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「英検1級の小6がバタバタ落ちる」帰国生中学入試の最難関"渋ズ"合格者のほぼ100%を輩出する英語塾の正体

プレジデントオンライン / 2022年7月20日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Lamaip

中学受験が過熱する中、首都圏の国公私立中学約160校が「帰国生入試枠」を設けている。毎年約1000人がこの入試に挑むが、アメリカ大学院卒で、帰国子女を育てているライターの恩田和さんによれば「英語受験の最難関は“渋ズ”と呼ばれる渋谷教育学園渋谷(渋渋)、渋谷教育学園幕張(渋幕)の2校。受験生はほとんど英検1級を取得済みで、専門の英語塾に通って対策をしていますが、英文による小論文の出題テーマも極めて難しく、合格できるのはごくわずかです」という――。

■もうひとつの中学入試「帰国生入試」の世界

中学受験が過熱している。中学受験情報サイト「首都圏模試センター」によると、2022年の首都圏の私立・国立中学校の受験者総数は5万1100人、受験率は17.30%と、いずれも過去最多・最高を記録した。

そんな中、わずか1000人ほどの小学6年生が熱い戦いを繰り広げるのが、「帰国生入試」だ。

ほとんどの人が聞いて驚くのは、「小学生のうちに英検一級取得は当たり前」ということ。英字新聞を読みこなし、CNNやBBCで目まぐるしく変わる世界情勢をフォロー。ビジネスパーソン顔負けの英語力を持つ。いったいどんな世界なのか、その一端を紹介しよう。

■帰国生入試の最難関「渋ズ」とは何か

増加・多様化する帰国生の中学受験ニーズに対応するため、首都圏では約160校の国公私立中学が帰国生入試枠を設けている。

1 英語1教科
2 英語・国語・算数3教科
3 国語・算数・作文

といったように、4教科が基本の一般入試より受験科目を減らして帰国生の負担を軽減している学校がほとんどだ。

帰国生入試を実施している首都圏のほとんどの中学は、対象となる帰国生を「保護者の海外赴任に帯同して海外に継続して2年以上滞在中、もしくは帰国して2、3年以内」の小6としている。ひとくちに「帰国生」といっても、滞在国や滞在年数によって、英語力はさまざま。非英語圏の日本人学校に通う児童の場合、英語力は日本国内の小学校の児童とほとんど変わらないといえるだろう。

帰国子女がまだ珍しく、小学校での英語教育も実施されていなかった一昔前は、難易度、競争率とも、「一般入試>>帰国生入試」という図式が成り立っていた。多少の英語がしゃべれれば、そこそこ名の通った学校に合格できた時代も確かにあった。

しかし、経済活動のグローバル化により日本企業の海外駐在員は増え続け、日本国内でも英語教育改革が進んで幼少期から「聞く」「話す」「読む」「書く」という「英語4技能」の習得に励む親子も急増している昨今、帰国生入試も年々難化し続けている。

開成、桜蔭など男女御三家や筑波大学附属駒場、慶應中等部など、いわゆる「中学受験最難関校」には帰国枠がない。では、英語受験の帰国生にとっての最難関校はどこなのかというと、渋谷教育学園渋谷(渋渋)、渋谷教育学園幕張(渋幕)の2校になるだろう。

受験関係者や父兄は、両校を帰国生受験の最高峰として「渋s(渋ズ・シブズ)」と呼んでいる。彼らは開成や桜蔭といった御三家などには目もくれない。

渋谷教育学園渋谷中学高等学校ウェブサイトより
渋谷教育学園渋谷中学高等学校ウェブサイトより

■英検1級がバタバタ落ちる大学入試以上の中身

渋ズは、いずれも「自調自考」を建学の精神に掲げ、東大合格者数上位にランクインする進学校であると同時に、ハーバードやMITといった海外名門大学への合格実績も目覚ましいグローバルスクールの先駆者的存在である。

英語圏の現地校や海外のインターナショナルスクールで同学年のネイティブ以上の英語力を身に付けた帰国生トップ層にとって、「東大も海外大もどちらも狙える」というのが、最大の魅力らしい。

実際に両校とも、例年各30人ほど帰国生の中から、毎年コンスタントに東大合格者と海外大合格者を輩出している。渋渋の最新の説明会資料では、東大・海外大W合格者が複数いることも報告された。

入学後は、帰国生にも一般入試を勝ち抜いてきた受験生と同等の高い学力を求める両校だが、帰国入試科目は、英語のみだ。渋幕は英語の筆記試験と面接、一方の渋渋は英語・国語・算数の筆記試験とグループディスカッション(英語)が課されるが、国算の得点は参考程度と目されている。両校とも特に英語のエッセー(小論文)を最重要視していて、英語を使って論理的に思考する能力や人物像を測ると共に、国語や算数など他教科も含む総合的な学力の判断材料にしていると言われている。

どんなテーマのエッセーなのか。

・文学においてドッペルゲンガーのモチーフはなぜ人気なのか?(2020年)
・社会階層は存在しているのか? 格差社会は解消できるのか?(2021年)
・国家や民間企業が月や火星に領土を保有することの是非 (2022年)
火星の3Dレンダリング画像
写真=iStock.com/Cobalt88
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Cobalt88

これらは、渋渋で実際に出題されたエッセーテーマだが、例年、幅広い分野の知識や経験に基づいたアウトプットが要求されている。大人でも回答に窮するようなテーマを、しかも英語で記述する。

