安倍元首相だけではない…米メディアが「トランプ元大統領と統一教会の癒着」を相次いで報じる理由
プレジデントオンライン / 2022年7月21日 10時15分
2019年9月25日、ニューヨークで行われた国連総会の際の会談で握手するドナルド・トランプ前米大統領と日本の安倍晋三元首相。ドナルド・トランプ米大統領は2020年8月30日、退任する安倍晋三首相を「日本史上最高の政府首脳」と称賛した。 - 写真=AFP/時事通信フォト
■「米政界と旧統一教会の関係」が次々に報じられる
7月8日に安倍晋三元首相が殺害されたというニュースは、アメリカでも翌日、一面で報じられた。日本と少し違うところは、安倍氏の実績や銃撃の模様というよりも、安倍氏との関係が取り沙汰されている旧統一教会(世界平和統一家庭連合、以下統一教会)に関する報道が増えていることだ。
日本と同様に、アメリカの政界にもさまざま宗教団体が深く関わっている。大勢の信者で支持基盤を固められれば選挙に勝ちやすいし、日本以上に寄付文化が発達しているので政治資金を集めやすい。中でも統一教会とアメリカ政界の関係は歴史が長く、特に保守政党・共和党に対し大きな影響力を持っている。この深い関係を暴こうとしている報道が少なくないのだ。
まず安倍氏の銃撃事件で、いち早く興味深い報道をしたのはブルームバーグだった。9日付記事のタイトルは「安倍氏の死は、彼を批判してきた弱小党にスポットを当てた」。これはNHK党のことを指す。
記事では、NHK党の黒川敦彦幹事長が、選挙運動中のテレビ討論会で行った発言を取り上げている。安倍氏が特定の宗教団体に不明瞭な寄付をしており、その団体は外国のスパイとして利用されている疑いがある――という趣旨の内容を語って炎上したと伝えた。
また同じ場面で、安倍氏の祖父の岸信介氏が、統一教会を韓国から日本に持ち込んだことを批判した、とも報じている。
同記事はさらに、昨年9月18日付の日本共産党の機関紙「赤旗」の記事を取り上げている。安倍氏が統一教会に関連する団体のイベントに、祝福のビデオメッセージを送ったという内容だ。
■同一団体のイベントに半年間で2回出演
このイベントについて調べると、催しを全編収録した動画が検索に引っかかった。
統一教会の関連団体Universal Peace Federation(UPF=天宙平和連合)が昨年9月11日に開催した、「Rally for Hope(訳=希望への集会)」というものだ。安倍元首相はビデオメッセージを寄せ、「UPFとともに世界各地の紛争の解決、とりわけ朝鮮半島の平和的統一に向けて努力されてきた韓鶴子総裁をはじめ、皆さまに敬意を表します」と発言している。
さらに別の動画も見つかった。こちらは今年2月、やはりUPF主催の「Summit for Peace of Korean Peninsula(訳=朝鮮半島平和サミット)」で、ここにも安倍元首相がメッセージを寄せていた。司会者が読みあげる形で、その背景には巨大な安倍氏の写真が掲げられている。
特定の団体のイベントに、わずか半年の間に2度出演というのは、なかなかの頻度にも感じられる。
■トランプ元大統領は文鮮明氏に「感謝している」
実はこの2回のイベントには、他にも世界的なリーダーが出演していた。ドナルド・トランプ前大統領だ。
トランプ氏はいずれも基調講演者として出演し「UPF、特に韓鶴子総裁が、世界平和に果たしてきた功績に感謝したい」などと述べている。
これを報じたビジネスインサイダーは、トランプ大統領が1991年、フロリダの別荘「マールアラーゴ」を文鮮明(統一教会創始者)に売却することを考えていたとし、関係が長いことを伝えている。
さらに、この催しにアメリカから参加していた政治家は、トランプ氏だけではなかった。ペンス元副大統領、チェイニー元副大統領の姿も見えた。共和党の新旧重鎮が登場したことで、統一教会と共和党、とりわけタカ派との深い関係が憶測される。
その食い込み方は、トランプ氏のスピーチからも分かる。
「文鮮明がワシントン・タイムズを設立してくれたことにも感謝している」
ワシントン・タイムズは、フォックス・ニュースなどと並ぶアメリカの保守メディアで、トランプ氏の大統領当選にも貢献した。アメリカではカルト宗教と呼ばれることも多い団体が、このようなメディアを押さえているという事実は、アメリカ国民にはあまり知られていない。
■「反共主義」を掲げ、冷戦時代に政界に接近
統一教会とアメリカ保守政治との関係は冷戦時代にさかのぼる。
1950年代からアメリカで布教活動を始めた文鮮明は、1970年代にアメリカに移住、その影響力を政治の分野でも強めていく。
1974年、ウォーターゲート事件で大統領弾劾の危機にあったニクソン元大統領を擁護するために、統一教会は信者に呼びかけ議会前で3日間のストライキを行った。その後ニクソン氏は文鮮明氏に対し公式に感謝の言葉を送っている。この事実が主要メディアで報道され、統一教会の存在はアメリカ国内で一気に知られることとなった。
1982年文鮮明は、アメリカの首都に新聞ワシントン・タイムズを設立。共産主義と戦う保守メディアとして、レーガン、H.W.ブッシュの2人の共和党元大統領から、強い支持を受けた。冷戦時代の脅威だった共産主義との戦いという旗の下に、アメリカの政治や文化にも入り込んでいった様子がよく分かる。
