最強は「400g 380円」だった…200種を食べ比べたマニアが教える「本当においしいそうめん」の名前
プレジデントオンライン / 2022年7月26日 10時15分
■「そうめんなんてどれも同じ」と思っている人に読んでもらいたい
夏になると、そうめんを食べる機会が増えると思います。それなりに身近な存在のはずなのですが、うどん、ラーメン、そばに比べると、そうめんに対する関心は低めです。あるいは誤解されていることも多いように見受けられます。
そこで、これまで約200種のそうめんを食べてきた筆者がそうめんの基礎知識を紹介してみたいと思います。
「そうめんなんてどれも同じでしょ?」
「そうめんって別においしくないだろ」
「どれがおいしいそうめんなんだろう」
と思っている方、ぜひ読んでみてください。
■そうめんには、手延べそうめんと機械麺の2種類がある
商品としてのそうめんは「食品表示基準」別表第三(内閣府令)で規定されています。これによると、そうめん(広義)には「手延べそうめん」と「手延べではないそうめん」(狭義のそうめん)があります。ここでは後者を機械麺と呼びます。
両者の本質的な違いは手作りか機械製か、ということではありません。
手延べそうめんは小麦粉、塩、水を練って生地にして、まずは縄状にします。そして食用植物油を塗布し、よりをかけ(ねじり)ながら延べていき(伸ばしていき)、どんどん細くして1本のそうめんにします。
すべてが手作業で行われることは少なくなりました。生地を練ったり、よりをかけたりは機械に任せることがほとんどです。ただ、必ず手作業が含まれます(食品表示基準で規定)。
一方、機械麺は生地を板状に圧延して裁断し、1本のそうめんにします。すべては機械作業です。
手延べそうめんか機械麺かはパッケージの裏面にある食品表示を見ればわかります。「手延べそうめん、手延べ干しめん」と書かれていれば手延べそうめんです。「そうめん、干しめん」と書かれていれば機械麺です。
手打ちうどん(ラーメン・そば)と機械麺うどん(ラーメン・そば)は切る(裁断する)という意味においては同じです。
ですが、そうめんにおいては、手延べそうめんは延べる、機械麺は切る(裁断する)というように製法がまったく異なります。
手打ちうどんと機械麺うどんの差とは比較にならないほど、手延べそうめんと機械麺そうめんの差は大きいということです。とにかく、ここが1番重要です。
■機械麺の9割は「おいしくない」
手延べそうめんはよりをかけ、延べて細くし、ゆっくりと熟成させます。これによって麺線に沿って縦方向にグルテン組織が形成されます。結果、うどんや機械麺そうめんにはない独特なコシが生まれ、噛むとブチブチブチっと音を立てて弾けます。口内がとにかく気持ちいい。
タオルを絞るようにエアー緩衝材をプチプチプチっと握りつぶすのって気持ちよくないですか? 細くてコシの強い手延べそうめんがまさにそれなんです。
ちょっとわかりづらければ、数の子を思い出してみてください。数の子も噛むとプチプチプチっと弾けますよね。いい手延べそうめんもそう。そして、これが私にとってのそうめんの魅力、醍醐味(だいごみ)です。
あくまでも私の主観ですが、冷やしたそうめんを麺つゆで食べるという、パッケージ裏面に書かれている一般的な食べ方で食べた場合、手延べそうめんは、おいしいものが5割、普通が4割、いまいちなものが1割でした。私はまずい手延べそうめんには出会ったことがありません。一方、機械麺はおいしいものが1割、おいしくはないものが7割、まずいものが2割でした。
■手延べそうめんの産地TOP4をご存じか
こちらがそうめんの主な産地です。
オレンジ色の播州(兵庫県)、島原(長崎県)、三輪(奈良県)、小豆島(香川県)は4大そうめん産地とも称されます。
実際、手延べそうめんの生産量は兵庫、長崎、奈良、香川がトップ4です(農林水産省 平成21年米麦加工食品生産動態等統計調査年報(参考4)乾めん類の都道府県別生産量)。
具体的に、産地による特徴を見てみましょう。
白石温麺は短いそうめんです(長さに関する規定はない)。
南関素麺、和泉素麺、大門素麺などはとても長く、髷(まげ)や毬(まり)のように曲げられている(丸められている)のが特徴です。
半田素麺は太いです。規定ギリギリ、長径1.6mm~1.7mmほどあります。小豆島のそうめんも太めのものが多いのですが、小豆島の特産物であるごま油が使われているというのも特徴です。
以上のように産地による外形的、原材料的差があるにはあるのですが、それよりも生産者による差のほうが大きいと感じます。同じ島原の手延べそうめんでも、A製麺所とB製麺所ではコシが違う、というように。
■そうめんの発祥地が三輪と言われるワケ
