将来成功する人は実践している…「器の小さい上司」についたときにとるべき行動
プレジデントオンライン / 2022年7月24日 13時15分
※本稿は、弘兼憲史『捨てる練習』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■サラリーマンのジレンマ
上司は部下を選べるが、部下は上司を選べない。
サラリーマンの出世は、上司で決まるといわれます。それなのに、部下は上司を選ぶことができません。サラリーマンの持つ宿命、あるいはジレンマとしてよく語られることです。
それでもぼくは、「上司は選べないのだから、異動を待つしかない」と運を天に任せるような態度は、あまりに消極的だと感じてしまうのです。
■上司が「器の小さい人間」だったら…
あなたの直属の上司、たとえば主任が、とても尊敬には値しない、器の小さい人間だったとしましょう。
「人より早く主任になったのだから、それなりの魅力があるはずだ」と探ってみても、まったく見つかりません。運が良かったのかコネがあるのかはわかりませんが、とにかく、「この人はダメだ」と判断せざるを得ない人間だったとします。
そんなとき、どうするか。
反面教師にするだけで、次の異動を待ち続けるか。ですが、次の異動で主任が替わる保証はどこにもありません。
■心の上司を持て
そんなときは、自分で自分の上司を決めてしまいましょう。
たしかに、組織が定めた上司は自分で決めることができません。ぼくが言うのは、心情的な上司。自分自身が、上司と仰ぐ上司です。
直属の上司を「ダメ主任」だと見限ったのであれば、その上の係長を自分の上司と決めればいい。
係長もダメなら、課長や次長、その上の部長でも本部長でも構わないし、何だったら別の部署の誰かでもいい。
とにかく、心から信頼のおける人物を見定め、自分の「唯一の上司」として仰げばいいのです。
■自分を誤魔化してまで守るべき関係か
もちろん、職場のルールは守らなければいけません。
仮にあなたの“心情的な上司”が課長だとしても、主任を無視して頭越しに意見を言ったり、課されている報告義務を怠(おこた)ったりしてはいけないのです。
ただし、主任の判断に納得できないときや、明らかな過(あやま)ちを発見したときなどは、堂々とそれを指摘するべきです。そうすることで、あなたと主任との関係はますます悪化し、職場の居心地は悪くなるかもしれません。
それでも、所詮(しょせん)はあなたが見限った上司です。そんな上司に調子を合わせることは、自分を誤魔化すことにほかなりません。
自分を誤魔化してまで、大切に守るべき関係ではないのです。
■上司に評価されようとすると「間違う」
学校の先生と生徒の関係にも似ていますが、部下はどうしても上司の評価を気にしてしまいます。
上司に評価されるには、どうしたらいいかと考えます。その結果、間違った結論にたどり着いてしまうことが多い。「好かれよう」という結論です。
そう考えた部下は、イエスマンとして上司に忠誠を尽くすようになり、社内ではもちろん、プライベートでの頼まれごとも聞いてしまうかもしれません。
上司によって異なるにせよ、部下に対する好き嫌いの感情は多少なりともあることでしょう。一人は、何を頼んでも嫌な顔一つせず、断らない部下。もう一人は、「それはできません」と正論をかざし、きっぱりと断る部下。
上司も人間ですから、前者への評価は甘くなり、後者への評価は厳しくなる可能性はきわめて高いといえるでしょう。
■嫌な上司の機嫌は取らない、と決める
だからこそ、「上司に好かれよう」とする部下が出てくるわけですが、反対に「上司にへつらうなんてまっぴらだ」「機嫌を取るためにゴマなんかすれるか」と考える部下もいる。
どちらの考えも、ぼくは否定しません。
問題は、「へつらうなんてまっぴらだ」と言いながら、評価されないことに不満を持っている人。「正当に評価してほしい」と思っている人です。
嫌いな上司になんて、評価されなくてもいい。
好き嫌いで判断するような上司の評価なんかいらない。
そう考えたほうがスッキリすると思いませんか。
与えられた仕事をきっちりこなし、着実に実績を重ねていけば、あなたの仕事を評価してくれる人物がきっと現れます。
嫌な上司の好き嫌いやエコ贔屓(ひいき)に左右されない、誰もが認める実力をつければいいのです。嫌な上司の機嫌は取らないと決意したのであれば、そのくらいの覚悟を持って仕事をしてください。
■「島耕作」は出世を捨て、左遷を選んだ
『課長 島耕作』にこんなエピソードがあります。
島はあるとき、直属の上司であった福田部長に命じられ、社内で行われていたスパイ行為を暴き出すことになります。それで福田部長から高く評価されることになりました。
しかし、結果として島は派閥争いに巻き込まれてしまいます。福田部長は、専務取締役の宇佐美を推して出世を果たそうとする、「宇佐美派」の急先鋒だったのです。そして、宇佐美派に島を取り込もうと画策し始めます。
