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「爺ちゃん悩みすぎて禿げちゃった」ガンダムの生みの親・富野由悠季監督が会議で自虐ネタを繰り返すワケ

プレジデントオンライン / 2022年7月26日 15時15分

富野由悠季監督とヨコオタロウさん - 写真=ドキュメンタリー映像『富野由悠季の世界』より

『機動戦士ガンダム』の生みの親であり、日本を代表するアニメーション監督・富野由悠季氏。富野監督はなぜ次々とヒット作を生みだせるのか。そこには「チーム」のポテンシャルを引き出すという意外な演出法があった。富野監督の密着ドキュメンタリー映像を演出してきた中西朋氏がリポートする――。(第2回)

■スタッフの力を引き出す! 富野監督のコミュニケーション術

「このシーンについて悩みに悩んで答えが出なくて禿げちゃった」
「爺ちゃんもいよいよ才能の限界かもしれない」

これらは富野由悠季監督が、スタッフを集めた制作会議で頻繁に語る自虐ネタの例です。初めてその姿を目の当たりにした時、私は残念な気持ちになりました。

私にとって富野由悠季監督は、アニメと実写の違いこそあれ同じ映像の世界にいる伝説の演出家であり、雲の上の存在です。だからこそ富野監督にはどんな時もカリスマ的なリーダーでいてほしかったのです。なぜ富野監督が自らの権威を落とすような発言を重ねるのか? 未熟すぎた私にはまるでわかりませんでした。

でも今は、その意図が理解できるようになりました。富野監督がスタッフの前で見せる言動は、すべて作品を向上するためであることに気がついたのです。

富野監督はプレーヤーであると同時にマネージャーでもあります。設計図となる脚本と絵コンテを書いた後は、100人以上のスタッフに指示を出してアニメーションを完成に導かねばなりません。一人ひとりの動きがアウトプットの質を左右します。

そこで富野監督が重視しているのは、スタッフのモチベーションを高めること。そのために富野監督はあらゆるコミュニケーション技術を使っています。

■富野監督のスタッフ掌握術とは?

私が富野監督に初めて対面したのは、2014年7月4日のことでした。富野監督はテレビシリーズ『Gのレコンギスタ』の立ち上げ作業で、杉並区上井草のサンライズ第一スタジオに詰めていました。

バンダイビジュアルから、密着ドキュメンタリー映像の企画を持ちかけられたのですが、前日は激しい緊張で10分ほどしか眠れませんでした。

その日は企画プレゼンでした。サンライズ側の出席者は小形尚弘プロデューサーだけ。私たちドキュメンタリー制作チームは練り上げた企画書を小形プロデューサーに渡し、撮影の狙いを伝えました。

企画書にじっくり目を通した小形プロデューサーは「すこし気になる点がありますが、大枠はこれで良いかと思います」と内容に賛同してくれました。一同がほっとしたのも束の間、小形さんは「次は被写体である富野さんの了承を得る必要がありますね」と言い残すと、サッと会議室から退出。程なく戻ってくると「富野さんが直接話したいと言っているので、ご挨拶をお願いします」。私は、突然、富野監督と会うことになりました。

■巨匠との初対面

仕事相手として、富野監督と対面するのは怖いことです。

第一スタジオを歩いていくと、黒いキャップを被りデスクに向かって鉛筆を走らせている富野さんの姿が。

富野由悠季監督
写真=ドキュメンタリー映像『富野由悠季の世界』より
富野由悠季監督 - 写真=ドキュメンタリー映像『富野由悠季の世界』より

「どうも。富野です」と会釈してくれた富野監督は、ニコニコと優しそうな微笑みを浮かべています。『機動戦士ガンダム』をはじめ、数々の名作アニメーションを作り上げてきた伝説の演出家を前にして、私は名乗っただけで、なにも話せません。そして富野監督から「あなたはゲンバですか?」と尋ねられました。

私は何を聞かれているのか理解できず、オドオドするばかり。すると富野監督は苛立った表情になり、低い声でこう話しました。「現場で動く人間なのか? って聞いてんだ」。

ようやく質問の意図が飲み込めた私は「げげげ現場です。ディレクターとして実際ここにきて撮影させていただきます」と答えました。

「こちらの仕事に差し支えがないよう、最少人数で来てください」
「私1人で伺う予定です」
「カメラはちゃんと回せますか?」
「一通りは……使えます」
「私は実写のカメラアングルも理解しています。君の動きを見て、この計画に見込みがないと感じたら、即刻、撮影はやめていただきます。よろしいですね?」
「……はい」
「それから、不用意な質問はご遠慮ください。くだらない問いには一切お答えしません」
「……はい」

