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批判記事を書いた記者を休職に追い込む…文在寅政権を支えた「月光騎士団」のヤバすぎる手口

プレジデントオンライン / 2022年7月29日 11時15分

2022年4月25日、韓国ソウルの大統領府青瓦台で行われた上級秘書官との会談で発言する文在寅大統領(当時) - 写真=EPA/時事通信フォト

韓国の歴代大統領は熱心な「ファンクラブ」に支えられてきた。フリージャーナリストの金敬哲氏は「文在寅・前大統領には『月光騎士団』と呼ばれる過激なファンクラブが存在し、批判的な記事を書いた記者を休職に追い込むこともあった」という――。

※本稿は、金敬哲『韓国 超ネット社会の闇』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

■困難な道を選んだ盧武鉉の挑戦に支持が集まった

韓国には「政治家のファンクラブ」が存在し、ネット世論を主導する大きな影響力を持っている。会員たちはネット上で組織的に動き、自分が支持する政治家に有利な世論を醸成しようと努力する。韓国初のファンクラブは「ノサモ(盧武鉉を愛する人たちの会)」だった。彼らが2002年の大統領選で大活躍し、盧を大統領に就任させるのに一役買った経緯を紹介しておこう。

00年4月の総選挙で、当時の新千年民主党の盧武鉉候補は故郷の釜山江西(プサン・カンソ)地域で出馬し、落選する。彼は人権派弁護士出身で、ソウル鍾路区(チョンノグ)を選挙区として活動する国会議員だったが、当時の韓国の深刻な東西格差を解決するため、釜山に国替えして出馬したのだ。

しかし、いくら彼が釜山出身でも、釜山の有権者は全羅道(チョンラド)を地盤としてきた民主党の候補を認めることはなかった。それほど東西の分断は深刻だったのだ。それをわかっていながら彼は3度釜山で国会議員に挑戦し、いずれも落選してしまう。それでも、革新勢の強いソウルだったら議員を続けられたにもかかわらず、わざと険しい道を選んだ彼の挑戦は韓国社会で大きな反響を呼ぶ。

■批判的な新聞社に火をつけるほどの過激な活動も展開

韓国政治の慢性病といわれていた地域格差を克服しようとする彼の努力に、多くの若者が共感し、盧が落選した翌日、ネットで結成されたのが他ならぬノサモだった。

ノサモは、現実空間とネット空間を縦横無尽に行き来し、盧武鉉の親衛部隊として名を馳せた。02年の大統領選において、彼の支持率が下がり、新千年民主党内で候補交代の動きが起こった時、ノサモは「黄色い豚キャンペーン」(豚貯金箱に政治後援金を集めるキャンペーン)を開始し、形勢を逆転させることに成功している。

ノサモはその後も、ときに過激に活動をつづけた。05年には、ノサモ会員が盧政権に批判的な論調を展開する保守系新聞「朝鮮日報」の子会社に火をつけ、世論から非難を浴びたこともあった。

■ネットの書き込みで世論を誘導する文在寅の「コメント部隊」

ノサモ以後、さまざまな政治家のファンクラブが活性化する。04年には、「パクサモ(朴槿恵を愛する人たちの会)」が作られた。彼らは、アンチ朴のデモがあれば欠かさず訪れ、“向かい火デモ”と呼ばれる対抗措置を講じることで有名だ。

17年の弾劾裁判時には弾劾反対集会を主導し、朴の投獄後も変わらず彼女を支持している。朴がセヌリ党(現・国民の力)から除名されると、パクサモの会員が中心となって「ウリ共和党」を結成した。なんと将来、朴が恩赦により赦免されることを見越して、彼女が復権後に政治活動を行うための政党まで結成してみせたのだ。

実は、文在寅もファンダム(組織力の強いファンクラブ)が強い政治家として知られる。オンライン上には複数のファンクラブが存在するが、このうち最も旺盛に活動する組織が「月光騎士団」(ダルビッキサダン)だ。彼の姓の読みであるmoon=月に着眼したネーミングで、ネット記事やサイトに書き込みを重ねることで世論を誘導する役割を果たすため、別名「コメント部隊」とも呼ばれる。