そうめんの歴史に関しては諸説あります。その原型は、小麦粉と米粉で作られた索餅(さくべい)といわれています。奈良時代、遣唐使により中国から日本に伝えられた唐菓子です。以後、手延べ麺の製法なども断続的に日本に伝えられました。
8、9世紀ごろ、奈良県の大神神社(おおみわじんじゃ)(奈良県桜井市三輪)で作られたのが手延べそうめんの始まりとも伝えられています。そのことから三輪がそうめん発祥地といわれることも多いです。
そうめんが現在のような形になったのは鎌倉時代とも室町時代ともいわれています。
手延べそうめんないし手延べ製法が全国に広まったのは江戸時代に入ってから。禅僧や北前船がその波及に一役買っていたと考えられているのですが、もうひとつ、お伊勢参り(お蔭参り)が大きく影響しているといわれています。
日本全国から伊勢神宮へと参拝者が来ていたわけですが、参拝者たちはその道中で伊勢、奈良、堺、京都といった大都市の最先端の技術や文化に触れます。そして、これらを自分の村へ持ち帰ろうとしました。そのひとつが手延べそうめんの製法です。
三輪は玉造稲荷神社(大阪市)と伊勢神宮を結ぶ伊勢街道沿いにあります。伊勢神宮への行き・帰りで三輪の手延べそうめんを知った人々が「ウチの村でも農閑期にこの手延べそうめんとやらを作ってみよう」と考え、三輪で手延べそうめんの作り方を学び、自身の村でも手延べそうめんを作り始めたというわけです。
■「揖保乃糸=播州素麺」ではない
揖保乃糸は兵庫県で作られていますが、「揖保乃糸は播州素麺」というのは誤りです。
「揖保乃糸」は兵庫県手延素麺協同組合の登録商標。そして手延べそうめんです。
「播州素麺」は機械麺を作るメーカーが所属している兵庫県乾麺協同組合の登録商標です。
「商標? 何を細かいことを」と思われるかもしれません。けど、商標の話は手延べかそうではないかという重要な話にもつながるので、頭の片隅にでも置いておいてもらいたいところです。
播州素麺と謳っている商品は多数あるのですが、おそらくほぼすべてが機械麺です。
つまり、揖保乃糸は播州のそうめんではありますが、播州素麺ではないということです。
では、「播州そうめん」はどうでしょう。播州そうめんは登録商標ではありません。多くのメーカーが播州そうめんという商品を販売しています。そして、おそらくはほとんどが機械麺です。手延べそうめんであれば、機械麺との差別化を図るべく、播州手延べそうめんと謳うことが多いはず。
島原のそうめんにも似たようなことがいえます。
島原素麺、島原手延素麺といった単語は登録商標ではありません。
そして、島原素麺、島原そうめんという商品名であれば、機械麺であることがほとんどです。手延べそうめんであれば、島原手延べそうめん、島原手延素麺といった商品名になっていることが多いです。
なお、三輪素麺、大門素麺は素麺組合もしくは農協による登録商標で、すべて手延べそうめんです。
これまで素麺組合という言葉が頻出しました。これもまたそうめんにおいては重要なキーワードです。
■揖保乃糸はどの製麺所が作っているのか
揖保乃糸はひとつの製麺所が作っているわけではありません。どこかの工場で大量生産されているわけでもありません。
揖保乃糸の食品表示上の製造者は兵庫県手延素麺協同組合。ただ、実際に作っているのは同組合に所属する約400軒の生産者です。
それぞれが厳格なレギュレーションに則って、揖保乃糸用のそうめんを作っています。これらが同組合に集められ、検査・保管され、パッケージングされて出荷されていきます。
素麺組合システムを採っているのは揖保乃糸だけではありません。手延べそうめんにおいては、日本全国に似たような素麺組合がたくさんあります。
もちろん素麺組合に所属していない生産者もいます(図内、生産者A)。また、素麺組合用にそうめんを作りつつ、独自ブランドのそうめんを作って販売している生産者もいます(図内、生産者C)。
では、なぜ素麺組合が存在するのでしょうか。
そうめん生産者のほとんどは家族で営まれているような小さな製麺所です。こうした製麺所が単独で小麦を仕入れ、作ったそうめんを単独で販売することがとても難しいという事情があります。
ですから、同業者が集まり組合を組織して、原材料を大量に仕入れ、製品をまとめて大量に販売するのです。これにより仕入れや販売にかかるコストが下がります。
また、小さな製麺所がそれぞれ商品を販売するよりも、地域でまとまったほうがブランディングという意味でも有利です。まさに揖保乃糸がその成功例でしょう。
■「手延べ」のゆで時間は短いほうがいい
商品パッケージの裏面には調理方法が記載されています。機械麺の場合はこれに従うのが1番です。ゆで時間も記載通りがいいでしょう。
一方、手延べそうめんの場合は、あくまで私の好みですが、記載されているゆで時間よりも15~30秒、時には1分ほど短い方がいいことが多いです。