渋渋ではこれに加えて毎年、シェイクスピアやウィリアム・ブレイクなど中世から近世にかけての詩を読ませてその解釈を記述する問題も出る。現代英語とは異なる古典英語の知識やその時代の歴史的背景を理解していなければ、高得点は望めない。

いずれもB4の解答用紙を各1枚びっしり埋める必要がある。60分の試験時間でリスニングやリーディング、文法、ボキャブラリーに加えて、これら2つのエッセーが課せられているのだから、相当にハイレベルであることは間違いない。

英語入試で渋ズに次ぐ人気と難易度で多くの受験生を集めるのが広尾学園だ。同校の入試では、TOEFL(120点満点)による優遇制度の基準スコアを中学受験で90、高校受験で100に設定。中学入試の合格者の実力はTOEFL100レベルと言われている。ハーバードなどのトップ大学受験に必要とされるスコアの目安が100であることを考えると、帰国子女の小学生のレベルがいかに高いかが分かるだろう。

■合格者が通う登竜門「帰国子女アカデミー」の正体

そんなトップレベルの帰国生中学入試の受験生はどんな受験対策をするのか。一般的な中学入試なら、サピックスや日能研、早稲田アカデミーといった進学塾に通うことだが、そうした塾は英語に特化した帰国生入試に対応できない。

帰国生入試を受ける子供の多くが通うのが、「帰国子女アカデミー(KA)」である。帰国生や英語コミュニケーション力を身に付けている子供たちが、日本でも海外現地校と同レベル以上の授業を受け、英語力の維持、伸長を図ることを目的に、2004年、東横線都立大学駅(目黒区)近くに開設された。

帰国子女アカデミーウェブサイトより
帰国子女アカデミーウェブサイトより

帰国受験に特化した英語塾としてまたたく間に勢力を広げ、現在は、海外からの帰国子女が多く住むたまプラーザ(横浜市青葉区)、吉祥寺(東京都武蔵野市)など、首都圏に8つの校舎を展開し、海外在住の受験生が学ぶ通信コースも合わせると、約3000人が学んでいる。

月謝は、週1回2時間の授業で約4万円(小1から小6まで同額)。受験学年になるとエッセイ講座や学校別対策講座が開講され、当然ながら月謝はさらに跳ね上がる。

KAのサイトに掲載された帰国枠受験実績を見ると、これがすさまじい。

・2022年度は、渋幕の場合、35名の合格者中34名が、渋渋は26名の合格者全員がKAの生徒。
・2021年度は、渋幕の34名の合格者全員、渋渋は26人の合格者中23人がKAの生徒。

広尾学園も例年、帰国枠合格者の9割がKAに在籍している。つまり、渋ズなど英語で受験できる帰国入試のトップ校に受かりたければ、「KA一択」というのが帰国受験の常識なのだ。

「受験が終わってもずっと役立つ受験体験を」をコンセプトに掲げるKAの授業内容は、ハイレベルそのもの。英語の多読によるインプットを洗練されたライティング技術でアウトプットすることが合格への近道とされ、とにかく良質な英語を読み、書かされる。小6の受験生になると、毎週異なるエッセーを2、3本同時進行で書き上げていくことが要求される。

そのため受験生は、毎日ニューヨーク・タイムズやファイナンシャル・タイムズなど、英米の新聞記事を読み、CNNやBBCテレビ、ラジオから最新のニュースを仕入れる。朝食はPodcastを聞きながら、YouTubeで視聴するのはTED Talksなど、グローバルに活躍するビジネスパーソンもびっくりの英語漬けの生活を送っているのだ。

■帰国生入試は早いところでは8月からスタートする

KAでは、トップ校を目指すなら英検1級は持っていて当たり前、6年生ではさらにハイレベルな授業が展開されるので、「1級は小学5年生までに取得しておきましょう」と勧められる。

実際、KAのアドバンスクラスには英検1級ホルダーがゴロゴロいるが、渋ズに合格できるのは各校舎の最上位クラスの上位2、3名程度という計算になる。逆にいえば、英検1級を持っている小学生がバタバタ落ちるのが、帰国入試最難関校の実情である。

こうして帰国受験を勝ち抜いて帰国生受け入れに実績のある中学に合格できれば、6年間、一般生とは異なるハイレベルな内容をネイティブ講師が教える「英語の取り出し授業」を受講し、さらに英語力を伸ばして大学受験に備えることができる。

英語無双の帰国生が、各校の大学合格実績に貢献している。もちろん、社会に出てからも、帰国受験で鍛えられた英語力はそれぞれの身に大いに役立つだろう。KAが掲げる「受験が終わってもずっと役立つ受験体験」と言えるだろう。

帰国入試の日程は早い学校では8月からスタートする。東京・神奈川の中学一般入試の解禁日である2月1日には、ほとんどの入試日程が終わっているのである。まさに今、半年間の熱い戦いが始まろうとしている。

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恩田 和(おんだ・なごみ)
子育て・教育ライター
1977年生まれ。東京大学文学部英語英米文学専攻課程卒業。読売新聞記者を経て、カリフォルニア大学バークレー校でジャーナリズム修士号取得。配偶者の海外赴任に伴い、アメリカ合衆国(カリフォルニア、テキサス)と南アフリカ共和国に10年近く滞在。2人の帰国子女を育てながら、子育て・教育ライターとして活動中。

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(子育て・教育ライター 恩田 和)

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