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カルト集団も営業マンも手口は同じ…人の心を思い通りに動かす「チャルディーニ博士の6つの原理」とは

プレジデントオンライン / 2022年7月26日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SergeyNivens

なぜカルトや霊感商法の被害が後を絶たないのか。カルト問題に取り組む弁護士の紀藤正樹さんは「社会心理学で著名なチャルディーニ博士の6つの原理を応用している。とりわけ悪質なマインド・コントロールでは、強迫観念と依存心を煽り、健全な思考を奪ってしまう」という――。

※本稿は、紀藤正樹『決定版 マインド・コントロール』(アスコム)の一部を再編集したものです。

■マインド・コントロールをされた人はどうなるのか

マインド・コントロールという問題に私が初めてぶつかったのは、1990年に弁護士になった直後でした。大学時代に家庭教師をしていた女の子が統一教会に引っかかってしまったのです。

あんな素直な子をだますなんて、なぜなんだと思いました。統一教会による霊感商法の被害者の救済を担当した経験から、とんでもない団体だということはわかっていましたが、統一教会信者を脱会させる試みは初めてでした。

これをきっかけに私は、マインド・コントロールについて詳細に調べはじめたのです。幸いなことに彼女は、その後なんとか統一教会を脱会してくれました。

霊感商法の問題をあつかったときには知らなかったことも、次第にわかってきました。ウソをつき、だましたり脅したりして金銭を奪う霊感商法は、明らかな不法行為で、ただの悪です。

ところが、マインド・コントロールされた信者の行為は、性格のよい素直な子が心底「よいことだ」と信じ込んでやっている悪なのです。すると「悪いことだからやめなさい」といっても耳を貸しません。

「悪いことはダメだ」という当たり前の説得が通用しない世界がある。このことに私は驚きましたが、驚いてばかりもいられません。

「あなたはそういうけど、もっと突き詰めて考えたら、理論的にはこうなるよ」とか「あなたがいったことは、文鮮明が話したことと矛盾するじゃないか」と、こちらも統一教会について深く勉強し、説得の仕方を試行錯誤しながら工夫していきました。

当時「マインド・コントロール」といってもほとんど誰も理解してくれず、この言葉を使うと奇異に見られたものです。勉強しようにも日本語の参考文献は見あたりませんでした。当時と比べると、多くの人がマインド・コントロールについて一定の理解を示す現在は、まさに隔世の感があります。

■カルト被害者を生み出す心理学的手法

アメリカの社会心理学者チャルディーニ博士が著した『影響力の武器[第三版] なぜ、人は動かされるのか』(誠信書房)という、アメリカでは社会心理学の教科書にもなっている有名な本があります。

チャルディーニ博士の著作は、広告業界にも大きな影響を与えています。私は、チャルディーニ博士に会って話をしたこともありますが、カルト被害の救済の問題にも非常に理解がある世界的な権威者の一人です。

チャルディーニ博士は、セールスマン、募金勧誘者、広告主といった“承諾誘導のプロ”の世界に潜入し観察。彼らのテクニックや「YES」と応じる人間心理のメカニズムを解明しました。そして、承諾誘導のプロが相手に「YES」といわせる手法は何千とあるが、その多くは6つの基本的なカテゴリーに分類できると述べています。

この6つの原理(ルール)は、人間の行動を導く基本的な心理学の原理に基づいており、彼らの手法にパワーを吹き込んでいるというのです。簡単に紹介しておきましょう。

仮面を持ったビジネスマン
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

■人の心を思い通りに動かす「6つの原理」

①返報性……「人から何らかの恩恵を受けたら、お返しをしなければならない」という原理。生命保険のセールスマンは、花の種をくれて、ゴミ出しを手伝い、肩まで揉んでくれた。何かお返しをしなくてはと思ってお茶を出したが、まだ借りがある。彼が勧める保険に入れば、お返しができると考えてしまう。

②コミットメントと一貫性……「自分が何かしたら、その後も以前にしたことと一貫し続けたい(一貫していると人から見られたい)」という原理。お孫さんの学資保険に入ったあなたは、次に生命保険に入るときも、同じ会社の同じセールスマンにしようと思う。別の保険会社に変えれば、あなたの前回の判断には問題があったことになってしまう。「コミットメント」は訳しづらい言葉で、日本語では「(責任をともなう)約束」といった意味だが、一貫性とあいまって、人は自分で決めたことや約束したことは、後から変更することが非常に難しくなる。マインド・コントロールは、他者からの働きかけによって、本人に一つ一つの決断を迫っていくものだが、このコミットメントと一貫性とあいまって、次第に引き返すことが困難となる。

③社会的証明……「人は、他人が何を正しいと考えるかに基づいて、物事が正しいかどうかを判断する」という原理。生命保険のセールスマンは「近所の○○さんも入ってくれました」といった。○○さんは保険の専門家でもないのに、あなたは「それならば」と思ったはず。

