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世界をダメにしているのは英雄気取りの大富豪である…「コロナ禍」に乗じて暴利をむさぼるダボスマンの正体

プレジデントオンライン / 2022年7月20日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Stas_V

なぜ貧富の格差はなくならないのか。ニューヨーク・タイムズ紙のピーター・S・グッドマン記者は「パンデミックの混乱に乗じて、さらなる富を手にした者たちがいる。彼らはこの危機を救ったヒーローのような顔をしていたが、実際のところ、私腹を肥やすために世界のルールを巧妙に変えたのだ」という――。

※本稿は、ピーター・S・グッドマン『ダボスマン 世界経済をぶち壊した億万長者たち』(ハーパーコリンズ・ジャパン)のプロローグを再編集したものです。

■“億万長者たち”はパンデミックを利用した

ほとんどの人にとって、2020年という年は、延々と続く厄災の年だった。数えきれないほどの死者、恐怖、孤立。学校閉鎖、生計への脅威。過去100年間で最悪のパンデミックのせいで、もはやありきたりとなった悲劇。それらは端的に数字として示された。

パンデミックによって200万以上(※)の人命が奪われ、何億という人々が貧困と飢餓に苦しんだ。実際に手を下したのはコロナウイルスだが、その致命的な影響と経済的な損害を拡大したのは、ダボスに群がるCEOたちの行動だった。

※編集部註:死者数は執筆当時(2021年)のものです。米ジョンズ・ホプキンス大学のまとめによりますと、2022年7月19日現在の世界全体の死者数は630万人あまりとなっています。

かつて富裕層への増税案を「ヒトラーがポーランドに侵攻したのと同様の」戦争行為とまで言ったスティーブ・シュワルツマンのような投資ファンド運営の大物は、医療にかかるコストを削減することでアメリカの医療保険制度を痩せ細らせながら、病院への投資で利益を吸い上げてきた。

合衆国最大の銀行を切り盛りするジェイミー・ダイモンは、マンハッタンの高級住宅街パーク・アベニューの住人への減税が実現するよう働きかけつつ、そのために必要な原資は、基本的な政府サービスを弱体化することで捻出させた。世界最大の不動産投資家であるラリー・フィンクは、彼自身が心を悩ます点として表向きは社会的正義を語りながらも、パンデミックの最中に貧しい国々から、ありえないほどの債務を搾り取った。

世界で最も富める男であるジェフ・ベゾスは、自身のeコマース帝国の途方もない規模をさらに拡大させる一方で、物流倉庫の労働者たちに対してはマスクといった感染防護具の供給を怠り、代わりに聞こえだけは勇ましい称号──「エッセンシャルワーカー」を与えた。その呼び名は、実質的には労働者たちを替えの利く存在として軽視し、ウイルスが蔓延しても彼らが家にとどまることは認められないという状況を生んだだけだった。

■医薬品価格のつり上げで貧困国が締め出された

2020年に人々が経験した苦難によって何かが立証されたとすれば、それは富める者がいかに繁栄しうるか、そしてあらゆる人々の苦しみの中から利益を吸い上げる能力にいかに長けているかということだろう。

同年末までに、世界中の億万長者が持つ富の総額は3.9兆ドル増大した。逆にそうした人々による慈善活動の寄付額は、ここ10年の最低水準まで落ち込んだ。2020年に貧困層に転落した人の数は、5億人にも達するとされた。苦しむ人々が置かれた状況を改善するには、少なくとも10年はかかるだろうとみられていた。

確かに、製薬会社は新型コロナウイルスのワクチン調合に卓越した専門性を見せつけた。しかし、彼らは命をつなぐ医薬品の価格を高く設定することで、世界の大半を市場から締め出してきたのだ。

