「10万人の胃腸を診た専門医が警鐘」日本人の約5割が毎朝食べている胃腸に最悪の"ある食べ物"
プレジデントオンライン / 2022年7月26日 13時15分
※本稿は、福島正嗣『朝食にパンを食べるな』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■パンは胃腸に悪い食べ物です
皆さんは、毎日の朝食に何を食べているでしょうか?
主にご飯派とパン派に分かれると思うのですが、いくつかの調査を見てみると、日本人のおよそ5割は朝食にパンを食べているようです。調査によってバラつきはあるのですが、パン派とご飯派の割合は同じぐらいか、なかにはパン派のほうが多いものもあります。
多くの日本人が朝食に食べているパンですが、私のクリニックでは胃腸の不調を訴える患者さんに、まずこう提案しています。
「朝のパンを、やめてみませんか?」
子どもの頃から「朝食はパン」という人もいるので、患者さんにいきなり「朝のパンをやめましょう」というと、驚かれたり、受け入れてもらえないケースも少なくありません。
手軽に食べられて腹持ちのいいパンを、なぜやめないといけないのか?
それは、パンが体に悪い食べ物だからです。消化器専門医の立場からすると、毎朝パンを食べるのは、体にとって最悪の選択です。
本稿では、専門医としてこれまでに延べ10万人の胃腸を診てきた臨床経験をもとに、パンが胃腸に悪い4つの理由を解説します。
■①パンは胃の滞留時間が長い
パンは消化がいい食べ物と思っている人も少なくありませんが、そもそもパンは、胃腸にとっては消化の悪い食べ物です。
こういうと驚く人も多いと思いますが、これは胃の残留物を見ると明らかです。
胃の内視鏡検査をする場合、胃内をからっぽの状態にする必要があるため、約6時間の絶食が必要です。
ただ私は、たまたま胃の中に食べ物が残っている状況で内視鏡検査をしたことがあります。その際、胃の残留物として、一般的に消化が悪いといわれる肉が残っていることは皆無です。
残っている食べ物といえば、ごはんやうどん、崩れたパンが圧倒的に多いのです。
胃における食材別の消化についての研究は非常に少ないのですが、海外の論文ではパン食で6時間、米食で10時間、胃の中に滞留しているのを確認した事例もあります。
こうした研究は、内視鏡検査をする前に何時間絶食するかの目安になっています。最大時間で表示しているため、臨床的にはもう少し短いとは思いますが、パンや米は胃での停滞時間が長いことは確かだと思います。
■②グルテンが消化吸収を妨げる
胃で分解された食べ物は、最終的には小腸へ運ばれ、そこで膵液によってさらに分解、吸収されます。この過程でも、パンに関しては問題が生じます。それは、近年耳にすることが多くなった「グルテン」によるものです。
グルテンは小麦粉に含まれる「グルテニン」と「グリアジン」という二つのタンパク質がからみ合ってできる成分で、パンのもちもち感や粘り気はグルテンによって生まれます。
グルテンは十分に消化されないまま小腸の粘膜に吸収されてしまうため、消化・分解がされにくいだけでなく、さまざまな問題を起こす可能性が指摘されています。とくにパンは強力粉でつくるため、多くのグルテンを含んでいます。
パンを生地からつくる際に、白い粉が布に付いてなかなかとれないという経験をした人もいると思いますが、これがグルテンの粘着性です。
この粘性物質が小腸に到達すると小腸の絨毛(じゅうもう)にからみつき、消化吸収を妨害するのです。そして、これが腹痛を起こしたり、未消化のまま吸収されたタンパク質がアレルギーの原因になることも知られています。
■近年注目の「グルテンフリー」の落とし穴
最近は糖質を控えたパンも売られていますが、血糖値を上げにくいだけでグルテンはしっかり含まれているため、食材としてはおすすめできません。私も何種類か食べましたが、食後の胃もたれは従来のパンよりは少しいいものの、大きく変わるものではありませんでした。
グルテンは注意すべきものではあるのですが、その一方で、グルテンを含む食品を摂取しないようにする「グルテンフリー」という言葉が一人歩きしている現状にも、注意が必要です。
グルテンはあくまでも小麦粉に含まれる一つの成分であって、グルテンだけが体に悪いわけではありません。日本人の場合、グルテンアレルギーの割合は欧米人に比べて低いため、多くの人にとってグルテンフリーが必要なわけではありません。
むしろ、グルテンフリーを実践していれば、それ以外は何を食べてもいいと考えるのは誤解です。グルテンアレルギーを持たない多くの日本人にとっては、糖質の害のほうがグルテンより大きいことを理解する必要があります。
もちろんグルテンだけでなく、食品に含まれる保存料もよくはないのですが、過剰な糖質に比べたら体に与える影響は少ないと考えます。
■③食塩が胃を傷つける
パンには食塩も多く含まれています。
食塩なしに、あのもちもち感は出ないようです。
