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手書きの陰性証明が必要な国は日本ぐらい…あまりにアナログで恥ずかしい「日本の入国手続き」に抱く不安

プレジデントオンライン / 2022年7月24日 10時15分

日本入国時に必要だった検査証明書などの書類 - 筆者撮影

現在、日本への入国では「水際対策」としてPCR検査による陰性証明の提出が求められる。しかし、この手続きは世界標準からはかけ離れている。ギリシャ在住ライターの有馬めぐむさんは「今年6月に一時帰国した際、日本の入国手続きのアナログさに驚いた。IT化の進むEUとは大きな隔たりがあり、私は恥ずかしくなった」という――。

■世界標準とはかけ離れた日本の入国手続き

新型コロナウイルスのパンデミックに伴い、ここ数年、世界各国で渡航制限が設けられ、隔離措置や各種証明書の提出など、水際対策が強化されていた。

よってギリシャのアテネに住む筆者は、コロナ禍以来、日本に一時帰国することができなかった。長きにわたり、日本の入国時の隔離措置は2週間で、滞在予定の日数を使い果たしてしまうからだ。

2021年の夏ごろから、欧州では規制緩和が進んだが、日本政府は“鎖国”と揶揄されるほど厳しい入国規制を続けていた。やっと今年3月、ワクチン接種完了などの条件によるが、ギリシャからは隔離措置や自宅待機が解除されたので、6月にコロナ禍始まって以来、初の日本への一時帰国を果たした。

その際、入国に必要な書類の準備やアプリの登録がとても大変だった。おそらくこんなにアナログで非効率な手続きをやっている国は日本だけだろう。

特にネックになるのは日本の厚労省が強く推奨する「手書き」のPCR陰性証明だ。日本の入国審査はいつまで世界標準とはかけ離れた手続きを要求するつもりなのだろうか。

■EU域外でも自由な行き来ができるように

21年夏よりEU・シェンゲン協定加盟国では、スマホ画面でEUデジタルCOVID証明書(ワクチン接種証明、陰性証明、治癒証明等の情報が登録できる)を提示すれば入国時の隔離も検査もなくなった。

EU域外にも加盟を呼びかけ、アジアや中東、オセアニア(ウクライナ、台湾、韓国、シンガポール、アラブ首長国連邦、イスラエル、ニュージーランド等45カ国)も採用。EU域外でも一部では、相互の出入国がスムーズになっている。

スマホへの登録は至極簡単だし、スマホを持たない人向けには紙に印刷した証明書でも可。

発行は無料、ワクチン接種だけでなく陰性証明や治癒証明(一定期間、免疫があることを証明)もこれひとつで対応できる。何より多くの国で互換性のあるシステムなので、特に乗り継ぎがある際の旅行や出張などの際、非常に便利で優れたシステムだ。

日本はこれに参加していない。不参加の理由を厚労省に問い合わせると、「現状のシステムで十分に運用ができるとの判断があった」(保健局予防接種室接種証明係)との回答だった。

日本が加盟していないので、日本人はギリシャ入国時に72時間以内PCRか24時間以内のラピッドテストの陰性証明書の提示が必要だった。

現在は証明書の提示は解除され、ギリシャやドイツなどの大半のEU諸国やイギリスに入国する際の提示義務は不要になっている。

■日本→EUは簡単だが、EU→日本は難しい

一方、日本の入国規制は、20年3月以降、ワクチンを必要回数接種していようが、陰性証明があろうが、あくまでも隔離措置を続けたので、在外邦人の帰国には大きな障壁となった。

それでも隔離措置を覚悟でギリシャから日本へ帰国した友人知人もいた。

皆、一様に「外務省、厚労省、デジタル庁の各サイトの説明に一貫性がなく、複雑でわかりづらい。おのおのが推奨しているアプリも違うので、複数のアプリをインストールしなければならなかった」とうんざりしていた。

外国人に至っては、21年の東京五輪の選手や関係者には緩い制限で入国を許可した一方で、留学やビジネス目的のビザを発給せず、新規入国を厳しく制限していた。いつまで日本は“鎖国”を続けているのかという批判的な意見が世界中で噴出していた。