ベニオフ(※)は、政府を批判する機会としてパンデミックを利用しながら、ハワイのビーチに面した自分の土地にとどまり、手にした勝利に喜色満面だった。

※セールスフォース・ドットコムの会長、共同CEO兼創業者のマーク・ラッセル・ベニオフ氏

■ステークホルダー資本主義は政府の規制を封じる武器

資本主義経済の利得を民主的かつ公正に一般大衆へ還元せよという要求をかわし、政府の規制をも封じる先制攻撃の道具としてダボスマンが推奨したのが、ステークホルダー資本主義だ。

企業経営者たちを代表して賞賛に応えるポーズを取ってみせつつ、ベニオフは、政府は億万長者に課税する必要はない、なぜならば、富める者たちは善行を通じて、人々が暮らす上でのさまざまな問題を解決できるからだ、とほのめかしていた。

「CEOたちは毎週、世界の状況を改善し、このパンデミックを切り抜ける方法を見出すために集まっている」とベニオフは語った。「この1年の世界各国政府やNGOによる機能不全ぶりを見てほしい」と訴えた。「我々を救ったのは、彼らじゃない。大衆は、CEOたちこそが正しい決断を下してくれるものだと、あてにしているんだ」

ベニオフは、過去半世紀にわたって人類にいったい何が起きたのかを知るために理解しておくべき人種の、選ばれしサンプルといえる。拡大する経済格差、強まる大衆の怒り、そして民主的ガバナンスの揺らぎ──これらすべては、ダボスマンの略奪行為の結果だ。彼らは並外れた捕食者であり、その力の一部は、巧みに味方のふりをすることで得られたものだ。

過去数十年間、億万長者は納税義務を逃れて各国政府からむさぼり取り、その結果、人々は問題に対処するリソースを欠いたまま放置されてきた。公衆衛生上の緊急事態のさなか、そうした政府の弱点を理由に、ダボスマンは彼らのお情けにしか人々が頼れないという状態を正当化した。

「これだけは言わせてほしい」とベニオフは話した。「2020年のヒーローは、間違いなくCEOたちだ」

■「ダボスマン」の呼称の由来

ダボスマンという造語は、2004年に政治学者のサミュエル・ハンティントンが考案した。この用語が示すのは、グローバル化によって豊かになり続け、その仕組みを熟知しているため、もはや国家に帰属しなくなった集団だ。国境を超えて流通する利益と富を手中にし、世界中で不動産やヨットなどを所有する。お抱えのロビイストと会計士たちを国内の法制度に縛られないように活動させ、特定の国家への忠誠心など持たなくなった者たちのことだ。

ハンティントンのレッテルが当初示していたのは、世界経済フォーラム年次総会に毎年出席するため、ダボスに出かける者たちのことだった。この会議で討議に加わることそのものが、現代社会における勝者としての地位の証明となってきたのだ。

しかし歳月を経て、ダボスマンという言葉は、地球をまたにかける階級の最上層、つまり億万長者たち(圧倒的に白人男性で占められる)を束ねた呼び名として、ジャーナリストや学者たちが使うようになった。

ダボスマンの影響力は政治の世界にも強く及び、彼らが推し進めてきた考え方が、先進経済諸国のほとんどで決定的な力を持つようになった。利得のほとんどを享受してきた者たちがさらに繁栄できるような形でルールを整えさえすれば、どんな人でも勝者になれる、という考え方だ。

■ダボスの世界経済フォーラム年次総会を見ればわかる

ダボスマンや、彼らのお抱えの戦力、例えばロビイスト、シンクタンク、あるいは広報コンサルタントの一団、それから真実よりも権力にお近づきになりたいタイプのジャーナリストたちは、現実が示す反証にもかかわらず、こうした思想は永遠に続くという見解を譲ろうとしない。

私の役目は、読者がダボスマンを種族として理解するのを手助けすることだ。「彼」は、特異な性質を持ち、何のためらいもなく攻撃する肉食獣のような存在で、常に自分の領域を広げ、他者から栄養を吸い取ろうと狙っている。にもかかわらず、誰にとっても“友人代表”として振る舞うことで、反撃を受けないよう防御している。

