手数料が40倍に…金融機関が悪びれず勧めてくる絶対買ってはいけない「投資信託の種類」
プレジデントオンライン / 2022年7月27日 8時15分
■投資信託に初心者向けもプロ向けもない
金融機関が販売している商品の中によく「投資初心者向け」とうたった投資信託があります。でも本来、投資信託には初心者向けもプロ向けもありません。なぜならそれらが取引されている市場はプロもアマも初心者も参加して同じ土俵で勝負しているからです。初心者だけが参加できる株式市場などというものはないのです。
にもかかわらずセミナーなどでは投資初心者向け商品として紹介されるものは多く、それらは「リスク限定型投信」あるいは「損失限定型投信」と呼ばれているものです。これは、「投資初心者はあまりリスクを取りたくないはずだ」という決めつけによるものです。すなわち、「投資初心者はきっと価格変動のリスクを怖がるだろうから、損失を限定するようなタイプの投信を売り出せばきっと人気が出るだろう」という思惑で作られているのです。でもそれは大きな間違いです。初心者であれベテランであれ、「リスク許容度」は人によってさまざまだからです。
■リスク管理はいたってシンプル
それに、「リスク限定型」という発想自体がそもそもおかしいのです。
投資をする場合に最も大事なことは「リスク管理」であることは事実です。ところがそのリスク管理は誰でもごく簡単におこなうことができるのです。どの銘柄を選ぶかということは考える必要はなく、単に自分の保有資産の中で株や投信など、価格変動のあるリスク資産の割合をどれぐらいにするかを決めるだけでいいからです。
アメリカの経済学者であるジェームス・トービンが提唱した資産運用理論の中に「分離定理」というのがあります。これは「リスク許容度が高い人も低い人もリスク資産の中身は同じものでよく、リスクの度合いはリスク資産以外に安全資産をどれぐらい持つかで調整すればよい」というものです。
要するに複数の株式や債券を組み合わせる場合、最も高いリターンが期待できるリスク資産の組み合わせはたったひとつしかない。したがって、自分のリスク許容度(自分がどれくらいリスクを取れるか)によってその組み合わせと預金や現金等の割合を決めればいい、ということなのです。つまり、リスクをコントロールする上で大事なことは自分の資産全体の中でリスク資産の割合をどれぐらいにするかということだけであり、初心者向けのポートフォリオなどというものは存在しないということを言っているわけです。
■「リスク限定型」商品の中身
具体的に考えてみましょう。リスクをあまり取りたくない人で、それでも投資をしたいというのであれば、自分の資産運用全体の中でリスク商品の割合をそれほど多くせず、残りは定期預金などの価格変動のない商品で運用すればいいのです。全くリスクを取りたくなければ、そもそも投資はしない方がいいですし、少しぐらいのリスクは取ってみようということであれば自分の金融資産全体の内の1割とか2割程度を株や投信などのリスク資産に回せばいいだけのことで、これはごく単純な話です。
にもかかわらず、世の中には投資初心者向けと銘打った「損失限定型」とか「リスク限定型」といわれる投資信託はとてもたくさんあります。具体的に、あるリスク限定型投信の中身を見てみると、全体の資産配分の中で内外の株式に10%程度で、残りは短期金融商品となっています。短期金融商品というのは金融機関同士でお金の貸し借りをおこなうことで資産運用する商品のことで、コールローンや譲渡性預金(CD)、コマーシャルペーパーといったものがそれにあたります。これらも現在では超低金利です。ところが、その投資信託の信託報酬(運用管理費用)は何と0.8%を上回っているのです。仮にこの投資信託を100万円買えば、毎年支払う信託報酬は8000円を超えます。
![チャートを表示するタブレット](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/5/1200wm/img_45e1f021684b053a1ab232deededc57d1008508.jpg)
■手数料に40倍の差…金融機関が教えないこと
一方、同じ100万円の内、10万円だけ国内や海外のインデックス投信を購入し、残りの90万円を預金にしておけばどうでしょう。この場合にかかるコストは手数料の安いインデックス投信なら0.2%以下の水準の手数料のものもたくさんあります。つまり10万円の0.2%ですから200円程度の手数料を払えばいいわけです。先ほどのリスク限定型投信を購入する場合と比べると、同じ効果が得られるにもかかわらず手数料の違いは8000円と200円ですから40分の1で済みます。
もちろん、どちらの運用成績がどうなるかは株式部分の運用次第なので一概には言えませんが、コストだけは確実に安くなるのであれば安い方を選ぶのが賢明であることは間違いありません。これはiDeCoや企業型確定拠出年金において商品を選ぶ際にも言えることです。
金融機関の中には「自分で運用しろといってもどうやっていいのかわからない初めての人にはリスクの低い商品が適している」としてリスク限定型投信を提供しているところもありますが、そんな手数料の高いものを購入するぐらいなら前述の方法によって、簡単に自分で組み合わせたほうがずっとお得です。本当はそういう方法を教えることが投資教育だと思いますが、投資教育を実施している多くは金融機関なので、あまりこういうことは教えません。
■リスク資産の最適な組み合わせはひとつしかない
先ほど出てきたトービンの「分離定理」は、リスク資産の最適な組み合わせはひとつしかなく、後はそれと預金等の割合を決めるだけでいいというシンプルなものだということでしたね。では最適な組み合わせとは一体どんなものなのでしょうか。
私は世界の市場全体をそれぞれの時価総額の割合で構成するポートフォリオが最も合理的だと考えます。いわゆるグローバルなパッシブ運用(市場連動型)で、一般的には「世界株式インデックスファンド」といわれるものです。名前は違っても同じような投資信託はいくつもあります。
世界中には成長する市場も停滞や衰退する市場もありますが、それが一体どこなのかは、事前にはわかりません。しかしながら世界の人口が増加し、資本主義の下で人間の経済活動が行われていく限り、全体としては成長していくことは間違いないでしょう。したがって日本だけではなく世界の市場全体を買っておくことが合理的な運用方法だと思うからです。ごく簡単に言えば、どれが上がるかわからないのだから、市場を全部買っちゃえ! ということですね。それが一つの投資信託を購入することでできるような時代なのです。
■シンプルな商品のほうがわかりやすく、コストも安い
初心者だからとかベテランだからとかは関係なく、自分がどれだけリスクを取れるのかによってこの投資信託と預金などの割合を決めておけばよいだけで、これはとてもシンプルな方法です。でも往々にして真実はシンプルなものの中にこそあります。特に金融商品の場合は、シンプルな方がコストも安いしわかりやすいのです。
結局のところ、「これは初心者向け商品です」と金融機関が勧めてくるのは、その方が手数料を多く取ることができ、収益が上がるからに他なりません。でもそういう金融機関を「不誠実だ」と言って責めるのは筋違いです。彼らだって株主から収益向上を期待されているわけですから、収益性の高い商品を売るべきなのは当然です。でも私たち投資家にはそれを買うか買わないかを判断する権利があります。これはダメだと思えば買わなければいいだけです。「初心者向け商品」という言葉に踊らされて、論理的にどう考えても適切とは思えないような商品は買うべきではありません。
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経済コラムニスト
大手証券会社に定年まで勤務した後、2012年に独立し、オフィス・リベルタスを設立し、代表に。資産運用やライフプランニング、行動経済学などに関する講演・研修・執筆活動などを行っている。近著に『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)など。
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(経済コラムニスト 大江 英樹)
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