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猛スピードで「AI大国」を目指す中国と2年後の新紙幣発行を予定する日本の圧倒的な差

プレジデントオンライン / 2022年7月31日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Robert Way

さまざまな分野で実用化が始まっているAI。AIを制する国が世界の覇権を握る可能性もある。ジャーナリストの池上彰さんは「AIを進化させるには、大量の学習データが必要です。その点、人口約14億人のビッグデータを簡単に集められる中国は圧倒的に有利といえます」という――。

※本稿は、池上彰『知ら恥ベストシリーズ1 知らないと恥をかく中国の大問題 習近平が目指す覇権大国の行方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■犯罪予測AIを失敗させた白人警官の偏見

最近、アメリカで大きな問題になっているのは犯罪予測システムです。アメリカのペンシルベニア州の小さな町で導入しました。

町のどこで、何曜日の何時ごろ、ひったくりがある、あるいは強盗があるなど、どのような犯罪が起きているかを調べてデータを入れていきます。すると一定のパターンが出てきます。

たとえば「金曜日の夜11時ごろ、このあたりでひったくりが多い」といった予測ができるようになったのです。ビッグデータが犯罪予測を可能にしたというわけです。

その分析結果に基づいて、犯罪が発生する確率の高い地域・曜日・時間帯に重点的に警察官を配置しておけば犯罪の防止につながります。

ところが、警察官の多くは白人です。白人の警察官の中には一定の“偏見”を持っている人がいます。「悪いことをするのは黒人だ」と、どこかで決めつけているのです。

黒人の若者を見つけると片っ端から職務質問していきます。すると、たまたまマリファナを持っている黒人がいたりします。

■「黒人の犯罪率が高い」というデータが捏造されている

こうして白人の警察官は、次々に黒人を逮捕していきました。結果的に「黒人の犯罪率が上昇する」というデータができあがってしまいました。ますます黒人が疑われ、留置場に入れられる事態になってしまったのです。

犯罪予測システムを導入し、データを見て分析をする。これ自体は悪いことではありません。しかしアメリカ社会での、「白人の警察官の偏見」という要素を計算に入れていなかった結果、本来なら捕まえる必要のなかった黒人たちが次々に逮捕されることになってしまいました。

これがいかに危険なことか。データを蓄積し、ビッグデータを用いて犯罪を防ぐ。そういう技術だけでは不十分なのです。いわゆる「社会」がそもそもどうなっているのかを知ること、これもまたとても大切なことなのです。

人間を知る、社会を知るということは、AIには不可能です。

■ビッグデータを独占できる中国が圧倒的に有利

AIを進化させるには、大量の学習データが必要となります。つまりビッグデータが不可欠です。ビッグデータを簡単に集められる中華人民共和国は、AIのディープラーニング(深層学習)において圧倒的に有利といえます。なにしろ人口約14億人のビッグデータを独り占めにできるのですから。

しかし、AIとビッグデータ、キャッシュレス社会がつながると、思いもよらないことが起きます。最近では、中国人は現金を使わなくなっています。中国から大勢の観光客が日本に来たところ、一番不便なことが「日本に来たら、財布を買わなければいけないことだ」というのです。

中国では露店だろうとどこだろうと、QRコードの紙が貼ってあるのでスマホでそのQRコードを読み取ると、一瞬にして支払いが完了します。

2018年11月14日、中国・深圳の露店で朝食を購入する女性はQRコード決済している
写真=iStock.com/yuelan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yuelan

■2024年に新紙幣を発行する日本はキャッシュレス化に逆行

中国人はほとんどアリババのアリペイを使っているので、アリババにはこの膨大なデータが集まってきます。アリババの経営者は中国共産党の党員ですから、共産党の指示によって動いています。

日本でも経済産業省がキャッシュレス化を推進しています。2025年に開催される大阪・関西万博に向けて、電子決済の普及を進めていく方針だと発表しました。

また、先を見据えて2027年6月までにキャッシュレス決済比率を4割程度にしたいということです。

しかし、日本は現金払いが主流で、しかも2024年の上期には新紙幣が発行されるというのですから、キャッシュレス化に逆行しています。

■20~30年後のノーベル賞受賞者は中国人だらけになる?

