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ファミレスで聞こえる「トラック運転手」の会話…プロ投資家がそんなやりとりすらチェックしているワケ

プレジデントオンライン / 2022年7月16日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Chainarong Prasertthai

時代の空気を正確に捉え、先の先を予測するにはどうすればいいのか。投資家の藤野英人さんは「ユーミンは深夜のファミレスでいろいろな人の会話を無作為に聞き、それをメモしていたそうだ。それと同じ理由で、私もファミレスで交わされる会話をチェックすることがある」という――。

※本稿は、藤野英人『プロ投資家の先の先を読む思考法』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。

■「起きたイベントに対してどのような感情が起きうるのか」

私がしているトレーニングの一つは、Twitterでフォローしている3万人ほどの人たちのツイートを読むことです。

自分でTwitterに投稿することをやめてずいぶん経つのですが、1日か2日に一度ほどはTwitterを開き、5分か10分ほど、高速で流れていくツイートを拾い読みするのです。

藤野英人『プロ投資家の先の先を読む思考法』(クロスメディア・パブリッシング)
藤野英人『プロ投資家の先の先を読む思考法』(クロスメディア・パブリッシング)

フォローしている3万人は、なるべくランダムに選びました。自分と趣味が似ているとか思想が近いといったこととはまったく無関係に、どちらかといえば年齢や性別、学歴、居住地域などができるだけ多様になるようにフォローしています。

フォローしている3万人のプロフィールをすべて覚えているわけではありませんが、10年近くTwitterを眺めているのでフォローしている人たちのことはなんとなく頭に入っています。

ですからTwitterを通して、さまざまに異なる属性を持つ人たちが日々どんなことをつぶやいているのかを定点観測しているわけです。

とくに世の中で大きなイベントがあったときは、多くの人が同じイベントについてつぶやきますから、「起きたイベントに対してどのような感情が起きうるのか」を知るためのサンプリングとしてツイートに注目します。

■正しさではなく、多様な視点を得る

こうやってTwitterで世の中の人たちの反応を見るとき、私はなにか「正しい反応」があるとは考えていません。

Aというイベントに対して、面白いと思うか不快に感じるのかは人によって異なるのが当然であり、そこに善悪があるわけではありませんから、自分の感じ方や考え方と比較して「正しい」「間違っている」などと判断することはありません。

このような姿勢で3万人のツイートを眺めていると、「世の中の人が全般的にどう思っているのか」「この属性の人はどう考えることが多いのか」といったことがおぼろげながらつかめてきます。

そして多様な視点を得ることができれば、例えば「他の人が不快に思うことを悪気なくうっかりやってしまう」といった生活上のリスクを減らすことができますし、自分と属性の異なる人とコミュニケーションができたり、世の中のトレンドが見えたりもするのです。

「この商品・サービスが世間で受けるか受けないか」といった予測も、当たる確率が高まります。

■ユーミンが深夜のファミレスでメモしていた理由

「SNSなら自分もよくチェックしている」という方も多いと思いますが、気をつけなければならないのは、SNSの多くがその人の趣向に合わせて表示をカスタマイズしていることです。

ビジネスという面でSNSを見れば、利用者にとっていかに快適な空間を作るか、その快適な空間の中でいかに趣向に合わせた広告を表示させて、それをクリックさせるかが重要です。

そして、そのための手法はAIを駆使することによってどんどん洗練されているのです。

「エコーチェンバー」と呼ばれる現象がさらに進んだ結果、例えば「右寄り」の人が見ているFacebookの世界は右寄りの人ばかりが、「左寄り」の人が見ているFacebookの世界には左寄りの人ばかりがいるということになり、利用者はその居心地の良い空間で「自分がFacebookで見ているものが世界の実像を示している」と思い込んでしまったりするのです。

ですから私は、SNSではなるべくランダムに多様な人のものの見方や価値観に触れることを意識していますし、SNS以外にリアルな世界で人をウオッチすることも大事にしています。

