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これは地震や台風に匹敵する災害だった…「KDDIの大規模障害」で政治や行政が本来やるべきだったこと

プレジデントオンライン / 2022年7月14日 10時15分

通信障害に関して説明するKDDIの高橋誠社長=2022年7月3日、東京都千代田区 - 写真=時事通信フォト

■トラブル時に他社の回線を借りることは難しい?

KDDIの大規模障害以降、「社会インフラである携帯電話回線にトラブルが起きた時、どうするのか」という議論が広がっている。その中でも根強いのが「トラブル時には、他の大手事業者が通信を肩代わりする(ローミングする)ようにしてはどうか」という話だ。

実のところ、これはかなり無理がある。だが、ごく一部に関していうのならば、難しいが検討に値する部分がある。それはどういうことなのか? 携帯電話網の仕組みも併せて解説してみよう。

海外旅行時などは、現地の電話回線を一時借りる「ローミング」で通話や通信を行う。国内でも楽天モバイルは、自社が持つ通信網が使えない(電波が届かない)エリアでは、KDDIの回線を借りる形でサービスが行われている。

同じように、携帯電話事業者が大規模障害を起こした時にローミングで解決することはできないのだろうか? シンプルなアイデアだが、冒頭で述べたように、これは現状、あまり現実的ではない。

■一度に大量のユーザーがなだれ込むとどうなるか

理由は2つある。1つ目は、いかに大手事業者といえども「他の大手の顧客をカバーできるほどの余裕は持っていない」ということ。携帯電話事業者は、自社の契約者数よりも相当に余裕を持った設備を維持している。ただ、大手携帯電話事業者の場合、「他社からの利用者が入ってきて、快適な状態を維持できる」ほどとは言いがたい。

NTTドコモは約8300万回線、KDDIが約6100万回線、ソフトバンクが約4800万回線の顧客を抱えている。このうち1つが大規模障害を起こしたとして、それが他社に入っていくと、自社顧客の1.2倍から1.5倍の利用者になる。そのような急増は、携帯電話事業者側も想定しておらず、回線の混雑(輻輳(ふくそう))が発生する可能性が高い。そうすると、他社も連鎖的にトラブルを起こして「共倒れ」になる危険性が否定できない。

2つ目の理由は、もっと危険性が高い。JRと私鉄が乗り入れる駅を想像してもらいたい。片方が不通になるとどうなるだろうか? おそらく、都市部では経験がある方も多いだろう。

運行自体はなんとかできる場合も多い。だが、2路線が乗り入れる駅では、通常発生しない「片方の路線への移動」が急激に発生する。普段はその駅で乗り降りしない人も「振替輸送」に乗るために集まってきて、結果として、その駅が混雑で大変なことになる。

■ローミング対策はまだルール化されていない

携帯電話でも似たようなことが起きる。他社回線への入り口に、トラブルが起きた携帯電話事業者の利用者が殺到することになり、その場所が圧倒的に混雑する。そうすると、当然その場所で誤動作が起きる可能性が高くなる。

大量のアクセスが集中したことによるトラブルの制御は非常に難しい。今回のKDDIの障害も、想定以上のアクセスが起きたことによる障害への対策を進める中で、想定外に起きた事象だ。だから、通信事業者は「そもそも混雑させないこと」を考えてインフラを作る。緊急時とはいえ、自社網にトラブルを引き起こす可能性があるローミングでの対応は、各社ともやりたくないし、現実的ではない、と考えているわけだ。

それでも、通信の確保は重要だ。現状はルール化もなされておらず、危険性だけが指摘されている状況だ。緊急時のルールが出来上がり、各社でどう対応するのが現実的なのか、というシステムを含めた制度設計ができあがれば、携帯電話事業者としても、緊急時のローミング対策について対策を進めることにはなるだろう。

■「緊急通報」だけでも他社の回線を使えないか

一方、これが「すべての通信・通話」でなければ話は別……という指摘もある。例えば、110や119などの「緊急通報」に限り、他社ローミングを実現してはどうか、という検討は、長く続けられている。欧州では実現されているし、2011年の東日本大震災を契機に日本でも……という話があったのだが、現状はまとまっていない。