1977年、米下院の委員会は、韓国中央情報部(KCIA、当時)が教会のボランティアを利用して、米国政治に影響を及ぼそうとしていたと報告。90年代になると、1995年H.W.ブッシュ元大統領とバーバラ夫人が、東京ドームで行われた韓鶴子氏主催のWomen's Federation for World Peace(世界平和女性連合)集会に参加している。当時その様子を伝えたニューヨーク・タイムズは、この時を「訪日の最大の驚き」と表現している。
■日本の信者から巨額の寄付が集められている
さらに興味深い報道をしているのはワシントン・ポストだ。
記事では、統一教会と関連団体は、世界のリーダーやセレブリティ、高名な聖職者に対し、高額の謝礼を支払って講演を依頼している。統一教会の正当性を世に知らしめるのが目的としている。
前出のH.W.ブッシュ元大統領以外にも、フォード元大統領、俳優のビル・コスビー、旧ソビエトのゴルバチョフ元大統領などの名前も挙がっている。
また同紙は、H.W.ブッシュ元大統領の東京講演のタイミングについても指摘している。当時日本では、教会の関連ビジネスを担う商社「ハッピーワールド」に寄付を強要されたとして被害者らが集団訴訟を起こし、福岡地裁が同社に数千万円単位の損害賠償命令を出したばかりだった。
そこで、H.W.ブッシュ元大統領は当時としては破格の謝礼8万ドルを、自分の懐には入れずチャリティーに寄付したという。
さらに記事では、私たち日本人にとって聞き捨てならない事実が暴露されている。教会が60年以上にわたり集めてきたこうした資金の多くは、日本の信者から頼ったという専門家の指摘だ。その割合は70%にのぼるという。教会の元幹部によれば、実に8億ドルものお金が、1970年代から80年代の10年間に、日本からアメリカに流れたとしている。
日本の信者が寄付した多額のお金がアメリカに流れ、政治家の財布に収まっただけでなく、教会の地位を高めるのに貢献していたことになる。
■文氏の7男は「銃を崇拝する教会」を設立
アメリカの報道でもう1つの焦点となっているのは、統一教会の分派であるサンクチュアリ教会だ。文鮮明氏亡き後、韓鶴子夫人との軋轢の末に分派したと伝えられている。
サンクチュアリ教会は「Rod of Iron Ministries」とも呼ばれ、文氏の7番目の息子の文亨進(ショーン・ムーン)が率いる教団だ。ショーンはアメリカで生まれた韓国系アメリカ人で、本拠地はペンシルバニア州にある。つまりれっきとしたアメリカの宗教団体なのだ。
若者に支持されるマルチメディアのヴァイス・ニュースの記事が詳しい。
サンクチュアリ教会のアメリカの信者は数百人で、まだまだ弱小だ。しかし衝撃的なのは、教義で銃を崇拝していることだ。彼らが信奉するのはAR-15という銃で、無差別銃撃でよく使われる非常に殺傷力が高い武器でもある。説教では「AR-15はわれわれを悪魔から守ってくれる。礼拝には欠かせないものだ」と語られるという。
文亨進は熱烈なトランプ支持者としても知られている。同メディアのインタビューで彼は「神はトランプを通して世界を救おうとしている」と語り、「ディープステート(闇の組織)と戦う愛国者」を自称している。バイデン氏が当選した2020年大統領選に抗議し、トランプ氏が呼びかけたと疑われる2021年1月6日の議会襲撃にも参加した。トランプ氏の影の黒幕とされたスティーブ・バノン元補佐官をイベントに招待するなど、政界とのつながりが深い。
■トランプ氏が再出馬すれば強い支持基盤に?
ヴァイス・ニュースは、サンクチュアリ教会の集会には、アメリカライフル協会の関係者の姿もあったと報じている。
銃を所持する権利は、保守共和党が打ち出す重要な政治案件でもある。教会が影響力ほしさに保守政治に食い込むのは自然な流れといえる。兄の文國進が(ジャスティン・ムーン)がペンシルバニア州で銃製造会社「Kahr Arms(カー・アームズ)」を経営しているのも、偶然ではないだろう。
また彼らは、テキサスやテネシー州に広大な土地と建物を購入している。その目的の一つは極右の若手政治家を育て、地方政治に送り込むことだと文亨進自身が語っている。
極右の考えを打ち出すサンクチュアリ教会は、アメリカの政治的分断の一端でもある。今は小さな組織だが、もしトランプ氏が再出馬することになれば、表舞台に踊り出てくる可能性も少なくない。
こうしてみると、1970〜80年代にはニクソン、ブッシュ、そして現代のトランプまで、統一教会は、それぞれの時代のアメリカ保守政治と強い関係を結んできたことが分かる。その動きが日本の政治とどうつながっているのか、この先炙り出される日は来るのだろうか。
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ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家
早稲田大学政治経済学部卒業後、1991年からニューヨーク在住。ラジオ・テレビディレクター、ライターとして米国の社会・文化を日本に伝える一方、イベントなどを通して日本のポップカルチャーを米国に伝える活動を行う。長い米国生活で培った人脈や米国社会に関する豊富な知識と深い知見を生かし、ミレニアル世代、移民、人種、音楽などをテーマに、政治や社会情勢を読み解きトレンドの背景とその先を見せる、一歩踏み込んだ情報をラジオ・ネット・紙媒体などを通じて発信している。
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(ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家 シェリー めぐみ)
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