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感染拡大のたびに「行動制限と自粛」はもうやめよ…現役医師が訴える「コロナ第7波」で本当にやるべきこと

プレジデントオンライン / 2022年7月15日 11時15分

強い日差しの下、繁華街を歩く人たち。東京都は2022年7月9日、新たに9716人の新型コロナウイルス感染が確認されたと発表。1週間前から6100人増え、22日連続で前週の同じ曜日を上回った(東京都新宿区) - 写真=時事通信フォト

■今回の変異株はほとんどが「軽症」だが…

7月に入って、新型コロナウイルスの新規感染者数が急激に増えてきた。私が主として診療しているクリニックの発熱外来でも、先月末の落ち着いた雰囲気は一転。朝から問い合わせや受診依頼の電話が鳴り続け、予約枠はあっという間に埋まってしまう事態となっている。まさに「第7波」到来だ。

思い起こせば昨年の暑い時期も連日、発熱外来は大忙しであった。当時は感染者数の急増に加えて肺炎に移行する患者さんも少なくなかったことから、実際の診療現場では感染者の状態変化にはとくに注意を要した。一方、今回はこれまでのところは、幸いほとんどの患者さんがいわゆる「軽症」だ。

とくにワクチンを3回接種した人などは、38度を超える発熱をきたしても延々と長引くことはなく、薬を服用せずとも早ければ1日で解熱してしまう。今後感染者の増加にともなって、肺炎を併発する重症者も増えてくる可能性を考えれば軽々に判断してはならないが、新型コロナウイルスに対する印象は昨夏とはかなり異なる。

■「インフルエンザと同じ扱い」は危険すぎる

一方で、真っ先に有症状者に対応することとなる診療所は早くも逼迫(ひっぱく)し始めている。その理由のひとつとして言えるのは、発熱者など新型コロナウイルス感染症が疑われる患者さんを診療する診療所の数がけっして十分ではないことだ。

この問題については以前から述べているとおり、仕方ない部分もある。診療所の構造上、待合室や動線が分離できない施設においては感染疑いの人を診療することが危険だからだ。とくに今回急速に置き換わりつつある「BA.5」は、以前の変異株に比較して感染力が強く、一部の専門家からは重症化リスクが高い可能性も指摘されていることから、現時点で季節性インフルエンザと同等の「5類扱い」にして、一般の診療所すべてで診療するようにすべきだとの意見は危険に過ぎると言わざるを得ない。

ただ構造上、発熱者外来を設置できるにもかかわらず発熱者の受け入れを行っていない診療所や、実際に発熱者を診療しているにもかかわらず、その事実を公表せず、対象者をかかりつけ患者に限定するなど、地域医療の担い手としての役割を十分に果たしているとは言えない診療所が存在しているという残念な話も聞こえてくる。今回のような急激な感染者増に対応するためには、これらの診療所にも一肌脱いでいただく必要もあるだろう。

■感染者が急増する局面で優先すべきこと

また感染者が増えてくると、無症状者にも片っ端から大規模検査を行って、感染者を全数捕捉すべきだとの意見を目にすることもよくあるが、ここまで急速に感染者が増え、市中感染が爆発してきた場合には、検査体制やキットの供給が間に合わなくなる可能性がある。

感染者数急増に驚いているのは私も同じだが、ここは冷静に、いかに重症者や重症化しそうな人を早期に洗い出すかを最優先に考えるべきとの観点から、無症状者に検査のリソースや労力を割くことはやめて、まず有症状者、なかでも高齢者や基礎疾患のある人などに遺漏なく、そして遅滞なく検査を行うことを第一とすべきであろう。

ご存じのとおり、検査には抗原検査とPCR検査がある。両者には一長一短あり、ザックリ言うと、抗原検査は偽陰性という見逃しがあるものの診察室でリアルタイムで結果が出る。一方で、PCRは抗原検査より見逃しは低いものの、結果が出るまで時間を要する。今回のような感染者急増局面では、両者をいかに賢く無駄なく使い分けるかが重要だ。

■自己検査で陽性でも「医療機関で再検査」というムダ

抗原検査キットは街の薬局でも入手可能だ。厚生労働省、消費者庁は「体外診断用医薬品」との表示があるものを使用するよう呼びかけており、陽性と出た場合は速やかに医療機関を受診するよう求めている。それもあってか、最近受診に来る有症状の方の中には、これらによる自己検査で「陽性と出たため」という方も少なくない。