富野監督から発せられたのは「質問」というより「意志確認」に近いものでした。練り上げた撮影プランもどこへやら。「はい」しか返せない私はこの仕事に参加したことを後悔し始めていました。自分の出る幕ではなかった。もっと修行を積んでから挑むべき相手だった……。

■富野監督は最後にひとこと付け加えた

その時、富野監督はもう一度最初の笑顔に戻ると、こう言いました。

「いろいろ言いましたが、好きなようにやってください」
「(え⁉)」
「同じディレクターという意味では私たちは対等なんですから」

最初の対話はこれで終わりました。スタジオからの長い帰り道。富野監督から発せられた「対等」というひとことに、かつてないモチベーションを与えられていることに気がつきました。この胸の高鳴りを、8年たった今も鮮明に覚えています。

私たちは密着撮影を7日間に限定して、代わりにその期間だけはトイレ以外すべての行動を撮影させてほしいと富野監督に申し込み、承諾してもらいました。現場に立った時には迷いは消え、オドオドせず思い切った仕事をすることができました。

これは制作チーム全員に共通していました。富野監督は宣言通り、私たちの「好きなように」作らせてくれたのです。視聴者にとって退屈なPR映像に陥らないよう、富野監督を手放しで讃えることは禁じ手にしました。いかなるヒットメーカーといえども賛否両論あって当然。両面にカメラを向けた方が、結果として現場の熱気が映し出せると考えたのです。そして出来上がったのがBlu-ray作品『富野由悠季から君へ』。セールスマネージャーの菊川裕之さんが販売方法にも工夫を凝らしました。

・生産枚数を限定した形で販売する。
・ネットなどで通販をせず、劇場での対面販売のみとする。

■密着ドキュメンタリーの販売結果は?

こうして『富野由悠季から君へ』は限定生産の全数を数日で売り切りました。販売用ドキュメンタリーとしては異例の結果です。この成功体験は大きなもので、関わった全員が各自の持ち場で次のステップに進むことができました。

自分たちの意思で最終判断しなければならない状況で、不安と戦いながら何かを決めた経験は血肉となって残ります。「好きなように作る」とは責任とプレッシャーが伴うことを知りました。私たちはこの状況を作ってくれた富野監督に自然と感謝の気持ちを抱くようになり、より良いアウトプットを心がけるようになっています。

このことを富野監督側から見ると、どうでしょう。富野監督は自分が事細かに指示を出さずとも、優れたドキュメンタリー映像を作れるチームを得たことになります。

■熱気に満ちた会議の空気が作られる仕組み

駆け出しの私に「対等」という言葉を用いたように、富野監督は目下の相手の立場へ要所要所で降りていくことでモチベーションを引き出しています。

このことが大いに発揮されるのが、富野監督が考えたアイデアをスタッフと共有する制作会議です。密着取材をはじめた私が驚いたのは、サンライズ第一スタジオで開かれる会議がとにかく楽しいことでした。富野監督が出席する会議では、重鎮スタッフから20代と思わしき若手スタッフまでが活発に意見を語り合い、エネルギーが満ち満ちています。

これは珍しい光景です。令和の若者は、間違いを強く恐れる傾向があるようです。私の経験でも、会議で若手に意見を求めるだけでは発言を引き出せず、結局、話すのはベテランと中堅ばかりになりがちです。

出席者が発言をためらわない空気はどのように作られているのか?

その秘密が例の自虐トークです。

「昨日からずっと考えてたんだけど、悩みに悩んで答えが出なくて禿げちゃった」
「爺ちゃんもさすがに才能の限界かもしれない」

会議室にひと笑いを起こしてから本題に入ります。

「このキャラクターの魅力をより引き出すには?」
「このワンカットで、絵コンテの意図が伝わっているか?」

当時、富野監督はすでに70代でしたが、まるで友達に相談するように会議を進めていました。

企画展「富野由悠季の世界」@青森県立美術館のビジュアル
写真=ドキュメンタリー映像『富野由悠季の世界』より
企画展「富野由悠季の世界」@青森県立美術館のビジュアル - 写真=ドキュメンタリー映像『富野由悠季の世界』より

■富野監督の現場は人を育てる

もちろん、若手が富野監督やベテランスタッフを凌駕するアイデアを出すことはそうそうないのですが、大切なのはチームの雰囲気がトップダウンでなくなることです。この雰囲気が人の力を驚異的に伸ばす光景を、幾度も目撃してきました。

