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「なぜ俺に扶養義務があるのか」無職42歳の弟に苛立つ一流企業勤務の兄が親と自分の死後に戦々恐々なワケ

プレジデントオンライン / 2022年7月16日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/liebre

大企業に勤務する45歳の男性には3歳下の弟がいる。無職の弟は実家住まいで年金暮らしの70代両親に長らく経済的に依存している。男性は「親亡き後は、自分が弟の生活を支えていかなければならないのか。また自分の死後は子供たちが弟の面倒をみないといけないのか」という不安を抱いている――。

■「親亡き後は、自分が弟を支えていかなければ……」

最近は、親よりも兄弟姉妹からの相談が増えています。親亡き後に、働けない兄弟姉妹の生活を支えていかなければならないのか、自分の子供たちにまで負担が及ぶのか、という点が心配なようです。もともと兄弟仲が悪いことも少なくなく、解決への道のみも一筋縄ではいきません。今回も、実家の弟さんの将来が心配だ、というより自分や家族に影響が及ぶのが心配だという相談依頼でした。

相談者の家族構成
・相談者:長男 45歳(会社員)親・次男とは別世帯
・父親:73歳(年金生活) 年金額210万円
・母親:71歳(年金生活) 年金額110万円
・次男:42歳(無職・ひきこもり本人)親と同居
資産
・預貯金:約3000万円
・自宅:戸建て持ち家

ファイナンシャル・プランナーとして、ひきこもり家族の将来の家計状況をシミュレーションして、改善策をアドバイスしています。多くは親からの相談なのですが、最近は兄弟姉妹からの相談依頼も増えています。ただ、兄弟姉妹からの依頼はお断りすることもあります。

相談では、将来の家計状況のシミュレーションを作成して、それに基づいて改善策の提案やアドバイスをしています。家計シミュレーションは、親とひきこもりの子供の家計を一体のものとして、親亡き後も生活していけるかを分析します。そのため、現在の貯蓄状況や家計収支をヒアリングして、それを基に将来の状況を推測します。

ひきこもりの子はたいてい親と同居していますので、親からの相談であれば、日常の家計収支や貯蓄の状況を聞き取ることができます。ところが、兄弟姉妹からの相談の場合は、それがまったくわからない場合があります。それでは将来の状況を推測することもできませんので、両親を巻き込んで一緒に相談に来ていただくようにお願いします。それが難しい場合は、やむなく相談自体をお断りします。

■両親は預貯金3000万円があるが、全然足りない

今回の相談は、ひきこもりの当事者(42)の兄(45)からの依頼でした。依頼者はすでに親元からは自立して、別に家庭を築いています。「実家にいて仕事をしていない弟の将来が心配だ」というのです。

当初は自分だけで相談に行きたいと希望されましたので、「お兄様だけでは分析ができません」とお断りいたしました。すると、両親(父73、母71)に家計シミュレーションの必要性をご説明されたそうで、後日両親と一緒に相談に来られました。

相談の面談では、最初に両親から貯蓄の残高や毎月の収支の状況を伺います。事前に質問事項をお伝えしていましたので、比較的スムーズにヒアリングができました。詳細の分析は後日に報告するとして、まずは聞き取った内容をパソコンに入力し、概算でのシミュレーションを行いました。

ともに70代の両親の収入は合わせて320万円の年金のみ。持ち家の住宅ローンはなく、預貯金は約3000万円あります。

シミュレーションの結果を見てみると、親が生きているうちは、毎月の支出はおおむね両親の年金で賄えますので、それほど貯蓄が減少することはありません。

窓の前に座る人のシルエット
※写真はイメージです(写真=iStock.com/RobertoGennaro)

ところが、両親が十数年後にふたりとも亡くなると(試算では、平均余命を考慮してそれぞれ87歳と91歳で他界と想定)、年金収入が途絶えたちまち家計の収支が赤字に。貯蓄はみるみる減っていきます。今から23年後、本人が65歳から国民年金(老齢基礎年金)を受給したとしても、通常の生活をしていた場合は貯蓄の減少を食い止めることはできず、70代前半には両親から引き継いだ貯蓄が枯渇してしまうことになりそうです。「人生90年」時代のこれからを踏まえると、この年齢で貯蓄が尽きてしまうのは、少し早すぎます。

「まだ今の段階では“概算”ですので、正確な分析ではないのですが、老後に家計が行き詰まってしまう可能性があります」と私は申し上げました。相談者のお兄さんも、両親もため息をついています。

■「どうして俺があいつの面倒を見ないといけないんだ」

話を聞くと、一人目の子供であるお兄さんは、両親から厳しくしつけられ、子供の頃から優秀だったそうです。やがて一流大学を卒業すると大手企業に就職し、現在は家庭を持っています。それに対して、二人目の子供である弟さんは、のんびりと教育され、自由に育ったようです。大学卒業後にバンド活動を続けたものの、ものにはならずやがて就職しました。しかし遅れて就職したハンディもあり、職場でうまくなじめずに、仕事を辞めてしまいました。そのまま就職もしないで、両親に依存した生活を続けています。