■世界にひとつだけの日本の入国アプリ

5月末の時点で日本入国に必要なものは、入国者健康居所確認アプリMySOSの登録(7月8日からはウェブ版の「MySOS Web」が導入された)。言うまでもなく、日本独自のアプリでEUシステムとは連携していない。

入国者健康居所確認アプリMySOSの画面
入国者健康居所確認アプリMySOSの画面(筆者撮影)

そのアプリ内で、

① WEB質問票
② 誓約書
③ 出国前72時間以内の検査証明書(PCR陰性証明)

を事前登録するのだ。

アプリ内で過去のワクチン接種証明の登録も求められる。必須ではないが、条件によっては3回接種完了を証明できれば隔離・検査免除になるので登録した方がいい。

ちなみに、スマホの位置情報設定・保存や接触確認アプリCOCOAも必須とあったので、インストールしたが、結果としては必要なかった。

厚労省のサイトはやたらと難解に書いてあるため、旅行会社や航空会社のサイトを確認すると、これらのサイトの方がよほど簡潔明瞭に書かれていた。

MySOSアプリは、必要書類を登録して審査が完了すると赤→黄→緑→青に色が変わっていく。

先に帰国した友人やメディアの報道などでも、「PCR陰性証明は日本に到着した時点で不備を指摘されて入国できないケースもある」という恐ろしい話を聞いていたので、事前にスマホ登録して審査完了、緑もしくは青になれば安心できる。

■情報を入力時の最大の問題

日本入国のため、早速MySOSをインストールしようとしたが、あまり早く書類をアップしてもいけないらしく、日本入国の2週間以内とある。

逆算して入国予定時刻から2週間を切った日、登録を試みた。

最初は赤の画面となっているが、①の質問票、②の誓約書をアプリ上で打ち込み登録、ワクチン接種証明書もアップした。

各書類は審査中という表示が出て、どのくらいかかるのかと心配していたら、数分後に審査完了というポップアップが出た。赤だった画面は黄色になり、無事、機能していることがわかった。

ただ一番のネックは滞在国の医療機関で入手する③のPCR陰性証明だ。

■最大の難関は「手書き」の書類

これは最初の出発地の出発予定時刻から72時間以内に検査を受けなければならない。筆者の場合は5月31日13時55分アテネ発のフライトだったので、逆算すると28日の13時55分以降に検体採取に行くことになる。

在ギリシャ日本国大使館が推奨するクリニックが近所にあり、そこから発行される証明書なら簡単に事が進むのだが、日本政府は厚労省所定のフォーマットを強く推奨している。

フォーマットをダウンロードし紙に出力、医師に必要事項を手書きで記入してもらい、アプリ上でアップロードするのだ。

所定以外のものでも必要項目を網羅していればいいのだが、このクリニック発行のものは国籍欄(5月末時点で必要)がなかったので、やはり所定で行くしかない。

先に海外から帰国した友人たちから、「海外の医療機関は日本人の名前には慣れていないからよく間違える」「医師の署名(サイン)とあるからサインをもらったら、日本の空港で提出の際、読めないと言われ、もめた」などという話を聞いていた

当地の日本国大使館からも同様のアドバイスがあり、既に対応してくれているクリニックには、医師のサイン欄は読めるようにブロック体で書いてもらうように要請したらしい。それはもはやサインではないので、最初から「名前記入欄」にすべきだろう。

さらには、大抵の書類に間違いがあるので、書き直し用のため、日本国大使館から厚労省所定フォーマットの原本をクリニックに送付済みという。

EUデジタルCOVID証明書は、データがクラウド上で管理されるため、スマホを持っていれば、証明書をわざわざプリントアウトすることも、医師に手書きしてもらうことも、それを旅行者が撮影してアプリに登録する必要も一切ない。

医療機関も在外の大使館員の方々も、世界標準とはかけ離れた紙ベースの陰性証明のために、本当に苦労されている。

■「こんな面倒な書類を書くのは日本だけ」

PCR検査自体はとてもスムーズで、費用は47ユーロ(約6500円)。

翌日にはまずメールでクリニック発行の陰性証明が送られてきた。陰性だったが、それで喜んではいられない。問題は何よりも必要な「手書き」証明の内容だ。

クリニックで受け取ってその場で確認したら、検体採取と結果判明日の日時が逆に書かれていた。これは記入欄が時系列的に逆の順序なので、間違えられることは想定内だったがやっぱりと思った。

