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「孤独は喫煙に匹敵するレベルで脳卒中の死亡リスクを高める」世界的精神科医が指摘する納得の理由

プレジデントオンライン / 2022年7月24日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/leminuit

孤独は私たちの体や心にどのような影響を及ぼすのか。スウェーデンの精神科医、アンデシュ・ハンセンさんは「孤独はうつのリスクを高めるだけでなく、喫煙に匹敵するほどに心筋梗塞や脳梗塞の死亡リスクを高める」という――。(第2回/全3回)

※本稿は、アンデシュ・ハンセン『ストレス脳』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

■孤独がうつのリスクを高める

孤独がうつのリスクを高めると聞いても、誰も驚かないだろう。しかし、うつと孤独がどれほど密接に関係しているかはあまり知られていない。

調査によれば、うつの人が孤独を感じている確率は10倍だった。精神科医として働き始めて数カ月の頃に、20代だろうと、中年だろうと、高齢者だろうと、驚くほど多くの患者が人とあまり会わない生活をしていて、孤独を感じていることに驚かされた。長いこと孤独だった人もいるが、孤独がうつと同時期に始まった患者も多かった。

そして私は疑問に思った。うつは孤独のせいなのか、それともうつになったから引きこもって孤独になるのだろうか。うつと孤独、一体どちらが先なのだろうか。

■5人に1人が「孤独が原因でうつに」

オーストラリアでは平均年齢50歳の約5000人を調査する研究が行われ、精神状態や属している社交グループの数など、多数の質問に答えてもらった。社交グループとは非営利団体、政治団体や宗教団体など、共通の関心事を一緒に楽しむ人の集まりだ。具体的には読書会にコーラス、料理教室、手芸グループ、スポーツチーム、教会活動、犬の愛好会、ブリッジ、ミニサッカーなどだった。

2年後に再び質問に答えてもらうと、最初の調査でうつの兆候があった人たちの一部はそれがなくなっていた。症状が消えた人たちは前の調査からの2年間、高い確率で1つないし複数の社交グループに属していた。

孤独を打破しようとして社交グループに参加すると、うつから回復する確率が上がるようだ。つまりたいていの場合、もちろん必ずではないが、人はまず孤独になり、それからうつになるということを示唆している。だから孤独を打破できればうつが治る可能性が高まるのだ。

この調査で興味深いのはうつへの効果が大きかったことと、所属する社交グループの数が多いほど効果があったという点だ。1グループのみに属した人はうつになる可能性が24%低く、3グループに属した人は63%もリスクが下がった。

そんな数字を見ると、現代の孤立や孤独がうつの大きな要因ではないかと疑ってしまう。そしてまさにそうだと示す点が多くあるのだ。ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの研究者たちが4200人を12年間追った大規模な調査では、50歳以上のうつの人のうち20%が孤独によるものだということが判明している。つまり5人に1人が孤独が原因でうつになったのだ。

■孤独が寿命を縮めてしまう

孤独に影響されるのは脳だけではない。身体もだ。

なぜ心臓疾患を患っても生き延びる人と生き延びられない人がいるのかを突き止めるため、心筋梗塞、不整脈、心不全の患者や心臓弁に損傷を負った1300人の調査が行われた。喫煙や飲酒、親族の病歴、その他の健康状態を聞き取ったが、そこには意外な質問も含まれていた。「孤独を感じてはいないか」や「必要な時に話せる相手がいるか」といったものだ。

2年後に被験者のその後を調べたところ、大量の喫煙と飲酒をしていた患者は死亡するリスクが高かったが、孤独を感じていた人たちについても同様だった。心臓疾患の種類にかかわらず、孤独な人が死亡するリスクは倍近くも高かった。

では、孤独な人は不健康な生活をしているのだろうか。「禁煙して運動したほうがいい」とか「ジャンクフードは減らしたほうがいい」と言ってくれる人がいないのかもしれない。研究者たちはそこで、運動、喫煙、食生活という要素を省いて再計算した。それでも孤独は寿命を縮める要因として残った。つまり孤独自体が危険だということがわかったのだ。

同じような陰鬱なパターンが3000人近い乳癌の女性にも見られた。孤独を感じていて社会的に孤立している人は癌で死亡する確率が高かった。計30万人を対象にした148件の研究をまとめると、脳卒中や心筋梗塞で死ぬリスクにおいて、友人の存在や社会的サポートは明らかな防御要因となっていて、つまりよく言われる手堅い助言、「禁煙」や「定期的な運動」と同じレベルで寄与していることがわかった。

孤独はつまり喫煙と比較になるくらい、西洋で最も多い死因(心筋梗塞)と4番目に多い死因(脳卒中)で死ぬリスクを高めるのだ。孤独は1日に15本タバコを吸うくらいに危険だという結論を出している研究者もいる。初めてその論文を読んだ時、私は驚いた。本当に孤独が身体に危険を及ぼすのか──?