文在寅が子息の不正入学疑惑などで検察の捜査を受けている曹国を法務長官に任命したことで、文政権に対する激しい反対集会が始まると、検察庁の前で「曹国守護」「検察改革」の集会を開いて、政権を支えた。

■自分のファンが記者を脅迫しても文在寅は問題視せず

彼らは、「政権の敵」と判断する人物には、個人的にメールや電話をかけて脅迫することもはばからない。

金敬哲『韓国 超ネット社会の闇』(新潮新書)
金敬哲『韓国 超ネット社会の闇』(新潮新書)

19年3月、文在寅が北朝鮮側に与しすぎだとして「北朝鮮の金正恩委員長の首席報道官」などと皮肉まじりに国会で批判されたことがあった。この発言はブルームバーグ通信の韓国人女性記者が書いた記事内で使われた表現の援用だったのだが、「月光騎士団」たちは、当該記者の個人情報を晒し、メールや電話で脅迫。記者は精神的なショックで会社を休職する状況にまで至った。

ほかにも、政権に不利な判決を下した判事や、政権に批判的な保守系マスコミの記者も、彼らの攻撃対象になった。度を越した彼らの行動はメディアや世論から非難を浴びているが、文在寅は彼らの行動を「政治の味を生かすタレ」と表現し、問題意識を全く見せなかった。

■尹錫悦を当選させた“アンチフェミ”の支持者たち

李在明のファンクラブである「ソンガヒョク(指革命軍)」は、大統領選挙を経てさらに大規模になり、「革命の娘(ケタル)」「良心の息子(ヤンア)」と名前を変えた。活動性や攻撃性において月光騎士団を上回ると一部では評価されている。

最後に、尹錫悦が大統領選で勝利した決定的な要因をあげたい。それは、妻をめぐる一連の疑惑や本人への関心の低さで支持率が低空飛行を続けていた1月7日、「女性家族部」の廃止を発表したことだ。これにより、フェミニズムに対して攻撃的な姿勢をみせる20代男性の“女性優遇”“男性への逆差別”という主張に火をつけ、彼らを味方につけることに成功したのだ。

その後、彼らは尹のために、20代の男性が多く利用する「FM KOREA」などのサイトを舞台に組織的に運動を展開。李在明側の失策を次々と流布させたり、相手側が流すフェイクニュースを見つけ出したりしては素早く告発したり、関連記事のコメント欄を先に独占して、組織的に尹側に有利なコメントを書き込んだりした。

パソコンを使用するフードを被って顔の見えない人
写真=iStock.com/twinsterphoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/twinsterphoto

■階層による対立が深い社会でネット世論は歪曲される

もちろん、この戦略は、若い女性を敵に回すという大きな副作用も伴った。選挙直後、民主党に12万人程度の新規党員が入党し、その大部分が20代~30代の女性だったというニュースもあったほどだ。

韓国では進歩と保守、若い世代と老人世代、男と女など、各階層が激しく対立している。そんな社会であればあるほど、ネット世論は歪曲されやすく、政治家たちがそれを「現実世界の声」として鵜吞みにした瞬間、社会はさらに分断することになる。

■仲間と敵を分けるコミュニケーションは深い分断を生む

10年ごとに進歩と保守が交代で政権運営をするという「政権交代10年周期説」のある韓国で、任期末まで40%を超える支持率を誇っていた文政権は、5年ぶりに保守に政権を明け渡した。

熱烈なファンクラブがあるほど大衆的な人気の高かった文在寅は、任期中、自らの支援者たちとばかりコミュニケーションをとり、政権に批判的な意見を持つメディアや国民は徹底的に敵とみなした。結果、社会は克服できないほどの深い分断に陥った。新しく出発した尹錫悦政権は国民統合を訴えているが、果たしてどうだろうか。

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金 敬哲(きむ・きょんちょる)
フリージャーナリスト
韓国ソウル生まれ。淑明女子大学経営学部卒業後、上智大学文学部新聞学科修士課程修了。東京新聞ソウル支局記者を経て現職。著書に『韓国 行き過ぎた資本主義』(講談社現代新書)。

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(フリージャーナリスト 金 敬哲)

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