他にも名前が修正液で訂正してあったので、持参の赤ペンで間違いを添削し、書き直しを依頼。すぐにフォーマットを新しく印刷し書き直してくれたが、「こんな面倒な書類を書かないといけないのは日本だけよ」とあきれ気味に言われた。ごもっともな意見だ。

しかし不備があれば、下手したら入国できない可能性もあるのでこっちも必死だ。このように準備には非常に神経を使った。

入国アプリの審査完了画面
入国アプリの審査完了画面(筆者撮影)

ともあれ、やっとのことで正確な「手書き」証明書を入手でき、早速アプリにアップすると数分で審査完了、画面が緑色に変わった。一安心だが、万が一スマホに何かあった場合のことも考えて、各書類を数枚ずつ印刷もしておいた。

ギリシャ人の夫は、筆者がデジタルの入国アプリの手続きをしているのに、フォーマットをプリントアウトしたかと思えば、手書きで書かれたものをスキャンしてアップしたり、それをまた印刷したりしているのを見て、「信じられない」と言いたげな表情を浮かべていた。

ちなみにアテネ国際空港でも市内の医療機関より金額は高めだが、PCR検査(要予約)ができる。数時間で陰性証明が入手できるが、利用した人によると、厚労省が定める必要項目全てはカバーされていない。よって受付の際、「手書き」証明も別途依頼しなければならなかったという。紙での出力が必要なことには変わらない。

■空港で5時間留め置かれた

これで準備万端なはずではある。が、今年3月にアメリカから帰国した知人の話を聞くにつれ、不安もあった。

せっかく苦労してアプリに事前登録しているにもかかわらず、空港で優先レーンなどはなく、紙の書類だけの人たちと一緒に長い列に並び、更に検査判明まで5時間も空港で留め置かれたと聞いていたからだ。

ワクチン証明と陰性証明があるのにもかかわらず、入国時にまたコロナ検査があるのも度を超していると思う。

5月下旬、日本政府は水際対策を見直すと発表。各国・地域を「青」「黄」「赤」の3つの区分に分け、滞在国がどの色の区分に該当するか、3回目ワクチン接種証明書を保持しているかによるが、条件を満たせば6月1日から、入国時の空港での検査がなくなった。

6月1日はちょうど筆者の入国日で、ギリシャは「青」に指定されていたので、3回目ワクチン接種証明書の有無にかかわらず、検査はなし。「黄」でも、指定ワクチンを3回接種していれば検査、隔離は免除だ。

フライト予約時、それは未発表だったので、検査結果待ちは覚悟していたのだが、検査なしとなり、数時間、空港に足止めされる必要がなくなり、気分が楽になった。

■航空会社職員ともめる旅客の姿

フライト当日、アテネの空港では、コロナ対策で提示するのはEUデジタルCOVID証明書のみで、フランクフルト行きの飛行機に搭乗。フランクフルト空港の羽田行のANAのゲートに着いた際は安堵した。

しかし日本の複雑な規制のためにゲート周辺でANA職員が、「陰性証明のチェックをしているので○番窓口に」と書かれたプラカードを持って歩き回っていた。

筆者が緑から青に変わったMySOS画面を開いて見せると、係員は「青ですね」とにっこり、すぐさま搭乗口に案内してくれた。

窓口で陰性証明に不備や間違いが発見された人たちが、職員と押し問答している姿も見られた。

■“関所”で待ち構える大勢のスタッフ

日本行きのフライトに無事、搭乗。ロシア上空を飛べないので、少し以前より長いフライトではあったが、ほぼ同じ12時間程度で羽田空港の第3ターミナルに到着した。

ターミナルは全てのトイレが封鎖されていて、普通に直進できれば短い距離を、ロープでジグザグに仕切られた通路で、これでもかというほど歩かされた。歩数にして約6000歩、45分は無駄に歩いた。

