「自分はケガに苦しんだから」大阪桐蔭ほか甲子園常連校に進んだ200人が通った浪速のジムの"おせっかい力"
プレジデントオンライン / 2022年7月24日 11時15分
■高校野球の強豪校に進む中学生が通うトレーニングジム
大阪・京橋駅――JR西日本や私鉄が乗り入れるターミナル駅の高架下、以前は美容室だったというスペースにガラス張りでコンクリートうちっぱなしのトレーニングジム「Athleet Works(以下アスリートワークス)」はある。
2020年に1店目をオープンし、昨年11月にここに移転。堺市と2店を構えるジムの代表が徳丸博之(52歳)さんだ。
![](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/6/1200wm/img_060904c87e48f8c431b2fcab15816708962747.jpg)
本業は、ネット通販系の会社の経営者だ。父親から引き継いだ仕事の業態を変え、社員約50人を抱えている。なぜ、畑違いのジムの経営を始めることになったのか。
それは、自分自身がずっとケガと格闘していたことと関連がある。
小さい頃から野球好き。大阪・明星高校→関西大学→三和銀行(現三菱UFJ銀行)と進む中、30歳まで現役選手としてプレーした。だが、その間、体は故障続き。投手をやっていた高1時は連日、200~300球の投球練習をしたことがあだとなり肩を壊した。野手に転向してからも、先輩とバーベルを何キロ上げられるか競争したら、脊椎分離症になってそのまま入院。最終学年の3年時はひざを痛めた。大学で野球をやるために治療に専念した。
「根性だけは負けなかったんでやり通せたんですが(苦笑)。あのとき、今のトレーニングのノウハウをもってすれば、すべて回避できたと思うんですよ」
懸命に練習に取り組んだのはよかったが、その方法には後悔がある。自分の人生はもっと違うものになっていたかもしれない。そんな思いがある。それと、もうひとつ。社会人野球のあとに経営者として仕事をしてきた中で健康な体の大切さを悟った。
「経営者というのは社員とその家族の生活を背負っています。だから、体を壊しちゃいけない。それで、経営者仲間がトレーニングをしていて、自分も指導を受けてみようと。そこで、トレーニングは子供のうちからやることが重要だと気づかせてもらった」
■ジム卒者の進路は大阪桐蔭、履正社、天理、明豊など
ちょうど2人の小学生の息子、長男・天晴(てんせい)さん、次男・快晴(かいせい)さんが野球選手として、大きく羽ばたこうとしていた。体作りで土台を作って後押しできれば、彼らを含めて多くの子供たちの夢も広がる。
![左端が代表の徳丸さん](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/7/1200wm/img_c74576f89721c3545d4d3744c9598710814538.jpg)
「ケガで野球から離れていった仲間たちがいる。今の子供たちには後悔だけはさせたくないと。体作りは大人も大事だけど、子供にも大切。若い世代に還元したかったんです」
投手だった天晴さんは小6時に阪神タイガースジュニアに合格した。しかしヒジの剥離骨折をして試合に出られなかった。そこで、中学生になってボーイズリーグで硬式野球をするタイミングで、徳丸さんは知人のトレーナーに息子の体幹トレーニングを依頼した。
「すると驚くほど成長したんです。2カ月のうちに足が50メートルで0.5秒ぐらい縮まった。これは体作りやなと」
チームのみんなにもトレーニングの重要性を分かって欲しいと、ある日、ボーイズの選手や父兄に長男が実践している体幹トレーニング体験をしてもらい、周囲の理解を深めた。
その後、甲子園の常連校・智辯和歌山高校に進んだ天晴さんは入部早々、兵庫・明石商との練習試合でホームランを打った。そこから卒業するまで4番の座に座り続け、甲子園でも活躍、去年の夏は全国優勝を果たす。そして今は、NTT西日本で社会人野球を続けている。
「入学するまでの体幹トレーニングが高校3年間の土台になったと思います。野球だけじゃなくて、スポーツするすべての子供たちに中学・高校で正しいトレーニングをすることで、後悔のない人生になる、と知ってほしい」
そんな気持ちから、自らジム経営に乗り出したわけだ。
今、アスリートワークスの受講生は部活が終わって、進学先の高校が決まって、さらに入学するまでに野球部などの部活に対応できるように準備をしようという中学3年生が中心。それと強豪に行きたくても行かれない子たちの能力を伸ばすことにも重きを置いている。
今年3月には、40人弱の中3生が全国各地の高校に巣立った。すでに、これまでに200人ほどをサポートしてきたが、その進路は明秀日立、大阪桐蔭、履正社、天理、明豊など甲子園常連校も多い。もちろん、この“ジム卒”なら必ず各校で活躍できるというわけではないが、1年生にして主力に抜擢されるケースも珍しくない。
■たった半年間でどのように体を超高校級に鍛えるのか
では、中学生にどのようなトレーニングをしているのか。