この特色がどこよりも生き生きとした形でみられるのが、ダボスでの世界経済フォーラム年次総会である。

マーク・ベニオフ会長兼CEO
写真=EPA/時事通信フォト
2022年5月25日、スイスのダボスで開催された、世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)に出席した米セールスフォースのマーク・ベニオフ会長兼CEO - 写真=EPA/時事通信フォト

形式上は、世界経済フォーラムは、現代のさまざまな課題にまじめに取り組むための、数日間にわたるセミナーだ。そこでは、気候変動、ジェンダー間の不平等や、デジタル化の将来などが真摯(しんし)に討議される。フォーラムは高尚な責務をあまねく知らしめようと、いかにも骨太に「世界の現状を改善する」と掲げている。その言葉は、街灯に吊り下げられた垂れ幕や、会場内のあらゆる部屋にキャッチコピーとして掲げられ、権力のおこぼれとしてメディア取材陣へ配られる記念品のパソコンバッグにまで刻まれている。

■「彼らが世界全体のルールを作る」

このお題目に、フォーラムの活動全体にひそむ矛盾が露呈している。2020年総会の参加者たちの資産合計は、5000億ドルに達すると見積もられる。アルプスの山あいに集った人々は、どうみても、この世界の究極的な勝者なのだ。彼らの途方もない富やブランド力、社会的地位は、既存の経済システムと表裏一体になっているので、変化を期待させるような表現をちりばめた改善の約束も、実際のところは疑わしいものである。

舞台裏では、このフォーラムは、ビジネス上の契約や戦略的なネットワーク作りのための場と化している。金融最大手やコンサル企業お抱えの“雑談の祭典”ともいえるし、出席者にとってみれば、分断された人類の“勝ち組”に入れたということを互いに祝福し合う機会なのだ。

「それこそがダボスの魔法だ」と、かつてフォーラム運営に携わったある経営者は私に語った。「これは地球上で最大のロビー活動の場なんだ。最も力のある人々が、外部への説明責任など負わずに、閉ざされたドアの内側に集う。そしてその場で、彼らが世界全体のルールを作る」

■なぜ格差はここまで広がっているのか

過去半世紀のヨーロッパ、北米など先進経済諸国の歴史はおおむね、富が上向きに吸い上げられていく物語だった。最も排他的な共同体で育ち、最名門とされる学校で学び、超エリート社会のネットワークの中で交わってきた者たちが、その特権を利用して、計り知れない富を確保する。海岸沿いの別荘と山岳地帯の隠れ家の間をプライベートジェット機で行き来しながら、子息にアイビーリーグへの入学資格を買い与え、資産を税務当局の手が及ばないカリブ海諸島などに隠す。

その一方で、何億という労働者階級の人々は、減るばかりの給料の中から支出をやりくりするという、無理筋の算術に頭を悩ませている。

こうした話の基本的な枠組みはあまりにも知られすぎており、はるか昔からの決まりごとのようにみえるかもしれない。

インターネット、グローバル化、そして自動化によって、いかに現代の暮らしが姿を変えたか。都市に住まう、教育のある専門職の人々が恩恵を受けた一方、そうしたスキルを持たない人々がどれほど割を食ってきたか。書籍や雑誌記事はあれこれと詳細に分析してきた。

■この世界は彼らがさらに富むように仕組まれている

だが、そうした分析は、この変化がまるで風や潮の干満のような、人知を超えた自然現象であるかのごとく取り扱いがちだ。

我々を取り囲む経済の現状は、決して偶然の副産物ではない。システムを築いた人々が、自分たちの利益にかなうように意図して設計した結果なのだ。我々が暮らす世界はダボスマンによって設計され、ダボスマンにさらに大きな富をもたらすよう仕組まれている。