④好意……「人は、自分が好意を抱いている人からの頼みを受け入れやすい」という原理。あなたが大切にしている花を誉めたセールスマンを、あなたは「悪くない人だ。自分と趣味が合う」と思うことになる。肩を揉んでくれたときは、好意を感じる。自分が好いている人の頼み事なら聞いて当然だ、と考える。

⑤権威……「人は権威に弱く、権威者の命令や指示には深く考えずに従いがちである」という原理。セールスマンが勧めるパンフレットには、有名なベテラン俳優の顔写真が掲載されている。その会社はテレビCMの放映もたくさんしており、株価も高い。これらはすべて会社の権威性を高める。権威ある人が、権威ある会社の生命保険を勧めているのだ。安心して加入できる、と考えてしまう。

⑥希少性……「あるものが手に入りにくくなればなるほど、それを得る機会が貴重と思えてくる」という原理。生命保険のセールスマンは、「キャンペーンがあと5日で終わってしまう」といった。このチャンスを逃す手はないだろう。急いで手続きをしなければ、自分は損をしてしまう。デパートのバーゲンやタイムセール、通販番組などで、多くの人が体験する。

■有能なセールスマンも使っている

チャルディーニ博士は、このように影響力の武器となる心理的な原理原則を6つにまとめました。

なお博士は、6つの原理の中に「物欲の原理」、つまり人は選択をする際にできるだけ少ない支出で多くを得ようとする、という原理を「当たり前の動機、いうに及ばぬ要因」として含めなかったと述べています。

これ以外にも、実は有能なセールスマンは、同じ本に出てくる「拒否したら譲歩」テクニック(拒否される前提で大きな要求を出し、拒否されたとき譲歩して小さな要求を出せば、受け入れられやすい)や、「知覚のコントラスト」と呼ばれる原理(高価なものを見せた直後に安価なものを見せると、実際以上により安いと感じる)を使っています。

賢明な読者は、もうお気づきですね。

前者は、洋服店に入ると、高価な洋服までは買えないけれど小物をいつも買わされてしまうといった場合に、後者は不動産や自動車のセールスで高いものから客に見せていくと、普通に高いものが安く見えてしまうという手法として、よく使われているテクニックです。

■カルト団体の勧誘とテレビCMの類似点

テレビCMでは「いまから10分間だけ電話受付」「限定300セット」、インターネット通販サイトでは「在庫一掃大幅値下げ」「あと13個!」「タイムセールは深夜0時まで」「ここだけ・いまだけの訳あり商品」といった惹句が氾濫しています。

いずれも希少性の原理です。「箱つぶれで店頭販売できません。訳あり商品が、あと13個!」なんていわれると、なくても困らない商品を、売り切れないうちに買おうとついつい思いがちですが、世の中そう甘くありません。業者がわざと箱をつぶしたのかもしれません。

マインドコントロールのイメージ
写真=iStock.com/lolloj
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/lolloj

普通の会社でも、そのくらいやります。マインド・コントロールを仕掛ける霊能師やカルト的な団体が、もっと巧妙に心理誘導テクニックを駆使するのは当然でしょう。そのマニュアルが作成されていることも珍しくありません。

あなたに近づく親切そうな人が、カルト的な団体や自己啓発グループの一員とは、最初はまったく気づかないはずです。

彼らが霊感商法で何かを売りつけるときは、インターネット業者と同じように希少性の原理を使います。

たとえば、あまり誘われるので道場と呼ばれる場所に顔を出してみたら、「いま、たまたま有名な××先生が見えている。10分だけなら話を聞いてくれるそうです。今日を逃すと、次はいついらっしゃるかわからない。ご病気のこと、ちょっと相談してみたらいかがですか」と霊能師に引き合わせる。これが希少性の原理です。

■「6つの原理」が効く条件

もっとも、カルト的な集団のマインド・コントロールでよく使われる影響力の武器は、すべての人に100%適用できるとは限りません。10人中7~8人は同じ方法でいけるというように、有効なことは確かですが、違うやり方をしたほうが効果的な人もいます。

最初は相手に耳あたりのよい話題を持ち出すのが基本ですが、人によっては、相手が嫌がる話題や悪い話をガツンとぶつけ、追い詰めてしまったほうがよい場合もあります。最初から頭ごなしに「あんたの生き方は全然ダメだ! いったい何をやっているんだ!」と怒鳴りつけたら、かえって強く信頼される場合もあるというわけです。

つまりマインド・コントロールには、もともと対人カウンセリング的な要素があり、相手によってやり方が異なります。逆にいうと、マインド・コントロールに長けた人物は、この相手にはどのやり方が効くかをいち早く見抜く力があるのです。

ですから、マインド・コントロールの被害者がどんなマインド・コントロールのテクニックを用いられたのかは、最終的には本人に聞いてみなければわかりません。どの手法が使われるかは、被害者の性格によっても、また被害者の考え方や気分の浮き沈みによっても異なります。