一方でノーベル賞の受賞者も中国人に独占される可能性が出てきました。

京都大学特別教授の本庶佑(ほんじょ たすく)さんが2018年のノーベル生理学・医学賞に選ばれました。がんの新たな治療に関わる研究が評価されたのです。本庶さんは、がん細胞と戦う免疫細胞にブレーキがあることを発見しました。がん細胞がそのブレーキを踏み、免疫細胞からの攻撃をかわしていたのです。

そういう仕組みがわかったので、ブレーキがかからないように蓋をしてしまえば、がん細胞が免疫細胞を止めることができず、活発にがん細胞をやっつけることができる。こうした治療法を発見したことが、新たながん治療薬の開発につながりました。

本庶さんにしてみれば、「がん細胞って、そもそもどういう仕組みになっているのだろう」「免疫細胞は?」と、ひたすら研究を続けていたのです。「どうしたらがんを退治することができるのだろうか」の前に、もっと根本のことを考えていたのです。基礎研究というのは、そういうものです。

■日本のノーベル賞は30年前の基礎研究費に支えられている

本庶さんは受賞後、あらためて欧米に比べて少ない基礎研究への投資の必要性について訴えました。「自動車とか、ITとか、そういう産業が国を支えていますが、なんといっても生命科学、ライフサイエンスに投資しない国は未来がないと思います」と。

日本人のノーベル賞受賞者は本庶さんで24人目(アメリカ国籍取得者を含むと26人)。その後も2019年に吉野彰(よしの あきら)さんがノーベル化学賞、2021年に真鍋淑郎(まなべ しゅくろう)さんがノーベル物理学賞を受賞していますので、25人(アメリカ国籍を含むと28人)になりました。

日本は今後もノーベル賞の受賞者を輩出し続けることができるのか。実は本庶さんのノーベル賞の対象となった研究は30年前の研究なのです。日本人が毎年のように受賞をしているのは、30年前、40年前の研究の成果です。日本はそのころ、基礎研究にお金を投資していました。

しかしいま、国立大学法人運営費交付金は1%ずつ減り続けています。2004年から1%ずつです。「後は自分で何とかしなさい」ということです。

いま全国の研究者たちが科学研究費の申請書を書くのに追われています。助手も雇わなければいけないし、研究者たちはみんな科研費を取ることに一生懸命で、研究をする暇がないのが現状です。申請すれば必ずお金がもらえるわけでもありません。

■基礎研究の研究費を大幅に増やす中国

その一方で、研究費をどんどん増やしている国があります。中国です。

「研究費を出しますから来ませんか」と勧誘され、いま日本の研究者が、研究室の人たちと丸ごと中国へ移ったりしています。

この分だと、20年、30年後のノーベル賞受賞者は中国の研究者ばかりになってしまうのではないか。

池上彰『知ら恥ベストシリーズ1 知らないと恥をかく中国の大問題 習近平が目指す覇権大国の行方』(KADOKAWA)
池上彰『知ら恥ベストシリーズ1 知らないと恥をかく中国の大問題 習近平が目指す覇権大国の行方』(KADOKAWA)

基礎研究は何の役に立つかわかりません。そんなものにお金を出すのはもったいないと思ってしまうのかもしれない。でもアルフレート・ノーベルが発明したダイナマイトだって、実は偶然の産物です。ニトログリセリンを珪藻土にしみ込ませたらダイナマイトがたまたまできた。

ノーベルは自分が発明したダイナマイトによって莫大なお金を稼いだけれど、戦争に使われてしまったことを悔やんで、遺言を残しました。「自分が死んだ後、人類の進歩に役立った人に自分の財産をもとに賞をあげてほしい」。それがノーベル賞の創設です。

2002年に、宇宙ニュートリノの観測に成功したことでノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊(こしば まさとし)博士も、多くのメディアから「その成果は将来、何かの役に立つのでしょうか」と聞かれ「何の役にも立ちません」ときっぱり答えていました。しかし、実際には火山の中のマグマの動きを捉えるのに役立っています。役に立たないと思っていたことが、ある日突然、人類を救うことになるかもしれない。

近年、ノーベル賞受賞ラッシュに沸く一方で、このままでは日本の研究者が賞を獲れなくなる時代が来るのではないかという強い懸念の声もあります。

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池上 彰(いけがみ・あきら)
ジャーナリスト
1950年長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHK入局。報道記者として事件、災害、教育問題を担当し、94年から「週刊こどもニュース」で活躍。2005年からフリーになり、テレビ出演や書籍執筆など幅広く活躍。現在、名城大学教授・東京工業大学特命教授など。計9大学で教える。『池上彰のやさしい経済学』『池上彰の18歳からの教養講座』『これが日本の正体! 池上彰への42の質問』など著書多数。

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(ジャーナリスト 池上 彰)

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