億万長者たちは、政治家には献金をあてがい、すでに図抜けた高みから特権を享受している者の地位がますます高まるような状況を擁護させる。金融規制を逃れるためにロビイスト集団を雇い、銀行が野放図なギャンブル同然に貸し付けできる状況を整えてきた。

にもかかわらず、自分たちが損失を出すと、社会のふところの深さにつけ込んで尻ぬぐいさせた。独占禁止規制当局への対抗策を講じ、投資銀行や株主の利益になる企業合併が進められるようにした。大企業は、寡占の支配的地位を得た。労働運動の力を押しつぶし、賃金を減らし、利益を株主たちに手渡してきた。

■「金銭は二の次だ」と語られる美談のウソ

ダボスマンは、自分は隣人よりも賢明だし革新的であるから富を築いてきたのだ、と説くだろう。

いくばくかの金銭を慈善事業に寄付しても構わないという姿勢を取っているが、あくまで、自分が定めた条件が満たされる場合だけのことだ。具体的に言えば、自分のブランド事業として、助成した病院の病棟に関する命名権を得られたり、どこかの国で悲惨な現状から救ってあげた哀れな子供たちに囲まれて写真撮影の機会が生じたりする場合だけである。

公の場に出るときには、ダボスマンは、「世界の現状を改善する」という意義のある活動に比べれば、金銭など二の次だと語ってみせる傾向がある。「彼」が得意げに掲げるソーシャルメディアのプラットフォームや「技術的な解決策」といったものは、アルゴリズムとITデバイスを介して、顧客や従業員に関する重要情報を抜き出して企業に配るための道具である。それなのに、ダボスで語られる美談の中では、社会を守り育てたいという強い思いが実を結んだものとして賞賛されてしまう。

ダボスマンが駆使する金融デリバティブは、実際には込み入った仕組みであり、2008年の世界金融危機を招いた最大要因だった。それすらも、人手をかけて複雑な計算をしなくても済むようにマーケットの力を採り入れた、ダボスマンの配慮だった、とされてしまう。

すでにお気づきのように、億万長者たちは圧勝し、比類ない富を手にしただけでなく、現代文明が変化していく方向性にも発言権を及ぼしてきた。彼らのやり口を我々は理解すべきである。一言で言えば、民主主義の仕組みを歪ませ、裏口を経由するやり方だ。

リーダーシップ
写真=iStock.com/erhui1979
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/erhui1979

■「恩恵は大衆にも波及する」という理屈のウソ

ダボスマンがグローバル資本主義の果実を独占するようになったのは、偶然ではない。彼らは、政治や文化の中に、「果てしない嘘」をこっそりと浸透させてきた。減税や規制緩和をすれば、最富裕層がいっそう豊かになるばかりか、その恩恵は大衆にまで及ぶと、まことしやかに主張している。だが、そんな恩恵の波及が起きたことは、現実には一度もない。

資本主義の歴史は、富める人々が自分たちの富を使って権力を確保し、さらに利潤を増やす方向でルールを作り上げることの連続だ。ダボスマンは憂慮する地球市民の一員として振る舞ってみせながら、社会が進歩するためには、彼らが一人勝ちできる状態が必要条件だというような考え方を浸透させた。それこそが最も狡猾な発明といえる。

19世紀に「強盗男爵」と呼ばれた人物たち──アンドリュー・カーネギーのような産業資本家や、ジョン・P・モルガンのような金融業者たち──は、自分たちが富を獲得すれば、目的を果たしたとして、おおむね満足した。

しかし、自己肯定感も必要とするダボスマンの強欲ぶりは、さらに斜め上をゆく。「彼」は、普通の人が何足もの靴下を持っているように、いくつもの邸宅を持っている、というだけでは喜ばない。自分の関心事は、ほかのみんなと同じであるかのように装う。そして、搾取行為をしておきながら感謝を求める。自分が得たものは、公共の福祉を真っ当な仕組みで守ってきた成果であると正当化しつつ、あらゆる人々から生活の糧をむさぼり取るのだ。