トレーニングのメニュー自体は、バランスボール、メデシンボール、ロープやダンベル、などを使用したふつうのジムだ。ただ、「約半年間のプログラムをトレーナーがついてきちんと教えるというところに雲泥の差が出る」と徳丸さんは言う。6人の受講生に対して1人のトレーナーが専任でつき、体型など個人差が大きい受講生それぞれにプログラムを組む。入会直後は、例えば、中学時代の打撃・投球フォームの癖などを1、2カ月かけて直すところから始め、徐々に負荷を加えて鍛えるメニューへと進んでいく。
![トレーニングの様子](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/5/1200wm/img_b55da6c07d97eaf40d458a477b0ce988991241.jpg)
メンタルセミナーがセットになっているのも特徴で、月に1回のオンラインの座学が好評だそうだ。父兄にもトレーニングの意義や、子供たちの体の成長・変化を説明するのだという。この4月からは中1、2年のクラスもスタートさせた。
取材したのは2022年3月下旬。中3生の最後のセッション(トレーニング)が行われていた。ジムの強みは、10数人いるトレーナーたちのモチベーションの高さだ。強豪校に限らず、関わる子供達の能力を最大限に引き出し、高校に送り出すことにやりがいを感じている。徳丸さんは言う。
「子供たちが好きで何とか育っていってほしい、という熱い人ばかり。ジュニアの指導には夢があり、育てば未来の国力にもつながる。そんなことを思いながらやってくれています」
![トレーニングの様子](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/1/1200wm/img_a15d912f48e6a446971fe6412fe0a48f991405.jpg)
このジムの特徴はトレーナーがフリーランスでそれぞれ他に教える場所を持っている点だ。例えば、トレーナーAさんは、大学・小学校のサッカーチーム、整骨院などで仕事をしている。トレーナーBさんは自身で法人を経営しながらアスリートワークスでもセッションを持ち、同時に府内の強豪校、有名私立高校と契約し指導している。ここはフリーのトレーナー集団というわけだ。徳丸さんはトレーナー支援をする法人も立ち上げてネットワークを作っていきたいという。
■熱いトレーナーの献身と浪速のおっちゃんのおせっかい
取材した日、大阪桐蔭に進学することを決めていた徳丸さんの次男・中3の快晴さんが最後のセッション(トレーニング)を行っていた。屋外でのランニング後はウェートトレーニングだ。担当トレーナーCさんは医療学校の講師、中学高校のバレーボール部、整形外科での治療サポートにも関わっている。快晴さんの成果を聞いた。
「(中学の部活が終了した)半年前、大阪城の公園で足を速くするスプリント系のトレーニングから取り組み始めました。次に高校で必要なフィジカルを高めていくトレーニングをして逞しい体つきにはなったかなと。股関節の動かし方が良くなった。ここでやったことがプレーの面でどれだけ生かされるか見てみたい。ここから楽しみです」
![トレーニングの様子](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/8/1200wm/img_680556533c2d9c33a0c6a4b116471a03894835.jpg)
取材した日の2日後に快晴さんは丸刈りにして野球部の寮に入るのだという。快晴さんはトレーニング中、つらくて何回もうめき声をあげていたが、「半年以上やって、体重が77キロから83キロになりました。太ももも太くなったし、ベンチプレスもスクワットもかなり数字が伸びました」と満足気だ。
大阪桐蔭の1年生同期は23人おり、全員がライバルだ。
「西谷(浩一)監督には力強いスイングで長打力をアピールしたい。同期には負けないぞ、という気持ちを大事にしたい」(快晴さん)
将来のプロ入りの可能性も十分にある天晴さんと快晴さん。2人の“金の卵”を大事に大事に育ててきた野球人の先輩である父親は「野球を嫌いになって欲しくなかったので、とにかく褒めた」という。
息子たちの今後の成長は遠くから見守ることになるが、新しい教え子が毎年やってくる。本業の傍らのジム経営はそう甘くはないが、最近も、甲子園出場経験のある高校とも契約を結んだばかりで、無理のない範囲で業務を拡大する方針だ。
「中学生や高校生、彼ら成長株を下支えするのが、私の務め。だから、引退はないです。昔は世の中、自営業者が多かった。取引先のおっちゃんとか、近所のおっちゃんとか、よう知らん人からも『がんばれ』って一言かけられて、それが励みになったり嬉しかったり。大阪の人はたいていおせっかいなんですが、そんな人が世の中、よくするんちゃうかなと思ってるんで」(徳丸さん)
チャレンジ精神旺盛な経営者の原点は、浪花のおっちゃん、なのだ。中3の卒業式を終え、帰路につく子たち。ジムのある高架下には、彼らを見送る徳丸さんの“愛あるおせっかい”が響いていた。
「いろんな事があるかもしらんけど、なんでもええから、言うてきいや。つらいことがあっても、(大事なのは)継続やで。遠距離になるけど、連絡してきいや」
(清水岳志)
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