一服している若い女性の手元
写真=iStock.com/Altayb
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Altayb

■交感神経と副交感神経

脳は多数の神経を通じて身体の各器官を制御している。その大部分は私たち自身にはコントロール不可能なものだ。

普段、自分の心臓や腸、肝臓にどのように働いてもらおうかなどと考える必要はない。意識せずとも動く神経系には2種類あり、交感神経副交感神経がそれにあたる。交感神経は「闘争か逃走か」に関わっていて、あなたが恐怖を感じたり、腹を立てたり、神経が昂(たかぶ)ったりすると起動し、心拍数と血圧を上げ、血液を筋肉に送って行動を起こさせる。つまり攻撃に出るか尻尾を巻いて逃げさせるのだ。

もう1つが副交感神経で、消化や心の落ち着きに関係している。副交感神経は、ゆっくりと息を吐き出すことでも起動させられる。この副交感神経は心拍数を下げ、血液を胃腸に送って食べ物を消化できるようにする。

■孤独はなぜ交感神経を活性化するのか

自律神経は2種類とも、今この瞬間もあなたの体内で活動していて、どちらが優位かは常に変わっていく。バスまで走ったり、重要なプレゼンの前に緊張している時は交感神経が優位になるし、プレゼンが終わってのんびりランチを食べている最中は副交感神経が優位になっている。

孤独でいると副交感神経が活発になるだろうと思いがちだ。心を落ち着けられる時間があるのだし、闘ったり逃げたりしなければいけない相手もいない。しかし不思議なことにまったく逆なのだ。孤独は交感神経を活発にする。落ち着きや消化ではなく、「闘争か逃走か」に関わるほうの自律神経をだ。

長期的な孤独が身体を「闘争か逃走か」に備えさせるというのは、孤独に関して一見矛盾したように思える発見の1つにすぎない。

他にも、孤独な時は周りや他人に脅かされているように感じるということがわかっている。他人の表情に神経質になり、普段とは違った解釈をするようになるのだ。無感情な顔は少し恐ろしく見え、少し恐ろしい顔は非常に恐ろしく感じる。脳は他人が自分に対して否定的であるという兆候に非常に敏感で、周囲にいる人たちのことを競争心が強く非協力的だと解釈する。すると、知人が知らない人のように思えてくる。孤独だと世界全体が脅かしてくるように、自分は歓迎されていないように感じられるのだ。

■孤独は死を意味してきた

なぜそうなるのかは断言できないが、ここでもまた過去に目を向けてみると信憑性のある説明が見つかりそうだ。地球上にいた99.9%の時間、私たちは生き延びるためにお互いを必要としてきた。自然の脅威や災害を生き延びたわずかな人々──だからこそあなたや私の祖先なのだが──彼らは一緒に生き延びてきたのだ。あなたが今この本を読んでいられるのは祖先たちが協力し合い、お互いを守ってきたからだ。

集団は生存を意味し、社会的な絆を大切にしたいという強い欲求をもっていれば命をつないでいけるオッズが高かった。脳はつまり集団に属すと幸福感という報酬を与えてくれるが、それはまったく自己中心的な理由によるもので、集団でいれば自分の命を守れる可能性が高いからというだけだ。つまり孤独によって感じる不快さは、脳があなたに「社交欲求を満たせ」と語りかけてきているのだ。あなたは脳にとっては死ぬリスクの高まった状態にいる。何しろ人間の歴史のほとんどの間、孤独は死を意味してきたのだから。

■警戒態勢が長期的なストレスに

アンデシュ・ハンセン『ストレス脳』(新潮新書)
アンデシュ・ハンセン『ストレス脳』(新潮新書)

そう考えると、なぜ孤独が「消化や心の落ち着き」ではなく、「闘争か逃走か」につながっているのかを理解しやすくなるだろう。

独りでいると、脳はこれが誰にも助けてもらえない状態だと解釈し、危険に対して警戒しておかなくてはと考える。すると身体は軽度ではあるが長期的なストレスを抱えたままいつでも警報を鳴らせる状態、つまり交感神経が優位な状態で暮らし続けることになる。長期的なストレスは血圧を上昇させ、炎症の度合いを上げる。孤独のせいで例えば心血管疾患の患者の予後が残念なものになることに説明がつくわけだ。

孤独はつまり脳に警戒態勢の段階を引き上げさせ、周囲には脅威が溢れていると感じさせる。

■孤独は人をさらに孤独にする

かつてはそれが私たちの命を助けてきたが、今のあなたや私にとっては迷惑な話だ。他の人が自分に敵対心を抱いていると勘違いして社交生活が楽になることはない。むしろ無礼で傲慢な人だと思われてしまうリスクがある。それに他人を否定的に解釈していると長期的な孤立にもつながる。「どうせ私なんかにパーティーに来てほしくないだろう。行かないでおこう」。最後には負のスパイラルにはまり、なおさら引きこもるようになり、ますます周囲が否定的に見えてくる。「私になんて絶対に来てほしくないはず。誘ったのは自分が罪悪感を覚えたくないからか、私のことを利用しようと企んでいるからだ。やはり絶対に行かないでおこう」という具合に。

それだけではない。長く孤独でいると睡眠も途切れがちになる。睡眠時間が短くなるわけではないが、眠りが浅くなり、目が覚める回数も増える。

誰も横で寝返りを打ったりしていないのに、なぜ独りで眠る人のほうが深い眠りが短くなるのだろうか。ここでも人類の歴史を振り返ると信憑性のある説明が浮かび上がる。独りで寝ている人は危険が近づいても誰にも教えてもらえない。だから深く眠りすぎず、すぐ目が覚めることが重要だったのだ。

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アンデシュ・ハンセン(あんでしゅ・はんせん)
精神科医
ストックホルム商科大学で経営学修士(MBA)を取得後、ノーベル賞選定で知られる名門カロリンスカ医科大学に入学。現在は王家が名誉院長を務めるストックホルムのソフィアヘメット病院に勤務しながら執筆活動を行い、その傍ら有名テレビ番組でナビゲーターを務めるなど精力的にメディア活動を続ける。『一流の頭脳』は人口1000万人のスウェーデンで60万部が売れ、『スマホ脳』はその後世界的ベストセラーに。

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(精神科医 アンデシュ・ハンセン)

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