ゆで上がったそうめんは、すぐに流水・冷水で洗います。これは麺を締める以外に、表面に残っている塩分や油分を洗い落とすという意味もあります。
ひと口目は何もつけずにそのまま食べてみてください。食べ比べると、コシ(歯切れ)や風味が違うということがわかります。
あとはお好みでどうぞ。麺つゆにつけてシンプルに食べるもよし、洋風・中華風にアレンジするもよし。
アレンジに関してですが、普段、ご飯やパスタに合わせているものは、そうめんにもだいたい合います。こう考えると、アレンジの幅がグッと広がるんじゃないでしょうか。
■極上のそうめん6品
比較的入手しやすいと思われるお勧めのそうめんをご紹介します。ちなみに私は東京都在住です。地域によって、スーパーによって品揃えが大きく異なると思います。ご了承ください。
①三輪の神糸(マル勝高田商店)
三輪素麺ではマル勝高田商店の商品を1番よく見かけます。この三輪の神糸は噛むとプチプチっと弾けます。私が1番好きなタイプ。しかも400gで380円とお手頃価格でした。
同社製に限らず、三輪素麺を見かけたら、ぜひ試してみてください。細くてコシの強いそうめんがお好きであれば、どれを選んでもおいしいと思っていただけるはずです。
②プレミアム小豆島手延素麺(銀四郎麺業)
都内スーパーでよく見かけるプレミアム小豆島手延素麺。小豆島の手延べそうめんの中では細めなんですが、これに限らず銀四郎麺業のそうめんがすごいんです。
噛んだ瞬間はムチッとします。小豆島の太めの手延べそうめんにありがちな弾力。ところが、麺の中心部にプツッとするコシの層が現れます。他にはない独特な2層のコシはそうめんの幅広さ・奥深さを教えてくれます。
③手のべ陣川 島原手のべ素麺(手のべ陣川)
マツコ・デラックスさんも絶賛した島原手延べ素麺。ムチップチッと小気味のいい歯切れ。のど越しもツルリと滑らかで風味豊か。
④手延半田めん(小野製麺)
太めのモチッとしたタイプがお好きであれば、半田素麺がいいかもしれません。例えば小野製麺の手延半田めん。トゥルンとした舌触り、のど越しが気持ちいいそうめんです。
⑤御陵糸
ひとつだけ少し入手しづらい手延べそうめんを紹介させてください。というのも、今季食べた中でもっともおいしかったというだけではなく、私がこれまで食べてきたそうめんの中でもトップ3に入るおいしさだったので。
淡路島手延そうめんの御陵糸。ブチブチブチっと弾ける力強いコシが快感です(ゆで時間は1分15秒ほど)。
御陵糸は淡路手延素麺協同組合の共通ブランドで、12軒ほどの製麺所が作っています。ネットで購入できる製麺所がいくつかあります。もしご興味があれば、「御陵糸」で検索してみてください。
⑥北海道そうめん(はたけなか製麺)
この中で唯一の機械麺そうめん。プリっとした弾力がとてもいい。私が食べた機械麺そうめんで1番おいしかったです。しかも300g換算で120円と激安(揖保乃糸は約300円)。コスパがいいとはまさにこれのことでしょう。
■まずは三輪製麵を食べてみてほしい
「そうめんはおいしくない」
という人もいます。カレーが嫌い、ラーメンが嫌いという人もいるくらいですから、単純にそうめんが嫌いな人もいるでしょう。これはもう致し方のないことです。
ただ、そうめん好きな私ですら口にするのが憚れるようなまずいそうめんがあるのも事実です。ドロッとしていたり、ヌメっとしていたり、ヌチャっとしていたり、粉っぽかったり……。そんなそうめんにあたってしまい、「そうめんはまずいものだ」と思っているのだとしたら、それは残念なことです。
「そうめんの何がおいしいかわからない」
「結局、どれを食べればいいの?」
という方はとりあえず一度、細めでコシの強い手延べそうめんを食べてみてください。具体的には三輪素麺がいいでしょう。平均してどれもおいしいですし、1番わかりやすく手延べそうめんの良さが感じられると思います。
その上で「確かに細めのそうめんが好みかも」「もう少し太めがいいな」「強いコシではなくムチっとした弾力がいい」「もっと穏やかなコシのほうが好き」など、自分の好きなタイプがはっきりしてきたら、それに合ったそうめんを選んでみてください。その際に、この記事が一助となれば幸いです。
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フリーの編集者兼ライター兼ウェブディレクター
これまで約200種のそうめんを食べてきて、その内の約150種を自身のブログ(肝臓公司)でレビュー。その数はおそらく日本一。
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(フリーの編集者兼ライター兼ウェブディレクター 後藤 ひろし)
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