劇場版『Gのレコンギスタ I』「行け!コア・ファイター」(特装限定版)[Blu-ray]
劇場版『Gのレコンギスタ I』「行け!コア・ファイター」(特装限定版)[Blu-ray]

『Gのレコンギスタ』で初めて富野監督の現場を経験した若手アニメーター黒崎知栄実さんは「提示された絵コンテ通りに描くのが自分の仕事だと思っていたが、富野さんと仕事をするようになって『コンテ以上に少しでもよくしたい』と意識して線を引くようになった」と語っています。その後、黒崎さんはアニメーターを束ねる作画監督を務めるまでになっています。

また、現代を代表するアニメーターの吉田健一さんは、立ち上げから参加した富野監督作品『OVERMANキングゲイナー』の現場で、頼まれてもいないイメージ画を勝手に描いて会議で配っていたそうです。それを見た富野監督は、時に「これは違う!」とダメ出しを与えながらも、吉田さんの自主性を大いに評価し、その実力が花開くきっかけを作りました。

■ドキュメンタリー制作班が試みたボトムアップ

富野由悠季監督の初展覧会「富野由悠季の世界」展をモチーフにドキュメントBlu-rayを作った時のことです。

企画展「富野由悠季の世界」@青森県立美術館の様子
写真=ドキュメンタリー映像『富野由悠季の世界』より
企画展「富野由悠季の世界」@青森県立美術館の様子 - 写真=ドキュメンタリー映像『富野由悠季の世界』より

この企画の中で、私たちは富野監督がこれまでに話したことのないクリエイターをブッキングして対談を組もうと計画していました。しかし、肝心の候補者選びが難航しました。富野監督はトークショーや雑誌の企画ですでに多くの対談をこなしていたので、新しい相手をなかなか見つけることができなかったのです。

「富野由悠季の世界」メインビジュアル
「富野由悠季の世界」©手塚プロダクション・東北新社 ©東北新社 ©サンライズ ©創通・サンライズ ©サンライズ・バンダイビジュアル・バンダイチャンネル ©SUNRISE・BV・WOWOW ©オフィス アイ

そこで私たちは富野監督との打ち合わせで、ひとつの実験をしてみました。富野監督がこれまで触れてこなかったジャンルについて話題を振ったのです。そのジャンルは「ゲーム」。ゲームの世界には、いまだ富野監督が対面していない突出したクリエイターが複数います。そのとっかかりとして富野監督がゲームについてどう反応するのか探りをいれてみたのです。

しかし「ゲーム」という言葉を聞いた富野監督は顔色を変えました。ジャンルとして興味がないばかりか、最近のゲームには怒りさえ感じると言うのです。「ゲーム」関連の人物との対談はその場で却下されました。

ドキュメント制作チームは場を改めて可能性を模索することにしました。当の本人が「ゲーム嫌い」であるからこそ、成立すれば斬新な対談を新しいBlu-rayに収録できますし、富野監督にとっても新しい刺激を得られる機会になり得ると考えたのです。

■対談相手を探して

まず私たちは富野監督のゲームへの拒否反応を振り返ってポイントをふたつに絞りました。

①近年のゲームには結末がなく、無限に続けさせる仕組みを作っている。
②他人を傷つける行為が快楽として過剰消費されている。

ふたつを眺めているうちに、私たちはとあるゲーム・クリエイターを思いつきました。それがヨコオタロウさん。ヨコオさんは富野監督の言う「他人を傷つける快楽」を逆手に取ったゲームを作っていたからです。

ヨコオタロウさんがディレクターをつとめたPS4用ゲームソフト『NieR:Automata(ニーア・オートマタ)』
ヨコオタロウさんがディレクターをつとめたPS4用ゲームソフト『NieR:Automata(ニーア・オートマタ)』

ヨコオさんの代表作『NieR:Automata(ニーア・オートマタ)』は、強靭な武器を持った美しい女性キャラクターを操作して、敵を鮮やかに殺めていくアクションRPGです。まさしく他人を傷つける快楽がコントローラーを通じて生々しく反復されます。しかし、物語のある時点でこれまで倒してきた相手が自分たちの敵ではない可能性がほのめかされます。これまでプレイヤーが味わってきた快楽が強ければ強いほど、罪悪感が増す背筋の凍る仕掛けです。

