炎天下で働く人たちがこぞって使う…「首にかけるクーラー」が累計100万個超のヒット家電になったワケ
プレジデントオンライン / 2022年7月18日 12時15分
■金属プレートで頸動脈あたりを直接冷やす
サンコー創業以来の最大のヒット商品はネッククーラーです。
いま現在の商品名は「ネッククーラーEvo」といい、市販価格は4980円ですが、2022年の夏向けに60万個を用意しました。5回モデルチェンジして現在は第6世代に進化しています(※)。2015年から販売を開始して累計80万個ですから、サンコーにとってはロングセラーの超大ヒット商品です。
ネッククーラーは、ヘッドホンを首から下げるようにして装着し、首のまわりの頸(けい)動脈あたりの肌を冷やすアイテムです。先端の金属プレート部分が冷たくなって、首を直接冷やします。
同様のヘッドホン型として、左右に小型扇風機がついている商品もありますが、そこが決定的にちがいます。
※2022年4月から最新モデルとして「ネッククーラーSlim」を発売中。
■『攻殻機動隊』に出てくるような未来的デザイン
電源をオンにしたら2秒か3秒程度でたちまち冷たくなります。マックスのモードでは、環境温度より15度低くなりますので、たとえば外気温が35度だったら、20度程度まで冷える性能をもっています。しっかり冷えて気分が楽になったら、”ゆらぎモード”に切り替えると、ちょうどいい冷たさを維持します。
「ネッククーラーEvo」では、2通りの電源を選べます。ひとつは専用バッテリーを充電しておいて後ろにセットすると、これで1時間半から2時間はコードレスで使えます。もうひとつはパソコンやUSB電源、市販のモバイルバッテリーなどとネッククーラーを直接接続して使います。パソコンで作業するときは、このコードをパソコンのUSB端子に挿しておけばいいわけです。
ライオンさんのロングセラー商品である「冷えピタ」を首に貼ったときとか、白元アースさんのこれもロングセラー商品である「アイスノン首もとひんやり氷結ベルト」などと、首を直接冷やすところは同じなのですが、サンコーのネッククーラーシリーズは電気製品であることと、見た目が『攻殻機動隊』に出てくる未来的なデバイスのような、カッコいいデザインになっているところが売りです。
■工事現場や厨房、溶接現場で引っ張りだこ
発売当初は、暑さに悩んでいた新しモノ好きの若い人たちにパッと人気が出て売れ始めたのですが、いまやそれだけではありません。炎天下で働く農家さんや工事現場で働くみなさん、空調のない工場や倉庫などで働くみなさん、発熱を伴う作業が必要な厨房や溶接現場で働くみなさんに、熱中症予防としてとても役立つというので買っていただきました。JA(農協グループ)さんでも大量導入してくれましたし、一括で1万個を購入してくださる企業もあり、おかげさまで超大ヒット商品になりました。
地球温暖化の影響もあって、近年は夏の猛暑が深刻な問題になっていて、個人も企業も熱中症対策をしっかりやらなければならなくなりました。ファンがついた空調服も大いに売れていますが、私たちのネッククーラーもその対策のひとつとして選んでいただいています。
ネッククーラーが超大ヒット商品に育ったのは、モデルチェンジのたびに改良を重ねて使い勝手をどんどん良くしていったのと、デザインをカッコ良くしていったことが大きな理由だと考えています。
■猛暑では熱風を起こすだけのハンディ扇風機
現行商品の「ネッククーラーEvo」は首の両側2箇所を冷やすものですが、最初のモデルは1箇所しか冷やせませんでした。「首の両側を冷やした方がいい」などというマーケットの意見を取り入れながら、改良を重ねてきたのです。つまり、消費者のみなさんに育てていただいた結果、今日の大ヒットにつながりました。
実はネッククーラーが大ヒット商品に育つまでには、それなりの時間がかかっています。そのスタートは当時流行し始めたハンディ扇風機でした。暑いときには気軽に利用できて便利なアイテムですが、猛暑になると効き目がありません。扇風機ですから、風を起こして体のまわりにある熱い空気を吹き飛ばしたり、汗を乾かして気化熱を奪って涼しくなるという原理なのですが、外気温が体温を超える猛暑になると、熱風を起こしているだけになってしまいます。
こうなると涼しいどころか、生暖かい風になるので、かえって気持ちがわるくなる。どんなに暑くなっても涼しさを確保できるような商品ではなかったのです。
■送風冷感機があまり売れなかった最大の要因