しかし7月12日現在、この自己検査で陽性となった人でも、医療機関を受診した上で再度検査し、陽性結果を確認しないと陽性者として確定診断されないこととなっている。これは非常に無駄な話だ。現在すでに診療所にて使用している検査キットの流通も滞り始めている状況だ。

第6波の検査逼迫時には一時的に「自己検査陽性者はその結果のみをもって確定診断としてよい」との措置が取られたが、医療体制の逼迫と検査キットの枯渇が懸念される今こそ同様の臨時措置が急務であろう。

さらにこの感染急拡大局面で懸念される大きな問題は、「誤診リスク」だ。コロナ禍以降、発熱者を診療しない診療所が増えたことは先述したが、門前払いしないまでも、直接患者さんの身体診察を行わず、「検査のみ」「投薬のみ」とする診療所が出現した。発熱者を断らないものの、電話やネットを使い、もしくは診療所内であってもインターホン越しという、対面なしで診察をするところである。

■変異株に紛れて見逃されている重大な感染症とは

もちろんこれらの診療方法でも、「発熱者お断り」の診療所に比べれば患者さんにとっての利便性は高いといえようが、新型コロナ上陸以前に一般的に行われてきた診療と比較すれば、その診断と治療のレベルはかなり低いものとならざるを得ない。

これによって「コロナ陰性」とのお墨付きや薬はもらったものの、本来の疾患が見逃されてしまっている患者さんが発生するという、新たな問題がポストコロナにおいて生じてしまっているのだ。

この2年は新型コロナウイルスの感染拡大にばかり目を奪われていたから、他の感染症のことはあまり話題に上らなかった。発熱と咽頭痛などの症状があれば、まず新型コロナウイルス感染が疑われてしまうという状況でもあった。しかし当然ながらこれらの症状を呈する疾患は、新型コロナウイルス感染症だけとは限らない。「普通の風邪」ということもあろうし、扁桃腺炎であるかもしれない。そして忘れてはならないのが、子どもたちの間でこの時期に増える、溶連菌感染症だ。

園庭を走る子供たち
写真=iStock.com/paylessimages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/paylessimages

■身体診察がなくなったことで急速に広がる恐れ

この感染症は比較的メジャーゆえ、とくに小さなお子さんのいる親御さんにはよく知られているだろう。保育園や幼稚園、小学校でも、インフルエンザほどの集団感染はしないにせよ、子どもたち同士でうつし合ったり、子どもが家庭内に持ち込んだりすることで大人の家族にも感染が広がることがある。

典型的な症状は、発熱と咽頭痛そして頸部リンパ節の腫脹(しゅちょう)だ。これらがあってノドの粘膜が真っ赤になっており、舌に小さな発疹がありイチゴのようになっていれば、ほぼ診断は間違いない。しかし症状には個人差があり、水も飲めないほどノドを痛がることもあれば、熱だけということもあるので、典型的な症状を呈しておらず、とくに感染者と接触歴のある患者さんについては、咽頭拭い液を用いた迅速検査を行ったほうが診断は確実だ。

「溶連菌感染症」との診断がつけば抗菌薬を処方する。通常、抗菌薬を内服すると1〜2日で症状は劇的に改善もしくは消失するが、ごくまれにリウマチ熱や急性糸球体腎炎という合併症を引き起こすことがあるため、症状が消えてもそこで内服をやめてしまわずに5〜10日間内服を継続すべきとされている。

このようにある程度の臨床経験を積んでいれば、それほど診断や治療に難渋する感染症ではないのだが、コロナ上陸後に少なくない診療所が、患者さんの身体診察を直接しなくなってしまったことから、この感染症の教育機関や家庭内での広がりが把握しづらくなっているのではないかと私は懸念している。

■診断が曖昧なまま抗菌薬を長期処方すると危ない

もちろん問診は電話やインターホン越しでも何ら問題はない。だが咽頭所見の診察、頸部リンパ節の触診は対面診療を行わなければ不可能だ。テレビ電話のような機器を用いたオンライン診療であったとしても十分だとはとても言えない。

これらが十分に行えないとなれば、客観的に判断可能な証拠に頼らざるを得ない。つまり検査だ。しかしこれもオンライン診療や電話では不可能だ。つまり、ポストコロナで発熱者や風邪症状を有する人に対する診療体制を「非対面」に変えてしまった診療所においては、溶連菌感染症の見逃しが起きている可能性が懸念されるのだ。

「診断がハッキリしなくても、とりあえず薬だけ出してくれれば良いではないか」との意見もあるかもしれない。しかし溶連菌感染症の治療は抗菌薬だ。しかも5〜10日間という長い期間にわたって内服させる必要がある。これは「普通の風邪」には絶対に行うことのない“特殊な治療”だともいえる。