PlayStation4のソフトとして発売された『ニーア・オートマタ』は全世界で累計600万出荷を超える大ヒットとなっています。世界観、物語、キャラクターどれも強いオリジナリティを感じさせる作品です。ヨコオさんは今後、爆発的に広がると目されるゲーム市場の未来を占うキーパーソンのひとりです。

■富野監督への手紙

ヨコオさんとなら、豊かな対談が成り立つのではないか? 私たちは、富野監督に初めて手紙を書きました。

富野由悠季さま

今日はご提案したいことがあり、僭越ながら手紙を書いています。
「富野由悠季の世界」Blu-rayでは展覧会場で趣向を凝らした上で、対談を設けさせていただこうと考えています。その対談相手の人選についてです。

このBlu-rayの目的のひとつは、かつて一段低く捉えられていたアニメーション制作に関わってきた人々の創造性の高さを伝えることです。
「富野由悠季の世界」展が見せたのは、富野監督がスタッフと共に「世界そのものを構築してきた」という事実に他なりません。

このことを別ジャンルの作家と語り合うことはできないだろうか?
そう考えました。

富野監督もおっしゃっていたように「永遠に快楽に浸らせ続ける」狡猾なゲームが増えている中、その快楽をぶった斬るような世界を作る作家が生まれています。

対談相手として提案するのはヨコオタロウ氏。「ニーア」というシリーズを作っています。「ニーア」ではプレイヤーは強い武器を持った美しいキャラを操作して、敵キャラを鮮やかに殺めていきます。しかし、物語のある時点でこれまで倒してきた敵キャラが自分たちの味方であったことが明かされます。
これまでプレイヤーが味わってきた敵を殺める快楽が罪悪感に反転する瞬間を作り上げていて、背筋が凍ります。主流に迎合した内容ではないにもかかわらず、最新作『ニーア・オートマタ』は全世界でヒットしています。ヨコオタロウ氏はこのゲームの総合ディレクターです。

ヨコオさんは受動的なメディアである映像に、ゲームの能動性を斬新な発想で組み合わせて新しい楽しさを提供しています。

富野さんとヨコオさんが対談することで新しい何かが生まれるのではないかと考えました。

ご検討のほどよろしくお願いします。

2021年10月20日
中西朋

(Blu-ray『富野由悠季の世界』にて企画統括を担当した青山弘輝さんと、富野監督のマネジメントを行っている向猛さんの協力を得て手紙を書きました。)

手紙を読んだ富野さんから了承をもらい、対談が実現することになりました。

■いよいよ対談開始

2021年11月29日、富野監督はヨコオタロウさんと池袋の撮影スタジオで初めて対面しました。

富野由悠季監督とヨコオタロウさんの対談の様子
写真=ドキュメンタリー映像『富野由悠季の世界』より
富野由悠季監督とヨコオタロウさんの対談の様子 - 写真=ドキュメンタリー映像『富野由悠季の世界』より

富野監督はまず「2Bちゃんかわいいですね。特に唇がエロティックでよい」と声をかけました。2B(ツービー)とは『ニーア・オートマタ』の主人公である女性アンドロイドのこと。意表をつかれたヨコオさんは思わず声を上げて笑いました。富野監督は忙しい合間を縫って『ニーア・オートマタ』のことを研究してきたのです。

富野監督がこの対談を引き受けたのは、新しいエンターテインメントを作っているヨコオさんからそのノウハウを聞き出し、自分の仕事に活かしたいという理由もありました。

ここからは富野監督が、ヨコオさん独自の演出技法を聞き出すという流れができました。

例えば、2Bは両目が目隠しによって覆われているのがデザイン上の最大の特徴です。これはジャンルを問わず、なんらかの物語で主人公を担うキャラクターの造形としてはかなり珍しいことです。瞳はキャラクターの魅力を訴えかける最大のチャームポイント。それを隠すのはセオリーから外れるというわけです。

「2Bはどうして目隠しさせたの?」富野監督からの質問にヨコオさんはこう答えました。「主役の両目を隠すなんて普通あり得ないですよね。多くの人に反対されました。でも、みんなが反対すると言うことは、誰もやらないということですよね。だからこそ実現したら、強い印象を残せるだろうと考えました」

ヨコオさんの仕事への向き合いは、「ゲーム業界でいつの間にか常識とされていることの“真逆”を提供することが、プレイヤーにとっては新鮮な楽しさになる」という軸で貫かれており、刺激的なエピソードがたくさん飛び出しました。