■私腹を肥やすために、社会の危機や混乱を利用している

ダボスマンは、危機が起きるたびに、自分の富を増大させる機会へと巧みに転じてきた。深刻な公衆衛生の危機や経済の混乱に乗じて、政府による救済の必要性を訴え、公的資金が注入されるごとに、そこから自分のふところに入ってくる仕組みを作ってきた。

ダボスマンの窃盗行為で、誰もが刺激を受けてきたという面はある。億万長者ポルノというべき物語を人々は喜ぶ。大がかりな誕生パーティー、戦利品である不動産の壮大な外観のチラ見せ、離婚条件のディテール、といったことだ。大衆は『ビリオンズ』(※)のようなショーを視聴し、紆余(うよ)曲折の物語の中で、億万長者が奮闘するさまを目の当たりにし、この人も努力して相応の地位を得たのだろうと思い込むよう操作されている。

※ヘッジファンド投資家と規制当局の闘争を描いた米国のドラマ

しかし今や、我々が暮らす生態系全体をダボスマンの食欲が脅かしているといってよい。彼らの野放図な消費性向が何のとがめも受けないため、政治への信頼が失われ、世界中で人々の怒りとして噴出している。

■右翼ポピュリストが世界中で増幅した真因は彼らにある

世界のあちこちでみられた右翼ポピュリスト運動の興隆について、背後で決定的に作用したのが、ダボスマンの絶え間ない略奪である。

こうした政治的変動はよく、得票目当ての政治家が、移民の大量流入や、これまで特権を享受してきた社会層の地位低下に焦点を当て、懐古主義やナショナリズムの空気をあおった結果だと説明される。

全体像はより深刻だ。ダボスマンが資本主義の利得を略奪し続けたから、市井の人々は経済的安定を奪われ、不満の念が数十年にわたって蓄積されてきた。こうした状況下で、恐怖を操り憎悪をかき立てる政治家たちが表舞台に出てきたが、彼らは社会が抱える諸問題については、支離滅裂な解決策を提示するばかりだ。

ダボスマンがグローバル化の利得をひとり占めしてきた結果、米国は公衆衛生上の危機に直面した。

第一次、第二次世界大戦とベトナム戦争での戦死者総計を上回るアメリカ人が命を落としたのに、明らかに資質を欠く、カジノのデベロッパーだった男を大統領として仰がねばならなかった。英国は壮大な自傷行為といえるブレグジットに今も取り憑かれ、パンデミックに対処できずにいる。フランスは先鋭化した抗議運動で打撃を受けたし、社会民主主義の砦だったはずのスウェーデンまでが反移民のヘイトで沸き返るようになった。すべて、ダボスマンの略奪行為で説明できる。

■本当に福祉を必要とする人には行きわたらない

自由主義の市場経済とリベラル民主主義の秩序が永遠に勝利したはずだったのが、いったいどこで、毒をまき散らす右翼ヘイトの無秩序へと姿を変えてしまったのだろう?

そして、死を招くパンデミックは、昔ならば人類の一致団結が求められるような危機だったのに、なぜ、世界で最も富める人々が相変わらず暴利をむさぼる機会になってしまったのだろう?