コロナ上陸直前に上梓した拙著『病気は社会が引き起こす インフルエンザ大流行のワケ』(角川新書)にも書いたように、以前は「普通の風邪」にも抗菌薬を当たり前のように処方していた医師も少なくなかった。しかし耐性菌が問題となっている昨今、抗菌薬の濫用は行ってはならない医療行為のひとつだ。家庭内に感染者が存在し、本人も溶連菌感染症に矛盾のない症状を呈しているという「限定的な状況」を除いては、診断が曖昧なまま抗菌薬の長期処方などすべきではない。

■ウイルス性胃腸炎、食中毒、急性虫垂炎も…

疾患の見逃しは他にも起こりうる。現在主流となりつつある変異株「BA.5」では、下痢や嘔吐といった消化器症状を呈することがあるとされるが、かといって発熱、下痢、嘔吐の症状がすべて新型コロナウイルス感染症かといえば、もちろんそうではない。

他のウイルス性胃腸炎ということもあろうし、カンピロバクターなどの食中毒であることも少なくない。また急性虫垂炎など早急に治療を要する疾患であるかもしれない。これらも直接の身体診察をしないと見逃され、重症化するまで放置されてしまう危険がある。

ポストコロナにおいて非常に懸念されるのが、こうした過去には起こりえなかった診療スタイルの変化に伴う「見逃されリスク」だ。これらを解決するには、一日も早く、コロナ上陸以前の“まっとうな診療スタイル”に戻すことは言うまでもないが、感染力が非常に強いウイルスを扱わざるを得ない現況を今すぐ変えられるものでないことを鑑みれば、1カ所でも多くの診療所が、発熱者や有症状者の診療に参加できるよう、行政がより積極的に対策を打つことが重要だと考える。

■各家庭に抗原検査キットを無料配布してもいい

それには以前にも記したように、動線が分離できない診療所では輪番制で発熱外来を回すといった工夫もあるだろう。そして診療と検査が実施可能な発熱外来を行っている医療機関名を行政がすべて情報公開することで、限られた医療機関に患者さんが集中しないようコントロールすることも必要だ。

ただでさえ発熱者を受け入れる医療機関が少ない状況で、診療所レベルでのクラスターが続発してしまえば、まさに水際の医療提供体制から崩壊してしまうことになる。緊急に初期診療を行う体制を充実強化させる策を講じなければならない。

そして医療体制の整備とともに、それでも種々の事情で医療機関に到達できない人、貧困ゆえに市販のキットの入手をためらわざるを得ない人などが診断されぬまま放置されることがないよう、各家庭に抗原検査キットを数個ずつでも無料配布するのも一案だ。医療機関の負担軽減、医療資源の無駄使いを防ぐ意味でも、これらの自己検査で陽性ならば医療機関で改めて検査せずとも診断確定としてよいとの認識も、行政には再度示していただきたい。

高原検査キットを使用している手元
写真=iStock.com/Nattakorn Maneerat
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nattakorn Maneerat

■「行動規制と自粛」だけの対策はもう意味がない

そしてこれも以前から、コロナ上陸前のインフルエンザ対策の頃から言い続けていることであるが、検査の有無、検査結果が陰性、陽性かかわらず、具合の悪い人は休む休ませる、そして休んでも収入を心配せずに療養できるよう国が責任をもって補償する、これが非常に重要だ。

感染急拡大局面の今、この感染拡大を止めるために重要なのは、無症状者を含めた全国一律の行動制限ではなく、有症状者をいかに休ませるかに尽きる。そして有症状者に対していかに迅速かつ遺漏なく早期診断・早期治療を行うことで重症者の増加を防ぐか、これこそが医療崩壊を回避し、ひいては市民の命を守ることにつながると言えるだろう。

コロナが蔓延してもはや2年半が経過するというのに、感染が拡大するたびに一律の行動規制と自粛のみ。本稿で述べた当然なすべき最低限の対策すらいまだできていないというのは、明らかに失政といえるだろう。

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木村 知(きむら・とも)
医師
医学博士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。1968年、カナダ生まれ。2004年まで外科医として大学病院等に勤務後、大学組織を離れ、総合診療、在宅医療に従事。診療のかたわら、医療者ならではの視点で、時事・政治問題などについて論考を発信している。著書に『医者とラーメン屋「本当に満足できる病院」の新常識』(文芸社)、『病気は社会が引き起こす インフルエンザ大流行のワケ』(角川新書)がある。

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(医師 木村 知)

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