相手の状態と使った手法がうまくマッチしたときは、マインド・コントロールがどんどん深まってしまいます。

■カルト集団から抜けられなくなる根本原因

問題のあるマインド・コントロールを駆使されたときに生じる典型的な感情は、「強迫観念」と「依存心」です。

先ほど紹介した心理的テクニックの結果、詐欺同然の買い物をさせられてしまうだけの人もいれば、さらに進んでカルト的な集団にはまって抜け出せなくなってしまう人もいます。両者を分けるポイントは強迫観念と依存心だ、ともいえるでしょう。

手をつないで一緒に祈る人たち
写真=iStock.com/Cecilie_Arcurs
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Cecilie_Arcurs

強迫観念は、マインド・コントロールを、「心理的委縮」でなく「行動原理」につなげるために、なくてはならないものです。たとえば熱心な教育ママの子は「勉強しなければ。いい大学に入らなければ」が強迫観念になります。

読者のなかにも「いい大学へ入らなければ、父さんのようになっちゃうよ。ずっと安月給でいいの?」なんて四六時中お子さんにいっているお母さんは、いませんか。

ほどほどにしてほしいと思いますが、人間というものは、ある程度の強迫観念的な考えがなければ、行動を持続させるのが、なかなか難しいことも事実です。勉強でも仕事でもスポーツでもそうで、ただ楽観的なだけではうまくいかないでしょう。

試験に落ちたらどうしよう、係長になれなかったらどうしよう、県の選抜選手に選ばれなかったらどうしようといった不安な思いは、人を努力させるエンジンのような働きをします。だから、強迫観念的な考えを、一概に不健全と決めつけることはできません。

■わざわざ悩み事をつくり、不安や恐怖を煽る

病的な強迫観念はまた別です。不合理で意味のないような観念に悩まされ、それを振り払うため強迫行為と呼ばれる行動(たとえば繰り返し手を洗う、しきりと机上の物の位置を直すなど)を繰り返し、強迫性障害という精神疾患と診断される場合もあります。

そこまでいかないにせよ、カルト的な団体などのマインド・コントロールでは、相手に強迫的な観念を植えつけようとする例が頻繁に見られます。

正確にいうと、その人の強迫観念になりそうなものを見つけて、より強い強迫観念になるように仕向けます。それが見つからないときは、外から植えつけるわけです。

たとえば「あなた、何か悩み事はないの?」「とくにありませんけど」「いや、それは問題よ。悩みがないということ自体が、人間としておかしいんじゃない?」と、悩み事のない人に、わざわざ悩み事をつくってしまいます。

そして、マインド・コントロールの手法を駆使して、その悩み事を大きく強くします。その悩み事を相談し解決するには、私たちのグループに入ればいい、この人に帰依すればいいという方向に持っていくのです。

このプロセスで、悩みの原因は先祖の霊が取りついているからだ、このままでは結婚できない、必ず病気になってしまう、世界が破滅するときに救われないなど、根も葉もないようなことを吹き込んで不安感を煽ります。

強迫観念を植えつけて大きくし、不安や恐怖を煽ること。これは、問題のあるマインド・コントロールに見られる典型的なパターンなのです。

■「強迫観念」と「依存心」で心を支配する

ある人の心の中で強迫観念が大きくなっていくと、マインド・コントロールする側は、それを打ち払って健全な自分を取り戻すには、占い師なり霊能師なり教祖なりに頼るしかない、という話を盛んに吹き込み、依存心を膨らめていきます。

紀藤正樹『決定版 マインド・コントロール』(アスコム)
紀藤正樹『決定版 マインド・コントロール』(アスコム)

教育ママでいえば「勉強しなければ、お父さんみたいになっちゃうよ」と子どもを煽って、「だから、ママの言う通りにしなければダメ。わかった?」と、子どもを自分に依存させるわけです。

こうして、自分以外の誰かに頼る依存心が膨らみ、自分でものを考えなくなっていきます。これも問題のあるマインド・コントロールの典型的なパターンです。

教育ママのケースであれば、いくら頑張ってみても、友だちや先輩に「おふくろさんなんて、適当にあしらっときゃいいんだ」などといわれた子どもが、依存心を振り払い、成長とともに自立していくのが普通でしょう。

マインド・コントロールする側は、そうならないように、依存心を何年も持続させることに力を注ぎます。

そのためには、子どもに“余計なこと”を吹き込んだ友だちや先輩のような存在を、できるだけ排除する必要があるでしょう。そこで、マインド・コントロールするときは、本人を両親や兄弟姉妹などの家族、あるいは友人から引き離すことが基本になります。

家族や友人と断絶させ、外部からの情報を遮断し、相談したり頼ったりできるのは霊能者や教団関係者だけという依存状況をつくってしまうのです。

「強迫観念」と「依存心」の二つは、いつもたいていセットになっています。これは問題のあるマインド・コントロールを見きわめる重要なポイントです。

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紀藤 正樹(きとう・まさき)
弁護士
1960年、山口県生まれ。大阪大学大学院法学研究科博士前期課程修了。リンク総合法律事務所長。消費者問題や人権問題に積極的に取り組む。著書に『決定版 マインド・コントロール』(アスコム)、『カルト宗教』(共著、アスコム)など多数。

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(弁護士 紀藤 正樹)

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