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「ゼロコロナ」の固執で景気は大失速…中国・習近平政権はむしろ市民の命と生活を危険にさらしている

プレジデントオンライン / 2022年7月23日 14時15分

2022年7月1日、英国から中国への返還25周年を迎えた香港で行われた新指導者・新政府の発足式典の後、演説を終えて手を振る中国の習近平国家主席。 - 写真=AFP/時事通信フォト

■ゼロコロナ政策に固執した習近平の失策

中国の景気が停滞している。7月15日に中国国家統計局が発表したテータによると、2022年4~6月期のGDP(国内総生産)は前年同期比0.4%増えたが、1~3月の4.8%増から大きく減速した。ゼロコロナ政策の結果が数字にも反映された。

市民生活にも深刻な影響が出つつある。代表例は若者の就職難だ。中国国家統計局の発表データによると、中国における16~24歳の失業率は5月に18.4%を記録。前月から0.2ポイント上昇し、過去最悪を記録した。

今秋に開かれる中国共産党大会で、習近平国家主席はこれまでの慣例を破る形で、3期目を続投するとの見方がある。国家の安定を第一に掲げる習近平指導部にとって、この時期の若者の就職難と不景気という失策は手痛い。

海外メディアは「そもそもの原因は伝統的に委員会別に分散されていた権力をすべて手中に収めるべく、独裁体制を築いた習近平の落ち度だ」と厳しい見方を伝えている。

■中国にも押し寄せる物価高の波

冒頭で示した通り、中国では経済成長率が急激に鈍化し、若者の失業率は過去最悪の水準に達している。さらに各国と同じようにインフレの進行も深刻な問題だ。

英フィナンシャル・タイムズ紙は中国で人気のアイスクリームを例に、インフレの実情を報じている。同記事によると一部商品が、市民の手が届かない高嶺の花となっているという。

ハーゲンダッツが高価で手の届かない中国では、国内ブランドの鍾薛高(Chicecream)が人気だ。もともと日本円にして数百円から1000円前後の高価格帯で販売され、「アイスクリーム界のエルメス」ともてはやされていた。

ところがインフレのあおりで、価格はさらに高騰している。同紙は、同ブランドのアイスを求めた現地の20代の若者が、1つに128元(約2600円)を支払ったと報じている。現地の最低賃金で働いた場合、6時間働いてやっとアイス1本を買えるという価格だ。

値上げは高級ブランドのChicecreamに限った話ではない。四川省のある大学生は、子供の頃に2元だったコンビニのアイスが、いまでは4.5倍に値上がりしていると同紙に語り、「ショックを受けた」と打ち明けている。

■80社に履歴書送るも不採用、深刻化する就職事情

若者の就職事情は悪化の一途をたどっている。

このところ中国の若者のあいだで、「擺爛(バイラン)」という言葉が流行語となった。本来は「腐るまま放っておく」という意味だが、就職活動がほぼ報われなくなった現在、「努力しても無駄なので諦めた」という文脈で多用されている。

無表情で、夜の街を見つめる女性
写真=iStock.com/xijian
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/xijian

不況による解雇が各地で相次いでおり、一度職を失ってしまうと以前のような条件での再就職は不可能に近いようだ。英フィナンシャル・タイムズ紙は年初に北京の中堅インターネット企業を解雇された女性の悲惨な求職体験を報じた。

同記事によると、この女性は会社を解雇された後に合計80社に履歴書を送ったという。元々マネジャークラスだった彼女に見合う処遇はなく、20社ほど面接を受けるなかで示された待遇は、以前の給料と比較すると50%以上の減給と降格を強いるものだった。

景気後退の影響は、テック業界でとくに深刻だ。中国当局はネット事業の規制強化を進めており、昨年はオンライン教育が全面的に禁止された。その後、ストリーミングサイトや動画サイトを対象に監視が強化され、業界は赤字を生み出しやすい体質となっている。時流に乗る動画共有サイト大手のビリビリでさえ、レイオフに踏み切った。

■就職浪人を選ぶ学生も

冷え込んだ中国の労働市場で、学生たちは一層の苦難を強いられている。中国では今春、1000万人以上の大卒者が就活を一斉に開始した。

だが、学生の中には状況の改善を見込んで、意図的な留年を試みる人も出てきているという。米国のNGO・アジア協会米中関係センターの情報サイト「チャイナ・ファイル」は、中国の求人サイト「Zhaopin」の調査結果を紹介。アンケートに回答した大卒学生のうち16%が意図的に就職を遅らせることを検討していると指摘した。

若年層の失業率が「記録的」な水準に達している点を踏まえ、同記事は「トップレベルの教育を受けている学生でさえ、厳しい競争にさらされている」と指摘した。

中国で「最も困難な就職シーズン」と呼ばれる今年の就職市場だが、1000万人以上の大卒者が就活を始めるようになったのは、中国政府の教育政策が一因となっている。

チャイナ・ファイルは、政府は大学入学者を2006年まで毎年20%という驚異的なペースで増加させてきたが、それが今となってはこれが就職競争の過熱を招いていると指摘する。現在では入学者の増加ペースは5%前後の水準に落ち着いているが、いまだに緩やかな上昇が続いている。