■富野監督が引き出した『ニーア・オートマタ』の秘密

しかし、ひとつだけヨコオさんが話すことをためらった演出上の秘密がありました。それは「プレイヤーが味わってきた敵を殺める快楽が罪悪感に反転する仕掛けをどうやって思いついたのか?」という『ニーア・オートマタ』の面白さの根幹に関わること。ヨコオさんはこの質問だけはのらりくらりと核心に触れずかわしているように見えました。

これはいわば“企業秘密”とも言えるものです。ヨコオさんもそう簡単に教えるわけにはいかないのでしょう。

諦めない富野監督は2度3度と同じ質問を繰り返します。その手にはこの日の対談のために作ってきたヨコオさんについての資料。さらにヨコオさんの意見に同意する部分があると深く頷き、撮影中にもかかわらず細かくメモを取っていました。30歳近い年齢差があるにも関わらず富野監督は、「これから映像の未来はどうなっていくんでしょうか?」と質問するなど一貫して相手を立てる態度を崩しませんでした。

さらに自身が作った『機動戦士ガンダム』の仕掛けとして、当時の日本の高度成長期が工業製品によって支えられていたことに着目してロボットを前面に出したことを話しました。

企画展「富野由悠季の世界」で展示された「リ・ガズィのダミーバルーン」(『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』より)の原寸大の胸像
写真=ドキュメンタリー映像『富野由悠季の世界』より
企画展「富野由悠季の世界」で展示された「リ・ガズィのダミーバルーン」(『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』より)の原寸大の胸像。 - 写真=ドキュメンタリー映像『富野由悠季の世界』より

4度ほど同じ質問が続いた時、ヨコオさんはついに観念したように『ニーア・オートマタ』の秘密を話しはじめました。

ヨコオさんはゲームが持っているメディア上の特性を考え抜いたそうです。

ゲームはプレイするたびにエンディングを自在に変えられます。この特性を利用して、1回目は主人公の目線でプレイしてもらい、2回目は倒された敵の目線でプレイしてもらう。そうすると同じ物語を両面から体験できるので、アニメや映画、小説にはできない、ゲームだけの面白さが提供できるはずだ。

富野監督は大きく頷き、ヨコオ流の創作術をメモ。アニメーションのフィールドにも活かせる大きなヒントを得たようでした。

一方ヨコオさんは「創作の秘密」をカメラが回る場で語ったことについて、「これまで言語化してこなかったことを話せたのは僕にとっても大きな収穫でした」と前向きに受け止めてくれました。ヨコオさんもこのアウトプットをとっかかりに、より面白い作品作りに取り組まれるはずです。

■「富野監督はいまだに自分の正解を探している」

「富野監督は成功者には珍しいタイプですね」

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対談を終えたヨコオさんが小声で感想を伝えてくれました。私がもう少し詳しくお願いするとこのように話してくれました。

「富野監督の年代で高い成果を出した人は、揺るがない信念をもって断定的なことを口にするタイプが多いと感じています。『これが正解だ!』という態度で常に上から発言したり。でも富野監督は違う。時には『あの時、こうすればよかった』『どうすればもっと良い作品が作れるんだろう』と弱音を吐いたり、ゆらゆらと揺れ動いています。富野監督は成功者には珍しいタイプですね。いまだに自分の正解を探している」

いつまでもゆらゆらと揺らいでいるとは、変化する余地が垣間見えるということでもあるでしょう。「自分の行動が、リーダーを動かすかもしれない」その予感が、富野監督の現場には満ちているのです。

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中西 朋(なかにし・とも)
映像ディレクター/コンテンツ制作knot主宰
立教大学卒業後、ドキュメンタリーを作り始める。主な演出作品に、ガンダム産みの親の創作現場に初めて迫ったBlu-rayシリーズ『富野由悠季から君へ1・2』、NHK「世界ビジネスの冒険者たち」(フラグメントデザイン藤原ヒロシ/アソビシステム中川悠介/DMM.com亀山敬司のオムニバス)、日本テレビ・スタジオジブリ公開記念特番「風立ちぬ」「かぐや姫の物語」、Googleオフィシャルムービー「クリエイタースポットライト・ヴァンゆん」など。ダンスに打ち込む高校生の青春を描いた「勝敗を越えた夏2020 ドキュメント日本高校ダンス部選手権」(NHK)で第58回ギャラクシー賞奨励賞を受賞。著書に『高校ダンス部のチームビルディング』(星海社新書)がある。

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(映像ディレクター/コンテンツ制作knot主宰 中西 朋)

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