第二次世界大戦の終結から30年間は、米国が主導する資本主義が、経済成長の果実を幅広く、前向きな形で共有した。

しかし、ダボスマンが乗っ取ってからの資本主義は、実際には資本主義でも何でもない。それはある意味で社会福祉国家の変種だが、最も福祉を必要としていない人々に特典が与えられている。

運用益は、億万長者でなければ手出しできない。社会全体として脅威に対抗する費用が必要な際は、別途、納税者の金が充てられる。失業、差し押さえ、医療の無保険状態といった凡人たちの苦難は、自由主義経済につきものの浮沈なので受け入れるべきだとされる。

■最富裕層10人の資産は85の最貧困国の経済規模を上回る

こうした極端な格差はよく知られた話とはいえ、もはや驚くべき水準に達している。

過去40年間で、アメリカ人のうちわずか1パーセントの最富裕層が、総計で21兆ドルの富を獲得した。同じ期間に、下半分の層の資産は9000億ドル減少した。

1978年以降、企業経営者たちへの報酬総額は900パーセント以上と爆発的に増えた一方で、平均的な米国の労働者の賃金は12パーセント足らずしか増えなかった。

世界的にみれば、最も豊かな10人の超大富豪の財産を合計するだけで、最も貧しい85カ国の経済規模を上回る。

マニラの貧しい地域の通り
写真=iStock.com/TatianaNurieva
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TatianaNurieva

こうした数字を把握すれば、ダボスマンによる世界経済の改造が、歴史的な窃盗行為に等しいとわかるだろう。米国の総収入が第二次大戦直後の30年間と同じように分配されれば、下から9割の層に入ってくる所得は全部で47兆ドルも増えていたはずだ。

現実にはその代わりに、マネーは上向きに流出し、わずか数千人だけを富ませながら、アメリカの民主主義そのものを危機に陥れた。

しかもそれが、コロナ禍より前の状況だったのだ。

■階級間の分断は、さらに拡大する

パンデミックを経験した今、グローバル経済はダボスマンの欲望にいっそう尽くそうとしているようだ。公的資金による緊急支援策が縮小されれば、預貯金が目減りして苦境に追い詰められた労働者の中には、搾取の餌食にされやすい仕事でも喜んで働こうとする人々が出る。人種間、あるいは階級間の分断は、さらに拡大するだろう。

米国やヨーロッパでは、ダボスマンによって中小企業はますます不利な立場に追い込まれており、その多くが消滅するだろう。巨人たちによって支配される将来の経済は、株主たちにはうまみがいっそう増し、労働者たちにはより厳しいものになりかねない。

ピーター・S・グッドマン『ダボスマン 世界経済をぶち壊した億万長者たち』(ハーパーコリンズ・ジャパン)
ピーター・S・グッドマン『ダボスマン 世界経済をぶち壊した億万長者たち』(ハーパーコリンズ・ジャパン)

発展途上諸国では医療ケアが不足し、安全な水など基本的な生活条件へのアクセスを欠いた人々がさらに置いてきぼりにされる可能性がある。10億人が2030年までに極端な貧困へと陥るリスクにさらされている。

こうした経済的苦境や格差、欠乏状況を道具として憎しみをあおり立て、少数民族や宗教的少数派への恐怖をたきつけて支持を拡大する政党にとっては、チャンスとなる。

しかし、いずれの状況も必然ではない。過去のさまざまな危機と同様に、コロナ禍は一般大衆がより幅広い利益の下で連帯していく道も指し示している。

現代社会は岐路にさしかかっている。格差による負の影響があまりに致命的になったため、世界経済の構造的欠陥に関して審判がついに下されるような道筋も、この先にあるかもしれない。

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ピーター・S・グッドマン ニューヨーク・タイムズ記者
リード大学卒業、カリフォルニア大学バークレー校でベトナム史の修士号取得。ワシントン・ポスト紙でテクノロジー担当記者、アジア経済特派員・上海支局長として活躍後、ニューヨーク・タイムズに移籍。同紙記者として、グローバル経済担当。世界金融危機に関する報道でリーダーシップを執り、そのシリーズ記事がピュリツァー賞の最終選考に選ばれた。ジェラルド・ローブ賞をはじめ数々の受賞歴を誇る。著書に『Past Due: The End of Easy Money and the Renewal of the American Economy』がある。

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(ニューヨーク・タイムズ記者 ピーター・S・グッドマン)

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