「食塩の取りすぎはよくない」ということは、すでに多くの人がご存じでしょう。理由としては、「高血圧になるから」と理解している人が多いと思いますが、実際はそれだけではありません。
食塩は消化管粘膜への刺激が強いことが問題なのです。その刺激性により、胃がんの発生原因になることも疫学調査で判明しています。食塩を多く摂ることにより胃の粘膜を保護している粘液を破壊し、粘膜を傷つけ、慢性的な炎症を引き起こすことが原因とされています。
睡眠中にせっかく胃の粘膜が修復されたのに、翌朝に塩分が多く含まれたパンを食べると、消化が悪い小麦と食塩の刺激によりさらに胃の負担が増し、調子を崩す原因になります。
■④加熱調理が体を“焦がす”
小麦の主成分であるデンプンは、生の状態ではβデンプンといわれ、加熱せずに食べると消化・吸収されにくいため、多量に食べると下痢になってしまいます。消化・吸収しやすくするためには、加熱してβデンプンからαデンプンにする必要があります。
お米も生では硬くて食べられませんが、炊くことでふっくらと柔らかくなるのは、そのためです。
さらに、小麦をパンにするためには、お米をご飯にするよりも高熱処理をしなければなりません。加熱されると、タンパク質と糖が結びついて、AGE(終末糖化産物)という老化物質がつくられます。
わかりやすい例でいえば、ホットケーキやトーストのこんがり焦げた褐色の部分などがAGEです。
血中の余分な糖質は、血管壁のコラーゲンなどさまざまなタンパク質に付着します。
この反応が進行するとAGEができるとして、「身体のコゲ」とも呼ばれています。
AGEは、糖尿病合併症を引き起こす重大な要因の一つともいわれますが、それだけではありません。体内のタンパク質や脂質と結びついて細胞などを劣化させ、コラーゲンに影響した場合にはシミやシワの原因になります。
さらに、血管、腎臓、筋肉などの臓器に炎症を起こしたり、蓄積すると動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞、がんに発展するとされています。
AGEは食事由来以外にも、体の中で高血糖によってもつくられますが、食事由来のAGEは消化分解が極めて難しく、未消化のまま吸収されるため、食品に含まれるAGEの約7%は排出されずに体内に蓄積されてしまいます。
こんがり焼いたパンやホットケーキなどは、見た目も食欲をそそりますが、消化不良により腹痛を起こす原因にもなり得ます。
ただし、大きな問題となるのは体内でつくられるAGEであって、食事由来のAGEは臓器に与える影響は少ないと考えられています。そのため、神経質になる必要はないのですが、消化管にとっては大きな負担がかかる食材であることは認識すべきでしょう。
■朝のパンをやめたら喘息がおさまった
クリニックで「朝のパンを、やめてみませんか?」と提案するようになってからは、多くの患者さんが“脱炭水化物”を実践してくれるようになりました。
そして、実際に朝のパンをやめた患者さんからは、次のような反応が返ってきました。
「胃もたれがなくなった」
「逆流感が少なくなった」
「下痢をすることがなくなった」
「明らかに体が軽くなった」
「痩せた」
「イライラすることが減った」
「喘息(ぜんそく)の発作がなくなった」
「偏頭痛がなくなった」
これは実際に私のクリニックの患者さんが、外来で話してくれた内容です。
お気づきの人もいるかもしれませんが、朝のパンをやめたことによる効果は、胃腸の調子の改善だけではありません。
それまでの体調不良の改善はもちろんですが、生活習慣病やがんの予防、そしてアンチエイジングといった効果も得られるのです。
もしあなたが、健康寿命を延ばし、よりよい人生を送りたいと思うのなら、まず食事改革をする必要があります。その最初の一歩として、まずは毎朝のパンをやめてみることをお勧めします。
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医療法人社団正令会みらい胃・大腸内視鏡クリニック理事長兼院長
1993年、聖マリアンナ医科大学卒業。東京女子医科大学消化器病センター外科に入局後、主に消化管および肝胆膵の悪性疾患の手術を担当。2017年に内視鏡検査専門のみらい胃・大腸内視鏡クリニックを設立、現在に至る。これまでに消化器外科手術2000件、胃内視鏡検査6万件、大腸内視鏡検査3万件の実績を誇る。40歳から糖質制限を始めて肥満や脂質異常症を克服し、自身の体験もベースに多くの患者さんに薬以外の治療として食事指導を行なって成果を上げている。
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(医療法人社団正令会みらい胃・大腸内視鏡クリニック理事長兼院長 福島 正嗣)
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