そこで、2013年に販売したのが首元を冷やす送風冷感機「USB首ひんやりネッククーラー」(1980円)でした。本商品を首に装着すると、内側の金属製クーリングプレートが首に直接触れるようになっています。そのプレートに内部からファンの風を当てることで熱を奪う、という仕組みです。USB電源の他、乾電池でも動作するうえ、本体内部にはスポンジが装備されていて、水をしみこませることで冷却効果をアップさせる機能もありました。
![USB首ひんやりネッククーラー(2013年)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/b/1200wm/img_bb0269635693dcc0c437096abcbbd931341575.jpg)
これまでにない、斬新なアイデア商品だったのですが、販売はふるいませんでした。なぜ人気が出ないのかと、お客様の声を調べていったら、冷却能力が高くなかったことがいちばんの要因でした。猛暑になると、涼しいと思えるほどにはプレートが冷えなかったのです。
その経験があったので、徹底的に冷やして涼しくなるソリューション(解決策)がないか、と考えていたのです。そのときに知ったのが、「ペルチェ」という半導体素子の存在で、これは通電すると片面が熱く、もう片面が冷たくなる性質があり、小型の冷蔵庫などに使われていたデバイスでした。これを見つけたとき、小型化してUSB電源で駆動すれば、どんなに暑くなっても冷えるウェアラブル(身に着ける)な商品ができるぞと思いました。
■新しいアイデアを商品化していく難しさ
社内の誰が、このアイデアを考え出したのかは、忘れてしまいました。そんなことは忘れてしまう程度のことなのです。大切なのはアイデアを商品化していく会社全体のパフォーマンスです。この場合の商品化とは、実際に作るだけではなく、コストから利益まで計算し、市場調査などのマーケティングをやって、宣伝PR戦略をたてて、売り出すところまでを言います。
とはいえ口で言ったり企画書に書くのは簡単でも、現実に計画通り商品化するのはとても難しいものです。
最初に考えたアイデアは、冷えるプレートが1つで、首の後ろとかオデコを1箇所だけ冷やすものでした。団塊の世代の人たちにこの話をすると「エヂソン・バンドみたいだ」と言われるのですが、私が生まれる前に流行ったアイデア商品らしく、私にはよくわかりません。ようするに白元アースさんの「アイスノンベルト」を首かオデコに巻くというような考え方です。
その意味では、頭のまわりの、どこか1箇所を冷やすアイデアは、昔からあったお馴染みの生活の知恵でした。新しいのはUSB電源で冷えるプレートを使っているところです。
■第1世代ネッククーラーは用意した2000個が完売
この初代ネッククーラーは、2015年に「こりゃひえ~る」というネーミングで、発売しました。USB端子から直接コードを介して給電する仕組みで、外気温マイナス10度程度の冷却性能を持っていました。用意したのは2000個。もっと売れるだろうとは思ったけれど、どうしても売れなかったときのことを考えてしまうので、とりあえず2000個でいこうと決めました。
![](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/5/1200wm/img_551a272eb89c13befe982cf04f841141255334.jpg)
大量生産はイコール大金投資なので、アテがハズレてしまうと、投資を回収できなくなってしまうという怖さがあります。しかも、この頃は企画開発の人手が多くなかったこともあって開発が遅れ、夏の暑い盛りに発売したので、機会損失の可能性も高い状態でした。本当ならば夏前に発売して、時間をかけて宣伝をし、夏の盛りにターゲットを合わせなければらないのですが、間に合わなかったのです。
でも、第1代は2000個きっちりと売れて、それなりに手応えはありました。
■暑くなる直前の発売でも「店頭で売りたい」という声
そこで、大幅な改良を施し、首掛け式にモデルチェンジしました。このときから冷えるプレートを2つ搭載し、首の両側を冷やす現在のスタイルになったのです。
この第2世代は「ネック冷却クーラー&温めウォーマー」という商品名で、5000個だったと記憶しています。しかし相変わらず人手が足りないから、どうしても開発が後手後手になってしまい、この第2世代も暑くなる直前にようやく発売にこぎつけたので、大きな機会損失があったと思います。それでも、5000個を完売しました。家電量販店やホームセンターからも「店頭で売りたい」と声が掛かりました。