その理由は、到着者に対し、その何倍もの人数のスタッフが待機する数カ所の“関所”を通過する必要があったからだ。そこでは①~③の書類をそれぞれの係員が確認していた。

筆者は、滞在国がギリシャであることから、国が定める水際対策の青区分を意味する青い紙を渡された。

左手に手渡された青紙、右手にMySOSアプリの青色画面、それらを水戸黄門の印籠のごとく見せると“関所”の人々が「ははー」とばかりに退いていくので、QRコードを読み取り機にかざす数秒以外、ほぼ歩みを止めることはなかった。

苦労して行った準備が功を奏し、1時間ほどで入国審査を終えることができたので、3月に比べて改善はされているのだろう。“関所”の係員は皆、笑顔で感じの良い対応ではあったが、なんだか北朝鮮にでも入国しているかのような異様な雰囲気だった。

■旅行者にも現地にも不評

6月上旬からフォーマットも簡素化して、必要項目は、氏名、生年月日、交付年月日、検体採取日時、医療機関名など8項目に減った。

必要項目が減れば、間違いも少なくなるとは思うが、この証明書は、個人旅行者が滞在国で正確に書かれたものを入手するのは苦労が伴う。

団体旅行では、旅行会社が陰性証明取得を手配するサービスがあるが、現地の医療機関にも、手配のために動く人たちにも負担になっている。

現地の医療機関発行のもので十分なのに、日本政府が独自のフォーマットにこだわるので、無駄な労力が行使されるのだ。

ここまで日本人の帰国者、旅行者に苦労を強いるのはいかがなものか。

■コロナ前の水準に戻ったギリシャとの違い

ギリシャの観光オンシーズンは初夏から本格化する。以前、「外国人観光客を取り戻すためにギリシャ首相がやったこと」に書いたように、昨夏、ギリシャはEUのなかでもいち早くEUデジタルCOVID証明システムを開始し、観光業はかなりの復活を見せた。

今年5月1日からは、入国の際の証明システムの提示義務を解除し、インバウンドは爆発的に伸びている。

6月上旬、ギリシャのホテル経営者連盟の会長は、今年のギリシャの観光収入が150億ユーロに達する勢いであると述べた。これはコロナ前の過去最高の外国人観光客数だった2019年の売り上げの8割に当たる。

アテネ中心地のモナスティラキ 観光客が溢れ、活気が戻っている
筆者撮影
アテネ中心地のモナスティラキ 観光客が溢れ、活気が戻っている - 筆者撮影

6月のアテネ国際空港のインバウンドも、コロナ禍やウクライナ戦争の影響を受けつつも、2019年の同月の94%に迫った。

パンデミックの厳しい2年間、徹底したデジタル化戦略とアフターコロナを見据えた対策が功を奏し、2019年のインバウンドを更新する可能性が高い。

■技術大国なのにアナログな国、日本

一時帰国して改めて感じたのは、日本はデジタル証明やアプリの開始が遅すぎるということだ。

すでに欧米は規制の緩和に向かっており、入国の際、欧州の大半の国では証明書類の提示義務は一切ないし、アメリカはワクチン接種証明書は要るが、検査証明書は撤廃された。

それなのに、日本はアナログな入国システムを必要としている。入国規制の緩和は、相互で行われないと意味がない。世界と足並みがそろっていないのだ。

もう少し国際感覚を持って状況を見極めないと、世界から「不便な国」と認識され、さまざまなビジネスチャンスが失われやすくなる。

思えば、日本は、コロナ禍での給付金の申請やワクチン接種の予約なども、完全なデジタル化ではなく、紙ベースで行ったため、全くスムーズではなかった。

海外に住んでいると、日本製の薬品、家電、車など、優れた技術の恩恵を国内にいるよりも如実に感じる。素晴らしい技術大国と思われている日本が、デジタル後進国の烙印を押されてしまわないか、外から見てとても心配になっている。

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有馬 めぐむ(ありま・めぐむ)
ライター
1995年白百合女子大学文学部卒業後、出版社で記者職を経験。国際会議コーディネートの仕事でギリシャに滞在後、2007年よりアテネ在住。ギリシャの観光情報やライフスタイル、財政危機問題、難民問題、動物保護など、多角的に日本のメディアに発信している。著書に『「お手本の国」のウソ』(新潮新書、2011年、共著)、『動物保護入門 ドイツとギリシャに学ぶ共生の未来』(世界思想社、2018年、共著)などがある。

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(ライター 有馬 めぐむ)

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