「親父もお袋も、大輔(仮名)には甘いから、こんなことになってしまったんだ!」お兄さんは両親に向かって怒鳴りだしてしまいました。

「こんなことになるとは思わなかったよ」お父様も怒鳴り返します。

「もう、やめて、こんなところで」とお母様。

「どうして俺があいつの面倒を見てやらないといけないんだ。俺の家族には一切影響が及ばないようにしてくれ!」お兄さんは止まりません。

「まあ、あくまで可能性の話ですので……」私の作ったシミュレーションで家族げんかが始まりそうになりましたので、私はなんとかなだめます。

どうやら、兄弟仲はかなり険悪なようです。話を聞くと、お兄さんは実家に帰ると、何かと弟さんに説教をしてしまうそうです。しっかりと自立して家庭を持っているお兄さんからすると、いまだに自立できていない弟さんは歯がゆいのでしょう。

窓のそばに立つ男性のシルエット
写真=iStock.com/liebre
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/liebre

弟さんも決して現状に満足しているわけではなく、なんとかしたいと、自分自身と葛藤しているのだと思います。しかし、引け目を感じているお兄さんから小言を言われると、つい反発してしまうようです。弟さんの生活をめぐって口論になることはたびたびで、取っ組み合いのけんかをしたことも一度や二度ではないとのこと。最近ではお兄さん一家が実家に帰る時には、弟さんは外出してしまい、顔を合わせることもないそうです。

■「弟は、俺が死んだら俺の子供に金をせびる」

ひきこもりの人が、両親亡き後に頼りになるのは兄弟姉妹です。それだけに兄弟仲は良好であってほしいと思います。しかし、現実にはなかなか、そううまくはいきません。家族だからこそ、遠慮ない言葉をぶつけてしまい、よけいに対立が根深くなってしまうことは少なくありません。

両親も、二人の仲が悪いことが心配なようです。

「いろいろな事情があったわけですから、兄弟で無理に仲良くする必要はありません」と私は言いました。

「ご両親には、弟さんの生活を支えていく必要がありますが、お兄さんはご自身のご家族のことを優先して考えてください」

「でも親がいなくなったら、私に扶養の義務が生じるのではないのですか? 私が亡くなった後は、私の子供たちまで負担が及ぶのでしょうか?」と、お兄さんは心配です。その表情からは、「弟は一切働いていないのに、将来的に自分が死んだ後は、自分の子供たちに金をせびるのではないか」と戦々恐々とした感情が読み取れました。

「確かにお兄さんには扶養義務がありますので、ご自身のご家族が相応の生活を送った上で、余力があれば援助に応じてください。弟さんは生活費に行き詰まったら、生活保護を申請するかもしれませんが、お兄さんの援助の有無で、弟さんの生活保護の支給が決まるわけではありません。さらに、甥・姪であるお子さんについては、弟さんと特別の関係があるのでなければ、金銭援助まで求められないでしょう」

「そうですか。それを聞いて少し安心しました」お兄さんは安堵(あんど)の表情を浮かべました。

私も、兄弟姉妹はできるだけ協力すべきだとは思います。しかし、「協力しなければ」と思うほど、強い口調で責めたり、叱咤激励をしたりして、兄弟姉妹の関係が悪くなることもあります。かえって「兄弟姉妹でも他人。それぞれ別々に生きていく」ぐらいに考えたほうが、お互いが冷静になれて、関係が改善されることがあります。

今回の相談でもお兄さんが、弟さんを負担に感じることから解放されれば、弟さんの人生を冷静に考えてもらえるのではないかと、あえて突き放したような言い方をしました。

「弟さんへの支援は、お金を出すだけではありません。様子を見に行ったり、行政手続きを促したり、医療を受ける際に付き添ったりと、いろいろあります。そういう部分こそ、ご両親亡き後に、お兄さんに求められることではないでしょうか」

「そうですね。私の子供にまで経済的な負担がかかるのではないかと、そればかりを気にしてしまいました」と、お兄さんはすっかり落ち着きを取り戻しました。

これですべてが解決したわけではありませんが、ちょっと考え方を変えることで、兄弟姉妹の関係も変わってくると期待しています。

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村井 英一(むらい・えいいち)
ファイナンシャルプランナー
「働けない子どものお金を考える会」メンバー。 大手証券会社で個人顧客の投資相談業務を長年行い、ファイナンシャルプランナーとして独立後は、資産運用に限らず、家計の見直し、住宅購入、老後資金など幅広い相談を受ける。 特に、長期にわたる家計のシミュレーション分析を得意とし、ひきこもりや障害を持つお子さんとそのご家族の資金計画を行っている。

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(ファイナンシャルプランナー 村井 英一)

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