思い出すのは、かつてユーミン(松任谷由実さん)が深夜のファミリーレストランでいろいろな人の会話を無作為に聞き、それをメモしていたというエピソードです。

ノートにメモを取る女性
写真=iStock.com/PATCHARIN SIMALHEK
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PATCHARIN SIMALHEK

おそらくユーミンはそうやって耳をすますことで彼ら彼女らの感覚を学び、それを歌詞の一節やメロディに乗せていったのだと思います。

その積み重ねが、ユーミンを時代を代表するシンガーソングライターたらしめた力の源泉だったのかもしれません。

■会話の内容から「パパ活」の仕組みがわかることも

ユーミンを真似たわけではありませんが、私がコロナ禍の前に住んでいた東京のマンションのすぐ近くにはファミリーレストランのジョナサンがあり、以前はそこでよく周囲を観察していたものです。

ドリンクバーを頼み、コーヒーなどを飲みながら1、2時間ほど過ごして周囲の会話に耳を傾けると、勉強になることがたくさんありました。

あるときは、「パパ活」をしていると思しき若い女性と中年男性が、ジョナサンで待ち合わせしているのに出くわしたこともあります。そうすると、会話の内容からパパ活の仕組みがわかったりするわけです。

都心のジョナサンの面白いところは、ブルーカラーもホワイトカラーも空間を共にしていることです。

海外の場合、社会的な階級によって人が集まる場所が歴然と分かれていることが多いのですが、日本はある面では均一性が高く、一つの空間にさまざまな人が集まります。

もちろん同じ空間にいるからといって、そこでブルーカラーの人とホワイトカラーの人がコミュニケーションをするわけではないのですが、そこに座ってじっと耳をすませていれば、自分が生活している中でなかなか交わる機会のないさまざまな人たちの情報を得ることができます。

例えば、「トラック運転手の間でこんなゲームが流行っているんだ」とわかったり、「意外にNetflixを見ている人が多そうだ」と気づいたりするのです。

そして、そういった理解や気づきの積み重ねによって感性や感覚を磨くことが、自分をアップデートさせてくれます。

■1日の5%は他人になったつもりで考える

もう一つ、私が自分をアップデートするために日常的にトライしているのは、性別や世代を超えていろいろな人の立場に立って考えてみることです。

1日の5%ほどは、「他の人の頭」で考えているのではないかと思いますし、マーケットとも「対話」しているつもりです。

そうやって考えたことは、Facebookに投稿することもあります。

例えば政治のことなら、「今の状況は岸田さんの目にはどう見えているのか、どう考えてどんな手を打つだろう」「菅さんだったら?」「高市さんだったら?」などと考えて文章に書いてみたりもします。

考えるだけではなく、書いてみることで思考がより整理されるからです。

もちろん、どんなに「○○さんだったら」と考え抜いたところで、相手の心の中に入ることはできません。

それでも自分の立場から離れて客観的に情勢を分析し、「この状態で○○さんだったらどうするか」と思考を巡らせることは新たな気づきをもたらしてくれることがあります。

資産運用会社の経営者という立場では、「野村證券だったらここでどう動くだろう」「大和証券だったら?」「三菱UFJ銀行だったら?」などと考え、商品戦略を考えたりもするわけです。

「自分の立場を離れ、他者の立場に立って考える」ことは、先を読むための私の習慣の一つになっています。

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藤野 英人(ふじの・ひでと)
レオス・キャピタルワークス 会長兼社長・最高投資責任者
1966年富山県生まれ。1990年早稲田大学法学部卒業。国内・外資大手資産運用会社でファンドマネージャーを歴任後、2003年レオス・キャピタルワークス創業。中小型・成長株の運用経験が長く、ファンドマネージャーとして豊富なキャリアを持つ。投資信託「ひふみ」シリーズ最高投資責任者。投資啓発活動にも注力する。東京理科大学上席特任教授、早稲田大学政治経済学部非常勤講師、叡啓大学客員教授。一般社団法人投資信託協会理事。

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(レオス・キャピタルワークス 会長兼社長・最高投資責任者 藤野 英人)

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