10年前は、NTTドコモ、ソフトバンクとKDDIの通信方式が違ったことなどが障害となっていたが、4G/5Gが主軸である今はその問題もなく、実現の機運は高まっている。金子恭之総務相も「さまざまな選択肢を視野に入れながら、具体的な実現方策について検討してまいりたい」と答えており、10年間動かなかった検討が進む可能性はある。

一方で、もっとシンプルな方法を提唱する人々もいる。

海外では、携帯電話からも、緊急通報だけは「通信契約なし」で、どの事業者からもかけられる国がある。今回、KDDIの大規模障害で緊急通報がかけられなかったのは、日本では「緊急通報時にも、携帯電話の契約者が誰かを確認する」仕組みになっているからだ。この制度を見直してはどうかという話が出てきている。

これも検討に値するものだと思うが、なかなか実現は難しい。緊急通報は「誰がどこからかけたのか」が重要な場合が多い。警察・消防としては、通話番号を把握した上で対応したいのが本音であり、それは「防犯」の意味でも重要なことだ。また、契約なしでかけられるようにした場合、緊急通報にかかった通話コストは誰がどのように負担するのか、という課題も出てくる。

公共の地下鉄で携帯電話を使用する若者
写真=iStock.com/NanoStockk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/NanoStockk

■障害に備えて別回線を契約する方法もあるが…

これらの問題は簡単には解決しない。そのため、「携帯電話回線を複数用意しよう」という動きもある。より現実的な解決策かと思う。携帯電話の利用料は低くなってきているから、「普段使わない回線として、メインの事業者とは別のところを契約する」という発想はアリだ。

だが、である。それを国民全員がするべきなのだろうか? 結局費用がかかることに変わりはないし、数年に一度のトラブルに備えて費用負担できる人ばかりでもない。企業内で「止まってはいけないサービス」に従事する人々や、個人として費用負担に耐えられる人はいいが、全員に強いるものでもない。

そもそも、通信は「携帯電話」でしかできないわけではない。インターネットを介していればいいわけで、Wi-Fi経由でLINEなどを使い、メッセージや通話の形で連絡してもいい。「1つの携帯電話回線しか連絡方法がない」ことが問題なのだから、家庭の固定回線や公衆インターネットなど、対応方法は色々ある。

■KDDIだけでなく、マスコミの告知も不十分だった

そのために重要なのは「告知」なのではないだろうか。今回、KDDIの障害状況がよく分からない、という人々が少なくなかった。KDDIのアナウンスが分かりにくかった、という問題もあっただろう。だが筆者は、障害状況や回避方法が、もっと広い手段で素早く伝えられていれば、問題はここまで大きくならなかったのではないか、と考えている。

テレビはニュース番組の中で「障害が起きている」ことは伝えたが、「どうすれば回避できるか」「今の障害状況はどうか」を詳細に伝えていない。地震や台風といった災害時のようにニュース速報やL字表示を出して障害の状況を伝えていれば、混乱を少しでもおさえられたのではないか。また、他社の携帯電話の利用者には、緊急通報メールでKDDIの状況が伝えられても良かったはずだ。

回避策として、災害時に使われるWi-Fiネットワークである「00000JAPAN」が公開されていれば、それを使って連絡できた人もいるだろう。近くの公衆電話の位置が分かっていれば、緊急通報の面で安心できた人もいたはずだ。

■これは「一企業のトラブル」ではない

これらのことができていないのは、携帯電話回線の大規模障害が「災害と扱われていない」からである。おおげさだと思われるかもしれないが、携帯電話というインフラが使えなくなることは、災害に準ずる影響を与えうる。

だとすれば、災害で使われている連絡・情報伝達手段のうち、いくつかを使って顧客と周囲に状況を伝える形が検討されてしかるべきだ。「緊急通報をローミングする」という話も、ここに紐づくと考えている。

一企業のトラブル、と考えるのは、もはや難しい。通信や電力など、社会インフラのトラブルを「準災害」として対応し、適切かつ効率的なアナウンスと対処をするワークフローの構築が求められる。そのためには、政治・行政が明確なグランドデザインを作り、民間と一体になって対処することが必須だ。

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西田 宗千佳(にしだ・むねちか)
ジャーナリスト
1971年、福井県生まれ。パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」を専門とする。主に取材記事と個人向け解説記事を担当。

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(ジャーナリスト 西田 宗千佳)

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