出てくるのも避けられるものではないし、冷静客観的、という前提はあるが、避けるべきでもないだろう。批判が批判である以上、抑圧されるべきではない。

しかし、である。まずは人間として、安倍元総理の逝去、そして「最愛の人」を失った昭恵さんの立場に思いを寄せられないものだろうか。

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梶原 麻衣子(かじわら・まいこ)
ライター・編集者
1980年埼玉県生まれ、中央大学卒業。IT企業勤務の後、月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経て現在はフリー。雑誌やウェブサイトへの寄稿のほか、書籍編集などを手掛ける。

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(ライター・編集者 梶原 麻衣子)

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