![ネック冷却クーラー&温めウォーマー(2017年)、ネッククーラーmini(2019年)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/2/1200wm/img_c237d8945a5dfc890e92c81b5502d52b270078.jpg)
こうなれば次の第3世代は「よし勝負をかけよう」と、さらに改良を重ね、2019年に「ネッククーラーmini」という名称で1万8000個を作りました。これは売れました。すでに首掛け式ヘッドホン型扇風機がアイデア商品ではなく定番商品になって普及していたから、それより圧倒的に冷えるネッククーラーに注目してもらえたということもあったと思います。
冷却性能も外気温マイナス13度にアップしました。でも、この年は早期に開発製造計画に着手したにもかかわらず、またもや人手不足で計画が遅れて、機会損失がありました。
■10万個が一気に売れ、増産につぐ増産
それで2020年の第4世代「ネッククーラーNeo」になるわけです。
![ネッククーラーNeo(2020年)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/9/1200wm/img_e9803b6aa4df10a2c5c4fa25e807efcd212318.jpg)
モデルチェンジを重ねてきて、とてもカッコ良いデザインになったし、冷却性能も外気温マイナス15度とさらに向上。また、強〜弱を自動で繰り返すことで冷たさの感覚が麻痺することなく、ひんやり感を維持できる“ゆらぎモード”も新たに搭載しました。
さらに何度も繰り返してきた販売の機会損失をしないよう、開発製造計画も念入りに立てて発売に臨んだのです。
当初10万個を製造し、4月に売り出したら、いきなり売れ始めて、すぐに増産を決めました。結局、増産につぐ増産で1年間で24万個が売れました。
■類似商品が出てきてもサンコーが慌てないワケ
こうしてネッククーラーは、知られれば知られるほど売れる商品になりました。また、企業や組織で働く人たちに配給される業務用の熱中症対策用品にもなり、大量一括購入をしてくださる法人のお客様が目立って増えてきました。ようやく開発製造の努力が実り、大量販売が可能になったのです。
![山光博康『スキを突く経営』(集英社インターナショナル新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/8/1200wm/img_788722aa423a835420e54c7761166f5f280762.jpg)
ところが、私たちが発明品だと考えていたネッククーラーの特許を取得しようとしたら、残念ながら特許の対象になりませんでした。制御システム部分については実用新案をとっていますが、特許で独占できない商品ですから、今後は類似商品がたくさん出てくるはずです。
しかし私たちには、改良に改良を重ねて7年間で80万個を売ってきたというキャリアがある。性能も機能もデザインも価格も、そう簡単にはマネされないと思っています。どんなに類似商品が出てきてもトップランナーであり続けられるような開発を続けています。
ネッククーラーシリーズがなかったら、サンコーは家電メーカーになれなかったのですから、大切に育てていくべきロングセラー商品だと位置づけています。
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サンコー社長
1965年、広島県生まれ。アップル好きが高じて秋葉原のパソコンショップに就職し、パソコン周辺機器の輸入販売に携わる。そのノウハウを活かして2003年にサンコーを起業。「面白くて役に立つ」をキーワードにパソコン周辺機器の輸入販売に取り組む。オリジナル商品の開発や家電分野への進出により、16年に10億だった売り上げを、20年にはその2.5倍の44億円へと押し上げ、急成長を遂げる同社を牽引している。著書に『スキを突く経営 面白家電のサンコーはなぜウケるのか』(集英社インターナショナル新書)がある。
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(サンコー社長 山光 博康)
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