最大の問題は、経済の発展が卒業生の増加に追いついていない点だ。チャイナ・ファイルは「中国は長年、不均衡な就職市場を抱えてきた」と述べ、高学歴者の受け皿となる就職口が決定的に不足していると指摘している。

■ゼロコロナ政策を評価する豪紙

一方で、「ゼロコロナ政策がかえって中国経済を活性化させる」と指摘する海外メディアも存在する。ゼロコロナに固執する裏で、意外な政策転換が始まっているのだという。

例えば、豪シドニー・モーニング・ヘラルド紙だ。

毛沢東時代以前から続く古い制度として、厳格な戸籍制度がある。農村戸籍をもって生まれた者は、原則として都市部で財産を築いたり、都会の学校教育や医療給付金などのサービスを受けたりすることができないしくみだ。

これは長年、貧しい農村部の出身者が都市部に流入する事態を防ぎ、スラム化を予防する政策として機能してきた。だが近年では、農村からの出稼ぎ労働者が生活不安から貯蓄を重視するなど、消費を押し下げる効果があるとして問題視されるようになっている。

田んぼで、水牛の後を歩く農家
写真=iStock.com/pirjek
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pirjek

同紙はコロナの混乱に乗じる形で、中国共産党がこの規制を徐々に緩和していると報じている。江西省や山東省を皮切りに、複数の地域で出稼ぎ労働者の「外国人扱い」を改めているという。農村出身者であっても、特別な許可なく都市部の学校に通い、都会のマンションを購入するなどが可能になるという。

同紙はこれまで中国が、国家の集まりであるEUのようなつながりであったと例えている。これを州の集まりであるアメリカのように変革し、労働人口の流通をよりスムーズにする効果が期待されているという。

シドニー大学中国研究所のローレン・ジョンストン准教授はヘラルド紙に対し、中国には昔から「燃えている家から略奪せよ」との格言があると説明している。混乱のさなかであれば、最も改革への抵抗が少ないという意味のようだ。ゼロコロナ政策による混乱が、以前から懸案であった戸籍制度を改革するための隠れみのになったようだ。

■米誌「極端な政策は独裁政治の産物だ」

少なくとも現状をみる限り、ゼロコロナ政策全体としては経済にマイナス効果をもたらしていると考えるのが自然だ。

米アトランティック誌は、「中国共産党政権はいつだって残忍だったが、少なくとも予測可能であり、それなりの方法で現実的であった。もはやそうではない」と断じている。

多くの途上国が政治的混乱に陥るなか、中国共産党は少なくとも安定した政治情勢を強みとしてきた。しかしゼロコロナ政策をめぐってはトップレベルの指導者を招集した会議の場でさえ、経済界の重鎮から批判の声が上がるなど、統率の乱れが目立つ。

人命尊重のアプローチとはいえ、ゼロコロナはかえって市民を危険にさらしている。都市部のマンションは封鎖され、住民が食べ物すら満足に確保できない事態が起きている。

アトランティック誌は、厳格な通報体制も市民を苦しめる一因になっていると指摘する。北京の薬局で解熱鎮痛薬のイブプロフェンを買えば、直ちに保健当局に通報され、コロナ検査を求められるシステムになっているという。

同誌はこうした極端な政策は、独裁政治の産物だと指摘している。

中国では80年代以来、委員会ごとに権力を分散させたバランスのよいアプローチが採られてきた。だが、習近平はその手に権力を集中させることを好み、国家の重大な決定と一国の未来が「ひとりの人間と彼の考え、野望、そして政治的打算」に翻弄されるようになったと記事は論じている。こうした独裁体制が「ゼロコロナなど、一貫性なく混乱を招く政策」の根源だとの指摘だ。

天安門広場にたなびく五星紅旗
写真=iStock.com/gevende
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gevende

■政治的野心を優先させる習近平の異様

ゼロコロナに固執する習近平は、政策の成果を追求するあまり、時流に応じた柔軟な対応を見失っているように思える。新型コロナウイルスによるパンデミックが仮に数カ月で終わるものだったとすれば、短期的な厳しいロックダウンで急場をしのぐ方策も有効だったかもしれない。

しかし、とくにオミクロン株の出現以降、状況は一変した。この株は強い感染力をもつ一方、病原性としては従来の変異株よりも弱いとされる。ロックダウンによるまん延防止効果は限定的となり、食料の入手や経済の回復を犠牲にした隔離措置がそのコストに見合っているのか、大いに疑わしい。

世界はすでに、コロナとの共存に舵を切っている。欧米ではマスク着用ルールが多くの場所ですでに撤廃され、日本国内でも着用の是非が改めて議論されている。生活を犠牲にしてまで予防措置を展開する中国の姿勢は、極めて異質だ。

中国政府はゼロコロナ政策による混乱に乗じ、戸籍制度の規制緩和という変化球を放った。だが、安全性を最優先に据えた政策は一定の評価を受けて然るべきだが、トップの頑なな方針が市民の命と生活をかえって犠牲にしているとなれば、その評価も覆されよう。

3期目を狙う習近平氏には、この失策が付きまとうことになる。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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