人生を「勝ち負け」で考えても意味がない…貧乏なのにいつも明るい人が無意識にやっている考え方
プレジデントオンライン / 2022年7月15日 9時15分
※本稿は、和田秀樹『なぜか人生がうまくいく「明るい人」の科学』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■「勝ち負け思考」では、無意識に勝負を避けてしまう
日本人には、「勝ち負けで物ごとを判断する」という人がたくさんいます。
特に、男性にそうした気質の人が多いようです。
相手の意見を受け入れたら負けとか、相手を言い負かしたら勝ちなど、何かにつけて勝ち負けで考える傾向が強いのです。
相手を言い負かしたところで、相手が考え方を変えてくれることはほとんどありません。本人は「勝った」つもりでいても、それほど意味はありません。
負ければ気持ちが暗くなりますから、意味のない考え方だと早く気づく必要があります。
物ごとを勝ち負けで考え続けていると、人間には「負けたくない」という心理が強くありますから、負けたくないあまりに、逆に「消極的」になってしまいます。
自分の負けを回避するために、無意識に「勝負」を避けて、何もやらないという方向に気持ちが向かってしまうのです。
じつは、私自身も、かつては「勝ち負け思考」の強い人間でした。
子供の頃から、つねに「賢くありたい」と思っていて、人を言い負かすのが好きなタイプだったのです。
この理論とこの理論なら、こっちが勝っている……という発想の「勝負人生」を歩んできたと思います。
人生を勝ち負けで考えますから、勝てば有頂天になりますが、負ければ気持ちが暗くなり、表情も険しくなっていました。
■人から「表情が明るくなった」と言われる理由
その考え方が変わったのは、たくさんの高齢者の方々を診察したり、自分でも様々な経験を重ねてきたことにあります。
社会的に認められる成功者となった人でも、何が不満なのか、いつもイライラとして不服そうな顔をしている人がいます。
あまり裕福ではなくても、ニコニコとして、楽しそうに毎日を過ごしている人もいます。
そんなご高齢の方々をたくさん診ているうちに、「人生には勝ちも負けもないんだな」と考えるようになったのです。
「人生を勝ち負けで判断しても、あまり意味はないな」
そう思うようになると、肩の荷が下りたみたいに、気持ちがスッと軽くなりました。
その影響なのか、最近では、人から表情が明るくなったと言われます。もしかすると、笑顔でいることが増えているのかもしれません。
人は明るい気持ちでいると、笑顔になります。笑顔でいれば、自然と明るい気持ちになれます。
それは、私が身をもって体験してきたことでもあるのです。
■交通事故の示談のように、「7対3で勝てばいい」と思えるか
本書の第2章のストレスの項目で紹介した「逃げる」という選択を避ける傾向があることなど、まさに「勝ち負け」で物ごとを考えていることの象徴といえます。
「逃げたら負け」と思っているから、いくらストレスを溜め込んでも、何とかして我慢しようと無理をしてしまうのです。
人の人生は、「逃げたら負け」ではありません。
「逃げるが勝ち」でもありません。
大事なことは、勝ち負けではなく、結果的に「生き残る」ということです。
自分が生き残るためには、どうしたらいいか?
勝ち負けで考えていると、この最も大事な判断を見誤ることになります。
どうしても勝ち負けのクセが抜けないならば、「圧勝」を考えるのではなく、交通事故の示談のように、「7対3で勝てばいい」という発想を持つだけでもいいと思います。
完全に打ち負かそうとするのではなく、3割くらいは相手の言い分を受け入れるということです。
完全に打ち負かせば、相手は「敵」になりますから、ムダに敵を増やさないための余地を残すということです。
この「勝ち負けで考えない」というのは、精神医学の分野では最近のトレンディな考え方で、最近になって注目され始めた新しい視点です。
現代の日本人にとっては、非常に大切な考え方だと思います。
■楽観的な人より悲観的な人の方が「詐欺師」を見抜けない
物ごとを悲観的に考えるクセがあると、つねに不安を抱えることになり、気持ちも沈みがちになります。
気持ちが沈んでいれば、自然と表情も暗くなり、周囲の人に陰気な印象を与えてしまうことになります。
デメリットは、それだけではありません。
悲観的に考える人は、意外に「地雷」を踏みやすいことも明らかになっています。
これは社会心理学の実験によってわかったことですが、「人を見たら泥棒と思え」とネガティブに考える人ほど、詐欺に引っかかる可能性が高くなるそうです。
「人を見たら泥棒と思え」というのは、「知らない人は疑ってかかれ」とか「軽々しく人を信用してはならない」という人間不信の悲観的な考え方です。
その対極として、「渡る世間に鬼はない」と楽観的に周囲を見ている人もいるわけですが、楽観的な人に比べて、悲観的な人は、「誰が詐欺師なのか?」を見抜けないといいます。
多くの人は、「渡る世間に鬼はない」と甘く考える人の方が、詐欺の被害に遭いやすいと思っていますから、まったく逆の結果なのです。
なぜかというと、人間不信の人は「他人はすべて悪いやつだ」と思い込んでいますから、全員が悪者に見えてしまうため、その中から本物のワルを見つけ出すことができません。
それに比べて、「渡る世間に鬼はない」と思っている人は、全員が善人と思っていますから、少しでも不審なところがあれば、「こいつだけ、ちょっと変だぞ」ということに気づきやすいのです。
社会心理学者の山岸俊男さんによれば、人間不信型の人は「一度、相手を信用すると全面的に信用してしまう傾向が強い」といいますから、「自分は用心深いから大丈夫」という人ほど、まったくアテにならないということになります。
大事なことは、できるだけ物ごとを悲観的に考えないように意識することです。
悲観的な考え方から抜け出せれば、偏った物の見方をしなくなりますから、視野を広く持つことができます。
視野が広くなれば、いろいろな可能性が考えられるようになり、これまでに気づかなかった他の選択肢を持つことができるのです。
■不安や心配をシミュレーションし「見える化」する
気持ちが暗くなるような不安なことや心配ごとがある場合は、あらかじめシミュレーションをする習慣を身につけておくことが大切です。
起こるかどうかわからないことを心配していたらキリがありません。
でも、実際に起こるかもしれませんから、目を背けてばかりもいられません。
・もし、本当に起こったらどうするか?
・起こらなかったら、どうなるか?
これは「予期不安」の対策にもなりますが、不安や心配を具体的にイメージして、早い段階で具体策を検討しておけば、ムダに暗くならずに済みます。
時間のある時に、スマホのメモ機能や小さなノートを使って、考えられる限りの不安材料や心配ごとをリストアップして、それぞれを個別に検討してみるのです。
その作業を繰り返していけば、「これは考えすぎだな」とか、「これは可能性が高そうだ」ということがわかってきます。
不安や心配を「見える化」することで、気持ちを落ち着けることができます。
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精神科医・国際医療福祉大学赤坂心理学科教授
1960年大阪市生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科、老人科、神経内科にて研修、国立水戸病院神経内科および救命救急センターレジデント、東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、高齢者専門の総合病院・浴風会病院の精神科医師を経て、現在、国際医療福祉大学赤坂心理学科教授、川崎幸病院顧問、一橋大学・東京医科歯科大学非常勤講師、和田秀樹こころと体のクリニック院長。
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(精神科医・国際医療福祉大学赤坂心理学科教授 和田 秀樹)
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