しかし、島はこの後、宇佐美派に属すつもりはないことを福田部長にハッキリと告げ、宇佐美派のライバルである「大泉派」からの誘いも断って一匹狼となることを選びます。
派閥の実力者たちににらまれたことで、島は、本社から京都の工場へ左遷されてしまうのです。
■「出世したくないのか?」
派閥入りを拒否した後、同期入社の人事部社員・小笠原が島に、「出世したくないのか?」と問いかけます。
そのとき、島はこう答えました。
いやな仕事でえらくなるより、好きな仕事で犬のように働きたいさ──。
島は、上司にへつらって評価されることや、派閥という群れに加わって出世することを拒み、たった一人になったとしても、自分が納得できる仕事をすることを選んだのです。
■島耕作、理想の上司との邂逅
『課長 島耕作』で描いた上司と部下との関係性は、ぼくが約3年間お世話になった松下電器(現パナソニック)での実体験をベースにしています。
派閥争いに巻き込まれて京都へ飛ばされた島は、その後もなかなか良い上司に巡り会えずもがいていました。
そんな中、本社への復帰を果たした島。そこで、ようやく理想の上司の下で働くことになります。島が初めて「この人のあとならついてゆける……」と感じた、販売助成部の中沢喜一部長です。
■取引先から裸踊りを強要されたら、どうする
ある年の正月、販売助成部が制作したカレンダーに欠陥が見つかり、前年末までに取引先に届けられなかったというハプニングが発生。責任者である課長の島と上役の中沢部長が、元日に大阪で開かれる取引先の新年会に参加し、謝罪することになりました。
その席で、酒も入って調子に乗った取引先の面々が、下手に出ざるを得ない島に裸踊りを強要します。
「えっ?」と絶句した後、「それはちょっと勘弁してください」と言う島に対し、「罪滅ぼしに来たんやないんか?」と取引先の社長が大声を上げ、宴席の空気は凍てつきました。
そのとき、「え、何ですか? 裸踊り? それ私の得意芸ですわ‼」と中沢部長が名乗りを上げ、自ら進んで全裸となって「かっぽれ」を披露。島の窮地を救うとともに、その場を見事に盛り上げたのです。
■漫画のエピソードは実話だった
その夜、失意の島は中沢に連れられ、屋台のおでん屋で酒を飲みました。島は「すみませんでした。私は自分がいかに底の浅い人間かを思い知らされました」「サラリーマン失格です」と話し、自己嫌悪から立ち直れずにいます。
すると、その様子を見た中沢は、「気にするな、何てことはないさ。久々にバカやって結構面白かったぞ」とフォローしつつ、かつて京都営業所で販売店回りをしていた頃、宴席に呼ばれて「お座敷相撲」を取らされた……という苦い思い出を語るのですが、この話、半分ほどは実話なのです。
松下電器の京都営業所に配属された同僚から聞いた話です。
一流大学の大学院を出たインテリの彼が、取引先である販売店の宴席に呼ばれ、パンツの上からふんどしを締めて、みんなの前でまわし姿となり、三味線と太鼓に合わせて「お座敷相撲」を取らされたというのです。
彼はそのときのことを振り返りながら、「大学院での勉強は何だったんだ……と思った」とこぼしていました。
■「これが会社なんだ」
ぼくはこの同僚の話を中沢の経験談に置き換え、次のように語らせました。
そのとき、思ったよ。
大学院まで行って、あくせく勉強したことは何だったんだろうってね。
マルクスもケインズもぶっ飛んだよ。
これが会社なんだ。
男の仕事というのはこういうものなんだ……ってわかった。
脆弱(ぜいじゃく)な知識とかプライドとかは関係ない。
わかってしまえば、あとは怖いもんなしだ。
仕事にも自信がわいてパワーもついた。
島は、会社という組織の中で仕事を進めていくためには、「学歴も知識もプライドも何の役にも立たない。正義も常識も通用しない」ということを改めて知り、サラリーマンとして自分の甘さに気づきます。
中沢との出会いは、文字通り、その後の島の人生を変える出会いとなるのです。
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漫画家
1947年、山口県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、松下電器産業(現・パナソニック)に入社。74年に漫画家デビュー。作品に『人間交差点』『課長 島耕作』『黄昏流星群』など。島耕作シリーズは「モーニング」にて現在『会長 島耕作』として連載中。2007年紫綬褒章を受章。
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(漫画家 弘兼 憲史)
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